110話 クッキー
「って感じで発注だけしてきたんで、出来るか遅れるか分かったらここに連絡に来てくれる事になってます」
「そう、分かったわ」
「それじゃあ、俺はそろそろ」
「え?お昼ぐらい食べて行きなさいよ」
「いいんですか?」
「どうせ、そこのバカ2人は食べないだろうから」
「あぁ・・・」
ブラッドさんとスティーブンさんはオセロに熱中していて話しかけても反応が無いただのしかばね的な感じだ。
「それで、トリーネちゃんは大丈夫なの?」
「んー、今朝もまだ熱があって調子は良くないみたいですねぇ」
「体調が悪い時は心細いんだから食べたら直ぐに帰りなさい」
「いや、でも俺が居ても何も出来ないですよ?」
「そういう時は好きな人に側に居て欲しいものよ」
「いやいやいや」
「私だって最初にジョーを意識したのはそうだったもの・・・」
「そ、そうなんですね・・・」
「それなのにジョーったら意識だけさせといて他の女の所をフラフラしてて・・・」
あ、これ。俺をイジるとか煽るとかじゃなく惚気だ。ただ惚気たいだけだ。
「はい」
「その女がまたムカつくヤツでね」
「はぁ」
「そろそろ昼にしないか?」
「ジョー。すぐ作るわね待ってて」
「はぁ・・・重ね重ねすまんな・・・」
「はい・・・」
ジョーさんが現れた瞬間にハートが飛び交ってた。幻覚にしてはハッキリと見えすぎてた気もするけど・・・。
その後、昼食をご馳走になり。早々にお暇した。
2人のイチャイチャチュッチュなんて見てられないし。いや、流石にしないだろうけど。
ビリーさんに言われたからじゃないけど、採集は止めにして小麦粉と植物油、たぶんオリーブオイル的なやつだと思う。を買って帰ってきた。
ボウルは無かったので深めの皿に小麦粉と塩を入れ、そこにミルクを少しずつ入れて混ぜていく。
ハンドミキサーとは言わないけど、あのカシャカシャするやつが欲しい。
ダマを潰しながら粉っぽさが無くなってきた所に油を少し入れて更に混ぜる。
そこで思い出したのが、たしか卵も入れたりするよなー。と・・・。
でも、入れるのって卵黄だけ?卵白だけ?どっちも?
卵白って混ぜまくってふわふわにするイメージがあるから卵黄だけにしよう。
その前にこのベトベトの手をどうにかしないとだけど・・・。
出来る限り手に付いた生地をこそぎ落としてから卵を割って卵黄だけを皿に入れる。
そして、混ぜる。混ぜまくる。
量は適当だったけど何となく良い感じになった所で蜂蜜を入れて、また混ぜる。
オーブンも無ければ型も無いので、フライパンで小さいホットケーキを焼く感じで試してみる。
練習。そう、これは練習。
脱臭効果のありそうな確実にクッキーではない何かが3つ程出来た。
まぁ、焼きすぎたよね。ちょっと目を離したら気付いた時には真っ黒になってた。
でも、練習だから。これは練習。
2回目は・・・・意外にも上手くいったっぽい。
試しに食べてみると、思ってたのとは違うけどこれはこれで。
表面はパッサパサで中は生焼けだけど何か美味しい。
あ、これ自分で作ったから美味しく感じるやつか・・・。
まぁ、ちょっとずつ上手くなってるから次はもっと美味しいはず。と残った生地をどんどん焼いていく。
焼き上がったら即座にアイテムボックスに入れてるので取り出せばいつでも焼きたてホヤホヤだ。
焼き上がったのは15枚。3枚はゴミ箱に、1枚は俺の腹の中に納まったので残りはたったの11枚。
誰かれ構わず振る舞える程の量じゃないのが辛い。
結構、しんどかったから直ぐにまた作れとか言われたら確実に心が折れる。
という訳で、夕食後にメディン婆さんと熱も下がりだいぶ体調も戻ったトリーネに1枚ずつ試食して貰った。
「美味しいっ!これ本当にナギトが作ったの?」
「え?うん」
「ふむ・・・。ニホンではこれと同じ物が普通に売っとるのか?」
「そうですね。もっと色んな種類があって、もっと美味しいですけど」
「なんと!・・・なるほどのう・・・」
「もう1枚ちょうだい」
「いいけど、あんまり数が無いからこれで最後ね?」
「うん、ありがと」
「失敗するかと思ったけど、意外と食べられる物が出来て良かったよ」
「大成功よ」
「そう?」
「おばあちゃん見たら分かるでしょ?」
「へ?」
目は虚ろでブツブツと何かを呟いている。いつものやつでした。
「商売になると思って色々考えてるのよ
「そんなに?」
「私もこれは売れると思うわよ」
「そっか、それならこれで何か出来ないか考えてみようかな」
「いっその事、お店出しちゃえば?」
「いやいや、メニューがクッキーしか無いのにお店なんて」
「だって、さっき言ってたじゃない?」
「何を?」
「もっと色んな種類があるって」
「あー、でもクッキー専門店にするの?」
「流行ると思うわよ?」
「そっかぁ、考えてみる」
お店かぁ。まず、あの重労働を1人でやるとか地獄すぎる。
人を雇って作ったら人件費も掛かるし、その分数を売らないといけなくなるし・・・。
難しいなぁ。




