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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第六章 活動域拡大編
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第95話 天使爆誕?

 小学校にたどり着いてすぐ職員室を訪ねてみれば、全員揃うと人数も多いからと4年4組に案内されることに。

 教室に近づくにつれてキーキーとうるさい女性の声が、竜郎たちの耳に入ってくる。


 案内してくれた若い女性教諭は嫌そうな顔を少しだけ表面に出しながら、入り口の前まで案内すると足早に立ち去った。

 その気持ちは分からなくもないので気にせず竜郎がノックをすると、奈々やリアの担任とは違う、別の男性の声が返事をし扉を開けた。


 まだ30代前半といったところの、眉毛の太いやたらと濃い顔をした男。くだんの畑中少年の担任の田中。

 認識できているのは竜郎、奈々、リアのみ。後ろにいる愛衣やレーラたち、抱っこされている楓や菖蒲の存在は認識できていない。


 また親でもない、身分的にはただの高校生でしかないの生徒の兄が来たことにまるで疑問を感じてもいなかった。

 この場にいる全員が疑問を抱かないように、魔法を展開しているからだ。


 奈々とリアの担任──片岡は、竜郎たちが入ってきたことにすら気が付かず、ギャーギャー騒ぐ女性の相手を泣きそうな顔でしていた。



「波佐見さんがいらっしゃいました」

「ああ、波佐見さん! こちらへどうぞっ」



 田中教諭の言葉に、まっさきに片岡教諭が反応をし、ようやく少しだけ解放されると、少しこけた頬をほころばせながら手招きしてきた。


 すると親たちの厳しい視線が竜郎に向かって突き刺さる。その中でも特に強かったのは片岡教諭の真正面にいる、金髪プリン頭にショッキングピンクのメッシュをいれた、やたらとケバケバしい化粧の派手な格好をした20代後半くらいの女性。

 10歳の子持ちにしてはかなり若いのだろうが、厚化粧のせいで逆に老けて見える。



『びっくりするほど、いかにもな人がいるね』

『もしかして、あの人が今回の話し相手か? 顔面の圧が凄いな』

『燃やしましょうか?』『燃やしますか?』

『燃やさんでいいから。ウリエルもアーサーも息ピッタリだな』

『じゃあ、わたくしが吸精でミイラにしてさしあげますの』

『いや、奈々。それもダメだから……』

『じゃあ、ニーナが塵も残さず消し飛──』

『──飛ばさなくてもいいから! ったく、うちの子たちは、こんなに過激だったか?』

『兄さんに敵意を向けていることが、許せないんですよ。きっと』



 リアが言うように竜郎に敵意を向けていることが気にくわない奈々、ウリエル、アーサー、ニーナはイラ立ちはじめていた。

 そんな化物級の人間たちの怒りを安値で買いまくっていることにも気が付かず、その女性が机をバンバン叩きながら金切り声で竜郎に怒鳴ってくる。


 怒鳴る気配を察知して、竜郎は音魔法でいい子に眠っている楓と菖蒲には聞こえないよう音を操作するのを忘れない。



「ちょっと! あんたが、うちのマーくん殴ったガキの身内ね!! ガキと一緒に土下座して謝りなさいよ!!」

「はぁ、いい年した大人がいきなり喧嘩腰ですか」

「なんなの、その態度! ぜんぜん悪いと思ってないの!?

 見なさいよ、マーくんのこの顔。怪我しちゃってるじゃない! どーしてくれんのよ!!」



 母親の存在感が凄すぎて気がつかなかったが、隣にいたマーくんと呼ばれた人物も中々に存在感あるお子様だった。

 いや、マーくんと呼ばれていなければ小学生とも思わなかっただろう。


 身長は小学4年生にして、高校生の竜郎よりも5、6センチ小さい程度。

 ムチムチのプロレスラー体型で肩幅も広く、そこだけ見ればシステムの無かった頃の竜郎になら、ガチンコで殴り合えば勝てそうなほど。これなら上級生にすら恐れられていたというのも頷ける。


 また髪形。両サイドと後ろ半分は短く刈り上げ、サイドから後頭部に向けて波打つ切り込み模様が何本も入り、フロントラインは母親と同じ金髪に黒のメッシュとなかなかに個性的。

 町中を母子2人で歩いていたら、お若い彼氏ですねと言いたくなるほど貫禄のある10歳だ。


 あまり低学年過ぎてもと思い4年生に転校させてしまったため、奈々やリアは学年でだいぶ小さい部類に入る。

 そんな2人とこの少年を並ばせれば、それこそ大人と子供に見えてしまう。

 しかしそれ故に、自分が見下ろす程に小さな少女に睨まれて漏らしたというのが、彼のプライドに大きな傷をつけたのかもしれない。

 竜郎たちからしたら、知ったこっちゃないのだが。


 さてそんなマーくんなのだが、たしかに右頬に殴られたような跡が付いていた。

 竜郎がすぐさま解魔法で解析すると──。



『あれ十中八九、自分で自分を殴ってるな。殴られた跡と、あいつの右拳の形が完全に一致してる』

『あいかわらず解魔法って便利だねぇ』

『そうね。解魔法のクリアエルフが味方にいてくれた時は、ほんとうに心強かったもの』



 レーラが思い浮かべたのは、おそらくルシアンの父だろう。それ以上話を広げることなく、念話から目の前で騒ぎ立てる人物に意識を戻していく。



「たしかに怪我をしているようですけど、それがうちの子だという証拠でもあるんですか?」

「うちのマーくんが嘘つくわけないでしょ! それにこっちの子たちも、そこのガキが殴るのを見たって言ってんだからね! ねぇ! そうでしょ!?」

「「「「「う、うん」」」」」

『あの5人、お漏らし事件のときに近くにいましたね』

『言われてみればそうですの』



 証人だという5人の子供は、いつも畑中少年に子分のように付き従っているものたち。

 こちらは年相応の体つきに、2人だけ茶髪の少年がいるが、あとは本当にどこにでもいる普通の小学生だ。

 想定していたよりも大事になっているのか、ふてぶてしい畑中親子とは違い挙動がビクついている。


 その親たちは簡単に手をあげる乱暴者が我が子の同学年に転校してきたと、竜郎や奈々、リアを迷惑そうに見つめていた。

 これを機に追い出せるのなら、追い出そうとでも思っているのだろう。


 ため息を吐きそうになるのを我慢しながら、竜郎は口を開いた。



「おたくのマーくんが──」

「ちょっと、うちの子を気安く呼ばないでくれる!」

「はぁ、じゃあ、えーと、まー……ま、まさおくん?」

「そんなダサい名前なわけないでしょ!」

(全国のまさおさんに謝れ!)



 さすがに口には出さず、竜郎が心の中でツッコミを入れる。



「この子には真伽辺璃マキャベリっていう、カッコいい名前があるんだから!」

「ま、まきゃ──マキャベリ!? それってまさか本名……?」

「そーよ! あの有名な貝殻にポッチャリ系の裸の女が立ってる絵を描いた、画家と同じ名前よ!」

「は? 絵? マキャベリが画家?」

「あんたみたいなマヌケは、知らないでしょうけどね。ぷぷっ」



 竜郎があっけにとられたのを無知ゆえにだと思ったのか、鬼の首を取ったような馬鹿にした顔をされた。



『マキャベリという人物は、君主論を唱えた政治思想家だとばかり思っていたけれど、絵も嗜んでいたのね。

 ダヴィンチのように多才な人だったのかしら? それとも同じ名前の別人……? 帰ったら調べないといけないわね』

『いや、レーラさん違うから。それにたぶん、あの人が言ってる貝殻に裸の女ってビーナス誕生のことだと思う』

『ビーナスの誕生っていうと、ボティチェリという人物が描いた絵じゃなかったかしら?』

『そう、その人。なんの奇跡か知らないが、なぜか2人の国と時代は一緒なんだけどな。成したことは全然違う』

『てか、レーラさん。私より詳しくない? この短期間にどんだけ勉強してんのさ。そっちのほうが驚いちゃったよ』

『知らないことばかりで楽しくて、つい寝る間も惜しんで本を読んでしまっているだけよ』



 あやうく勤勉な異世界人に間違った知識が植え付けられるのを回避した竜郎が、他の誰も今の発言を疑問に思わなかったのかと周囲を見渡してみる。

 すると他の母親3人は「へぇ、そうなのね」と感心し、残り2人の母親と2人の教師たちは双方あっけにとられていた。

 まともな人がいてよかったと、少しだけ竜郎はほっとする。



「あーもう、いいです。ですが、おたくのマキャベリくんが嘘をつかないなんて、こっちは知りませんし、うちの奈々が嘘を吐くとも思いません。

 そちらの子たちが嘘をついているのではないんですか? 口裏を合わせればいくらでも言えますよね。

 それにその殴られたという跡──」



 竜郎が奈々を手招きして呼び寄せると、皆に見えるようにその小さな手を掲げてもらう。



「この小さな手が殴ったにしては、大きいとは思いませんか?」

「それじゃあ、うちの子が嘘ついてるっていうの!? ふざけるんじゃないわよ!」

「「「「「そ、そうよ! そうよ!」」」」」



 一瞬、竜郎の言葉に飲み込まれそうになった畑中(母)以外の母親たちも、我が子が言うのだからと同調し、さきほど唖然としていた母親もふくめて声をあげる。


 だが竜郎が黙るように、冷静になるように、魔法を使いながら指揮者のように小さく手を挙げればすぐに静かになる。



「まあ、そうなりますよね。誰だって他人の子より、自分の子の言い分が正しいと思いたいわけですから。

 なのでどうでしょう。お互いのためにも、今から1人ずつ子供たちの言い分を聞いていき、状況を整理しませんか?

 このままでは、そちらが数の暴力でギャーギャー喚いているだけで生産的な話ができるとは思えませんし」

「なんですって! 暴力は──」



 あんたんとこの子でしょ──とでも言おうとしていたのだろうが、魔法で無理やりクールダウンさせながら口を閉じさせる。

 それをおかしいと思わせないように、魔法を行使するのも忘れない。



「理性的にいきましょうよ、畑中さん。そちらの言い分に納得できれば、こちらだって謝ろうと思っているんですから。

 とりあえず、子供たちの話を僕らにも聞かせてくださいよ」

「……分かったわ」



 カッとしていた頭が冷静になったのか、竜郎が謝ろうと思っていると言ったからか、畑中(母)はしぶしぶ頷いた。

 教師2人にも中立的な立場で見届けてもらえるように頼むと、竜郎は大きな声で進行役を務めていく。



「ではこれより、<この場での嘘は誰であろうと許されません。そして今回の件に関わる質問には、必ず答えること>。いいですね?」



 嘘が許されないという魔力の籠った言葉に、全員が頷くことでより深く竜郎の魔法が全員に浸透していった。



「まず加害者だという奈々に質問だ。奈々はあそこにいる、まさお──……マキャベリくんに暴力を振るったか?」

「そんなことしてませんの」

「そんなの嘘よ!」

「今は子供たちに話を聞いていこうと言っているのですから、ちょっと黙っていてください。

 とりあえず、これがうちの子の主張と言うだけなのですから」



 竜郎から言い知れぬ威圧感を感じ、畑中(母)は黙りこんだ。

 異世界に行く前の竜郎ならいざ知れず、いまさらキレた大人に怒鳴られたところでなんとも思わない。

 つとめて冷静に黙らせた後、話を進めていく。



「では次に被害者だと言うまさ──マキャベリくん」

「なんだよ。あと、さっきから地味にまさおって言いそうになるの止めろよ!!」



 相手の抗議には耳を貸さず、見た目に反して声が高く、そこだけは子供なのだなと、どうでもいいことを考える竜郎。



「君が、うちの子に殴られたというのは本当か?」

「いいや、違う。──って、あれ? なん──」



 余計な間を挟むことなく、竜郎は容赦なく質問を畳みかける。



「じゃあ、誰が?」

「自分でやった」

「ほお、自分で? 何故?」

「そこのチビに睨まれただけでビビッて漏らしちまったとこを、いろんなやつに見られて恥ずかしかったから、仕返ししてやろうと思ってママに殴られたって言った」



 親や教師たちはその内容に驚愕し、子供たちはあの真伽辺璃マキャベリが『ママ』と呼んでいたのかということにも衝撃を受けていた。

 そして当の張本人は嘘もつけず、家ではママと呼んでいたという些細なことすら隠せない今の状況に、顔を真っ青にしていた。

 頼むからもう質問するなと竜郎に懇願の視線を向けてくるが、子供だろうが身から出たサビ。バッサリ切り捨てるように無視をする。



「じゃあ他の子たちは、なんでうちの奈々が君を殴ったなんて言ったんだろうな。

 その傷はまs──マキャベリくんが、自分で自分を殴ったからだろ? 話が違うじゃないか」

「俺がそう言えって脅した」

「それじゃあ、うちの子はまったくの無実ということになる。

 マキャベリくん。それが君の語る真実ということでいいんだね?」

「ああそうだよっ──っ──っ!?」



 違う! と必死に言おうとするが、竜郎の魔法に囚われたこの空間で嘘は絶対に吐くことはできない。

 金魚のように口をパクパクさせるが、そこから虚偽の声がでることはなかった。



「じゃあ、他の子たちにも話を聞いていきましょうか──」



 竜郎に質問された他の子供たちの証言も、真伽辺璃マキャベリのしたものと同じだった。

 皆が一様に、真伽辺璃マキャベリにそう言えと言われてしょうがなくと証言した。


 そればかりか子供たちのスマホに入っていたトークアプリに、マキャベリからの命令文が書かれたグループチャットの履歴が全員残っており、ネットを介して口裏を合わせていた確固たる証拠まで白日の元に晒された。


 そして現在──。畑中(母)は顔を真っ赤にさせて、我が子に「違うんでしょ? あいつが悪いのよね!? ねえ、マーくん!! なんとか言いなさいよっ!」と、この期に及んでも未だに信じようとしている。


 それに対して息子の方はといえば、ボロボロと泣いてばかりで言い訳しようとする気力もない。

 図体がどれだけ大きかろうと彼はまだ10歳。精神的にはまだまだ子供なのだ。

 竜郎のほうも逆に気の毒になってきて、小学生相手にやりすぎたかもしれないとバツが悪そうにしてしまう。



『やっべ、やりすぎたか。ちょっと前にあった冤罪事件がヤバイ王様だったせいで、加減間違えたかもしれない』

『ちょっと私たち、異世界に染まりすぎちゃってるかもねぇ』

『ですが、主様。このさい徹底的に心をへし折り叩き潰してしまった方が、そこの子供にもいい薬になるのでは?

 なにもしていない弱者を、一方的に暴力で従えていたような者なのですよね?』

『姉上の言うとおりです、マスター。あそこの親はもうダメかもしれませんが、彼はまだ若い。

 ここで一度今の倫理観を壊して、暴力だけでは解決しないこともあるのだと思い知らせれば、まともな大人になれるでしょう』

『そういうのは、親か道徳の授業にでもやってもらいたいんだがなぁ……』



 他の親たちは完全に白けた様子で、畑中親子を見つめている。

 教師2人も暴力沙汰かと思えば、こんなくだらないことに忙しいなか時間を取られたのかと迷惑そうな顔をしていた。



「あー……なんかアレですが、うちの奈々は無実ということでいいですよね? 皆さん」



 教師も畑中以外の親子たちも、竜郎のその言葉を素直に肯定し頷いた。

 そればかりか竜郎や奈々に向かって、我が子ともども迷惑をかけたと謝罪されるしまつ。


 そして孤立した問題の親子は、他の親たちが帰った頃にようやく状況が動き出す。

 泣いてばかりの我が子に「もうママ、知らないからね!」と、竜郎たちに視線も向けずに逃げるようにして、畑中(母)が息子を置いて出て行ってしまったのだ。


 母親にも見捨てられ、ただボロボロ泣く真伽辺璃マキャベリ

 竜郎が最後に期待していた教師2人も、どうしようかと目を合わせるだけで何もしない。

 おいおいと自分のことは棚上げしつつ、竜郎が慰めに行こうかと思った矢先──リアがトコトコと彼の方へと歩いていく。


 本当の両親に売られた経験を持つ彼女は、母親にすら見捨てられた彼を放っておくことができなかったのだ。


 座っている彼に、リアはミニリュックに入れていた可愛らしい水玉模様のタオルハンカチを差し出した。



「これ、使って下さい」

「ぶ──ぶるざいっ! あっじいげよ゛ぉ゛っ!! ど、どうせっ、お前もお漏らし野郎って笑っでんだろっ!?」

「別に笑ってませんよ。むしろ、もっと早く止めてあげていれば──とすら思っています」



 リアは甘すぎですの。と奈々が竜郎の横で文句を垂れる。



「ですがあれは、あんなことをしていた、あなたにも原因があるんですよ?」

「だ──だっで……」



 いやいやとハンカチを受け取ろうとしないので、リアが自らその涙をポンポンと拭いてあげた。

 それに目を丸くしたとき真伽辺璃マキャベリは、はじめてリアの顔をちゃんと見た。

 そこには馬鹿にした様子もなく、恐がる様子もなく、優しい顔をした小さな少女の顔があるだけ。



「だって、なんですか? あれは悪いことだと、あなたには分かりませんでしたか?」

「わ、分がっでだ……。で、でも、俺……変な名前だじ、幼稚園の頃いろんなやつに馬鹿にざれて……悔じくて……。

 だからっ、馬鹿にされないようにするにはっ、馬鹿にしようと思えないくらい、逆らえないくらい、強いやつになるしかなかったんだよっ!」



 ここで竜郎も含め、なぜ彼があんなに乱暴者になったのか悟った。

 担任である田中も、はじめその名前と字面を見たときは、どこぞの釈迦如来からでも取ってきたのかと思うほどにインパクト抜群だったのをよく覚えている。



「お前も思っただろ! 変な名前だって! そのうえ今やお漏らし野郎だ! もうどうしようもないじゃないかっ。

 ここで俺に逆らえば痛い目にあうぞって思わせなきゃ、また馬鹿に──」

「──しませんよ。少なくとも私は。ナナはああみえて、とっても強いですからね。睨まれた時も迫力満点だったでしょう?」

「う、うん……恐かった……」

「私は彼女とずっと過ごしてきたから、それをよく分かっています。

 それに私はあなたの名前、変だなんて思いませんよ。素敵じゃないですか、マキャベリって名前」

「そんなことっ──え……」



 嘘言ってんじゃねぇとばかりに睨み付けても、そこには真摯な眼差しだけ。

 嘘を言っている様にはまるで思えなかったし、実際にリアは変だとは思っていなかった。


 とはいえリアの場合はもともと横文字の名前の世界で育ったのだから、竜郎たち純日本人とは感覚が違うというだけなのだが……。


 涙の跡をキュッキュと優しく拭うと、彼の手を取ってリアは自分のハンカチを握らせた。



「それ差し上げます。また涙が出そうになったら拭いてください。

 そしてもう、誰かをいじめるのはやめてください。不当に暴力を振るうのも。

 このままでは、本当にあなたはダメな大人になってしまいますよ。バカにしてくるような人は無視すればいいんです。

 そんな人たちは子供なんだと、強い心で跳ねのければいんです」

「そんなことできるなら、はじめから……」

「できますよ、きっと。だってあなたは、もう幼稚園児じゃないでしょう?

 けど、それでも辛くなったら、また話くらい、いくらでも聞いてあげます。だから頑張ってください。

 馬鹿にされないくらい、立派な人間になってください」



 そこでリアはニコリと微笑みかけると、立ち上がり竜郎たちの元へ帰ろうとする。

 真伽辺璃マキャベリはそんな背中に、思わず言葉を投げかけた。



「おまっ──いや、きっ、君の名前は?」

「波佐見理亜(りあ)です。今日、ナナと一緒に転校してきました。宜しくお願いしますね、真伽辺璃マキャベリさん」

「あ、ああ、よろしく……り、りあさん……」



 呆けたような真伽辺璃マキャベリをよそにリアは竜郎たちの元に戻ると、ぺこりと教師たちに頭を下げ、皆と一緒に教室を出て行った。


 残されたのは教師2人と真伽辺璃マキャベリのみ。



「あの子ほんとに小学生か? 母性すら感じたんだが……」

「ま、まあ、女の子の成長は早いって言いますから。けど今まで見てきたどの子よりも、大人びて感じましたね」



 ちらりと未だに呆然とリアの去った方角を見ている少年に視線を向ける教師たち。



「りあさん…………。まるで天使……」

「こりゃ落ちたな。このままあの子が大人になったら、魔性の女になりそうで今から怖いよ」

「ははっ、田中先生。それは言いすぎ……とも言えませんか」



 その数日後。真伽辺璃マキャベリは頭を坊主に丸め、今までいじめてきた全ての子たちに許してもらえるまで何度も謝罪して回るようになる。

 全員に謝罪を受け取ってもらった彼は、禊は済んだと暴力以外の方法で友を引き連れ、リア親衛隊を名乗り彼女を天使とあがめるようになる。


 そしてそのリア親衛隊はリアが進級するごとに、進学するごとに人数を増していき、彼女の普通の生活を面白おかしくぶち壊していくことになるのだが……それはまた別のお話である。

次回は金曜更新です。

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[一言] そりゃねぇ...周りに居るのセテプエンリティシェレーラと軍荼利明王だぞ...今更真伽辺璃(マキャベリ)で動揺なんてしないよねw
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