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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第四章 ダンジョン強化編
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第57話 ダンジョンを使った未来構想

 少し遅い夜のご飯時。

 カルディナ城内にイシュタルも含め全員に集まってもらい、食べながら迷宮神から聞いた話をゆっくりと聞かせていった。


 最初は皆、驚いていたようだが、とくに危険なこともなく、むしろ歯ごたえのあるダンジョンで遊べるようになるかもしれないとあって、アーサー、ランスロット、ガウェイン、そしてサイズ的に無理なので外で話を聞いていた蒼太などは、非常に嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべていた。


 リアはリアでダンジョンでとれる魔物素材が簡単に収集できるようになるとあって、今からもう皮算用を頭の中で開始していた。

 イシュタルも自分でレベルが調整できるダンジョンを、好きな場所に設けられると自国の利益を考えても美味しい話だと乗り気だ。



「ならとりあえず、受けるという方向性でいいか?」



 竜郎がぐるりと周囲を見渡していくと、中にはどちらでもいいといったものもいるようだが、反対という意見を述べるものはいなかった。

 これで竜郎たちのダンジョンの方向性は、決まったと言ってもいいだろう。


 けれど竜郎はこの話を聞いてから1つ新しい構想を思いついたのもあって、全員集まっているからちょうどいいかと、それを話してみることにした。



「それじゃあ、この話は受けるということにするとして、もう1つ話しておきたいことがあるんだ」

「話ってなあに? たつろー」

「いつだったかダンジョンの飛地が自分たちの所有する土地内になら、自由に設定できると聞いたとき、ある程度自己責任ってことで飛地を領地の端に作って、そこからよその冒険者を招き入れてもいいかもしれない──なんてことを言ったんだが覚えているか?」

「そういえば言ってましたね。兄さんのその意見に、私も賛成した覚えがあります」

「あのときはとりあえず元の世界に帰ることが最優先だったから、できたらいいなくらいの気持ちだったんだが、自由にレベルを設定できるという話を聞いて本格的にやってみるのもいいかもしれないと思ったんだ」

「具体的にはどういったものを、タツロウくんは想像しているのかしら?」

「それはだな、レーラさん。どうせ自由に設定できるのなら、1から10までのダンジョンの入り口がある、ダンジョン区画の設立なんていいんじゃないかなって考えている」



 カルディナ城のある領地の端に──というのは当初の発言どおりだが、今竜郎が考えているのはそれよりもずっと大規模なもの。


 元は1つのダンジョンの入り口を適当において、お好きにどうぞと放置するくらいに考えていたものを、来たものたちが自分の能力に応じて自由な難易度のダンジョンへ入れるようにする。


 さらにそこまでやると長く腰を据えて攻略したいというパーティも出てくることが予想されるので、魔物素材の買取施設、宿泊施設、食事処、遊び場、装備や消耗品の買い足しができるような商業施設。

 それらダンジョン攻略で生計を立てようとする人たちが生きるのに、必要となるであろう機関を設立し、大規模なダンジョン区画を作り上げることで自分たちの作ったダンジョンをより多くの人に挑んでもらおうというわけだ。



「……思っていたよりも大規模だな。だが大丈夫なのか? タツロウ。

 それだけのことをすれば、もはや町とも言っていい区画ができてしまう。

 身内だけの生活とも違うだろうし、他人を受け入れることで生まれる面倒事も多くなると思うぞ。

 それを自分たちでちゃんと運営していけるのか?」



 イシュタルは竜郎たちの能力が低いとは思ってはいないが、そういった町の運営に携わる大変さを知っているだけに、心配になりそう問いかけた。

 けれど投げかけられた本人は、きょとんとした顔をしていた。



「イシュタル。俺はそれがもし実現したとしても、自分たちで運営するなんて言ってないぞ?」

「は? それはどういう……? タツロウたちの領地内のことだろう?」

「たしかにそうなんだが、俺は思うんだ。もしそんな環境の町ができたとしたら、運営に携わる人たちは凄く大変だろうと。

 そしてそんなことをしていたら、愛衣とデートする時間も取りづらくなるし、他にもこっちでやりたいことがしにくくなる」

「私とのデートの時間は大事だね!」

「だよな! ──それにだ。一介の高校生だった俺に、うまくできるとも思えない!」

「いやいや、そんなことを言い切るんじゃない……。ではどうするつもりなんだ」

「ハウル王に丸投げ。れっつ他力本願」

「えー……」



 ハウル王、つまり今いるこの場所もその国の一つとなっている、カサピスティ国の王様に、運営やら何やら面倒事は押しつけちゃおうと言いたいようだ。

 イシュタルは、なんじゃそりゃ~といった顔で脱力した。



「他力本願っていうのは言葉が悪かったか。だが向こうとしても、そう悪い話じゃない気もするんだ。

 もちろん、必要な資金や外からの魔物の防衛戦力、治安維持のための戦力なんかはこちらでできる限り協力しようと思っているしな」

「国との共同産業ということでダンジョンの町を作る、みたいなことですの?」

「言ってしまえばそうだな、奈々。この地を扱うことの一番のネックは、周辺の魔物が厄介だということ。

 それらを俺たち側でどうにかして安全をしっかり確保できるなら、国としてもダンジョンや、そこで運営されるであろう施設で得られる利益は欲しいんじゃないか?」



 国を運営するにあたって、お金や資源が豊富にあることにこしたことはない。

 



「ですが主様。そうして公にしてしまうと、こちらが自由にダンジョンを設置できるのではないかと、さまざまな勢力に疑われてしまう気がするのですが、それは大丈夫なのでしょうか?」



 ウリエルが言うように、竜郎たちの領地内に都合よく10個のダンジョンが設置されたとなれば、なにかしらの関与を疑われることは間違いないだろう。

 ダンジョンは危険もあるが富や名声も生む。

 それだけにうちにもどうにかしてと考え、なにかしらのちょっかいを出してくるやからも現れるかもしれない。



「それは俺も考えたんだが、こちらからできるなんて公言する気は一切ない。

 突然湧いて出たとでも言い張ればいいだろう。

 ダンジョンがどうやって発生するかなんて誰にも分からないんだし、俺たちがやったなんて証明できるわけがないんだから」

「それに疑われたり、なにかの拍子にばれたとしても、あたしらにちょっかいを出せるところなんて限られてるっすからね~」



 アテナがそう言いならイシュタルをちらりと見ると、彼女はうちはそんなことしないぞと軽く睨み返していた。



「まあそういうことで、どうかなってな。今のところただの俺の妄想だし、ハウル王だってどういう反応をするかも分からないから、そういうこともあるかもね、くらいに思ってくれていい」



 こちらもとくに反対意見が出ることはなかったので、とりあえず今回のダンジョンの件が片付いたら、ハウル王にチキーモのお土産をひっさげて話をしに行くことにした。



「ですがマスターの希望通りにことが進んだとして、果たして人は来てくれるのでしょうか。

 この地は周辺の人が近づこうともしない、危険領域として周知されているわけですし」

「うむぅ。高レベルダンジョンに挑みに来るような者たちならいざ知らず、低レベルダンジョンに挑みたいという者たちは、アーサー兄上の言うように安全だと分かっていても足を運んでくれるかは疑問なのだ」



 そもそも危険領域だったからこそ、これほど広大な土地を受け取ることができたのだ。

 簡単に人が来ようと思うような土地であったのなら、そうそう手に入れられなかったはず。


 ランスロットが言うように高レベルダンジョンに挑めるのなら、安全を確認できれば居ついてくれそうな気もするが、この世界で圧倒的に多いのは低~中レベルダンジョンに挑むものたちだ。

 町という体裁を取るのなら、その層がいてくれなければ極小規模な発展しか望めそうにないし、せっかく作った自慢のダンジョンに挑んでくれる人も限られてしまう。



「安全面は俺が眷属の魔物や誰かを、防衛のために配置したりすれば保証できると思うんだ。

 けど確かに、長年にわたって根付いたイメージはなかなか変えづらいかもしれないな。

 時間が解決するだろうと楽観的に考えていたが、あんまり時間がかかると構想通りになるまでに何年かかるか分からない……」



 今回は他人──ハウル王まで巻き込もうとしているのだから、できるだけ早く結果が出せるようにしたいところ。

 竜郎がどうしたものかと悩んでいると、隣に座っている愛衣が声をあげた。



「ねーたつろー。私思うんだけどさ。美味しいお店なんかは、何時間並んでも食べたい! っていう人いるじゃん?」

「ああ、いるな。愛衣が隣にいるなら何時間でも待てる気がするが、普段はスルーするくらいのやつが」

「ふふっ、私もたつろーがいたら平気だよ──って、そうじゃなくて。

 だったら、感動するほど美味しいものが食べられる美食の町があったら、多少の危険を冒してでも来てみたいと思う人も沢山いるんじゃない?

 ハウルさんが関わるなら、とりあえず国からは安全ですって言ってくれるだろーしさ」

「なるほど……、別のうま味も提供するというわけか」



 国が安全を保障し、なおかつ一度口にしたら忘れられなくなるほどの料理が食べられる場所であれば、低レベルの人でも集まってくれるかもしれない。

 そうすれば時間もあまりかからず、ダンジョンの町は発展してくれる可能性はある。


 少し希望が見えてきたところで、今度はリアが口を開いた。



「兄さん。うま味……になるかどうかは分かりませんが、私からも一つ提案があります」

「リアからも? 分かった、聞かせてくれ」

「もし兄さんの言ったとおりの状況になれば、不特定多数の人が私たちのダンジョンに挑み活動してくれるようになります。

 そこでダンジョン内に、私が実験や気晴らしに作ったけれど使われずに放置されている装備品を売る、お店を開店するのはどうかと思ったんです」

「ダンジョン内にお店ですの? どうやって売り買いするつもりなんですの?」

「私は店番なんかしたくないですし、さまざまな装備品をいれた、兄さんたちの世界で見た自動販売機のようなボックスを用意し、指定の額を投入することで購入できる──みたいな感じのものがいいですかね」



 竜郎のいくらでも無尽蔵に入る《無限アイテムフィールド》内にも、捨てるのはもったいないからと死蔵しているリアの息抜き作品が大量に入っている。

 そしてそれは日増しにどんどん増えている。


 それらをせっかくだから、この機会に使ってもらえる人の手に渡そうとリアは思ったようだ。



「えっと、例えばどんな装備品を売るつもりなのか、私に見せてもらってもいいかしら、リアちゃん」

「ええ、いいですよ。レーラさん」



 リアは自分の《アイテムボックス》から、頭を休ませるために手慰みに作った綺麗な黄緑色の薄いナイフをだしてレーラに渡した。

 受け取ったレーラは想像以上の軽さにまず驚き、次にそのできに感嘆の声をあげた。


 そして何の素材を使ったのかを聞いてみれば、以前竜郎たちが倒した魔王鳥の羽を1枚使っただけと答えられ彼女は苦笑してしまう。



「1枚とはいえ魔王種由来の極上素材なうえに、物質神から神格をもらったリアちゃんお手製のナイフなんて、国宝級どころの話じゃないわよ。いったい、いくらで売るつもり?」

「あまり安値で売る気はないです。できれば適正価格がいいですね」

「それだと、このナイフも数十億は軽く超える値段で売ることになりそうだけど……いったい何人の人が買えるのかしら」

「それですと、稼ぎのいい高レベルの人しか意味がない気がしますの。

 たとえそこいらの鉄で作ったとしても適正価格ですと、リアが作った物というだけで数百倍の価値が付きそうですの」



 リアの名前自体が有名なわけではない。それどころか、世界的には無名と言ってもいい。

 彼女自身もその名を世界にとどろかせたいと思っているわけではなく、きままに好きな物を作りたいだけなのでそれでいいと思っているからだ。


 だがその製作物の価値は、そのできが物語ってくれている。

 誰が作った物であろうと、その価値は決して揺らがない。

 なので極上素材を使わなくても、相当な値段を吹っかけても見る目があるなら頷ける値が付くだろう。


 けれど勝手に来てくれそうである高レベルの人材ではなく、ここで呼び寄せたい対象は低レベル層の人たち。

 そういう階層があること自体はいいとは思うが、ターゲット層に効果はそれほどないのではないかと奈々は思ったわけだ。


 だが当の本人はニコリと笑う。



「もちろん値段は高くなるとは思いますが、そのお店はダンジョンにあるお店です。

 ダンジョンらしい、割引システムを作るのはどうかと考えています」

「ダンジョンらしい割引きシステム……ですの?」

「そうです。割引きですよ、ナナ。そのままの額が出せないのなら、割引きの額に応じた魔物と一対一で戦ってもらい、自力で買える値段を掴み取るんです。

 なんなら10割引きも検討に入れてもいいです。その分、恐ろしい敵を用意しますがね」

「戦って勝ったら割引してくれるんすか? おもしろそうな、いいお店っすね~。あたしも行ってみたいっす」

「いいねぇ! 俺もそういう店は大好きだぜ」



 戦いが好きなアテナやガウェインが、その構想に目をキラリと光らせた。


 アテナなどは妖精樹の影響で得たダンジョンの機能の内の一つでもある、管理者は自分のダンジョン内の魔物と同期して、VRゲームの様に操作できるようになるというものを使えば、今の自分でも挑戦者たちと互角の戦いが楽しめそうだと、密かに考えていたりもしたのだが。



「いや、お二人のは私がちゃんと作っているんですから、そっちは他の人に譲ってくださいよ……。

 とまあ、とにかくそうすれば低レベル層の人も、そこまでいい素材ではない武器くらいは買えるかもしれませんし、高レベル層の人も頑張ってくれるかもしれません。

 それとあとは極低確率で全レベルのダンジョンの宝箱から出るようにすれば、それを引き当てようと来てくれるかもしれません」

「そこは、俺たちが行ったらこんな武器が買える店があった! このダンジョンすげーや! みたいなアピールを事前にしておけば、効果がありそうだな。

 ハウル王に話に行く前に、そこで手に入れた風の武器もお土産に持っていくか」

「前にレスさんが来たとき槍を壊しちゃってたし、ついでに槍をあげたら喜ぶかもね」



 竜郎たちの領地を囲った壁を破壊できるかどうか試した時に、ハウル王の近衛兵であるレスが槍を二本も破損させてしまったことがあったのだ。



「ダンジョンの個のために協力することで、俺たちにとってもいろいろと面白そうなことができるかもしれないな。

 それじゃあ迷宮神にやってみると報告するが、皆いいか?」



 最後の確認をすると、最初と変わらず誰からも反対意見は出なかった。

 竜郎は「じゃあ、報告するな」と言って、迷宮神にこちらからコンタクトを取るべく、彼女の管轄である迷宮管理者の称号を意識して呼びかけ、受ける旨を伝えたのであった。

次回、第58話は5月12日(日)更新です。

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