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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第四章 ダンジョン強化編
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第67話 ダンジョン発見の報告

 お酒のせいで大分脱線してしまったが、今度はお待ちかねのチキーモの出番だ。


 こちらはカルラルブの王族たちと同じように、その美味しさに感動してくれていた──のだが、近衛騎士のレスだけはしばらくすると小さく首を傾げた。


 やはりそうなったかと思いつつも、確認のために竜郎は彼に声をかける。



「どうしました? レスさん」

「あ、いえ、そのぉ……、食べさせてもらっておいて、こんなことを言うのは心苦しいのですが……」

「どんな意見でも構いませんよ。正確に、素直な感想を教えてください」



 国としても竜郎たちと仲良くしていきたいし、個人的にもウリエルが主と仰ぐ彼の機嫌を損ねるのは遠慮したかったのだが、レスはそう言ってくれるのならと感じたことをそのまま口にすることにした。



「とても美味しいのですが、一番最初のララネストを食べた時の衝撃と比べると、そこまでではないかなぁと……」

「なにを言っている。レス。これはあのララネストと比べても、遜色などないぞ」



 ララネストに劣るとは思えなかったハウルが、その言葉に反論する。

 ララネストを食べたことがまだないリオンとルイーズなどは違いが分からないが、少なくとも食べたことのあるファードルハやジネディーヌなどはその通りだと大きく頷いた。



「いえ、レスさんのその反応は正しいんですよ。ララネストの試食のときでもありましたよね、こんなこと」

「ああ、そういえば! それに美味しさのあまり気が付きませんでしたが、よくよく冷静になってみると同じですね」

「ええ、それは特殊な生育方法で育ったチキーモの肉です」

「魔法の力が30分ほど強化される、あのララネストと同じということですな」

「その通りです。ファードルハさん。今回は用意しやすかったので、こっちを持ってきました。

 いずれは普通のほうも、もっと増やしていけると思います」



 特殊な育成方法──というか、《強化改造牧場》で産まれから死ぬまで全て竜郎の魔力だけで育成された個体というだけの話。

 けれど竜郎のクラスが魔神と密接な関係を持つものになっている影響か、魔法使いたちはより美味しく、さらに一時的な魔法能力の強化まで施すとんでも食材になってしまうのだ。

 その反面、武術系統に属する者たちが食べた場合は、天然物よりも味が劣り、なんの効果もないのだが。


 そこでいくとハウルを含め、この場にいるのはほぼエルフたち。

 エルフでも特殊な種族は武術特化型もいるにはいるが、ここにいるエルフは一般的な魔法特化型ばかり。

 だからこそ武官であるレスには、少し味がおかしく感じたというわけである。



「魔法使いだけ味わえるというのは、なんとなく羨ましいですね。やはり」

「うーん。武術系の人たち用のものも、できるんじゃないかっていう方法はなんとなく考えてあるんですけどね。

 いろいろと手を伸ばしすぎて、そこまでまだ実験できていないといった感じですが」

「そうなんですか! ありがとうございます! 楽しみだなぁ」

「まだ、できるかどうかも分からないんですけど……」

「いえ、可能性があるだけでもうれしいですよ。タツロウさん!」



 レスのため──というよりも、愛衣のためなのだが、喜んでくれる人が多いにこしたことはない。

 竜郎はそちらもいつかやってみようと、頭の中のメモ帳に書き込んでおいた。


 いくつかサンプルという名のお土産も渡し、ハウルたちはご機嫌そうだ。



「いやしかし、チキーモですか」

「御存じだったんですか? ジネディーヌさん」

「ええ、実は我々の方でもタツロウさんたちのお力になれないかと、美味しい魔物の情報を色々な伝手を使って調べていたんです。

 そのなかで一番これだというのが、このチキーモだったのです」

「ああ、それで……なんか、すみません」

「いえ、こちらもタツロウさんたちの情報力を甘く見ていたようです。もっと気合を入れて探してみます」

「助かります。ですが無理のない範囲でいいですからね」



 チキーモ以外にはどんな魔物が見つかったのかも聞いてみたのだが、やはり竜郎のスキル《魔物大事典》には及ばず、既に知っている魔物の情報ばかりだった。

 だが自分たちのために、ひいてはハウルたちのためにもなるのだろうが、行動を起こしてくれていることは純粋に嬉しかった。


 竜郎は感謝の意とできる範囲でいいとだけ伝え、これからも協力してもらうことにした。

 もしかしたら、竜郎たちが思い浮かばないような別の角度からの情報が舞い降りてくる可能性だってあるのだから。



「とりあえず食材のほうは、これくらいですね。また何か見つけたら持ってきます」

「ありがたい。では次の話を聞かせてもらえるか?」

「はい。次の話はハウル王にお願いしたいことがありまして」

「タツロウたちのお願いということならば、大概のことを聞くつもりだ。なんでも言ってくれ」

「ではお言葉に甘えて。パルミネという魔物についてはご存知ですか?」

「魔物の大好物とされている、異常に繁殖力の高いネズミ型の魔物だよね。

 強さは最弱レベルだけど、その魔物が近くにいつくと他の魔物を呼び寄せてしまう危険な魔物でもあるっていう」



 知識人ときいていたルイーズが、すぐさまパルミネの情報を導き出した。

 兄として、また自分の後継者の最有力候補として、ファードルハは満足げにしている。



「そう、そのパルミネなんですが、実はうちには従魔が複数体いるので、その子たちに食べさせる用に個人でパルミネの飼育をしたいんです。

 ですがそれには許可がいるようなので、ハウルさんにその──」

「ファードルハ。すぐに許可の手配を」

「──はっ」



 ハウルの命でファードルハが、すぐに動き出す。

 言い切る前に即行で許可がおり、竜郎たちは「いいのかな」と目を丸くしてしまう。



「そんなに簡単に、許可をもらっても大丈夫なんですか?」

「タツロウたちならば悪用することもないだろうし、それになによりパルミネごときを御せないとも思えない。

 また何か起これば、自分たちで解決してくれるのだろ?」

「それはもちろん。自分たちの手で起してしまったのなら、すぐに解決に乗り出します」



 どちらにせよ《強化改造牧場》内だけで繁殖させ、外に出す時は殺してからにするつもりなので、まず間違いは起きようもないのだが。



「ならば何の問題もない。好きなようにパルミネを飼育してくれ」

「はぁ……ありがとうございます」



 相変わらず信用度が半端ないなと生返事している間に、ファードルハが半透明で緑色の薄いプレートを竜郎のほうに差し出してきた。

 礼を言いながら受け取ると、それが粒子となって竜郎の中へ、正確に言うのであればシステムの中へと吸収された。


 これで第三者に許可証の提示を求められたとき、システム経由でいつでも見せることができるようになった。



『あとはどっかで、とっ捕まえてくるだけだね』

『そうだな。といっても、そっちはそこまで難易度は高くないが』



 魔物が大繁殖しているあたりには、大概パルミネが生息していると言われている。

 通常の人間ならば手に入れるのも一苦労なのだが、竜郎たちならば危険もない。

 今度水の魔物を手に入れる際にでも、ついでにどこかから捕まえてくればいいだけだ。



「では次に、そこそこ大きなお知らせと提案があるのですが、いいですか?」



 竜郎たちでも大きいと感じるお知らせと提案とはなんだと、息を飲むハウルたち。

 竜郎は緊張感に包まれるなかで、一拍おいてから口を開いた。



「実は以前僕らが受け取った領地なんですが、そこでダンジョンが見つかりました。それもほぼ同じ場所に10個」

「「「「「「なっ──」」」」」



 その言葉に、一同が驚き声をあげる。ダンジョンが見つかったのはまだいいとしても、それがほぼ同じ場所に10個とは異常だ。

 また何か恐ろしい事態にこの国が巻き込まれているのではないかと、不安な空気が流れはじめる。



「ああ、いえ、調べてみましたが、べつに危険なことはないはずですからご安心を。

 以前の魔王種再来なんてこともありません」

「そう……なのか? ではそのレベルは? 具体的な場所はどこなんだ?」



 神の御使いである竜郎たちが言うのならそうなのだろうと、とりあえず落ち着きを取り戻すと、次に気になることをハウルが聞いてくる。


 竜郎は事前に用意していた簡単な地図を取り出し、そこにペンで印をつけながら説明していく。



「だいたいこの辺りで、このようにダンジョンへの入り口が10個、並んでいます」

「人が近寄らないとはいえ、そんな浅い所に、そんな目立つダンジョンがあるなら、今まで見つかっていないというのも不自然な気がするけど……」

「そりゃそうだよ、リオン。俺たちだって領地内のことは調べていたから、こんなのがあれば直ぐに気が付いていた。

 だからこれは最近、発生したダンジョンということだと思う」

「なるほど、新しいダンジョン……」



 リオンが納得してくれたところで、竜郎は話を戻していく。



「レベルはこちらから1、2、3と順番に上がっていって、レベル1から10まで全てのダンジョンがここに揃っています」

「レベル違いのダンジョンが一か所に……? なにかそのダンジョン同士で、関連があるかもしれないね」

「ルイーズの意見も尤もだが、レベル10のダンジョンもあるのか?

 では魔物が排出されているのではないか?」

「いえ。このダンジョンはそういったことはしません。

 とりあえずこのままでは話がこんがらがってしまいそうなので、分かっていることを端的に話していきますね。質問や意見はその後で」

「ああ、頼む」



 最近発生した新しいダンジョン。ご丁寧にレベル1~10まで揃い踏み。

 中はレベルが──難易度が違うだけで、基本的な構造は全て同じ。

 取得できるSPは全部攻略しても最大で10まで。



「そして一番の突出して他と違うのは、中で死んでも死なないということです」

「死なない? どういうことなんだ。タツロウ」



 質問は後からというのをこれまで守っていたのだが、あまりにも意味不明な内容にハウルは思わず口を挟んでしまう。



「そのままの意味です。ダンジョン内で死んでも、生きた状態で出口に繋がる空間に排出されるんです。

 それも死んだときに負った傷だけは、なかったことになって。

 けれど注意してほしいのは、全くリスクがないわけではないということです」



 ダンジョン内で死んでしまった場合、生きたまま外に出ることはできるが、その場合レベルは最大で4分の1までしか残らない。

 運が悪ければ死んだときに何レベルであったとしても、レベル1になってしまうこともある。


 さらに《アイテムボックス》内にあったもの。システムに入っていた所持金。身につけている装備や衣服にいたるまで、全てダンジョンが奪っていく。


 本来ダンジョンでパーティメンバーが死んでしまった場合、《アイテムボックス》やシステムの所持金は無理でも、身につけていたものくらいは回収できる。

 だが命が助かる代わりに、そのとき持っているものは死んだ瞬間に無くなってしまうので、他の誰かが回収して後から返すなんてことは絶対にできない。



「たとえば死ぬ瞬間に、慌てて装備品を捨てた場合はどうなるんでしょう?」

「死ぬ数秒前なら所持品としてカウントされずに残ると思いますが、直前まで持っていたものであれば回収されるでしょうね」



 抜け道がないかと聞いてみたジネディーヌだったが、そう上手くはいかないと分かり難しい顔をした。


 数秒前に所持品を捨てる余裕があるのなら、普通に死を回避する選択を模索した方が利口だろう。

 なにせレベルがリセットされてしまうのだから。



「スキルレベルのほうは、どうなのでしょうか? そちらが残っていれば、レベルの上げ直しもまだ楽になるはずです。

 それに、その状態でスキルポイントが再取得できるのであれば、ある意味では死ぬことで強くなれることだってあり得るでしょう」



 ファードルハが言いたいのは、例えばレベル1に戻ってしまったとしても、これまで稼いだSPを消費してなんとか上げた《火魔法 Lv.15》が残っていれば、またレベルをあげることで再びSPを取得し、16以上にあげることだってできるのではないかということ。


 しかし、そんなチキーモのように美味しい話は転がっていない。



「自分がそのレベルだったころの構成に戻されます。スキルもスキルレベルも、そして称号も。

 自分の人生で苦労して稼いできた全てが、戻されてしまうんです」

「称号やスキルの中には偶然手に入れたというのもあるだろうし、再取得が絶望的なら、場合によっては同じレベルまで戻れたとしても弱体化する可能性すらあるということか……厳しいな。

 まあ、命が助かるだけマシと言えばマシなのだろうが」

「そりゃそうよ、お父様。魔物と戦うだけが人生じゃないよ。

 諦めて第二の人生を再スタートすることだってできるんだから、素晴らしいじゃない」



 確かにと竜郎たちも含め全員が、ルイーズの意見に大きく頷いた。



「あと注意事項としましては、魔物の知能が高いということでしょうか。

 低レベルと高レベルのダンジョンの攻略法が、ほぼ同じということもあって、普通よりも難易度が下がってしまうことを踏まえて上げているんだそうです。

 高レベルのダンジョンの魔物にもなってくると、かなり狡猾になってきますから挑む機会があったらお気を付けを。

 ──と、だいたい大まかに分かっていることは、これくらいですかね。何か質問は?」



 竜郎が質問タイムを設けると、さっそくリオンが誰もが聞きたがっているであろう質問を投げかけてきた。



「なあ、タツロウくん。さっき君が言ってたことなんだが、難易度が下がってしまうことを踏まえて上げているんだそうです(・・・・・)って言ったよね? それは誰かから聞いたってこと?

 それに何度も死なない限り調べようもないことも、スラスラと答えていたし、いったいタツロウくんはどうやってその情報を知ったの?

 もちろん、答えられないというのなら無理に話さなくてもいいけれど」



 そんなのは決まっている。そのダンジョンは竜郎たちが用意したものなのだ。仕組みから攻略法まで全てこと細かく知っていて当然。

 だがそれは話すつもりはないので、言えない。


 けれど竜郎は、わざとそういう質問がくるように話していた。聞いてくれと言わんばかりに。

 そうすることで自分たちが知っていることを、できるだけ詳細に伝えることができるから。


 竜郎と愛衣はニコリと笑う。別に大したことではないですよとでも言うように。



「そんなのは簡単だよ、リオン。俺たちはダンジョンの初踏破者の特権を使って、直接ダンジョンに聞いたんだから」



 新しいダンジョン、またはレベルが上がったダンジョンの初踏破者には、どんな質問でも一つだけ教えてくれるという特権が1人にだけ与えられる。

 それは人間が管理している竜郎たちのダンジョンでは与えられない特権だが、そんなことをリオンたちが知るわけがない。

 だからこそ、竜郎たちが不自然なまでに詳しくてもおかしくないと思わせることができる。



「なるほど……。確かにそのような特権があるとは聞いたことがある。だが、そんなことにそれを使ったのかタツロウは」

「ええ、だって自分たちの所有する土地の中のことですからね。できるだけ知っておきたくありませんか?」

「ああ、それは確かにそうか」



 ハウルとファードルハ、ルイーズだけはそのことを知っていたようで、特権を口に出しただけですぐに納得してくれた。

 王や宰相があるというのなら、あるのだろうと、他に誰も疑うものは現れない。


 こうして竜郎たちは、ハウルたちにそれほど怪しまれることなく、ダンジョンの特性を伝えることに成功したのであった。

次回、第68話は6月5日(水)更新です。

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