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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第六章 活動域拡大編
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第94話 なんでもない会話と小さな問題

 4限が終わり、お昼休みの時間となった。

 竜郎も愛衣も放課後は、ほとんどいつも一緒にいるので、お昼はだいたい友人ととるようにしている。

 本日も御多分に洩れることなく、愛衣は5人の友人たちとともに机を寄せて、お弁当片手にたわいもない会話に花を咲かせていた。


 その流れで愛衣は、つい先ほど竜郎から入った念話の内容について切り出すことにした。



「そーいえば、さっきね。たつろーから、スマホに連絡があったんだけどさ。奈々たちって、合コンに興味ある?」



 合コンとはほど遠い場所にいる愛衣からの提案に、一斉にキョトンとしながらも、まず3人が反応を示す。



「ん~私は、そういうの興味ないなぁ」

「私も部活に勉強に忙しい。今、男はいらん」

「私も~。ああいうノリって、ちょっと苦手だし。

 それにたまに調子に乗って、ベタベタ触ってくる人とかもいるでしょ? あれほんとキモい」



 順に奈々子、れい、早百合の発言だが、最後のキモい発言には全員が頷いていた。

 特に愛衣は、竜郎以外の男になれなれしく肩でも触れられたところを想像し、鳥肌が立っていた。


 しかし世の中そんな男ばかりではないと、桃華が少しだけ食いついてきた。



「私はメンツ次第かな? 誰が来んの? 愛衣」

「さあ? でも浜口くんと御手洗くんと、権田くんは決まってるみたい?

 なんか3人が乗り気で、とりあえず断られても全然いいから、話だけ聞いてくれって言われたんだよね」

「波佐見くんも大変だね。友達づきあいってやつか。でもまあ、そのメンツかぁ」

「桃は嫌? 御手洗くんとか、そこそこ顔もよくない?」

「あれ? 和奏は御手洗くんに興味あんの? 確かに顔はまあ好みのタイプだけど、マッチョはちょっとねぇ」

「私もそうだよ。でも桃って、顔と性格がよければ体型なんて気にしないと思ってた」

「そんなことないよ。顔も大事だけど、私は細マッチョくらいがいいんだよ。

 御手洗くん、水泳の授業でちらっと見たことあるけど、見た目以上にゴリゴリのマッチョだったし。 

 それこそ、あの中だと波佐見くんが一番好みだね。

 顔もそこそこよくて、愛想もよくて、彼女にはすっごく優しいし、真面目だから将来いきなり、俺はミュージシャンになる! とか言って、博打みたいな職業に就くこともないだろうしさ」

「むっ、たつろーはダメだよ!」



 突如出てきた彼氏の名前に、愛衣は目の前に両腕でバッテンを作って全力でダメダメアピールする。



「分かってるよー。心配しないで。愛衣がいなかったら真剣に考えてたかもしんないけど、あそこまで愛衣ラブを全方位に振りまかれちゃあ、入り込む余地すらないじゃん。だったら次のイケメン探すよ」

「だよねー。男は波佐見くんだけじゃないし」



 桃華と同じく、多少合コンに興味を持っていた和奏も同調する。



「私にとっては、男はたつろーしかいないけどね!」

「「「「「はいはい、ごちそうさま」」」」」



 結局いつもの愛衣ののろけで終わり、合コンの話も立ち消えた。

 洋平たちの理想とする、このメンバーが集まり開かれることは今後もないだろう。

 愛衣は結果だけを粛々と竜郎に伝えた。桃華の竜郎ならありという会話は、一切伝えずに。



「そうだ、奈々。お勧めのボードゲームとか今度教えてよ」

「ん? なに突然。べつにいいけどさ」

「ちょっと、たつろーの親戚がこっちに来てるんだけど、そういう系の話に興味持ってね。奈々なら詳しいでしょ?」

「まあね。皆、ボードゲームは初心者さん?」

「だね。私は奈々の影響で多少はやったことあるけど」



 奈々子の親戚の叔父さんはボードゲームマニア。その影響を小さなころから受けた彼女も、マニアとまでは言わないが、自分で買うくらいには興味を持っていた。

 愛衣やその他の友人たちは、学校の短い休み時間や休日に集まった時などに、よくそれで遊んだりもしているのだ。



「なら重めのは避けといたほうが──ああ、でも王道なのはやってみてほしいしなぁ……。

 うん、わかった。あとで愛衣のスマホにリスト送っとくね」

「うん、ありがと奈々」



 日本でもボードゲーム人口が増えればいいと思っていた奈々子からすれば、これは絶好のチャンスである。愛衣のお礼に、奈々子は笑顔で頷き返した。


 話しがそうして一区切りついた所で、ここまで黙っていた桃華が竜郎の親戚というワードに興味を示した。



「ねえねえ、愛衣。その波佐見くんの親戚って、男の子いる? かっこいい?」

「え? たつろーの親戚の男の子? 子って感じじゃあないけど、まあ、いいと思うよ?」

「なんで疑問形? ……って、愛衣ちゃんならそうなるか。

 波佐見くん以外の男の人とか、案山子かかしくらいにしか見えてないみたいだし」



 早百合が的確に愛衣の思考を読み取れば、澪もろくに同じクラスの男子の顔さえ覚えてない普段の愛衣を思い返し、納得顔でご飯を飲み込み口を開いた。



「だがそんな愛衣からしても、まあいいかなと言わせるほどには、顔が整っているということでもあるな」

「「「──っ!?」」」



 望みは高いが彼氏は欲しい桃華、和奏、早百合がピクリと反応を示す。



「ねっ、ねえ、愛衣。何歳くらいの人なの?」

「芸能人でいうと誰系?」

「性格はどんな人? 優しい系? 真面目系? ワイルド系?」

「えぇっ? なんなのもう。えーとねぇ──」



 それから話していい範囲で竜郎の親戚扱いになっている、またはなるであろうアーサー、ランスロット、ガウェインの話をする羽目に。

 特にアーサー。竜郎を神レベルで崇拝しているというところと、翼が生えているという点以外は、顔よし、性格よし、体型も程よく引き締まった細マッチョと、桃華のドストライクゾーンだろうなぁと思いをはせながら。


 そしてそんな女子のキャイキャイした話を、同じくお弁当片手に密かに聞いていたレーラは、またしても菩薩のような笑みを浮かべ「若いな……」と呟くのであった。


 ちなみに余談であるが、竜郎から合コンの話は無しと聞いた洋平、善樹、ダニエル宗助は、死んだ魚のような目で残りの授業を受ける破目になる──。




 放課後。愛衣と合流した竜郎たち一行は、のんびり歩きながら今日1日ついてきてどうだったのかという、レーラたち異世界組の感想を聞いていた。

 ただ楓と菖蒲はおねむになってしまい、現在竜郎と愛衣に抱っこされながら眠っているのだが。



「うーん。なんかずっと静かにしてなきゃいけないから、ニーナ的には退屈そうだった」

「まあ、今日は体育とかもなかったからなぁ。それ以外は大抵、椅子に座った状態だし」

「ニーナとは逆で、私は静かで落ち着いていて、学ぶ環境としては、とてもいいと思いました。

 特に物理や化学という授業は魔法の発想にもいかせそうですので、継続して私も学びたいと思いました」

「その科目は私も気になっていたの。そっか、そっちでは今日やっていたのね」



 ウリエルの言葉に、少し残念そうにするレーラ。



「けれど私はアイちゃんの授業の中で、古文の授業が素敵だと思ったわ」

「えー、そうかなぁ。私はあんま好きじゃないけど。なんか言いまわしとか回りくどくない?」

「それがいいんじゃない。日本人の言葉の表現の豊かさには度肝を抜かれたわ。素敵な民族ね」



 もともとリアと同じように科学的な分野や地球の歴史に興味を示していたレーラだが、日本の古典文学にも興味を示しはじめたようだ。

 愛衣も日本の文化が褒められて悪い気はせず、今までただの受験に必要な知識の一つとしてだけ考えていたが、今度はもっと興味を持って学んでみようかなといい刺激を受けていた。



「私はニーナと同じように少し退屈ではありましたが、マスターが学問に励んでいる姿というのは新鮮に感じましたね」

「ははっ。まあ異世界の方じゃあ、本くらいは読んでたこともあるが勉強はしてなかったからな」



 ニーナは少し退屈だったようだが、それでも竜郎と一緒にいられて満足しており、楓と菖蒲とは遊んでいたので不満はない。

 レーラやウリエル、アーサーも、それぞれ楽しみを見いだしてくれたようだ。


 愛衣も含め竜郎の家にたどりつくと、家の庭の入り口付近で奈々とリアに遭遇した。



「あれ? 小学校はもっと終わるの早かったよね? 寄り道でもしてきたの?」

「さっそく今日できたお友達に遊びにこないか誘われたので、一度家に帰って遊びに行っていたんですよ、姉さん」



 見れば2人ともランドセルではなく、奈々はシンプルなデザインの赤いショルダーバッグ。リアは白に近い薄ピンク色のミニリュックを身につけていた。



「さっそく友達ができたのか。よかったな、2人とも」



 玄関で靴を脱ぎながら、そのままリビングへと皆で入っていく。



「あだ名も付きましたの!」

「おっ、あだ名? 私にも教えてよ、奈々ちゃん」

「あっ、だめ──」



 興味深げに耳を傾ける竜郎たちに対し、あだ名という単語が出た瞬間に止めようとするリア。

 しかし奈々は胸を張って、堂々と自分たちのあだ名を発表した。



「わたくしは、ボス。リアは裏ボスですの!」

「私は認めてませんからね!」

「「「「「………………」」」」」「2人とも、かっこいいね!」



 ニーナだけが絶賛し、眠っている楓や菖蒲以外は「え? なんで?」という表情で固まってしまう。


 なんでも初日からその能力の高さで目立ちまくっていた上に、学校でも有名な5、6年生すら怯えさせる4年生のガキ大将とそのお供にいじめられている、気弱な男の子を助けたことで、奈々は『ボス』のあだ名を襲名。


 そんな奈々に、やりすぎだと慌てて間に入り見事仲裁させたリアは、奈々《ボス》にいうことを聞かせられる唯一の存在──裏のボスだ! と認識され、晴れて『裏ボス』のあだ名を知らぬ間に襲名してしまったらしい。


 そうして2人は、たった1日で校内でも大人気の波佐見シスターズとなった。

 リアは「ぜんぜん普通の女の子じゃない……」と、少しやさぐれていたが……。



「あー……、まずないと思うが、助けたってバイオレンスな方向じゃないよな?」

「もちろんですの。わたくしがちょっとでも気合を入れてデコピンでもした日には、肉片も残らず消滅してしまいますの」

「そのへんはナナも分かっていますから、本当に睨み付けただけだったんですが……ちょっと竜と神格者の威圧が漏れてしまいました。

 それを真正面から受けたガキ大将さんは……その………………、公衆の面前でお漏らしを……………………」

「「oh……」」



 竜郎と愛衣は、示し合わせたかのように意味もなく英語で嘆きながら天を仰いだ。

 精神的に強靭な大人でも、この世界の人間では失神してしまうであろう威圧を、ほんの少しとはいえ、いじめなどということをするあたり、おそらく精神的にも未熟な子供が受けたのだ。

 因果応報とはいえ、少しばかり同情したくなった。


 ただまあ自業自得かとすぐにその気持ちも霧散し、いいことをしたと2人で奈々を褒めてあげた。



「いいことしたですの~♪」



 奈々はご機嫌になって、竜郎や愛衣に抱きついて甘えた。

 リアも少し頭を撫でてほしげに感じたため、こちらも奈々を直ぐに止めてくれてありがとうと2人で撫でて上げれば、まんざらでもなさそうな顔をしてくれた。


 ──と、皆でホッコリしながら過ごしていると、波佐見家の電話が鳴り響く。

 いったい誰だろうと、抱いていた楓をウリエルに預け、親もいないので竜郎が代表として受話器を耳に当てる。

 すると竜郎も奈々やリアの転校のやり取りで見知った、線の細い、ストレスで簡単に胃に穴をあけそうな男性教師の声が聞こえる。



「──え? はい。────────────、それは本当ですか?

 ──いえ、両親はまだ仕事で、なので代わりに僕が────いえ、ですから────。

 ────分かりました。これからそちらに<僕がうかがって話を付けます>。はい、では──」

「主様、最後の辺りで魔力をこめて話しかけていたようですが、何かございましたか?」



 『僕がうかがって話を付けます』の言葉に魔力の反応があったことに気が付き、先ほどまでにこやかだったウリエルが真面目な顔で問いかけてくる。

 だが竜郎は手で少し待つように制してから、奈々へと向き直って正面から見据える。



「なあ、奈々。畑中という、4年4組の男の子を知っているか?」

「4年ということは、わたくしたちと同じ学年ですの。それで、はたなか……ですの? う~ん、クラスも違いますし、さっぱりわかりま──」

「いやいやいや、ナナ! あなたが今日、睨み付けてお漏らしさせちゃった子のことですよ!」



 奈々にとっては心底どうでもいい情報だったらしいが、ちゃんとリアは相手の名前くらいは覚えていたようだ。



「それでタツロウくん。そのハタナカという子が、どうかしたのかしら?」

「いや、実はなレーラさん──」



 レーラの問いに答えながら、全員に先ほどの電話の話を聞かせていく。

 その内容は、ガキ大将畑中少年が奈々に殴られ怪我をしたというもの。


 畑中少年の母親が、ぞろぞろ息子や証人とやらと、その親たちを引き連れ学校に怒鳴り込んできたらしく、仲裁に入らざるを得なくなった奈々の担任が電話をかけてきたというわけである。



「けれどさきほどナナ様は、殴ってないとおっしゃっていましたが?」

「それがだな、ウリエル。向こうが言うには、その周囲にいた子分的な子供たちも奈々が殴ったと証言していて、実際に畑中少年に殴られた跡があったんだそうだ。

 まあ十中八九、実力じゃ勝てないから、親に泣きついて憂さを晴らそうとしているんだろうな」

「じゃあ、自分か誰かで殴った跡を作ったってこと? 馬鹿だねぇ」



 愛衣も呆れて口をポカンとあけている。



「父さんか母さんと、奈々を呼んでくれって言われたんだが、父さんたちは今職場だし、俺が行くって言ったら高校生のお兄さんはちょっと困るって言われたもんだから、電話越しに洗脳して俺が行くことを了承させた」

「先ほどの魔力は、そういうことですかマスター」



 高レベルの認識阻害などの魔法は電話や画面、録画した映像などでも、大分弱体化はするが効果がある。

 異世界人は一般人でもシステムによる魔法抵抗力があるので、それでは難しいのだが、システムのない──魔法に対する抵抗力のない、こちらの世界の人間たちなら、テレビをジャックして全国民に催眠術を魔法でかけることだってできてしまう。


 その効果を利用して、竜郎は電話の向こう側の教師に強制的に認めさせたというわけである。



「相手が嘘つきなら遠慮はいらないな。魔法を使ってでも真実だけをつまびらかにしてやる。

 ってことで、俺は今からモンペ(仮)と糞ガキに会いに行く。夕ご飯までに、ちゃっちゃっと終わらせてこよう。一緒に行ってくれるか? 奈々」

「もちろんですの!」

「私も目の前にいましたから、証人として一緒に行きますよ、兄さん」

「そうか、リアもありがとう」



 愛衣や一緒に学校に行っていたメンバーも見学を申し出てきたので、竜郎はまだ眠る楓を抱っこしながら、奈々たちの学校へと乗り込んでいくのであった。

次回は水曜日更新です。

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