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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第四章 ダンジョン強化編
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第59話 1つめの管理者権限移植

 目下の悩み事も解決したところで、いよいよ行動開始となる。



「たしか管理者権限の一部を、俺たちの誰かの管理者の称号に移植すればいいんだったよな。誰に──」

「うーん……あたしでもいいっすけど、とーさんにしてほしそうな顔してるっすよ?」

「……みたいだな」



 シュワちゃんの期待のこもったキラキラした真っ直ぐな瞳は、竜郎をしっかりとロックオンしていた。

 これで別の誰かに彼の管理者権限を──となると、さすがに酷な気がしてくる。



「それじゃあ、俺の称号に移植するよ」

「そうか! それがいいだろうな!」



 シュワちゃんも大満足な様子なので、これでよかったのだろう。

 竜郎は天照を近くに呼び寄せ小型ライフル杖を握り準備を整えていると、迷宮神から声をかけてきた。



『これが作業に必要な固有属性構成情報よ。先に解析しておいて』

「これは……」



 竜郎の目の前に突如として紫水晶でできたUSBメモリーのような大きさと形をした、薄べったい棒状のものが現れた。

 その下に手を差し出すと、ぽとんと竜郎の手の平の上に落ちてきた。重さも精々5グラムほどと軽い。


 それを何の気なしにリアが《万象解識眼》で確認すると、あまりの情報量の大さに吐き気を催してしまう。



「──うっ。とんでもない……情報量ですね。最初は兄さんの脳は使わずに、アマテラスさんだけで解析して、整理された情報から作業を行ったほうが無難でしょう」

「そんなにか」



 これまで色々なモノを観てきたリアが、ここまでの反応をするのは初めてだったので皆、目を丸くした。

 奈々は少し心配そうに、生魔法でリアの体調を整えていく。



「大丈夫なんですの? それは」

『私が注意する前に言われてしまったけれど、いきなり無茶して自分の頭で理解しようとしなければ問題ないわ。

 そのぶん、アマテラスは大変になるでしょうけれど、彼女なら心配ないでしょうし』

「────」



 「まかせて」とでも言うように、竜郎の杖に嵌っていた天照のコアがピカピカと点滅した。

 彼女には有機的な脳みそはないので、強い負荷がかかっても壊れるということもないのだ。

 それにリアが作りだした最新型の魔力頭脳もあるのだから、気を付けてやれば危ないこともない。



「それでも何か異常を感じたら、無理せずにすぐにやめるんだぞ」

「──」



 「はーい」という感情を天照から受け取り、さっそく皆に見守られる中、作業をはじめていく。

 竜郎は手の平に乗った小さな棒に《侵食の理》を発動させ、あとはひとまず天照に作業を丸投げした。



「大丈夫か?」

「────!」



 未だかつてないほど天照の体となっている魔力頭脳のコアが、ピカピカと光り輝きだす。

 膨大なエネルギーを使った魔法でもやすやす演算して出力できるほどの能力を持っているというのに、こればかりは全能力をフル稼働しなければならないようだ。


 竜郎が心配になって思わず声をかけるが、天照のほうは問題ないとやる気に満ち溢れた返答をしてくれたので、ひとまず安堵して結果を見守ることに。


 1分──10分と時が過ぎていくが、まだ作業に終わりが見えない。

 そのことにリアは少し不服そうな顔をしている。自分の作った最新型なら、あの膨大な情報量でも10分もあればできると思っていたようだ。


 20分を少し過ぎたあたりで、ようやく竜郎にも情報が渡ってきた。

 それでもまだ天照側では作業中のようだが、彼も自分の仕事をこなすべくその情報に集中していく。


 その作業で分かったことだが、この棒切れに入っている固有属性構成情報は、どうやらダンジョンの個──すなわちシュワちゃんの全固有属性構成ではなく、本当にこれから管理者権限を受け取るために必要な部分だけだった。

 いうなれば全体の地図ではなく、1か所までの道行だけが記載された地図。


 それだけのくせにこんなに膨大なのかと、あらためて竜郎はダンジョンが次元の違う存在だということに気づかされた。



(ゲームとはいえ、あのとき勝てたのは本当に運がよかったな)



 次に向かおうとしているダンジョンの個とゲーム感覚で戦闘したことがあったのだが、相手の絶対に負けるはずがないという油断をついて勝ったことを思いだし苦笑する。



(──っと、集中集中)



 《多重思考》を使っていても別のことを考えると処理が覚束なくなりそうになったので、慌てて竜郎はそれだけに没頭していった。


 30分ほどの時間をかけて、ようやく竜郎はその渡された情報の使いかたを理解した。

 とはいえ天照が随分と丁寧にガイドをつけてくれたからなのだが。


 しかしそうでないと、とてもではないが人間の脳では理解が追いつかないので致し方ない。



「シュワちゃん。準備はいいか?」

「ああ、いつでもいい」



 無駄に渋い声と表情でシュワちゃんが返事をすると、彼の姿が揺らぎはじめ眩く発光する球体に変化した。

 これがむき出しになった、シュワちゃんの姿なのだろう。


 竜郎は少し驚きつつも、その球体に目を細めながら杖を伸ばし、自分とシュワちゃんに対し《侵食の理》を発動させ互いの境目を繋ぎ合った。



「──っ!?」



 その瞬間、まるで嵐の中の大海原に放り出されたかのような、地面が無くなって抵抗むなしく遥か地底に落下していくような、そんな2つが混ざったような感覚を味わい思わず目を回しながら息をのむ。


 けれどあらためて気を引き締めて自分という存在を意識すれば、その感覚もおさまり静まり返った。



「大丈夫!? たつろー!」

「ああ、ちょっと驚いただけだ」



 竜郎がよろめいたことで愛衣がすぐに反応し心配してくれたことに、嬉しく思い彼女の頭を優しく撫で落ち着かせる。

 大丈夫そうだと分かり、愛衣も安堵の息を漏らしながら邪魔をしないようにと一歩後ろに下がった。


 それを確認した竜郎は、いよいよダンジョンの個の本物の情報に潜りこんでいく。

 天照の補助を受けながら、彼女に示されるがままに竜郎は《侵食の理》を操作するだけ。

 それだけでも相当の集中力を要したが、無事にシュワちゃんの管理者権限を司っている部分を完全に侵食することができた。


 どの部分をどれだけ切り取れば上手く竜郎自身の管理者の称号に組み込めるか、事前に天照が魔力頭脳を使って演算してくれていたので、迷うことなく必要な部分の情報をいじって奪っていく。


 そしてその情報を持って、ここまできた道筋に従って戻っていき、今度は自分の中の称号をいじりシュワちゃんの管理者権限を結合できる形に整え、上手く結合させていく。

 絶対にミスが無いよう、天照とともに慎重に確認しながら。



《称号『迷宮管理者 3/5』は、『迷宮管理者 3/5+A』に変更されました。》



『上手くいったわね。それで成功よ。お疲れ様』

「ありがとうございます。皆、移植は終わったぞ」

「おつかれー。たつろー」



 近くにいた愛衣が労いの言葉と共に、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 そこでようやく脳が疲労しきっていることに気がつき、竜郎は思う存分彼女の胸に包まれ癒された。


 だらけきった彼の顔に笑ってしまいながら、レーラが元の筋肉青年の姿に戻ったシュワちゃんに顔を向け、疲れた竜郎に代わって話を進めていく。



「これであとはシュワちゃんの一部を私たちが受け取れば、ここでやることは終わりということでいいのよね?

 それはどのように受け取ればいいのかしら?」

「少し待ってくれ。今、用意しよう」



 野太い右腕を前に出し、ぐっと何かを握りつぶすかのように拳に力を込めていく。

 するとその手の中が輝きはじめ、開くと鉄のような質感の10センチほどのキューブが手の平から飛び出してきた。



「これが俺の一部だ。無くさないように持って行ってくれ」

「ええ、たしかに受け取ったわ」



 レーラが受け取ると、そのまま《アイテムボックス》にしまおうとするが、いれることができなかった。

 どうやら《アイテムボックス》に収納できるような物ではないようだ。


 そこでリアが即席で、魔物の革を使って作ったカバンを用意し、立候補してきたカルディナの首に持ち手を長くしてかけてあげた。

 しっかりもののカルディナならば、なくすこともないだろう。


 竜郎はそこでようやく愛衣とのいちゃつきをやめ、話に戻ってきた。



「よし。第1段階目のミッションはクリアだな。そのまま、あのダンジョンに行くか」

「もう行ってしまうのか……」

「そんな顔するなって、4つ全て条件をクリアできたら外に出られるようになるんだぞ。

 そうしたら俺以外にも沢山、友達が作れるようになるさ」

「……ああ、そうだな。任せてばかりで心苦しいが、よろしく頼む」

「俺たちにも利益は十分あるから気にするな。それじゃあ、またな」

「ああ、また。名付け名人。心の友の同胞たちも、また会おう」



 竜郎も含め全員が手を振ると、シュワちゃんも軽く手を振り返してくれた。

 それに少し遅れて竜郎たちの視界が切り換わり、ダンジョンの外へと戻る上へと伸びる階段がある白い空間に飛ばされた。


 認識阻害をかけ直して階段を上り外に出ると、そのまま竜郎たちは以前に行ったことのあるダンジョンへと転移した。


 シュワちゃんのダンジョンと同様、ダンジョンの入り口の真上に現れ、そのままダイレクトに落下しながら入っていく。



「ヒヒーーン?」



 てっきりシュワちゃんの時と同じく白く広い空間に出るものとばかり思っていたのだが、そこはひざ下まで水で浸かった、ほのかに青く光る薄暗い洞窟の中。

 ここにきた瞬間に女性の形をした水の属性体──水精に、ジャンヌが攻撃を受けてしまう。


 ただレベルが違いすぎて、子サイ状態のジャンヌは「なあにー?」と首を傾げているだけだが。



「ここって、普通に第1階層なんですが……」

「ヒヒーーン」



 リアが《万象解識眼》で状況を確かめている間に、ジャンヌは水精との水遊びに飽きて火魔法で蒸発させていた。

 魔石がポチャンと落ちて水に沈んでいくので、竜郎は水魔法で水流を操り、ちゃっかり確保しておいた。



「迷宮神さん。ここのダンジョンちゃんには、お話してなかったの?」

『え、ええ。私が言ってしまうと命令みたいになってしまうかと思って、最初はあなたたちから話を切りだしてもらおうと考えていたから……。

 でも普通、管理者の権限を持った存在が入ってきたら、なにかあるだろうとひとまず隔離すると思ったのだけど……………………あの子は違うようね』

「それじゃあ、どうするっすか? いったん出るっすか?」



 最初の1体目が倒されたことが呼び水にでもなったかのように、次々と水精が集まりはじめる中、竜郎たちはのほほんと相手をしながら、悩みはじめたのか黙ってしまった迷宮神の解答を待つ。


 3分もしない間に100個近い水精の魔石が竜郎の《無限アイテムフィールド》の中に収められていると、ようやく考えがまとまった──というよりも、悩んでいたのではなく話を付けてくれていたようだ。迷宮神が話しかけてきた。



『今から会ってくれることになったわ。すぐに、ここから転移するはずよ』



 その迷宮神の言葉に返事をする間もなく、竜郎たちは洞窟から、もはや見慣れた白く広いだけの空間へと転移していくのであった。

次回、第60話は5月17日(金)更新です。

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