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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第一章 再出発
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第08話 イシュタルと行く弾丸ツアー

 波佐見家の改造から3日ほどの時が経つ。

 波佐見家地下一階のホームバーは数本の両親が持っていたものと竜酒の酒瓶が並んでいるだけ、シアタールームもまだ機材が整っていない状況なれど、なんとか格好はそれなりに整った。

 異世界素材を使った超馬力の昇降機も地下三階から地上二階まで通した。

 普段使わないモノを物置に移したり、リアやカルディナたちにあげたりしたので、波佐見家の内部は以前よりも広くすっきりしていた。


 また波佐見家と並行し、愛衣の家──八敷家も同じように内部を改造し終わった。

 こちらは家族が増えるわけではないのだが、地下階まで作っておいた。

 地下一階は物置部屋と、美鈴の希望でカラオケルーム、正和の希望で楽器の演奏部屋。

 地下二階はとあるものを設置するための部屋が一室。

 ──となった。


 カラオケルームにはまだ機材が無いが、それっぽい形だけは整った。

 また演奏部屋は愛衣が本当に小さい頃にピアノを習い始めた際に、正和が勢いで買ってしまったが、結局それほど使われる事なく埃をかぶってしまっていたアップライトピアノ。

 そして正和が趣味でたまに叩いているドラムセットが置かれている。


 実は十数年前は、これで愛衣の演奏とセッションしようと思っていた時もあったようだが、今は直ぐにピアノを習熟し始めたリアと一緒に演奏できるのではないかと少し燃えている。


 また八敷家にもちゃんとエネルギー装置や昇降機、生活用の魔道具などが設置された。

 そのおかげで電気も水道もタダで使いたい放題。お湯も火も魔道具で完全に調整された装置が設置され、周辺地域のインフラ設備がダウンしてもこの二つの家だけは普通に電気も水道も使えるような状況になった。


 ただ大よそ一年に一回ほどエネルギー装置のバッテリーを交換する必要はあるだろうとリアは言っていた。

 一年に一回でいいのかと、逆に竜郎たちは驚いていたのだが……。



 さて、そのようにして波佐見家と八敷家の改造が一段落着き、数日たったことで近所のショッピングモールの方も片付けやら準備が整った為に再開するという噂を聞きつけた。

 なのでそろそろ向こうに持ち込むものなんかを、色々と買いこむための資金を集めておきたいと考え始めた。

 それと同時に日本国内を軽く回りつつ、イシュタルの観光も少しできないかとも。



「ってことで、今日は出かけよう」

「レッツ観光だよ! イシュタルちゃん」

「む? では今日はゲームはお預けか」



 このところずっと某スマッシュ兄弟たちのゲームを、カルディナたちや毎日遊びに来る愛衣たちとやるのが楽しみになっていたイシュタルは、期待半分、残念半分といった顔した。

 それに竜郎は、そんなに気に入ったのかと苦笑してしまう。



「なんなら帰る時にゲーム機、モニター、ソフトをお土産に持たせるから、今日はちょっくら観光に行こうな」

「何!? これを持って行ってもいいのか!」

「いや、ちゃんと中古じゃなくて新品買うから……。

 女帝様の持ち物が中古品じゃ恰好がつかないだろうに」

「別に私はそんなの気にしないんだがな」



 確かにイシュタルはそんな事に拘りはしないだろうが、周りは気にするだろう。



「でもゲームばっかりして、お仕事さぼったりしちゃだめだよ、イシュタルちゃん」

「そのくらいの分別は着く。皇帝と言っても我が国は竜王たちの尽力もあって安定しているから、毎日ゲームをやるくらいの時間は取れる。

 帰ったら私の眷属たちも出来るように鍛えてやろう」

「ならコントローラーもいくつか追加だな。それで、レーラさんはどうする?

 適当に国内をあっちこっち飛び回って、金や宝石を売り捌いていく予定だから、ゆっくりと観光って感じじゃないが」

「私は遠慮しておくわ。中途半端に観てしまうと、余計に気になっちゃうでしょうし、今はジンさんたちに貸して貰った日本の歴史の本を読んでおきたいもの」

「そうか。ならリアは?」

「私は、ついていこうと思います。

 レーラさんほど細かい所が気になるというわけではないですし、気になったらネットで調べればいいですし」

「すっかり現代っ子になっちゃたねぇ。リアちゃんは」

「この世界のネットワークは本当に素晴らしいですからね」



 リアはすっかりネットサーフィンが趣味になったようで、竜郎のPCを借りて日々現代の技術を調べまくっているそうな。

 ただ意図せずエッチなサイトを覗いてしまった時は「破廉恥ですー!」と、顔を真っ赤にしてブラウザを閉じていた時は笑ってしまったものだ。


 一方レーラは自分の足で実際に見に行きたい派であるようで、本などで文献を漁ったりするのはいいが、インターネットで何でもかんでも答えをバッと出されるのは性に合わないと、あまり使ってはいない。



「カルディナ達やニーナはどうする?」

「ピュィ~!」「ヒヒーーン!」

「リアが行くならわたくしも行きますの」

「あたしはゲームしたいっす~」

「「────」」

「パパとママとお出かけする~!」



 カルディナとジャンヌ、奈々、ニーナは行きたいと、アテナと天照と月読はここに残ると宣言した。

 最近は地震の影響か火事場泥棒を働く阿呆や、世界終末論を信じた変わり者が捨て鉢になって暴れるなんていう事件が起きるという話も有り、天照と月読には《属性体》というスキルで自分の意志を宿せる仮の体を複数生み出してもらい、波佐見家と八敷家のガードをして貰っている。

 アテナは某無双系のゲームにも嵌っているので、そちらをやりたいというのもあるだろうが、その辺りの事も気にしてくれている……………………のかもしれない。



「それじゃあ、さっそく行こうか。ジャンヌが一緒に来てくれるなら、空駕籠を使っていくか?」

「ヒヒーーン!」



 「いいよー!」とジャンヌは少し嬉しそうに竜郎に飛びついてきた。

 彼女は竜郎たちを乗せてどこかに行くのが好きなのだ。


 そんなジャンヌをよしよしと撫でながら、お出かけ組は認識阻害の魔道具を発動してから外へと出ていく。


 竜郎は子サイ状態──《幼体化》ジャンヌを抱っこしたまま、重力魔法で体を軽くし風魔法で空へと舞い上がる。

 愛衣は小さなニーナを頭に乗せて、《体術》スキルの派生スキル《空中飛び》で、気力の足場を蹴って追いかける。

 カルディナは自前の翼で悠々とついていき、奈々は背に生えている小さな翼をパタつかせて飛んで行く。

 リアは腰に付けたベルトの様な魔道具から蜘蛛のような足が八本飛び出し、それが空を蹴って上昇していく。

 イシュタルは人化した体から竜翼を生やし、その翼で舞い上がる。


 そうして全員である程度の高度まで昇ると、竜郎はジャンヌを上に放り上げる。

 するとジャンヌは《幼体化》から一気に《真体化》まで変化していく。



「ヒヒーーン!」



 そこに現れたのは純白の分厚い鱗に覆われた、サイに似た顔を持つ12メートル級の神々しい聖なる気を放つ竜。

 そんな聖竜はモモンガのように腕に皮膜が付いたタイプの翼を広げ、《竜飛翔》でうつ伏せの様な格好で大地に顔を向けピタリと空中に制止。

 さらにいつの間にか、その背に流線型の箱をランドセルのようにしょっていた。


 竜郎たちはそんなジャンヌの背中にしょわれている通称──空駕籠のドアを開けて乗り込んでいき、全員が搭乗し終わった。



「まずは観光の定番、京都にでも行ってみるか」

「おおー、修学旅行以来かも」

「京都というと、昔はこの国の首都でもあったんですよね」

「リアはそんな事まで調べているんですの?」

「まあ、まずは自分が住むことになる国がどういう成り立ちなのかは気になるじゃないですか。

 ただ細かい歴史なんかは、レーラさんの方が詳しいと思いますよ」

「あの人、歴史系の本を読み漁ってるからなぁ。下手したらもう俺や愛衣よりも詳しいんじゃないか?」



 なんてことを空駕籠の中で話しながら、竜郎と愛衣はカルディナとニーナを連れて先頭のフロントガラスが張られた部屋に向かって歩いていき、他の皆は飛行機のシートのようになっている座席に座って窓の外を眺め始めた。



『それじゃあ、ジャンヌ。俺の言う方角へ進路を取ってくれ。

 カルディナは、周辺にヘリや飛行機、また鳥や障害物がないか周辺を探査してくれ』

『ピユィー』『ヒヒーーン』



 竜郎は念話でカルディナとジャンヌに指示を出し、カルディナはこの先頭室にあるドアから出て解魔法による探査を開始。

 ジャンヌは竜郎が指し示す方角、京都に向けて進み始めた。


 かなりのスピードで飛んだので、空の旅を楽しむ間もなく京都に到着。

 全員が降り立ったのは清水寺の直ぐ近く。

 地震の影響か、人はまばらで観光客の外国人もほとんどいなかった。



「京都と言ったらここだよね!」

「修学旅行に必ずと言っていいほど組み込まれるからな」

「おぉ……なんだか変わった家だな。誰が住んでいるのだ?

 この辺りを治める領主か?」

「いや、イシュタル。日本に領主とかはいないし、あそこは誰かの家とかじゃなくて、えーと……宗教建築物?

 ほら、イシュタルのお婆さん──イフィゲニアさんを崇めている天魔の国で盛んな竜神教でも、特殊な建物を建てたりしてるだろ? アレと一緒だよ、たぶん」

「ふーむ、ではその信徒でなければ入れないのか?」

「いいや。別の全然違う宗教の人でも普通に入っているから、平気だよ。

 ってことで、愛衣。ちょっと俺は金策してくるから、適当にイシュタルたちを案内してくれ」

「分かった! 金閣寺とか銀閣寺とか法隆寺なんてのもあるんだよ!」

「色々とあるのだな。面白そうだ」

「いや、法隆寺は奈良だって……」

「そだっけ? なら後で行けばいーね」



 満面の笑みでスマホ片手に京都案内をはじめる愛衣に、少し心配になりながらもイシュタルたちを任せ、竜郎は自分のスマホで貴金属の買取業者を検索していく。



「こことか評判がいいみたいだな。あとは……」



 竜郎は今回の地震によって傷付いたり破損した文化遺産なども調べていく。



「ふむふむ。それじゃあ、いきましょうかね」



 竜郎は空を飛び、道中破壊された遺産を復元魔法でいくつか修復しつつ、金などの買取を扱っている京都の業者にたどり着いた。

 探査魔法で中を調べると、どうやら営業はしていない様だが中には社員は揃って作業をしているようだ。

 ちょっと悪い気もしたが、竜郎も早く現金を手にしたいので《呪魔法》と《闇魔法》を込めた声を《音魔法》に乗せて扉の外から話しかけた。



「すいませーん。あけてくださーい」

「はーい」



 誰かも聞かず、中にいる人はなんの疑問も持たず男性社員の一人が扉を開けてくれた。

 竜郎は認識阻害を切って、自前の魔法で自分の姿を念のため老人に見えるようにした。



「買取をお願いしたいのですが」

「はい。ではこちらへどうぞ」



 営業もしていないはずなのに普通に奥に通され、椅子をすすめられた。

 どうやら今は品物を一点一点確認し、地震の影響で傷ついて無いか確認していたようだ。



「これとこれを現金に換えてもらえますか?」

「査定させてもらいますね」



 小さな宝石を幾つかと、純金のインゴットを一つ取り出し男性社員の前に置くと、本人確認すら一切されずに一度奥に持っていかれ査定に入った。

 呪魔法で絶対に適正価格で買うように魔法をかけてあるので、竜郎は安心して周りを観察した。


 すると一枚の割れた皿を前に途方に暮れている、壮年の一番ここでは偉い人らしき男性がいるのに気が付いた。

 竜郎は何の気なしに声をかける。



「そのお皿って、そんなに高いものだったんですか?」

「高いとか安いとか、もはやそういう次元の物じゃないですよ……。これはかの有名な──」



 骨董品に興味のない竜郎にはよく分からないが、どうやら値段以上に歴史的価値のあるお皿で、お店のアピールの為に営業中に飾っていた彼の私物だったらしい。

 ならばと、突然押しかけたお侘びに復元魔法で修復しておいてあげた。

 呪魔法で初めから壊れてなんて、いなかったと錯覚させながら。


 するとその男性はなんで自分はこんな所で座っているのだろうと首を傾げながら、そのお皿を大事そうに抱えて去っていった。

 他にも壊れてしまった物をいくつか迷惑料で直して回っていると、査定が終わったようだ。



「こちら全てで八百万と──」

「あんな小さな宝石でもそこそこするんだな……」



 異世界に行く前の竜郎ならばその大金に驚いていただろうが、今や向こうでは月々に億単位のお金を稼いでいるので普通に受け止められた。

 そして予想以上の値段を提示されたので、竜郎はごねる事も無く現金と交換して貰った。


 またその後に金の出所などで問題にならない様に、いい感じに手に入れた経緯を社員さんと相談し、呪魔法で全員の記憶をでっち上げてから店を出た。



「なんだかちょっと罪悪感もあるが……まあ、いいか。気にしない様にしよう」



 物は本物なので、向こうも損はしていないはずだ。

 ここで考えていてもしょうがないので、竜郎は急いで愛衣達の元へと帰っていった。


 それから京都の仏閣をイシュタルと共に急ぎ足で観光していき、奈良の大仏もちらりと見学しながら大阪へ。

 通天閣やら大坂城を見学し、道頓堀でお腹を満たす。



「このたこ焼きは美味いな!」

「たこ焼きは向こうにないのか?」

「似たものはあるが、使っている中身が微妙に違うから味も微妙に違うのだ。

 店主! もう一つくれ!」



 かなり老練なテクニックでたこ焼きを作る初老の男性に、普通の外国人にしか見えないイシュタルが竜郎に貰ったお金をカウンターに置く。

 すると美味い美味いと言ってたのが聞こえていたのか、上機嫌で焼きたてのものを差し出してくれた。


 それをイシュタルも上機嫌で頬張りながら歩き始める。

 するとまた別の美味しそうな匂いがし始める。



「──むっ、あのお好み焼きとやらも美味そうな匂いがする。いくぞ!」

「イシュタルちゃんは粉ものが好きなのかな?

 カルディナちゃん達はどお? 美味しい?」

「ピユィー!」「ヒヒーーン」

「美味しいですの!」「美味しいです」

「──モグモグッ。おいひぃよ!」



 カルディナもジャンヌもご満悦で、竜郎からたこ焼きを分けて貰ったものを口にしている。

 奈々やリアも笑顔で頬張り、ニーナはガツガツとワイルドにソースとマヨネーズを口に付けてかぶりついていた。


 そしてそのまま食道楽を楽しみながら大阪を後にし、本州を越えて九州、四国でお城を見学しながら沖縄まで足を伸ばし、そこで少し泳いだり首里城を見に行ったりして波佐見家の前に竜郎の転移で帰宅した。



「明日は反対側の東京から北海道方面に行こうか。

 デカいガ○ダムがあるぞ。リア」

「こちらの空想上の機械兵器を模した物の事ですね。少し興味があります」



 少しと言いながら、かなり気合の入った目で見つめられた竜郎はリアの頭をよしよしと撫でながら玄関の扉を開いた。



「あら皆。おかえりなさーい」

「ただいま、母さん。はい、これお土産」

「えっ、なになに~………………って、あんたどこまでいったの!?

 これは京都で、こっちは大阪で奈良もあるでしょ~。

 それに熊本に長崎、香川のうどんまで……それに、ちんすこうにミミガーとか沖縄じゃない! ずるい! お母さんも連れてきなさいよ!」



 色々と行きはしたが、かなりの弾丸ツアーなので今日ついてきてもそんなに面白くはなかっただろう──とは思いつつも、ちゃんとフォローは忘れない。



「一回行けば転移でいつでも行けるから、こんど父さんとのデートの時に連れて行くよ」

「絶対よ!」



 また今回の目的もちゃんと果たせたので、その事も話しておく。



「母さん。それとこれ、今日あっちこっちで少しずつ現金にしてきた」

「こんなお札の束初めて見た……いくらくらいあるの?」

「四千万くらいかな。その内海外にも足を延ばして、売り捌いてくるのもいいかもしれない。

 とりあえずこれはうちの分で、明日は愛衣の家の分を換金してくるから」

「仁君の車ちょっと古いし、新車でも買おうかしら?

 今のは壊れてもいいから異世界で乗ればいいし」

「……あの、お母さん。なら私が改造してもいいですか?

 ちょっと、こっちの車という機械に興味が……」

「むこうじゃ車検もないし、乗れるなら好きにしていいわよ~」

「ありがとうございます! お母さん」



 そんなリアと美波の会話を聞いていた竜郎と愛衣は、思わず顔を見合わせた。



「なんか普通の乗用車の皮を被ったスーパーカーが出来そうな予感がするんだけど……」

「一体、今のリアの頭の中ではどんな物に改造する気なのやら」



 肩をすくませ、面白そうなので成り行きに任せることにしたのであった。

けっきょく年内までに異世界に旅立てませんでした……(汗

もう数話で一章の終わりと同時に異世界への旅立ちができるかと思います。

次回、第09話は出来たら1月3日(木)に更新したいとおもっていますが、現状5日,7日,9日のどれかになる可能性も高いです。

最有力は5日ですかね。フワフワしていてすいません。

では来年もよろしくお願いします。良いお年を!

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