332話 太ももも
もう夕方と言っても差し支え無い時間帯となり、ブラッドさんと2人でユーダリルダンジョンに向かっているが東の空には夜の帳が落ちていた。
「で、俺は何をすりゃあ良いんだ?」
「基本的にはオーギーを刈り続けて下さい」
「ふむ」
「まずはそれが最優先です」
「って事は他にもあんのか?」
「はい」
「まぁ、そりゃそうか。3人であのオーギーってのを刈り続けるってのも微妙だからな」
「あ、オーギー刈りはブラッドさん1人ですよ」
「は?あいつら2人はサボんのかよっ」
「ジョーさんとトム君は79階で狩りですね」
「ふむ」
「ブラッドさんもそっちのが良かったですか?」
「狩りって事ぁ、まともなモンスターとやり合う訳だろ?」
「はい。ルアクってイタチみたいなモンスターを狩る事になりますね」
「だったらオーギーのが楽で良いわ」
「分かりました。オーギーはブラッドさんで。ルアクはあっちの2人に任せましょう」
「おう」
トム君はだいぶ疲弊してたけど、俺的にはオーギーの方が辛い気がする。
太ももも辛いけど、何よりも腰がヤバい。
甘く見て、ブラッドさんもあの辛さを思い知れば良いっ。
守衛さんにギルドカードを提示し、通路を抜け1階層に下りた所で扉を開き80階層へ移動する。
「ただいまー」
「ここに住む気か?」
「いや、この扉のデザインって実家の玄関と一緒なんですよ」
「へぇ。やっぱ変わった所なんだな」
「まぁ、文化が違いますからね」
「で、実家に帰った気分になったか?」
「いや。ただただ寂しくなりました・・・」
「そ、そうか・・」
そう。リアルガチに寂しくなってしまった。
「で、俺は2日か3日、オーギーを刈ってりゃ良いんだな?」
「はい。でも、サボられても困るんでノルマを設けます」
「お、おう・・・」
「2日でも3日でもブラッドさんの希望に沿いますけど、ノルマに達してなかった場合期間は延長されます」
「マジか」
「いや、サボらなければ余裕ですよ」
「そ、そうか・・・」
「1日当たり、このリュック1個分のドロップを集めて下さい」
「そんなにか?」
「いや、俺が軽くやって直ぐに半分貯まったんで余裕だと思いますよ」
「ふむ」
「ペース配分はブラッドさんに任せますんで。最初に頑張って後半ゆっくりしても良いですし、その逆でも」
「なるほどな。自分のペースでやれるのは良いかもしれねぇな」
「はい。ブラッドさんにはこういう感じの方が向いてるかと思って」
「ノルマ以上に集めたら何かあるのか?」
「そうですね。その時はボーナス出しても良いですよ」
「マジか」
「なんで頑張って下さいね」
「任せとけっ」
そう言い終えるや否や、セーフエリアを飛び出して行った。
そして、ブラッドさんの分のベッドを設置しているとひょっこり戻って来た。
「ん?どうしたんです?」
「いや・・・無駄に防具は着けてるわ、剣は持ってないわで焦り過ぎてたわ・・・」
「ブラッドさんの分のベッドも出しとくんで、どれを使うかは話し合って決めて下さい」
「おう」
「それから、ドロップはこのリュックにお願いします」
「デカ・・・く・・・ねぇか・・・?」
「そうですか?」
「そんなデカいの無理だろ」
「いや、やる前からハードル下げようとしないで下さいよ。やってみてキツかったら、またその時に考えません?」
「まぁ、そうだな」
「それじゃあ、ジョーさん達の所に行って来ますね」
「おう」
「あ、ブラッドさん」
「なんだ?」
「サボらないで下さいね」
「わーってるよ」
79階層へ上がりジョーさんとトム君が戻るのを待つ。
しばらくすると何かがぶつかり合う様な音が聞こえて来た。
恐らくルアクの体当たりをトム君が盾で受け止めた音だろう。
セーフエリアから1歩だけダンジョン側に踏み出し、2人が来るのを待つ。
「あっ、お疲れ様でーす」
「あ、ナギトさん」
トム君がこちらに駆け寄ってくる。
「お疲れ様」
「どうしたんですか?」
「うん、色々あってね」
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様です。調子はどうですか?」
「まぁ、良かったな」
「そうですか。ん?過去形ですか?」
「ナギトが来るまでは合格点だったんだがな」
「え・・・」
「ま、まぁ・・・とりあえず中に入りません?」
「そうだな」
コップをさっと濯ぎ、水で満たしてから2人の前に差し出す。
「ありがとうございます」
「すまんな」
「えっと、俺の所為で何かマズかったですか?」
「いやな。折角だから2人パーティを想定して前衛と後衛が居る体でやってた訳だ」
「はい」
「それを、このバカはナギトを見かけた途端、後衛の俺を放っぽり出して走ってった訳だ」
「あぁ・・・」
「想定だからな。実際は俺は前衛で分断されようが取り残されようが問題無いが」
「ジョーさんの方が強いですしね」
「まぁな。だからある程度はしゃーねぇとしても、自己判断で勝手に切り上げた事が問題だな」
「厳しいですねぇ」
「自己判断すら出来ねぇ冒険者なんて使えねぇが。新人の自己判断程アテにならんモンも無ぇだろ」
「まぁ、そうですね」
180センチ以上あるトム君がこれ以上無いってぐらいに小さく見える。
そして、それは俺の所為っぽいだけにちょっと申し訳ない。
いつもお読み頂きありがとうございます。
正直、冗談半分でブクマして欲しいと書きました。
300話超のあとがきの部分を読んで頂けてるんだから当然ブクマして頂けてるんだと思っていたので。
そしたらブクマが10ぐらい増えました( ˙-˙ )




