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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第四章 ダンジョン強化編
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第62話 新たなダンジョンボス選出

 4つのダンジョンの一部と、管理者権限を無事受け取ることに成功した翌日。

 ほぼ全員がカルディナ城の直ぐ近くの草原地帯にある、妖精樹とダンジョンの周りに集まっていた。


 イシュタルも事前に仕事を済ませ、または後回しにしてここにきている。

 妖精樹の調査研究をしている妖精郷の住民──イェレナも、是非見届けたいとここにいた。


 カルディナが預かっていたダンジョンの一部が入ったカバンを、竜郎に渡してきた。



「ありがとう、カルディナ」

「ピュゥー♪」



 頭を撫でながらお礼を言い受け取ると、中身を取り出し等間隔に囲むように妖精樹の根元に置いていく。



「あとは俺たちのダンジョンに、これらを移植すればいいんですよね?」

『ええ、そうよ。ただ注意してほしいのは、1つずつではなく4つ同時に移植するということ。

 そうしないと上手く土台として機能しなくなってしまうから、それ以上他のダンジョンを繋げなくなってしまうの』

「できそう? たつろー」

「ああ、大丈夫だと思う。天照やリアが作ってくれた杖ありきの話だけどな」



 迷宮神に聞きながら、昨日のうちに必要な解析は済ませてある。

 あとは手順にそって《侵食の理》で移植してしまえば終了。

 竜郎たちのダンジョンはレベル10に跳ね上がり、シュワちゃんや玉藻、ドロップ、ノワールも仮初の体を得て人間界を謳歌できるようになる。



「新しい戦いの場が一気に増えるんだからな。楽しみだぜ」

「うむ。そのときはどちらが早く踏破できるか競争しようではないか、ガウェイン」



 ガウェインとランスロットは、既に繋がった後のことで盛り上がっていた。

 アーサーは兄は誘ってくれないのかと、少しさびしそうにしている。


 そんないつもどおりの三人に苦笑しながらも、竜郎は本腰を入れて妖精樹に向き合っていく。

 天照の杖を握り4つのダンジョンの一部と、妖精樹と融合状態にある自分たちのダンジョンを、それぞれ同時に侵食していく。


 天照と新型の魔力頭脳、そして竜郎が力を合わせて全力で繋がり合うために形を整える。

 そうしていると、受け取った4つのダンジョンの一部の形が崩れていき、まるで液体のように溶けて妖精樹の根元の地面に染みこんで消えていく。


 それらは実際には地面に吸収されたわけではなく、妖精樹と繋がっている竜郎たちのダンジョンに取り込まれていった。



「ルナ──妖精樹の方でも調整を頼む」

「まかせて……」



 4つを取り込んだ後は、妖精樹の力も借りて盤石な土台になるよう定着させていく。



「妖精樹が震えてる?」



 なにか変化が起きるかもしれないと、ずっと妖精樹を観察したイェレナが真っ先に気がついた。

 地震が起きたわけでもないのに、妖精樹が振動しはじめた。

 大丈夫なのかと心配げな表情で彼女が見守る中、一際大きくブルッと妖精樹全体が震えた。

 かとおもえば太めの発光する木の枝が4本、妖精樹の幹から等間隔に伸びてきた。

 木の比率的には太めの枝といった程度だが、その大きさは人間と比較すると驚くほど大きい。



「あれは実……ですかね?」



 さらにそういうリアたちの視線の先にあるその枝から、ダンジョンの入り口となっている白く発光する湖のような、固体ではなく液体でつくられたような、そんなまん丸い不思議な木の実がポンポンポン──っと生えてきた。


 4本の新たな枝からたわわな実が沢山ぶら下がりだしたところで、妖精樹自体がカッと光に包まれすぐにやむ。



「これで成功──ですかね?」

『ええ、タイミングも一切ずれていなかったし完璧だったわ』



 と、竜郎や迷宮神から見ても成功の確信が持てた瞬間、竜郎たちのダンジョンの入り口となっている光の湖が減光していき、地面が見えるほど薄らしたものに変わってしまう。

 それとリンクするかのように、新たに生えてきた木の枝と実も光を失った。



「階層数も足らないし、ダンジョンボスも新しく設定しないといけないから、一時的にダンジョンが閉じてしまったようね」

『そうみたいね。ここのダンジョンが機能していないと、シュワちゃんやタマモたちもこれないから、早めに設定してもらえると助かるわ』



 今、竜郎たちのダンジョンのボスと設定している女性幽霊では、レベル10のダンジョンの規格に合っていないので新しく作り出す必要がある。

 さらにレベル10のダンジョンとして機能させるには、35層~45層の範囲内で階層を用意しなければならない。


 今のところ必須として設定されている迷宮神が作った最終階層。

 竜郎、愛衣、カルディナ、天照、月読が1階層ずつ。

 ジャンヌ、奈々、リア、アテナ、レーラ、イシュタルが2階層ずつ。

 ──の計18層で構成されていた。


 もともと2階層あったのはジャンヌとアテナだけだったが、空いた時間で奈々やリアたちも自分の階層を作っていたのだ。

 となると最低でも残り17層を作る必要が出てくる。



「今から17層も作ってたんじゃ時間がかかりそうだな」

「うーん。どうせならじっくり考えたいしねぇ」

「なら……とりあえず……、私の方で適当に……繋がったダンジョンから……流用して作れる……けど……どう……する?

 それなら……5分もあればできるけど……」

「そんなことまでできるようになったのか、ルナは」

「もうどっちが管理者か分かんないっすね~」

「承認がないと……設定できないけど……ね……」



 ダンジョンの雰囲気──ホラー系にあわせて、他のダンジョンの階層の構成をパクってそれっぽくするということらしい。

 完全に同じではなく部分部分で参考にし、繋ぎ合わせることもできるので、まったく同じ構成にはならないようにもできるんだとか。


 あとで好きに竜郎たち側で弄ることもできるし、配給される世界力をそれなりに消費することになるが、消して全く新しい階層に後から入れ替えることもできるので、それほどデメリットもない。


 皆で少し話し合った結果、数日シュワちゃんたちを待たせるよりは、妖精樹の化身であり、ダンジョンの管理補佐をしてくれているルナに製作してもらおうと決まった。



「それじゃあ、俺たちはダンジョンボスを考えることにするよ。階層製作は、よろしく頼む」

「分かった……。任せて……」



 ルナに一任した竜郎たちは、ボスのことを考えることに。

 アーサーなどの好戦的なものたちは、答えを知っていては楽しめないとこの場から一時撤退していった。


 今の竜郎たちのダンジョンはレベル10だが、今後妖精樹が成長し他のダンジョンを繋げていくことになれば、その分こちらのダンジョンがグレードアップしていく。

 その度にボスを変えていくのも非効率だし、せっかく生まれたボスをポンポン消していくのも可哀そうだ。

 どうせならダンジョンレベル11以上になってもボスとしてやっていけるような、格の高い魔物を据えておきたいという話になった。



「そうなると、やはり竜が無難ではないか?」

「ですね。等級の高い竜のポテンシャルなら、いくらでも上に合わせることができそうですし」



 竜と意見を出したイシュタルに続き、リアも賛同する。



「まあ、素材的に見ても、そのほうが俺たちとしたら嬉しいからな」

「ボス竜なら、また新しい竜王種の子を生みだせるかもしんないしね」



 純粋に強い。素材的にも美味しい。新しい竜王種がみられるかもしれない。

 それぞれ考えていることは少しずつ違えど、メリットが噛み合ったので全員一致で最初のボスは竜にすることに。



「ボスも複数体設定できますし、またいい魔物が思いついたら生みだせばいいですの」

「そうっすね。あたしとしては魔王種……はレベル的に無理だとしても、その候補なんかも設定してみたいっす」

「魔王種か。それもいいな」



 夢は広がるばかりだと竜郎は大きく頷いた。


 ということで竜にするということは決まったが、そうなってくると『どんな』竜にするかという話になってくる。



「ホラー系の竜ってどんなだろうね」

「骸骨竜とかゾンビ竜、幽霊竜とかになるのではないか?」

「竜王種の創造実験をするのなら、骸骨と幽霊だと魔石から心臓に変換できるか分からないし、そっちは避けたいな」

「ゾンビも臭そうですし素材的に脆そうですし、私的にもその三種は遠慮したいですね」

「まとめると、実体があって腐ってない竜ってところかしらね」



 ああでもない、こうでもないと竜郎たちはシステムに表示されているダンジョンボスの項目から、相応しいものがいないか見ていく。



「なあ、竜郎。ホラー系に統一することに、なにか意味はあるのか?」

「統一することに意味はあるよ、父さん」



 仁から質問があったので、竜郎は自分と愛衣の両親に軽く説明していくことに。


 統一するのは一階層に使える世界力量が決まっているように、ボスの強さもここまでという決まりがある。

 けれどダンジョンの規格を統一し、あえて攻略者に対策させやすくすることで、規定値を多少オーバーした存在を据えることができるようになるのだ。



「なるほど、そうやって帳尻を合わせるってことね」

「そーだよー、美波さん」



 ダンジョンについてよく知らない両親たちも納得したところで、再び竜郎たちもボス選びに戻っていく。そして──。



「それじゃあ、新しいボス竜は、こいつってことでいいな?」



 ルナがとっくに新しい階層を17つ用意し終わり、より馴染むようにと微調整している間に、ようやく新しいボスが決まった。



「私たちのダンジョンにはピッタリの竜だよね」

「けれど挑む側の人間からしたら、普通の竜と戦うよりも厄介になるかもしれないわ」

「もし同レベル帯の相手だとしたら、私はあまり戦いたくはないな」



 愛衣、レーラ、イシュタルにそう総評される新たなボス。

 形態はリザードマンのような人型の竜──竜人で、全身の鱗の色は黒、大きさ1.8メートルほどと竜にしては小ぶり。

 筋肉質な体型ではなく、むしろ痩せ型。頭にはヘルメットのように、竜の頭がい骨をかぶっている。



「これなら真正面からガチンコで、ぶつかってきてくれた方がマシっすよね~」

「うかうかと情報収集などしていれば、あっというまに勝てなくなってしまいますの」



 この竜の特徴としては、同じレベル帯の竜に比べると攻撃能力はかなり低い。

 けれどこの竜の戦い方は、直接敵を殺しにかかるようなものではない。


 まずこの竜は、開戦と同時に2体の従魔を召喚する。

 1体は2つ首の巨犬──オルトロスのゾンビ。もう1体は、5メートルの幽霊巨人。


 オルトロスゾンビは速力が高く、攻撃力もかなり高め。物理、魔法どちらの攻撃手段も持っていて、近距離から遠距離どちらもいける上に広範囲攻撃まで持っている。


 幽霊巨人は近距離特化で魔法は一切使ってこないが、物理に異常に硬く、魔法にもそれなりに抵抗力を持つタフさをもつ。

 そんな巨人が身の丈以上もある巨斧を振り回し、戦場を駆けまわり荒らしまくる。


 では竜人は何もしないのかと言えばそうではない。この竜の真骨頂は、強力な呪魔法スキル。

 2体の従魔には重複する強化魔法を執拗に掛け続け、敵には筋力低下、耐久力低下、魔法力低下、魔法抵抗力低下などなど他にもバリエーション豊かなあらゆる弱体化を広範囲で撒き散らす。


 戦いが長引けば長引くほどどんどん敵は強化され、味方は解呪できなければ弱体化していくと、まさに攻略者にとっては悪夢のような時間となるだろう。



「強化も弱体化も、いちおう上限と下限はあるんだがな」



 それでも放っておけば、最終的に従魔2体は1体でレベル10ダンジョンのボスを張れるくらいに強化されてしまうのだが。



「それは酷いね……。そんなの普通は勝てないんじゃないかい? 愛衣」

「そんなことないよ、お父さん。その代りに開戦時は、他のレベル10ダンジョンのボス竜さんより弱くなってるんだから」



 他の竜に比べたら攻撃能力は低いと前述し、愛衣も弱いと今言ったがそれでも竜。

 適性レベルでレベル10ダンジョンに挑むようなパーティでは、けっしてこの竜も侮れるものではない。


 近距離ではかみつく、ひっかくなど単純だが強力な攻撃を、遠距離には竜力を収束したレーザーのような攻撃──《竜力収束砲》をお見舞いしてくる。



「超短期決戦のつもりで挑む準備をする必要があるボスと言えるでしょうね」

「逃げ足も速い上に小さいから捕まえにくいし、2体の従魔が守ろうとするから、それをするにも上手くやる必要はあるでしょうけれどね」

「なかなかに嫌らしいボスを選んだのね。愛衣たちは」

「まあ、いろいろ条件がよかったからね」



 竜郎たちのダンジョンは、妖精樹の力を借りてダウングレードしたものを再現し攻略者に挑戦させることができるのだが、そうなったときのボスの選出が難しい。


 規格に合わない女性幽霊のボスは代替わりさせないといけないし、このボス竜人は従魔を切り離すことができないのでレベル9以下の規格には合わない。


 1~6くらいまでのレベル帯なら、高レベルで出現する通常モンスターを調整して出してしまえばいいだろうが、7以上だとそれもなかなか面倒になってくる。

 だがボス竜人と従魔を切り離すことはできないが、従魔側なら切り離すことができることに気がついた竜郎たちは、このオルトロスゾンビと幽霊巨人の2体に仮想ボスとなってもらうことにしたのだ。

 なので7~9レベルのダンジョンに挑む者は、このどちらか一体と戦うことになるというわけだ。


 これはボス竜人が従魔を持ちダンジョンに記憶させられたからこそ、簡単にできた裏技。

 実体があり、腐ってなく、下のレベルのダンジョンボスとして出せるいい塩梅の従魔持ちで、ホラー系のダンジョンの雰囲気にもあう。

 だからこそ、竜郎たちはこの竜がボスに相応しいと選んだ。



「よし。それじゃあボスを設定したら、さっそくダンジョンを開いてシュワちゃんたちを呼び出そう」

「おー」



 管理者の称号を持つ竜郎を含む11人は、同時にシステムに表示されているそのボス竜をボスへと設定したのであった。

次回、第63話は5月24日(金)更新です。

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