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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第五章 プティシオル大陸編
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第84話 なぞの襲撃者たち

 ログハウスの前にやってくると、ミネルヴァに言われていた通り、《成体化》状態のカルディナが待っていてくれた。



「ピュィ?」



 すぐ行く? といったように首を傾げるカルディナに、もちろんと返事をしようとしたとき、ふとネロアの状態が気になり湖の方に振り返った。

 彼には悟られないように動いてくれているみたいだが、もしばれたらその襲撃?してきた者たちを抹殺しに動き出してしまうだろうから。


 冷たいようだが別に襲ってきた連中がどうなろうと、もはや知った事ではない。けれど情報は、ちゃんと聞きだしておきたい。



「だからな、我はフーに言ったのだ。それは土じゃなくて──岩、だとな。はっはっは!」

「──────?」

「「「キュー?」」」

「そうだろう、面白いだろう?」



 湖の畔で上機嫌になって、本人的には面白い話とやらをテスカと一緒に来ていたリス型の魔物3匹──りっ太、りっ子、すん太に聞かせていた。

 4体ともなんのこっちゃと、よく分かっていない様子がありありと伝わってくるのだが、ネロアは楽しそうにあれこれとテスカたちに話しかけ1人で爆笑していた。



「テスカくんに出会った瞬間、友になってくれ! だったもんね。ネロアさん、楽しそう」

「ほんとだね、ママ。見てるこっちがニコニコしちゃうくらい、浮かれてる」



 そうなのだ。テスカやミネルヴァたちを紹介しにいったとき、ネロアはテスカが昔の友に雰囲気が似ていると大興奮。

 すぐにお友達になってくれと申しいれ、竜郎が眷属としての繋がりであるパスを通して伝えると、友達になってもいいといったニュアンスの感情が返ってきた。


 これには竜郎も驚いた。

 りっすんと愛衣が総称として命名したリス型魔物を大量にテイムしていたのだが、その中で竜郎が眷属化した個体がりっ太たち。

 この3体はりっすんの中では、変人ならぬ変魔物枠の特殊な性格の持ち主だった。

 妙に感情豊かで自我も強く、これはゴーレム竜であるテスカの感情の芽生えによりいい影響を及ぼしてくれるだろうと一緒に行動してもらっていた。


 そのおかげか、テスカの感情が芽生えはじめていたのは知っていた。けれど、その知っていた以上にハッキリとした感情が返ってきたのだ。

 一緒にいた、りっ太、りっ子、すん太たちのことも、はっきりと友達と認識し、ネロアを4人目の友達にということまでちゃんと分かっていた。


 これは絶対にいい傾向だと、竜郎からもネロアに是非仲良くしてほしいとお願いした結果、あの妙な空間ができあがったというわけである。



『これなら多少、外でなにかあっても気づきゃしねーだろ。

 今のうちにとっとと、その不届きものの顔を見にいこーぜ、マスター』

『それがよさそうだな。にしてもテスカも楽しそうにしてるな』

『そうなんですの? 一方的にネロアさんが話しかけているだけのように、わたくしには思えますけど?』

『そーかなぁ? 私にもテスカくんが、楽しそうにしているように感じるよ』

『ほんとですの?』



 念話で会話しながら軽くネロアと挨拶し、用事があるからと言ってカルディナの案内のもとミネルヴァとシュベ太がいる場所まで急いだ。


 その場所はロピュイの中心方面に向いている、竜水晶の外壁に位置した場所。

 そこで見えたのは、謎の集団が首から上だけだして地面に埋まっていた。カルディナが土魔法で埋めて、固めておいたらしい。


 もちろん全員生きているが、生首だけが置いてあるのかと思い一瞬ぎょっとしたのは言うまでもない。

 シュベ太が仁王立ちで見下ろしているせいで、捕えられたものたちの顔は真っ青なせいでもあっただろう。



「なんだこいつら?」

「自称、遭難者と捜索者──だそうですよ。主様」



 その生首もどきたちから少し離れた場所で、警戒しつつも呑気に椅子をだして本を読んでいた人化状態のミネルヴァと合流し聞いてみれば、そんなことを言い張っているらしい。



「こんなとこまで? ずいぶんアグレッシブな迷子さんだねぇ」

「ですが、あの状態にして聞いてもその一点張りでして。それ以上聞きだすなら……アコさんでも呼びますか?」

「い、いや、それはさすがに止めておこう」



 仲間たちきってのサディスティックお姉さんこと亜子など呼べば、それこそ喜んで尋問してくれるだろう。そして向こうも、最終的には喜んで話してくれるだろう。

 だがそれはさすがに人道的にどうなのだろうかと、竜郎は止めた。そんな手を使わなくても、正直にさせる手段などいろいろあるのだ。



「とりあえず魔法で催眠状態にしてみるか」

「一度人間たちの尋問ってのも、参考がてら見てみたかったんだけどねぇ」

「そんなもん参考にして、どーすんだよ。ノワール」



 ガウェインに突っ込みを入れられている黒猫のことはほっておき、竜郎は先頭をきって生首ーズのもとへと歩み寄る。

 本人的にはぼけーっと。捕らわれている者からしたら睨みを利かせられているとしか思えない目で立っていたシュベ太が、意図を察して竜郎の後ろ側に回り込んだ。



「さて、みなさん。こちらにご注目ください」



 もとよりシュベ太を前にして堂々としている少年に、何者なんだと視線が集まっていたところで、指をピンと伸ばして注目を一点に集中させた。

 そしてその指先には、5センチほどの黒い球体が浮かんでいた。


 その球体を見た瞬間、捕らわれていた者たちの目から意志という名の光が消えた。ぼーと虚空をみつめ、状況も相まって本物の生首のようだ。



「ピュィ」



 もういいだろうとカルディナが捕縛者たちを土魔法で地面に排出し、転がしていく。

 五体満足に解放されたというのに、捕縛者たちは身動き一つしないで倒れたままだ。



「起立」



 だが竜郎のその言葉一つで、俊敏に立ち上がりマネキンのように微動だにせず一心に前を見つめる。

 そこで竜郎は、その者たちの恰好に注目してみる。


 それだけで、ざっと3つのグループに分けることができた。


 仮としてグループAと名付けた集団は、一番数が多い。50人以上はいるだろうか。

 みすぼらしい格好をした、いかにも不衛生な痩せた大人の男女で、あからさまな子供は1人もいない。一番下の年齢でも、16~18くらいだ。

 おのおの手には、その格好に似つかわしくないしっかりとした剣や槍、杖が握られていた。


 そしてグループBとグループC。こちらは双方、共通点がある。

 それは、どちらも兵士の格好をしているという点。


 しかしここから別グループに分類できるのは、その鎧と鎧に刻まれている国章が違うからだ。


 グループBは、ロピュイの国章が刻まれた、動きやすそうな軽装鎧を着た兵士たち。手には武器や盾をもち、ちゃんと武装もしている。

 適度に戦闘訓練もしているのかよく鍛えられた肉体に、平均レベルも30くらい。ただの一般市民でないことは確かだろう。人数は12人。


 グループC。こちらはワウテドの国章が刻まれたプレートを付けた、ラメラー・アーマーらしき鎧。つまりワウテドの王や、その周りの兵たちが着ていたものと同じようなものを身につけている。こちらも完全武装状態だ。

 平均レベルは35と、ロピュイ兵らしきものたちよりも若干強くガタイもいい。人数は16人。



「兵士に謎の浮浪者?多数。たしかに、わけが分からないな。ミネルヴァ、もう少し詳しく状況を教えてくれ」

「分かりました。まず発端は──」



 カルディナとミネルヴァが半分ずつ請け負って監視をしていると、カルディナはロピュイ方面から、ミネルヴァはワウテド方面から、大量の人間たちがやってきていることに気がついた。

 時間は少しロピュイ方面のほうが遅かったが、ほぼ同じと言っていいらしい。


 この時点で怪しいと思ったが、ただ壁の外を歩く分には規制はない。

 ネロアもテスカやりっ太たちとの話に夢中で、外に意識を向ける気配もないので、ひとまず様子見することに。


 しかしそれらは、どんどん壁に近づいて来る。

 終いには壁をベタベタ触ったり、攻撃して破壊しようする始末。なかには穴を掘って、向こう側に抜けようとする者までいた。

 そんなことをしても無駄だろうが、さすがにこれは見過ごせないと、ミネルヴァとカルディナ、そしてシュベ太が出動。

 テスカはネロア担当なので、お留守番だ。


 刺激しないようにと人化形態のミネルヴァが、ロピュイ方面の壁際にいた浮浪者?たちに近寄り声をかけた。

 すると少女だと侮り、自分たちに構うな、あっちにいけと脅され、いっこうに壁の破壊や穴掘りをやめようとしない。


 だがこの浮浪者をかなり離れたところで遠巻きに監視し、隠れていたロピュイ兵たちは、ミネルヴァの姿を見た瞬間、慌てて全力で逃げ出したのを察知。

 カルディナがそちらに行ってくれたので、こちらは今にも襲いかかってきそうな──というよりも、実際に襲いかかってきたので上空で待機していたシュベ太登場。


 浮浪者?たちはその姿を見ただけで戦意喪失したので、ミネルヴァが一か所に集めて監視。

 カルディナが土で体を固め捕縛した兵士たちを全員漏れなく連れてきたので、ついでに兵士ごと浮浪者たちを埋めてもらい、こちらはシュベ太に監視を任せもう一方のワウテド方面の団体へと向かった。


 そちらでもほぼ同じことが行われていた。

 壁の向こう側に行こうと、もがく浮浪者?たち。それを隠れて遠くから監視するワウテド兵。

 浮浪者にミネルヴァが近づくのを確認すると、脱兎のごとく兵士たちが逃げ出すところまで示し合わせたかのように同じ。


 こちらも無力化し、どうせなら一か所に纏めておいた方がいいだろうとロピュイ方面に運んで一緒に埋まってもらう。


 そこからあらゆる本を読むためにと《全言語理解》のスキルを有しているミネルヴァが事情聴取してみれば、浮浪者?たちは狩猟にでたところで迷って、ここまで来てしまっただけだと言い張る。

 兵士たちは遭難者がいると通報を受けたから、魔物対策で武装してここまできたのだと言い張る。


 しかし壁を破壊、もしくは地面を掘って向こう側に抜けようとしたところを目撃しているし、どちらの国の兵士たちも隠れてその姿を確認していただけで、とてもではないが保護しに来ていたようには思えない。


 そのことを話し、シュベ太を近づけ脅しても、かたくなに遭難者と捜索者だという意見は変えなかった。

 そこで竜郎に連絡し、今に至るというわけである。



「なるほど。それじゃあ、今の話を踏まえて、正直にお話をしてもらおうか。まずそこの人。前へ」

「……はい」



 うつろな目で、竜郎に指名されたグループAの男が前に出てきた。

 竜郎の呪と闇の混合魔法による催眠状態に陥っているため、それを自力で解かない限りまず嘘は吐けない。



「出身と住まいは?」

「……出身はロピュイ。……住んでる場所は特に決まってない。……ロピュイのスラム街を放浪してる」

「スラム街の住民か……。表向きは遭難者ということらしいが、本当の目的は? なぜこんなことをした」

「……未開拓地の山岳部には、とんでもないお宝が眠っていると聞いた。

 ……それを持ってロピュイに帰国すれば、大金と仕事をくれると言われた。

 ……山岳部まではロピュイの兵が守ってくれるとも言っていたから、……これはチャンスだと思ってやった」

「それを言ったのは誰だ?」

「…………誰? よく分からない。……頭までローブを着こんでいて、口元しか見えなかった。

 ……けどそのローブは間違いなく、ロピュイの魔法兵が着てるやつだった」

「顔を隠して接触した謎のロピュイ魔法兵ねぇ……。

 こういうのもなんだが、そうとう怪しい話だろ。なんで信じた?」

「……正式な国の指令書を持っていた。偽造は大罪だって聞くし……実際に待ち合わせ場所にはロピュイの兵が待っていたし、身を守る武器も渡してくれたし、未開拓地への門もロピュイの兵が開けて簡単に俺たちを通してくれた。……だから嘘なんかじゃないって信じられた」

「正式な指令書なんて見たことがあるのか?」

「……スラム街には元兵士だったやつもいる。……そいつに確認してもらったから間違いない」

「その元兵士はここにいるか?」

「……いる。あいつだ」



 他の者よりも体格がいい男を指差した。

 片目は大きな傷で潰れ、こちらに来るように指示すると右足を引きずるようにしてこちらにやってくる。

 おそらくその怪我が原因で、兵士を引退せざるを得なかったのだろう。



「本当に、あんたは元兵士なのか? 見せられた指令書とやらは、絶対に本物だったと言い切れるか? それともそれを含めて、あんたもグルなのか?」

「……本当に元兵士だった。だが怪我が理由で辞めさせられた。……ちっぽけな見舞金だけ渡されてな。

 ……指令書は間違いなく本物だったと言い切れるし、俺はグルではない」

「そうか……分かった。あとはそうだな。あそこにいるシュベ──魔物が現れたとき、相当に恐かったはずだ。

 なのになぜ、お前たちはただの遭難者だと言い張れたんだ? 殺されるとは思わなかったのか?」

「……もしそこを管理しているであろう人間たちに捕まっても、甘ちゃんだから絶対に非道な行いはされはしない。だから、どれだけ脅されても必ず遭難者だと言い張ればいいと教えられた」

「…………へぇ。舐められたもんだな。2人とも向こうで待機していてくれ」



 さすがにそれには竜郎もイラッとくる。

 とくにそれを聞いたガウェインは、額に青筋を浮かべて頬が引きつっている。彼ほど舐められるのが嫌いな人間もいないだろう。


 言われた通りゾンビのようにうつろな表情のまま、2人のスラム街の住民は下がっていった。


 それからAグループ、ほぼ全員に同じことを聞いていく。

 そこで得られた情報は、上の会話がロピュイかワウテドかが違うだけで、ほぼ全員が同じことを供述した。

 人数もワウテド側のスラム住民が若干多い程度で、ほぼ同数。


 どちらも自国の魔法兵のローブを着た男とやらに、勧誘されて集められたということらしい。



「めっちゃ怪しいじゃん、そのローブの男。あそこの兵士さんたちの中に隠れてるのかな?」

「分からないが……あっちにも話を聞いていこう。まずはBグループ。ロピュイ兵からだ。そこの人、こっちへ」

「……はい」



 ロピュイの兵士の格好をしている男性兵を呼び寄せた。



「出身と住まいは? 本当にロピュイの兵士なのか?」

「……出身はロピュイ。……住まいは王都ロピュイ。……祖父さんの頃から俺の家は、ずっとロピュイの兵士だ。もちろん俺も」

「偽装でもなく本物のロピュイの兵なのか。ちょっとショックだな……。

 じゃあ、あんたたちの中で一番偉いのは誰だ? ついでに、そいつの名前も教えてくれ」

「……あの人が、今回の作戦の隊長。……名前はアモス・プライアー」

「あの人か。──こっちに」

「……はい」



 他の兵士と何も変わらない格好をしている40代そこそこの槍使いの男が、のそのそこちらへと歩いてくる。

 その間に今、話している男に質問していく。



「ちなみにあんたは、魔法兵のローブを着てスラム街に行った記憶は? もしくはそういった人物に、心当たりはあるか?」

「……ない」

「わかった。じゃあ、下がってくれ」



 入れ替わるように隊長のアモスが竜郎の目の前にやってきたので、そのまま質問に移っていく。

 それによると出身も住まいもロピュイで、ロピュイの兵士として少年の頃から仕官しているバリバリのロピュイ兵。

 そしてこの場のロピュイ兵の格好をしている中で、ロピュイ兵でない者はいないらしい。


 来た目的はお金と仕事に釣られてやってきたスラム街の住民を、護衛しながら竜郎たちのものとなった土地まで誘導すること。

 そして誘導し終わったら、目的を果たすまで遠くから監視。


 けれどそのスラム街の者たちに何者かが接触してきたら、絶対に捕まらないように、そいつらを囮にして兵たちは逃げろと言われていた。それは最上級の優先事項だったとか。



「つまり俺たちが既に所有権を取得している状態だというのは、分かっていたと?」

「……ああ。指令書を持ってきた上官からそう聞かされている。

 ……大丈夫なのかとそれとなく聞いてみたが、……命令だと言われたら俺には逆らえない」

「そりゃそうだな。ということはある意味、この人たちは被害者か?

 上官の名と、あるなら指令書を見せてくれ」

「……上官の名はラジ・コナハン。指令書は、あいつが《アイテムボックス》に収納して持っている」



 あいつとは、Bグループの中で唯一の女性兵。《アイテムボックス》を取得しているようだ。

 その女性兵を呼び出し指令書とやらを見せてもらう。するとそこにはベイジル・レフ・ロピュイのサインが、しっかりと書き込まれていた。王命において認可された指令書ということになる。

 本物なのかと隊長や先ほどの元兵士などにも聞いて回るが、本物に間違いないらしい。


 念のために竜郎たちと交わした時の契約書の写しを取り出し、解魔法で字体を解析しながら比べてみても、同一人物と言っていい筆跡だった。



「筆跡判定ではロピュイの王は黒か……」



 それから念のためBグループ全員に尋問してから、Cグループのワウテド兵にも尋問していく。

 するとやはりこちらも、示し合わせたかのようにBグループの会話がワウテドになっただけだった。

 もちろん指令書にはセブリアン・ライ・ワウテドの名が、同じ筆跡で書かれていた。


 この結果だけ見るなら、ロピュイとワウテドの王たちが結託して、ここになにか探りを入れてきたということになる。

 ここまで同時期に同じ行動をしておいて、まったく無関係などありえない。


 しかしそのことを兵たちに問い詰めても、ロピュイ、ワウテド、双方の実行犯たちは互いに互いのことは認知していなかった。



「ってことは、上の方だけで話がついていたってことかねぇ。

 はぁ……、人間たちの世界ってのも、なかなか面倒なもんなんだなぁ」

「そりゃそうだよ。人間だって楽しいことばっかりじゃないんだよ、ノワールくん」



 「みたいだにゃ~」と、ノワールは欠伸混じりに愛衣の言葉に返事した。



「ねえねえ、パパ。結局ロピュイとワウテドが、約束を守らなかったってことでいいの?

 あのおじーちゃん面白かったのに、ざんねーん」

「うーん……そうだなぁ。俺の個人的な意見から言わせてもらうと、ロピュイの王様はよく知らないからともかく、あそこの宰相が食の機会を奪われるような行為をさせるとは思えない。

 だってこのまま黙って何もしなければ、普通に手に入れられたわけだしな」



 確かにと、ここにいるあの場にいた一同が同意する。それほどあの宰相の奇行は、竜郎たちの脳内に焼き付いているのだ。



「あのお爺ちゃん、たしかにそんなことしようものなら、王様ですらぶん殴りそうな勢いだったよね」

「それによー。ワウテドのあの王が、こんなことするような奴には、俺には思えなかったぜ?

 あれは真におとこの目をしてたからな。卑怯なことはしねーだろ」

おとこの目ってなんですの? ミネルヴァさん、分かります?」

「さぁ? 彼も彼で独特な感性を持っていますし、私には分かりかねます」



 地面にシートを敷いて、そこで寝転がり、楓と菖蒲と積み木遊びしながら聞いていたフレイヤが物知りであろうミネルヴァに問いかけるも、彼女にもおとこの目は分からない様だ。


 しかしあのワウテドの王が腹の底では竜郎たちを出し抜いてやろうと考えていたのかと言われると、まっさかーという答えが出てしまう。

 ならば口八丁手八丁で唆されたか──とも思えない。

 もし竜郎たちに疑問か何かを感じたのなら、あの王は自分自身で確かめに乗り込んでくるくらいしそうだ。


 けれどそうなると誰が? という話になってくる。事実、ここにはその両名が犯人だと示す証拠が残っているのだから。

 うーん……と竜郎や愛衣たちも頭を悩ませている中、ほのぼのと楓と菖蒲と積み木で遊んでいたフレイヤが唐突に口を開いた。



「これまで聞いていて思ったのですけれど、1つとてもおかしな点がありません?」

「おかしな点? 教えてくれ、フレイヤ」

「なぜ、あそこの兵たちは、わざわざ国章つきの鎧など着てきたんですの?」

「そりゃあ、使い慣れた装備の方がいいからじゃねーのか?

 俺たちにとってはよえーけど、魔物だって出るんだしよ」

「それはそうかもしれませんが、だとしても捕まったときのことも考えて行動すべきですわ。

 似たような装備にするなり、せめて国章を落とすくらいはしてもいいのではありませんの?

 わたくしたちを敵に回してまでやろうというのですから、徹底して隠すべきですわ」

「でもそれは、逃げる自信があったからじゃない? 全力で逃げろって言われてたみたいだし」

「ですが実際に捕まってますの」

「まーそうなんだけど、それでも逃げられるって思って──」

「世界最高ランクの冒険者からですの? それは少し、侮りすぎではありません?

 そう考えると、もしかしたらこれは兵士たちが捕縛されることが前提で、この作戦が組まれていたように思えてきますの。

 まるで犯人はこの国たちですと分かりやすいように、御丁寧に名札までつけて」

「……そこまで見越してやったのだとしたら、これは罠ということになりますね。

 そうなると怪しいのは三国以外の外の国が……となりそうですが、にしては行動が早すぎます。

 この者たちのレベルで、スラムの住人を誘導しながら安全にここまで来るのなら、主様たちと契約したことを知って、すぐに計画を立案実施しなければいけないはずです」



 ミネルヴァの言葉に、全員が同意する。そこで竜郎は、この話のまとめに入っていくことにした。



「このフレイヤの話が的を射ているという前提で考えるのなら、犯人はそれ以外で真っ白な国ということになる。となると浮かんでくるのは──」

「「「「「「「──トネット」」」」」」」「──ピュィッピ」「「うー!」」

次回、第85話は7月24日(水)更新です。

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