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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第六章 活動域拡大編
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第92話 友人たちとの再会

 竜郎と別れ自分の教室に入ると、その途端一気に懐かしさが愛衣の胸の中に広がっていくのを感じた。

 懐かしい風景、懐かしい香り、そして自分の席の近くにたむろっている、先ほどまで少しだけ頭の中の顔がぼけてしまっていた友人たちの姿。


 ボブカットで楕円レンズの縁なし眼鏡をかけた、少したれ目のいかにも文学少女といった風貌の、愛衣が奈々と呼ぶ少女──柿原かきはら奈々子(ななこ)


 肩より少し長いロングヘアを後ろでまとめてポニーテールにしている、平均よりもかなり小柄な可愛らしい小動物系の顔立ちの、杉下すぎした桃華ももか


 フレンチショートの短い髪。身長170以上もある上に、女性にしては肩幅もしっかりしている勝気な顔立ちの鈴木すずきれい


 腰まで伸びたロングカールで、少し茶色がかった髪。身長は平均的ながら愛衣も含めたメンバーの中で最も豊満な胸を持ち、ぱっちりとした目が特徴的な荒井あらい和奏わかな


 ふわふわしたくせっ毛のミディアムヘア。口角が兎のように上がり、いつも優しげに微笑んでいる美人系の顔立ちをした後藤ごとう早百合さゆり


 久しぶりに見る5人の顔を見ると思わず泣きそうになり、入り口で立ち止まっていると、ポンと軽くレーラが背中を押してくれた。

 後ろを振り返ることなく、愛衣は一歩前に踏み出した。



「愛衣ー。なにしてんのー?」

「ううん。なんでもなーい」



 喉に詰まった声をなんとか出しながら、愛衣は自分の席付近にたむろっている友人たちに小走りで近づいていき、真っ先に声をかけてきた一番古株の友人──奈々子に抱きついた。


 突然抱きつかれて一瞬メガネの奥の目を丸くしながらも、奈々子はノリに合わせて愛衣の背中に手を回した。



「あらあら、旦那から鞍替えして私のものになるの? 愛衣」

「ならないもん。私は、たつろー一筋なんだから。でもね、今日は抱きつきたい気分なの」

「甘えん坊でちゅねぇ~、愛衣ちゃんはぁ」

「甘えん坊じゃないやい」



 子供をあやすように頭をよしよししてくるので、愛衣はお返しだとばかりに少しだけ抱きしめている力を強くした。



「ぐ、ぐぇ……強い、強いって!」

「おお、こりゃ失敬」

「失敬じゃないよ、まったく。ってか、愛衣。あんた、そんなに力強かったっけ?」

「女子、三日会わざれば刮目して見よ──だよ」

「なにそれー。愛衣、私もハグハグッ」

「とりゃー!」

「きゃー♪」



 小柄な桃華が挑戦的な目をしながら来いよとばかりに手を広げるので、愛衣は奈々子から離れ飛びつくように彼女へ抱きついた。

 そして順番に、残りの友たちとも抱擁を交わしていく。


 その間、レーラは後の方で微笑ましげに若者たちのやり取りを見守っていた。



「んー? 愛衣ちゃん、なんか雰囲気変わった?」



 最後の1人となった早百合は、ハグから解放されるや否や何気ない言葉をそう口にした。



「え? そお? 大人な色香がバンバン出ちゃってる?」



 それに一度首を傾げながらも愛衣は腰に手を当て、「色っぽかろ?」としなを作って奈々子に凭れかかる。

 凭れかかられた彼女は重ーいと文句を言いながらも、ちゃんと支えてくれた。



「愛衣から大人の色香ってのはよく分からんが、重心が急にしっかりしてる気がするな。

 この前までは、もっとフニャフニャしてただろ? 私が押したらひっくり返りそうだったのに、今はビクともしなさそうだ」

「おっ、さすが柔道部の澪。そんなの分かんだ。私にはサッパだけど。

 けどたしかに……今の愛衣、なんかちょっと前より大人っぽいかも?

 あ──もしかして、波佐見くんとなんか進展があったりとかー?」



 和奏も前の愛衣と微妙に身にまとう雰囲気が違うことに気がついたが、異世界を一年以上さまよっていた──なんて突拍子もない答えに行き着くわけもなく、無難に異性関係のことだと当たりをつけたようだ。


 だが答えはイエスでもある。異世界に行ったことで、たしかに竜郎との間に進展はあったのだ。

 愛衣の表情は分かりやすく変わり、5人の友人たちはすぐにこれは何かあったのだと気が付いてしまう。



「ねえ、愛衣。私たちの中で秘密はなしよね。だって、親友だもん」

「親しき仲にも礼儀あり、だよ。奈々?」

「ふむ。直ぐに言えるような、甘っちょろい進展ではないようね。

 ということはズバリ──波佐見くんとヤっちゃった?」

「──っ!?」



 何故分かった!? とばかりに分かりやすい表情の変化に、色めき立つ友人たち。ズバリ──の辺りから小声になっていたが、それ以上に声を落とし、愛衣を囲むように円陣を組んで席に座らせる。

 そして一番、興味津々な桃華が恥ずかしそうに頬を染めながらもダイレクトな質問を投げかけてくる。



「ね、ねえ。その……どーだったの? やっぱり、はじめては痛いの?」

「え? まあ、痛いっちゃあ痛かった? ってくらいだったけど、どっちかというと、その後にたつろーが一生懸命になりすぎて痛かっ──て、あ……」

「「「「「やっぱり、ヤったんだー!」」」」」



 周りには聞こえないくらい小声ながらも、この後も友人たちに赤裸々な初体験トークを、担任がやってくる少し前までさせられることになる。

 すっかり愛衣にも忘れさられているが、ちゃっかりと側にいて聞いていたレーラは、知り合い同士の生々しい行為の話に、若いな……とばかりに菩薩のような表情を浮かべていたのであった。




 自分がはじめてのことで自制が効かず、獣のように愛衣をむさぼってしまったエピソードが、彼女の友人たちに知れ渡ることになるなど露知れず、竜郎は自分の教室へと足を踏み入れていく。


 するとなんとなく違和感が。懐かしいと思う気持ちもあるのだが、どこか自分の居場所ではないような、そんな不思議な気持ち。

 だがそれも無理はない。一年以上もここに来なかったのだから、当時馴染んでいた感覚が薄れてしまっただけなのだ。


 気を取り直して窓際の最後列、自分の席にリュックを置くと、そのまま自分の動きに注意を引かれないように認識阻害をしながら楓や菖蒲、ウリエル、アーサーたちの椅子を《無限アイテムフィールド》から出し後方に設置していった。


 ウリエルとアーサーのお礼に黙って頷き返すと、ゆっくりと自分の席に腰を落ち着かせた。

 すると前の席であり、竜郎の友人でもある少年──浜口はまぐち洋平ようへいが、短いパーマの髪をファサッと揺らし、少し日焼けしたお猿のような顔を向けて振り返り、気軽に話しかけてきた。



「よっ、竜郎。お前んとこは、どーだったよ。こっちはあの地震のせいで自分のPCが本棚に潰されて、ダメになっちまったぞ」

「まじか。そりゃ、大変だったな。ちなみに俺んちは特に目だった被害はなかった」

「ずりーな、おい。俺はPCに保存してた秘蔵のお宝が全部、逝っちまったていうのによぉ……」

「自分や家族が無事ならそれでいいだろ。お宝はまた、ネットの海をさまよってトレジャーハントすればいい」

「はー、彼女持ちは余裕があっていいねぇ。あっ、それで思い出した。あの話、ちゃんと八敷さんにしといてくれたか?」

「は? 何の話だよ」

「前に俺に杉下さんを紹介してもらえるようにっ、て言ってただろ。なにガッツリ忘れてんだよ。

 なーなー頼むよ。俺、あの子めっちゃタイプなんだよー」



 そこで竜郎は異世界に落ちてしまったあの日の前に、愛衣の友人の1人である杉下桃華を紹介してくれと洋平に頼まれていたことを思い出した。

 それと愛衣による、「桃華ってけっこう面食いだから、たぶん無理だと思うよー」という、悲しい言葉げんじつも同時に──。


 竜郎は小さくため息を吐きながら、さてなんと言ったものかと腕を組んでいると、入り口の方から2人の背の高い少年たちが、ずんずんとこちらにやって来るのに気が付き「よっ」と軽く手を挙げた。


 こんがり日に焼けた肌に、ベリーショートの髪。ハッキリとした目鼻をした少年で、まつ毛が非常に長い。

 ガッシリとした、いかにもなスポーツマン体型に、180センチオーバーの長身を持つ──御手洗みたらい善樹よしき


 丸刈り頭の、権田ごんだダニエル宗助そうすけ

 アフリカ系アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフで、身長は190センチと高く、体型もしなやかで美しい筋肉をしている。

 見た目は完全に黒人系の外国人なのだが、英語は苦手。


 2人ともバスケ部に所属しており、今日は朝練があったようだ。シャワーを浴びて汗を流してきたのか、石鹸の香りが漂ってくる。

 そんな2人の内、善樹が真っ先に手を挙げて挨拶を返しながら竜郎に話しかけてきた。



「今、竜郎に言えば女の子を紹介してもらえるって話をしてたか?」

「してねーよ。近いことは話していたかもしれないが……よく聞こえたな」



 呆れたように竜郎の目の前までやってきた善樹に声をかけると、彼の肩に手を乗せ身を乗り出すようにしてダニエル宗助がノリよくニッと表情豊かに笑みを浮かべる。



「興味のあることはよく聞こえるもんだよ、竜郎。そんで、俺たちにも誰か紹介してくれるん?

 なんなら合コンでもセッティングするか? 八敷さんとこのグループ、皆レベルたけーから男子なら一瞬で人数集められっぞ」

「集められっぞ、じゃねーよ。話を無駄に広げるんじゃない」

「俺も鈴木さんが来るなら、是非参加したい。俺は、あの子に一本背負いされたいんだ……」

「「お前ぇ……」」



 まさかの善樹によるドM発言に、引き気味の洋平とダニエル宗助。

 そんなおバカな光景に、竜郎は思わず笑いが込み上げ噴き出してしまった。



「──ぶはっ!」

「おい、なんだよ竜郎。お前だけ高みの見物か? リア充は爆発しろ!」

「「そうだそうだ!」」

「いや、悪い悪い。だがあれだけ妙な地震があったってのに、まっさきに話すのがそんな話かよって思ったら、おかしくってな。

 いや、ほんと。皆、無事でよかった……」



 懐かしい友人たちと、懐かしいバカ話。

 この教室に入って来たときの、自分の居場所だとは思えないような、どこか違和感のあったこの教室が、一気にあの頃の自分を取り戻すように馴染んでいくのを感じた。

 それと同時に、この世界に帰りたいという一心で地球に帰ってきたが、目の前の友人たちも、この日常も、丸ごと全部取り戻すことができて本当によかった──とも。


 だがその気持ちは愛衣以外の誰とも、目の前の友たちとも共有できないんだろうなと、若干の寂しさも残しながら──。



「こいつ、地震のときに頭でも打ったか?」

「さっき聞いた限りだと、特に問題なかったって言ってたんだがなぁ。そうかもしれん」

「おい、竜郎。真顔でそんなこと言うなんて、ちょっと寒いぞ?」



 順にダニエル宗助、洋平、善樹の言葉。

 心から感動しているのに、この言い草だ。竜郎も少しばかり意地悪したくもなるというもの。



「お前らなぁ。人がしみじみしてたってのに失礼な。一応、愛衣に話くらいは通そうかとも思っていたが、さっきの話は無しに──」

「「「すんませんっした!!」」」



 あまりにも潔く、そして揃って竜郎の机に頭を擦り付ける友人たちに、竜郎は声をあげて笑う。


 そんな竜郎を、楓と菖蒲をあやしながら、優しい顔でウリエル、アーサー、ニーナは見守ってくれていたのであった。




 竜郎たちのクラスの担任にして、数学教師。小太りの中年男性で、ツンツン頭の板垣いたがき泰介たいすけが教室に入ってきた。

 軽く全員無事に揃っていることを出席確認すると、すぐに体育館に移動するように声をかけていく。


 体育館は校舎と違って土足厳禁なので、指定された体育館用の靴を片手にゾロゾロと体育館へと向かっていった。


 途中、愛衣を発見したので軽く手を振ると、彼女は破顔して大きく手を振り返してくれる。

 しかしその周囲にいた奈々子たちは竜郎の顔を見ると、野獣化時の話を思い出し、少しだけ顔を赤くして視線を逸らした。


 なんだろう? と少し疑問に思いながらも、まあいいかと竜郎はスルーして洋平たちと自分のクラスの列に並んで行った。


 3学年の生徒全員が体育館に収容され、教師たちも揃う。

 3年の学年主任がざわつく生徒たちを静かにさせると、校長が壇上に上がり全校集会がはじまった。


 その集会で校長ふくめ教師陣が語った内容をまとめると、生徒たち及び、その家族に負傷者はいたものの、死者は誰もいなかったこと。


 校内は休みの間に専門の業者を雇い、隅から隅まで入念に調べてもらったので危険な個所も無く、割れた窓ガラスも撤去され、すでに新しいものに取り換えられている。

 同様の地震がまた起こったとしても、旧校舎も含めて本校はビクともしないので安心してくれということ。


 あとは今後の授業についてなどなど、たっぷり1限にあたる時間全てを使って集会は終了した。


 あまりにも暇だったために楓や菖蒲が竜郎と遊びたそうにし、それを我慢してもらうのに少しだけ苦労したものの、特に問題も無く教室へと戻れば、さっそく2限から授業開始だ。


 竜郎は楓と菖蒲たちに沢山のおもちゃを渡し、自分自身は久しぶりの授業に身を入れていくのであった。

次回は金曜更新です。

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