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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第六章 活動域拡大編
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第96話 海外転移

 小学校の敷地から出ると、そのまま転移で帰宅する。

 一瞬で波佐見家の玄関に戻ってくると、すでに仁と美波の靴が置いてあった。

 普段ならまだ帰って来ていなくてもおかしくないのだが、やはり奈々やリアたちのことが気にかかっていたのだろう。


 食事の準備中なのか、魚を焼いている匂いが玄関まで漂ってきている。それに釣られてか、眠っていた楓と菖蒲も目を覚ます。

 寝ぼけまなこの2人を自分の足で立たせながら、靴を脱いで皆でリビングへ向かう。


 するとこちらに来る前に言伝ついでに《強化改造牧場》の空間内から戻していたジャンヌや天照、月読、彩、そして完全に幼犬の豆柴サイズまで縮小した子狼──豆太。

 本当の意味で波佐見家、八敷家、レーラ家を巡回して自宅警備してくれていたカルディナと、竜郎たちが学校に行っている間、ずっと自室でゲームをしていた──ある意味、本当に自宅警備員をしていたアテナもそこにいた。


 そして仁と美波。彼らはソファに座って、小サイの《幼体化》ジャンヌ、子トラの《幼体化》アテナを膝の上に侍らせ甘やかせていた。

 彩も彩人と彩花に分裂して、同じようにソファに座って小さな豆太をモフモフしていた。



「あれ? 母さんもいるのに今誰が料理をって──そういうことか」



 不思議に思って台所のほうに探査魔法を飛ばしてみれば、調理器具や食材などがひとりでに動いて料理を作っていた。

 美波がスキル《念動》で物体の位置を把握しつつ、自在に動かし遠隔で料理を作っているのだ。


 このためだけに異世界で美波は必死にトレーニングし、念動スキルのレベルを最大まで上げ、竜郎も持っている《多重思考》というスキルまでも取得していた。

 今では目を閉じていても、ご覧の通り彼女が作れる料理は全て遠隔で調理できるようになっていた。



「おかえり、みんな。なんだか大変なことがあったみたいだけど、大丈夫だったの?」

「ああ、問題なく納めてきた。けどまた何か向こうが言ってきたら、遠慮なく言ってくれ」

「分かったわ。お疲れ様、竜郎」



 母に労いの言葉を投げかけられながら、習慣となっている手洗いうがいをすませ食卓に着く。


 今日は異世界の海で捕れた巨大な魚をさばいた焼き魚がメイン。

 美味しい魔物シリーズには遠く及ばないが、あれを毎日食べてしまうと他の食事が本格的に取れなくなってしまうので、普通の料理もちゃんと食べているのだ。


 ちなみに愛衣は自宅で美鈴が夜食を用意しているからと帰ってしまったので、今は波佐見家とレーラ家に住む住人たちで食卓を囲っている。

 波佐見家のリビングも地下への拡張で物を動かしたりしたので、スペースも広々していることもあって大人数でも問題ない。



「「ねえ、たつにぃ」」

「なんだ? 彩人、彩花」

「わんわんパークには──」

「──いつ連れってくれる?」



 夕ご飯をつついている竜郎を「たつにぃ」と呼び話しかけてきたのは、彩人と彩花。

 どこで犬が沢山見られるかという質問に、竜郎が某所にある動物園内に沢山の犬と触れ合えるコーナー──わんわんパークがあると話してからというものの、そこへ行ける日を心待ちにしているようだ。



「ん~、今は学校もあるし早くても土日のどっちかかな。

 近いうちに時間を作ってちゃんと連れていくから、豆太といい子に待っててくれ」

「「はーい」」



 素直な返事に竜郎はあとで頭を撫でてあげようと考えつつ、動物園についても思考を巡らせていた。



(白太のために作るクマ牧場なんかの参考にもなるかもしれないな。一度はちゃんと動物園を視察しないと。

 でもそうなるとサファリパークとかの方がいいのか?)



 町づくりがほぼ決まりとなった日から、可愛い魔物をたくさん生み出し魔物園など開くのも娯楽の一つになるのではないかとも考えてもいるので、その参考にもなるだろう。


 そんな未だ形にすらなっていない計画を、頭の中でこねくり回しながら食事を終えた竜郎は、一足先に入浴して2階にある自室に戻った。

 自室には相も変わらずニーナ、楓、菖蒲の3人もセットで。


 愛衣がいないことに竜郎は寂しさを覚えつつ、ニーナに楓たちの相手を頼むと、さっそく自室の椅子に腰かける。

 そして机上にスマホとノートPC、地震で失われた時間を取り戻すように大量に出ている学校の課題を取り出す。


 さらに植物の種を手に持ち魔法で発芽させ一気に成長させると、その蔓を腕に絡ませ触手のように動かしながらシャーペンを握らせる。

 それから視線は向けず解魔法でインクの形から課題の内容を読みながら、植物に持たせたシャーペンでノートに答えを書いていく。


 それと並行して、あいた両手の片方ではスマホ。もう片方ではノートPCを操作して、調べ物を開始した。

 高レベルまで成長した《多重思考》を駆使すれば、このくらいなんなくこなせるのだ。


 左手のスマホでは世界最大の動画共有サイト──Yo!Tubeを開き、片っ端から外国語を話す配信を視聴し異国語を取得していく。


 そして右手ではマウスとキーボードを操って、覚えたばかりの言語を駆使して世界中を対象にし、今回の地震がどういう扱いをされているのか詳しく調べていった。



「おおかたは超自然現象ってのが主流みたいだが、日本だけじゃなく世界中で宇宙人説を唱えている人がいるみたいだな。ならこの状況は使えるか……?」



 かなり多くの国の言語を習得し終わるころには、課題は全て完璧に終わり、知りたいこともあらかた調べることができた。

 満足のいった竜郎はベッドに寝転がり、ニーナや楓、菖蒲と少し遊んでから眠りについた。




 翌日、昨日と同じように学校に行き、友人たちとたわいもない話をしながら授業を受け放課後に。


 今日は空港に行って転移先を増やすことと決まったので、竜郎は愛衣、ニーナ、楓、菖蒲といったメンバーで東京にある大きな空港までやってきた。


 学校にはレーラ、ウリエル、アーサーも付いてきていたのだが、彼女たちは書店やら《強化改造牧場》内での修行やらを望んだので、今はそちらに行っているのでここにはいない。


 空港に入り1階にある到着ロビーで、認識阻害を展開しながら急いでなさそうな外国人を探していく。

 するとくすんだ金髪の男性と茶髪の女性の老夫婦が、のんびり寄り添いながら歩いているのを発見した。



『あの人たちなんか、よさそうじゃない? なんか優しそうだし』

『たしかに。それに急いでもなさそうだ』



 その人たちにだけ認識できるように魔法を調整しつつ、こちらに好印象を抱くようにしむけながら英語で話しかけた。



「こんにちは。少し、お時間よろしいでしょうか?」

「こんにちは。少しくらいなら、かまわないよ。いいよな?」

「ええ、かまいませんよ。それで、どんなご用件かしら?」



 ここまではあくまで悪感情を抱かせないようにしていただけなので、時間が無いならここで断られていた。

 しかし少しくらいなら時間はあるようなので、竜郎は彼らも認識できないように魔法を展開しながら、老夫婦を一瞬でこちらの手中に落とした。



「あなた方は、どこから日本へ?」

「カナダからだよ」

「カナダだって。ナイアガラの滝とかあるとこだよね」

「ええ、そうよ。私たちの住んでいるところからだと、飛行機で4時間くらいかかるけれど」

「なんていうとこに住んでるの?」

「カルガリーというところよ」



 そう言われてもピンとこなかった2人は、スマホを取り出し軽く場所を確認。

 アメリカのモンタナ州に接している、アルバータ州の中にあるかなり大きな町のようだ。

 ナイアガラの滝はそこからアメリカとの国境沿いに、北大西洋の方角へずっと進んだ場所にあった。

 これくらいなら、竜郎が本気で飛ばせばすぐにつけるだろう。


 さっそくお爺さんに頼んで、カナダでイメージしやすい場所を想像してもらう。

 竜郎は時空魔法の魔力を展開していき、お爺さんとお婆さんを巻き込むように包んでいく。

 そしてお爺さんのイメージを起点に、転移魔法を発動させた。


 すると一瞬で視界が切り換わり、竜郎たちは真夜中のT字路の歩道に立っていた。

 外国ということもあってか、心なしか空気も違う気もする。


 現在、時差でこの地の時刻は深夜2時過ぎなのだが、周囲はビルや建物の明かりに囲まれていて真っ暗というわけではない。

 さらに道路を挟んだ向こう側には、大きく目立つ円柱形の塔が建っていた。

 愛衣がその塔に書かれている英語を口に出して読んでいく。



「かるがりーたわー──カルガリータワーだって。東京タワーみたいなものかな?」

「それは分からないが、まさにイメージしやすい場所にピッタリな目印だな。ここならすぐに思い浮かべられそうだ」



 感心したように見上げていると、愛衣の頭の上に乗っていたニーナが後方を指差しながら声をかけてくる。



「ねえ、パパ、ママ。日本でも見たことあるマークがあるよ? ここってほんとにカナダってとこなの?」

「「え?」」

「「あう?」」



 ニーナに言われるがままに振り返ってみれば、日本にもあるコーヒーショップの丸いロゴマークが壁についていた。



「ス○バじゃん! そっか、ス○ーバックスてアメリカさんの子だっけ。お隣のカナダさんとこにも、そりゃあるよね」

「日本にも普通にあるから、これについては違和感ないな。

 ってことで、ニーナ。これはここにあってもおかしくないし、カナダでいいとおもうぞ。あんな信号は日本には無かっただろ?」

「「ほんとだ!」」

「「ぅう?」」



 愛衣とニーナは歩道の信号機が人型ではなく手形なのに驚き、まだ何がおかしいのか分からない楓と菖蒲は、なにを声を上げているのと、意味が分からずこちらを見上げてきた。

 その様子を微笑ましげに見つめながら愛衣やニーナもまとめて4人の頭を撫でた竜郎は、スマホを取り出しお爺さんに頼んで塔を背景に記念撮影。


 これでここのイメージがぼやけてしまっても、この写真を見ればいつでも思い出すことができるだろう。


 竜郎はお爺さんたちにお礼を言って、もといた空港のロビーに転移で戻ってきた。



「あんまり外国行ってたって気はしないね」

「まあ、移動時間なしで一瞬で帰ってきたからな」



 東京からカナダに行って記念撮影して帰ってくるのに、5分程度で済んでしまったため遠くに行ったという感覚すらなかった。



「それじゃあ、本当にありがとうございました。お礼といってはなんですが、お体の方を癒したいと思います。ふっ──」

「おお……」「はぁ……」



 右手をお爺さんに、左手をお婆さんに向けて、解魔法で体調を調べながら生魔法で癒していく。

 お爺さんのほうは肝臓を悪くしていたので、健康な肝臓へ。

 お婆さんのほうは胃が荒れていた上に極小のガンがあったので、それも完璧に治療しておいた。


 他にも体全体を癒しておいたので、ここまでの疲れも時差ボケも調整され、肉体年齢がグッと若返った健康体へと変化した。


 最後にもう一度ありがとうと言って、ここまでの記憶を忘れさせると、そっとその場から竜郎たちは離れた。

 それと同時に、老夫婦の催眠が解ける──。



「ん? なんだか体が軽い?」

「あらトミーも? 私もよ。それにずっと胃がムカムカしてたのも、急に治ったわ」

「ふーむ……。言われてみれば、体の内側からすっきりした気分だ。

 もしかしたら日本の空気は、私たちにあっているのかもしれない」

「ふふふっ、そうね。また近いうちに遊びに来ましょうか?」

「それがいい。今度は孫たちも日本に連れてこよう」



 なんてことを英語で話しながら、老夫婦はにこやかに去っていった。



「日本の空気は関係ないんだが……まあ、いいか。いい旅を──」



 去りゆく背中に日本語で小さく話しかけると、また竜郎たちは次のターゲットを探しはじめた。


 次に見つけた急いでなさそうな外国人は、ロビーの椅子に座って足を組み、スマホをずっと弄っている黒髪で顎髭と口髭を薄く生やしたガッシリ体型の青年。

 ためしに声をかけると、知人と待ち合わせをしているとのこと。

 さっそく薄く催眠をかけながら交渉に入ってみると──。



「そこの君、可愛いね。名前はなんていうの? ちょっと上のカフェで、お茶しながら話そうよ」

「「話しません!」」



 竜郎はガン無視され、いきなり愛衣がナンパされた。

 思わず竜郎は愛衣と一緒に叫びながら、彼女を認識できないようにしてしまう。



「あれ!? 可愛い子が消えてしまった……?」

「あれれ、たつろー。やきもちかな? ふふっ、たつろー以外の男の人になんか、ついていかないから安心してよ」



 愛衣が竜郎の腕に巻き付いて、頬にちゅっと軽くキスをしてきた。

 竜郎はお返しにおでこにキスを返すと、動揺していた心を落ち着かせ、それもそうだと愛衣にかかっていた青年への認識阻害を解いた。


 だが目の前で大好きな女性がナンパされて面白いわけがないので、竜郎は少し不機嫌そうにしながら一気に彼を深い催眠状態にして黙らせた。


 そこで改めて交渉し、知人が来るまでならと了承をもらった。

 それから彼の出身地を聞いてみれば、イタリアとのこと。



「イタリアといえばヴェネツィア! 行きたい! あのアニメを見てから、私ずっと行ってみたかったの!」

「実際のゴンドラ乗りは男の人みたいだけどな。けっこう力仕事らしいし。

 しかしイタリアか。だとすると俺は、ミラノ大聖堂とか行ってみたいな」



 軽く調べてみると、ヴェネツィアからミラノ大聖堂までは車で3時間ほど。飛んで行けばあっという間だろう。

 そんな皮算用をしつつも竜郎は彼の故郷でイメージしやすいと思う、また行ったことのある場所の風景を思い描いてもらい、そこへ向けて竜郎たちは転移した。


 するとカナダとは打って変わり、こちらの時刻は朝の10時半ごろ。

 日本では夕方といっていい時間帯であったのに、こちらはお日様が燦々と照っている。


 周囲を見渡すと、大勢の人が周りにいた。有名な観光地か何かのようだ。

 いったいイタリアのどこだと、人ごみから離れた場所に青年も連れて下がっていくと、ここが円形の広い広場だということに気づく。さらにその中央には、天辺に鐘がついた大きな柱。

 さらにさらにその後ろには大きな神殿のような、立派で美しい建造物がそびえ建っているのが分かった。


 その凄さは幼児にも分かるのか、楓と菖蒲も口をポカンとあけて見入っていた。



「おぉー………………なんか凄いね。もしかしてここが、たつろーの言ってたミラノ大聖堂ってやつ?」

「………………いや、違う。というか、たぶんここイタリアじゃないぞ」

「え? じゃあ、どこに来ちゃったの私たち?」

「あの建物は、おそらくサン・ピエトロ大聖堂。つまりここは、バチカン市国だ。

 テレビで見たことはあったが、実際に観ると本当にすごい……」

「ばちかんって、なあにパパ。イタリアとは違うの?」

「この世界で一番小さな国のことだよ、ニーナ。だからイタリアではないかな。

 そんでもってこっちの世界にある、とある宗教の総本山でもある」

「へー、それじゃあ凄いとこなんだね! ママが期待してた、イタリアってとこじゃないみたいだけど」

「ちょっと歩けば、すぐそこにイタリア──ローマがあるから大丈夫さ。

 愛衣をナンパしてきたことは許すまじだが、いいものを見せてもらった」

「ほんとにね。でも私はたつろーがすぐに嫉妬してくれたのが、嬉しかったかも♪」

「こっちは嬉しくないっての」

「それじゃあ、嬉しいのおすそ分け──」



 今度は真正面から抱きついて、軽くではあるが竜郎の唇に愛衣は自分の唇を押し当てた。

 神聖な場所で──と一瞬思うものの、湧き上がってくる感情に抗うことはできず、こちらからももう一度、軽くその唇を塞いだのであった。


 ニーナと楓、菖蒲が「おー」とその光景を、じっと見つめていることにも気が付かず──。

次話は日曜更新です。

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