表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の革命児  作者: 亜掛千夜
第四章 ダンジョン強化編
56/451

第55話 仁の最初の魔物たち

 竜郎から鎧ゴーレムの魔卵を受け取ると、仁はさっそく自分のスキル《卵収最懐玉》を発動。

 5センチほどの透明な玉が手の中に現れたので、それを受け取った魔卵にコツンと押し当てた。

 するとその玉の何倍も大きかった鎧ゴーレムの魔卵が、一瞬で透明な玉の中に吸い込まれた。



「色や質感が変わったな」



 仁の言った通り、透明だった玉は魔卵を収納したことで真珠のような乳白色をした光沢のあるものに変化した。



「たぶんその状態で、父さんの魔力を注ぎこんでいけば孵化してくれるはずだ。

 魔王種になる魔物の卵だから結構な量が必要になるだろうが、今の父さんなら十分それだけの魔力は保有してるから一気にやっちゃってくれ」

「分かった──」



 仁は目をとじて右手に握りこんだ乳白色の玉に集中し、魔力を込めていく。

 魔力など日本で暮らしていた頃にはなかった代物だが、スキルの発動を意識すれば素人の仁でも簡単にそれができた。


 しばらく魔力を込めている仁の姿を、ここにいるメンバーが黙って見守っていると、いよいよ変化がおとずれた。



「きたっ」



 握りしめた手をほどき、その玉が皆に見えるように天に手の平を向けてつきだすと、真珠のような玉がピカッと光って乳白色の光沢がはがれ、元の透明な玉の中に複雑な魔方陣のような紋様が浮かぶものに変化した。



「ど、どう? 仁くん」

「そうだな……なんか不思議な感じがする。この小さな玉の中に力強い生命がいるってのがハッキリ分かるし、かなり強固な繋がりのようなものができたようにも感じる。これがテイムってやつか」

「最上級のテイム契約が結ばれたわけだしな。それくらいは感じ取れるさ」

「さっそく出してみてもいいか? はやく、こいつと会ってみたい」

「ああ、いつでもいいぞ」



 竜郎と愛衣は互いに目配せし合って、もしなにかの間違いで仁たちに危害を加えようとするなら止められるようさりげなく身構えた。

 本来攻撃能力は乏しく、レベル的にも仁を傷つけられるとは思えないが、注意するにこしたことはない。


 そんなことには気がつかずに、仁は高鳴る胸の鼓動を抑えながら手の平に乗せている玉に命令を下す。



「──出てきてくれ」



 玉の中に浮かんでいた魔方陣が射出され、仁が現れてほしいと思っていたあたり──目の前から数メートル先の地面に同じ魔法陣が浮かび上がる。

 するとそこから全長3メートルはゆうに超える、巨大な盾を持った巨大な灰白色の全身鎧が湧き出すように現れた。



「お、思ってたよりも大きいなぁ……」



 まだレベル1の魔物だというのに、愛衣の父──正和が思わず一歩後ろに下がってしまうほどその姿は力強さに漲っていた。

 だてに魔王種に至れる特別な種族ではないといったところか。


 だがそのゴーレム鎧は正和など意にも介さず、じっと仁のほうに視線を向けると大きく一歩踏み出し主人に近寄っていく。

 竜郎と愛衣が大丈夫だろうが、とりあえず警戒しはじめる中、その鎧ゴーレムはゆっくりと膝を折って仁にかしずいた。まるで長年仕えてきた忠臣のように。



「これから仲良くやっていこう」

「────」



 仁がテイム契約によってできた繋がりを通しながら、そう言葉をかけると、鎧ゴーレムはコクリと静かに頷いてくれた。


 竜郎と愛衣も、ここでようやく警戒を解いた。

 敏感に竜郎と愛衣が警戒していたことに気がついていた楓と菖蒲も、本能的に気を張っていたようで肩の力がふっと抜けた。



「仁さん。名前つけてあげなよ。鎧ゴーレムってのじゃ可哀そうでしょ」

「名前か……。確かに愛衣ちゃんの言うとおりだな」



 ここまで忠義を示してくれている魔物に対し、鎧ゴーレムはないなと仁は自分の従魔をしばらくみつめ名前を考えた。

 そうしてついた名前は──。



「こんごう……金剛でどうだ? 強そうだし堅そうだし、お前にピッタリだと思うんだ」

「…………──」



 感情というものがほとんどないゴーレムにとっては、名称にこだわりはない。

 それでも仁がつけた名前を特別に感じ、自分の中に刻み込むようにしばらく反芻し、金剛はゆっくり頷き自分の名前として認識した。



「契約も安定しているみたいだし、とりあえず魔王種化もさせてみるか。

 そっちでどうなるのかも見ておきたいし、魔王種化させておけば防衛に関しては安心して任せられる。それでいいか? 父さん」

「ああ。仲良く俺と金剛でレベリングってのも楽しそうだが、命がかかってるしな。

 早いところレベルだけでもあげて、俺の防衛能力を上げたほうがいいだろう」



 ということで《強化改造牧場・改》を発動させ、その中に金剛も一緒にご招待。

 ここで竜郎の分霊神器を使って効率よくレベリングだー──と思いきや、仁の従魔という関係性はかなり薄かったようだ。


 竜郎自身との関係性が深いほどより強く繋がれるという特性上、いちおう繋がり合うくらいはできたが、ほとんど竜郎が倒したときの経験値は金剛に入ってくれなかった。


 これでは地道に竜郎たちで弱らせて止めを刺させるしかない。

 さらに厄介なことに、この魔物は手に持った盾でシールドバッシュ、または振り回して叩くという単純な攻撃しかできないので、止めを任せるにもかなり弱らせる必要もあった。



「手間をかける、竜郎……」

「いいよ、それくらい」



 どうせならと仁や美波、正和、美鈴たちの特訓もかねて何度か実戦訓練を積んでいく。


 金剛の参入で両親たちだけのパーティでも、かなり安定感が増していた。

 中でも正和がこつこつ改良した植物たちで、地味にさまざまなアシストをしてくれたのも大きかっただろう。

 ただ地味すぎて、お父さん頑張ってるよアピールしたかったのに、娘にはあまり注目してもらえなかったのが残念極まりなかったが……。


 そんな切ない感情も交じり合いながら、より効率は上がっていたので思っていた以上に手間取ることはなく、魔王種化のボーダーラインであるレベル300を超えた。


 すると金剛の体が輝きはじめ、灰白色の繭に包まれた。

 しばらくその繭を見守っていると、不気味な粘土細工のようにグニャグニャと勝手に動きはじめた。



「これって大丈夫なの? 竜郎」

「大丈夫だよ、母さん。俺のところにいる魔王種たちも、皆こんな感じだったから」



 滅茶苦茶にぐっちょぐっちょとソレは形を絶えず変えて暴れ続け、やがて形を成し色がついて、魔王種へと至った金剛が姿を現した。



「なんだかスマートになったな。かっこいいぞ、金剛」

「────」



 重厚感あふれる3メートル超えの灰白色の全身鎧から、細かな模様が刻まれた銀色で、少し細身になり大きさも2メートル半ほどまで縮小していた。

 盾も体の色と同じ銀色で、鎧の縮小に合わせて小さくなった。


 一見、体格が縮まり防衛能力が下がったように見えるが、盾の大きさは自由自在で攻撃を受ける面積は増大。

 力や素早さも、物理、魔法に対しての耐久力も、魔王種化前とは比べ物にならないほど向上している。


 また魔王種スキル《守護騎士創造・極岩》という1体の創造に数秒かかるが、岩の疑似鎧ゴレームをほぼノーコストで無尽蔵に生みだすスキルも獲得。


 ここまでくれば金剛一人だけでも、カルラルブ国で出会ったパルラトン王、アクハチャック、ウィリトン、護衛として出会った爬虫人の男と天族の女性で徒党を組んだとしても絶対に抜けられないほどの防衛力を有したといってもいい。


 金剛の魔王種化をすませると、速やかに《強化改造牧場》内から出た。

 魔王種に至っても仁のスキルはちゃんと機能し、金剛は彼を守るように側で待機してくれていた。



「予想以上の懐きっぷりだな。この調子なら父さんが金剛を心から信頼できるようになるだけで、《共存する者達》っていう称号が手に入れられそうだ」

「たしかその称号があると、俺も自分の従魔のスキルが使えるようになるんだっけか」

「俺のスキル《親子能力共有》とは違って同時に同じスキルを使うことはできないが、1つのスキルを同時に行使して強化したり、互いに別々のスキルを使ってリソースを分け合うなんてこともできるから、かなり便利なはずだ」

「今あるスキル以外の適性が最低の俺からすると、喉から手が出るほど欲しいな」



 テイマーのステータスは魔法使いよりだが、おおむね全て平均的。

 なのでだいたい魔物のスキルも武術系、魔法系、どちらもそこそこ使いこなすことができる。


 今の仁のレベルならば、どちらも並の武術者、魔法使いよりもステータスが高いので、下手したら魔物自身が使うよりも強い効果を発揮することもあるだろう。


 そのため、これから仁がテイムしていくであろう魔物たちと交友を重ね、その全てと《共存する者達》の称号を得ることができれば現状、自分だけではなにもできない仁の状況もぐるりとひっくり返せてしまうというわけだ。


 とはいえ尖ったステータス値がないので、竜郎たちのような強者から見れば器用貧乏とみられてしまうのだろうが。



「まあ、そこは自分の味方をしてくれる魔物たちでカバーできるだろ」



 これからの仁の課題は、1体1体を心から信頼できるようにしていくということで決まったようなので、竜郎が残りの魔卵2つを彼に渡していった。



「その2体はどうする? 父さん。金剛と、ちゃんと信頼関係を築けてからっていう手もあるが」

「う~ん……。今ならちょうど竜郎たちもいてくれるし、とりあえず残りの2体も孵化させて、3体といろいろ接してみることにするかな」

「分かった。順番にやっていこう。2体同時に魔王種化させた場合の状況も見ておきたいしな」



 ユニークスキルなので1体は大丈夫でしたが、2体同時に従魔の魔王種化にはスキルが堪えられませんでした──なんてことにはならないだろうが、こちらもついでに調べることに。


 一本角の黒鬼、金水晶の鱗をもつ小さなヘビ。その両方を順々に、金剛のときと同様の手順で孵化させていく。

 やはりこちらも問題なくテイムできていたので、黒鬼には『羅刹らせつ』、ヘビにはメスだったこともあり『弁天べんてん』と仁が名付けた。


 2体ともその名が気に入ってくれたようなので、また《強化改造牧場・改》でレベル300までトレーニングを開始。

 この2体は金剛よりも攻撃能力は高かったので、それほど苦労することなく魔王種化まで至ることができた。


 ちなみに魔王種化した羅刹は、手の甲に生えた大きな鎌刃が自由に動かせる三つ又鎌刃に変化したくらいで、ほかにとくに変更点はない。

 覚えた魔王種スキルは、一瞬だけ腕一本丸ごと大きな鎌刃に変えて、本来の数十倍の威力と速度を有したそれで敵を切り裂くという《腕刃極速斬》。


 弁天は全長30センチほどから、倍の60センチほどに成長。太さも女性の手首くらいになった。

 頭に生えていたカツラのような金の毛はさらに伸び、ロンゲのカツラをかぶった金水晶の鱗をもつヘビといった風貌に変化。

 覚えた魔王種スキルは、指定した範囲内にいる味方の疲労やエネルギー消費、重度の怪我まで癒す《金鱗願望・再生》。

 ただしこれは金水晶の鱗を範囲の広さや人数に応じて消費してしまい、これは治癒ではなく時間経過でないと鱗が再生しないので連続で何回も使うのは難しい。



「こっちの子らも問題ないな。さすがユニークスキル」

「みたいだな。ありがとう、竜郎。あとは、この子らと一緒にいろいろ過ごして仲良くなることにするよ」

「どういたしまして。これで父さんも金剛たちを連れてなら、カルディナ城の敷地外にでても大丈夫そうだな」

「もう少し、この子たちとの戦闘になれてからのほうがいいと思うけどね」

「分かってるよ、愛衣ちゃん」



 これで仁の従魔選定第一弾は終了した。

 それなりに時間をかけてしまったので既に時刻は昼時。お腹が空いたので一度カルディナ城に戻ることに。


 チキーモやララネストではないが、美味しい食事をいただいた竜郎と愛衣は二人で手を繋ぎ、元気よく前を歩く楓と菖蒲を見守りながら妖精樹の方へとやってきた。


 すると妖精樹の周辺では、あまり顔なじみのない妖精たちと一緒に、150センチほどで薄緑の髪色に上に少し尖った耳、さらに背中からは小さな可愛らしい羽が生えた妖精の少女といった風貌をしたイェレナが、なにやら話し合っていた。


 妖精樹の成長とやらのことについて聞きたかったのだが、今は忙しそうだし後にしようかと竜郎と愛衣が踵を返そうとしたところで、向こうがこちらに気付いてパタパタと飛んで近寄ってきてくれた。



「こんにちは、タツロウくん、アイちゃん。それにカエデちゃんと、アヤメちゃん、だったわよね?」

「こんにちは」「こんちは~、イェレナさん」「「あぅ!」」



 小さな楓と菖蒲の元気のいい挨拶に、イェレナがふふっと可愛らしく笑うと、むこうから本題を振ってきた。



「妖精樹の成長の件かしら?」

「はい。危険はないとフローラにも聞いていたんですが、ちょっと気になって見に来てしまいました」

「でもさぁ、とくに見た目は変わってなくない? もっとでで~んと、おっきくなってるのかと思ったんだけど」

「見た目はあんまり変わらないわ。これからも成長したとしても、精々幹が太くなって背丈が数メートル伸びる程度のはず。

 でも内面は大きく変わっていて、以前よりもさらに高エネルギーを蓄えられるようになってきているの」



 イェレナの言っていることを確かめるべく、竜郎は《精霊眼》で妖精樹を観察してみた。

 すると以前よりもさらに眩しくエネルギーが溢れかえっているのが、すぐに理解できた。


 そんなことをしていると、ふいに緑のドレスを着て、頭には月桂樹の冠をした足の無い美しい女性の幽霊の姿をした、ここにある妖精樹の化身──ルナが竜郎たちの側にスススーと空中を滑るようにやってきた。



「これも……管理人さんたちが……沢山いろんな……魔力を注いでくれた……おかげ……。ありがとう……」

「そうなのか?」



 妖精樹は魔力を養分として食べることができる。

 そのため暇なときに寄ったさいに、竜郎やその仲間たちが魔力を少しずつ分け与えていたのだ。



「普通じゃ、もっと成長には時間がかかるはずだからね。

 どれだけあげてたのよって、最初びっくりしちゃったわよ」



 竜郎たちからしたら少しの魔力でも、他の人間からしたら膨大な魔力だ。

 そんなものを頻繁に与えられていた妖精樹は、栄養ならぬ魔力を蓄え元気すくすく育ってくれたようだ。



「おかげで……ダンジョンの……管理、しやすくなった……」

「そっちにも影響あるんだね」



 竜郎たちが保有するダンジョンは妖精樹とリンクさせているので、少し普通のダンジョンとは異なる性質を持つようになっていた。

 そのため妖精樹の成長と共に、より多くの干渉ができるようになったらしい。



「それは興味深いな。いったいどんなことが──」



 ──できるようになったのか。

 そう竜郎がルナに問いかけようとしたところで、不意に2人の頭に小さな少女のような声音が響き渡った。



『そのことで少し相談があるのだけれど、いいかしら?』

「迷宮神さん? どーしたの急に?」

『今の妖精樹なら、できることがあるのよ。だからそのことについて、話を聞いてくれない?』

「その相談に対して希望にこたえられるかどうかはまだ分かりませんが、とりあえず聞くだけ聞かせてくだい。

 相談したいこと、とはいったいなんでしょうか?」



 竜郎は予防線をしっかりと張ってから、あらためて迷宮神に問いかけると、彼女は静かに、けれどハッキリと、こう言ったのであった。



『ダンジョンの個の外出の件よ』



 ──と。

次回、第56話は5月8日(水)更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ