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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第四章 ダンジョン強化編
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第68話 今日の本題へ

「では今度は、ダンジョンの内部について軽く説明しますね」



 ダンジョンの概要を説明し終えた竜郎は、次にその内部について話しはじめる。

 ハウルたちも真剣に、その声に耳を傾けていく。



「出てくる魔物の多くは幽霊や精神体、不死系の魔物で構成されていて、階層内部は暗く人の恐怖心をあおってくる場所になっています。挑むのなら暗闇対策は必須でしょうね」

「うぅ……なんかちょっと怖そうなダンジョンだね……」

「慣れちゃえばへーきだよ、ルイーズちゃん」

「そーかなぁ……?」



 ルイーズはあまりホラー耐性がないのか、ぶるっと体を震わせ両手で腕をさすっていた。

 レスやジネディーヌはホラーが恐いというわけではなさそうだが、その魔物の構成を聞いて厄介そうだなと言葉を漏らす。


 お世話係の人の中にはルイーズと同じような人もいたが、他はハウルやリオンふくめ、全く問題なさそうな顔をしている。

 だてに長生きはしていないということだろう。



「またさっきも言いましたが、魔物の知能はレベルの高いダンジョンほど高くなってきます。

 魔物自らが罠を利用して人間を殺そうとしたり、危険を回避してほっとしたところを物陰から狙っていたり、集団で高度な連携を見せてきたり──なんてことも多いので、余裕で攻略できるわけでないのなら、終始気を抜くことはできない厳しい環境となってくるでしょうね」



 妖精樹と連結したおかげで得た魔物の知能を底上げする機能を使用しているので、そうなったわけだが、下位互換のダンジョンでほとんどがネタバレ状態になるのだから、それで帳尻はとれているだろうと竜郎たちは考えている。



「それほどの知能を、ほとんどの魔物が持っているのか……。

 他のダンジョンと、そういうところも違いそうだな」

「レベルの低いダンジョンなら、他と変わらないくらいの知能しかないんですけどね。

 レベル10までいくと、ほんとうは人間じゃないのかと思いたくなるような動きをしてくる魔物もいますよ」

「なんとも厄介そうなダンジョンですな……」



 ファードルハが眉間にしわを寄せて呟いた。



「ですね。それにレベル10のダンジョンボスは、かなり強力ですよ」

「ボスが何だったのか聞いてもいい?」

「ああ、いいよリオン。ボスは──竜だ」

「竜……。しかも知恵が回るって……ほんとに厄介そうだね」



 さすがにボスはレベル9以下のダンジョンでは召喚獣のほうしか出てこないので、そこまで知能は上げていない。

 だが生来頭のいい竜だったらしく、それでもかなり戦術的な動きをする。

 


「ちなみに、これがそのボスの魔石です」

「「「「「────っ!?」」」」」



 すでに竜郎や愛衣たちは攻略済みなので、ボスの魔石も取得済みだ。

 机の上に握りこぶしほどの大きさをした、透き通った蒼い宝石のような綺麗な球体を置いて見せた。

 体格が小さかったこともあり、強さに見合わない大きさとなっているが、そのぶん魔石に込められているエネルギーは濃縮されキラキラと輝いていた。


 さらに召喚獣であるオルトロスゾンビと幽霊巨人も、竜人を倒してしまうと消えてしまうが、その前に倒せば魔石を落とすので、3体撃破したときの収入は他のダンジョンのボス1体よりも高額となるはずだ。



「さすが竜の魔石……。これ一つでどれだけの価値があることやら……、想像ができません」

「一度攻略できれば、パーティメンバー全員で分けても、しばらく遊んで暮らせるだろうな」



 ジネディーヌの言葉に、ハウルがもはや笑ってしまいながらそう答えた。

 この魔石はエネルギー資源としても非常に優秀、さらに装備品の素材などに用いることができれば強力なものができあがる。

 どこに出しても高値で、それも一瞬で買い手がつくことは間違いない。


 だがその分、竜郎たちのようなチート集団でもない限り、それに見合った苦労を強いられることも想像に難くない。



「たしかにボスは強力ですが、その道中で手に入る魔物の魔石や素材でも結構いいものもありますし、階層によっては条件達成で豪華な宝箱を手に入れられたりと、途中で帰還しても稼ぎはいいと思います。

 それに他にはない少し変わった階層もありますし」



 意味ありげに笑う竜郎に、なんだとハウルたちの視線が集まる。



「これを見てください」



 竜郎は魔石をしまうと、リアから受け取った例の槍を交換するように机の上に置いた。


 柄から穂先まで全て一本で繋がった、美しい純白の槍。

 素人目に見てもこれがただの槍ではないことが分かるほど、素材となったなにかの力強さを体現している。

 目の肥えたここにいる人たちならば、よりいっそうその価値も分かることだろう。


 ハウルをはじめ、その他全員がその槍に目を奪われた。



「こ、この槍はなんだ? ここでは一番長く生きてきたし、経験もそれなりにあるつもりだったが、これほどの槍は見たことがない……」

「まさかこれも、ダンジョンで手に入れた……のですかな?」

「ええ、そのまさかです。しかもあのダンジョンには、それと同等の、もしくはそれ以上のものが何個もありました」

「なんだって!?」



 レスは思わず絶叫し、他の皆は声すら出せず絶句していた。

 これだけのものがゴロゴロ手に入るダンジョンとなると、その価値は計り知れない。



「でも待って、そんな凄い装備品があるって言っても、入手するのも大変なんじゃない?」

「んー人によっては大変だけど、人によっては戦う能力がなくても簡単に手に入れられる場所だったよ。ルイーズちゃん」

「え? ええ? ど、どういうこと?」



 ルイーズはもちろん、ハウルたちも愛衣の言っている意味が理解できず首を傾げた。



「僕らがこれを入手したのは、ダンジョンの中にあるお店でした。

 なので、お金さえあればいくつでも買えるんです。ただし一国の王でも何個も買えば、破産するくらい高いですが」

「で、ではこれをタツロウたちは、そのダンジョンの店とやらで購入してきたということなのか?」

「えーと……それも少し違います。このダンジョンには──」



 竜郎はこのダンジョンの仕組みを聞かせていく。

 そこには箱に入った商品が並んでいて、表示されている額をコイン投入口にいれると手に入れられる。

 ただし、そのほとんどが目玉が飛び出るほど高額。大富豪でもおいそれと手が出せるような物ではない。


 だが無一文の人間でも、その商品を手に入れるチャンスはある。

 割引率を購入希望者が指定し、その割引額に応じた強さを持つ魔物をたった1人で倒せばその値段で買えるのだ。



「それがたとえ10割引き、つまりタダで譲るように指定したとしてもです。

 なので僕らは、それを無料で手に入れることができました」

「な、なるほど……。これまた変わったダンジョンですな。

 一つ質問なのですが、タツロウ殿からみて、我々の中でこの槍と同等、もしくは上の価値あるものを無料で手に入れられるような人物はいますか?」



 これはハッキリ言ってもいいのだろうかと少し迷ったが、嘘をついて無謀な挑戦をされるほうが困るので、言い辛そうにしつつもちゃんと答えることにした。



「無料は……ごめんなさい。厳しいと思います。なにせ一対一の戦いですので」

「でしょうな……。いや、答えづらい質問をして申し訳ありません」

「ただ物は良くても素材的に安い物もあったので、そういうのならいくつか可能かもしれません」

「なるほど……。率直な意見、ありがとうございます」



 この槍並みのものを手に入れようとした場合、実質10割引きは不可能。

 竜郎たちだからできる裏ワザだと考えたほうがいいだろうと、質問をしたファードルハはじめ、全員の共通認識となった。



「──と、だいたいこれが僕らがざっと調べた限りのダンジョンの情報です。

 少し変わっていますが、面白いダンジョンだと思うのですがどう思いますか?」

「確かに面白いね。それに同じ構成のダンジョンに関わらず、自分に合ったレベルのダンジョンにいけるというのも魅力的だよ。

 もしタツロウくんたちさえよければ、一般公開したって──」

「待て、リオン。その場所が、どこか忘れていないか?」

「その場所……あ、ああ、そうか……」



 そもそも竜郎たちにカサピスティ国の波佐見領と言っても過言ではないほど広い土地をポンと渡せたのは、国ですら管理できないほど強い魔物が多くはびこる場所だったからだ。


 いくら危険区域の浅い場所だからと言っても、そこに人が集まれば魔物もよってくる。

 魔物たちが浅い場所に集まってしまうと、せっかく安定していた行動域が広がってしまうことすら考えられる。

 それだけに容易に手を出すべきではない。


 けれど次代の王と目されるリオンの気持も、しょうがないと言えばしょうがない。

 ダンジョンは資源の宝庫。どんなに狩ろうと魔物は枯渇しないし、どんなに内部のものを持ち帰っても誰にも文句は言われない。

 それだけでもダンジョンを、適正な実力を持った人々に開放する意味はある。


 だが今回竜郎たちが発見したというダンジョンには、それ以上の魅力がある。

 今も机の上に乗っている槍のような、最上級の装備品など。


 さらにレベル1~10の、内部がほぼ同じ構成のダンジョン。

 これは特に攻略者側としても魅力的だ。レベル3から5くらいのダンジョンに挑む冒険者たちの中には、その適性レベルを大幅に超えたパーティも多い。

 それなのになぜもっと上の難易度のダンジョンを目指さないのかと言われれば、そちらのほうが安定して稼げるからだ。


 わざわざそのダンジョンで培った経験と集めた情報を放棄して、また一から危ない橋を渡るより、安全に勝手知ったるダンジョンに潜って定期収入を得るほうをいいと考える人は多い。


 しかしこのダンジョンは、その培ってきたノウハウを上のレベルのダンジョンにも適応できる。

 さらに効率のいい稼ぎを求め上のレベルに挑み、国内の冒険者の質が上がり、流れる資源の質も上がるというもの。

 どちらも国にとってみて、美味しい案件だった。


 ハウルの冷静な言葉に、リオンの浮ついていた心が急速に冷え込んでいく。

 だがそこで竜郎は、向こうもできることなら開放したいと思ってくれていると確信した。



「さきほどリオンから一般公開がという話が少し出ましたが、僕らが今日ここに来たのは、まさにその件について話してみたかったからなんです」

「あそこを開放するのは…………いや、聞かせてくれ」



 危険な物には触れないほうがいい。無理だと言おうとするも、ハウルは竜郎たちがいうことだからと、一瞬迷うがとりあえず話を聞いてみることに。



「ありがとうございます。まず端的に言ってしまえば、このダンジョンがある場所に、これくらいの広さの区画を設け、ダンジョンを保有する町を作ったらどうでしょう」



 竜郎はダンジョンの場所を示す時に使った紙の地図をもう一度つかんで机の真ん中に置き、指で町候補地をグルリとなぞった。


 ただ一般開放するどころか、それを大きく飛び越え町を作ったらどうかという提案に、目を丸くするハウルたち。



「それは、どういうことでしょう? そんな所に町など作ったら、昼夜問わず魔物に襲撃されますぞ」

「そこは僕らがなんとかします。もし町をここに作ることになったのなら、防衛にかかる負担は全てこちらが請け負います。

 町には魔物1匹たりとも近づけさせないと、お約束いたしましょう。

 その代わりと言ってはなんですが、その町の運営自体は国のほうでやってもらえないかなぁと」



 これが普通の冒険者なら何を言ってるんだと流されてしまうところだが、相手は大陸丸ごと壊滅しかねないほど強力な魔物を少数で打ち破った経歴があり、実際にあの危険区域で平然と暮らしている人間。誰よりも説得力があった。


 それになにより、ハウルたちの頭の中では竜郎と愛衣は魔神と武神の御使いとなっている。

 もしかしたらその町構想にも、なんらかの神の意志があるのかもしれないと全員の脳裏によぎる。



「町の運営は我々がやってもいいのか? 自分たちだけでやれば、その利益を独占できそうなものだが」

「素人の僕らでは町の運営なんて分かりませんし、そこは専門の人にやってもらった方が居住する人にとってもいいでしょう。

 ですがこんな町にしたいという要望は、いろいろと聞いてもらいたいです」

「具体的な要望はあるのか?」

「具体的と言われてしまうとまだ何とも言えません。ですがもしできるのなら、その町を『ダンジョン』と『食』と『娯楽』に満ちた、面白い町にしたいなぁとは思っています」

「ダンジョンは分かるが……食と娯楽?」

「はい。食はそのまま、美味しい料理が食べられる店がたくさんある町。

 娯楽は人々が楽しめる面白い遊びがたくさんある町──でしょうかね」

「食と遊びだけでは資金面が苦しくなるだろうが、ここには一攫千金も狙えるダンジョンがあるからいくらでも稼げるか。たしかに、なかなか面白そうだ」

「町の防衛に関して何も考えなくていいのなら、やり方次第で国としてもかなりの利益が見込めそうですな」



 娯楽に関してはハウルたちには想像もつかないが、食に関してはララネストやチキーモをはじめ、酒や珍味。そんなさまざまな美食の最先端を行く町になるのは、間違いないだろう。

 

 そこにあらゆるレベルのダンジョンという富に満ちた存在が加わり、町の安全は下手をしたら普通の町より高くなるかもしれない。

 そう考えると、ハウルたちにとっても美味しい話になってきた。


 竜郎たちとしても色んな人に自分たちの作ったダンジョンに挑んでもらったり、食に関しても料理人が切磋琢磨して、色んな料理が自分たちの最高の食材から生まれるのではないかと期待している。


 そんなさまざまな思惑がかみ合っていき、さらに深い話し合いが繰り広げられていくのであった。

次回、第69話は6月7日(金)更新です。

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