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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第三章 カルラルブ大陸編
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第51話 突然の賭け

「代表して僕から紹介させていただきます。僕の名前は竜郎・波佐見。身分としては冒険者をしています。

 そしてここにいるメンバーは、その仲間たちです。順番に──」



 竜郎は愛衣からはじめ、ニーナ、ヘスティア、千子、エンター、亜子、楓、菖蒲と紹介していった。

 カラドボルグは魔物なので、ここに来る前に《強化改造牧場》内に戻したので、この場にはいない。



「儂の名前はそこにいる孫から聞いているかもしれないが、改めて名乗らせていただこう。

 ここカルアルブの国王をしている、パルラトン・オダヒンガム・カルラルブと申す。

 タツロウ殿たちのような強者と知り合えるとは光栄だ」

「こちらも、お会いできて光栄です」



 パルラトンは本気で言っていたのであろうが、つい数時間前まで会う気すらなかった竜郎は社交辞令としてそう返した。

 パルラトンもそれが社交辞令だと気が付き、おかしそうに笑みを深め、そんな夫を見て老婆は微笑ましそうにしていた。夫婦仲は円満なようだ。



「くくくっ、しかし冒険者か。タツロウ殿らほどの力があれば、さぞやランクも高いのだろう。

 もしや最近この国に入ってきたという、新しい世界最高ランクの冒険者だったりするのだろうか?」



 国王にはすでに自国に世界最高ランクの冒険者たちの来訪という情報が、入ってきているようだ。

 否定することでもないので竜郎が素直に「そうです」と答えると、ますます嬉しそうに鼻を膨らませ興奮しはじめた。



「あの『ディオノルム』を個人のランクでも超えてしまうとは本当にすごい。

 昔リーダーのインベル殿と手合せしてもらったこともあったが、あのかたも本当に強かったというのにな」



 よほどパルラトンにとっていい思い出だったのか、インベルなる人物のことを語る時の顔はとてもにこやかだ。

 しかしそのまま昔話まではじめようとしたので、アクハチャックが待ったをかけた。



「爺様、そろそろ本題に入らせてくれ。話が進まないじゃないか」

「──そうだった。今はあの件のほうが重要だ。では話してくれ」

「分かった。とりあえず、まずはじめに受け取ってほしいものがある」

「受け取ってほしいもの?」



 アクハチャックは首を傾げるパルラトンの方へ歩いていき、胸元に忍ばせていたものをだして手渡した。

 それは何重にも布に巻かれており、パルラトンが丁寧にそれをはぎとっていけば、中から薄青い宝石のような物が出てきた。

 この一件に関係があり、この特徴をもつ代物と言えば一つしか考えられない。



「──まさかっ、手に入れたのか!」

「ああ。といっても、俺たちはなにもしてないんだがな」

「おおっ、ではタツロウ殿たちが見つけてくれたということか!」

「ああ、それも話をした翌日に、当たり前のような顔をして持ってきてくれたぞ」

「広大なこの大陸の中から一匹の、それもそれ自体が発見困難だと言われているチキーモを、たったの一日で見つけたと? 凄まじい探索能力だな」

「あの時はもう、俺たちの苦労はいったい何だったんだと叫びたい気分だったよ」



 実際には一日どころか半日足らずだったが、話がややこしくなりそうだったのでアクハチャックもそこまで補足しなかった。



「ではこれが本物の鍵なのかどうか、さっそく解析に回しておこう」

「いや、その必要はないぞ。爺様」

「ん? どういうことだ、アクハチャック」

「また後出しで申し訳ないんだが、実際に使って確かめたから本物で間違いない」

「「──なっ」」



 パルラトンはもちろん、上品に背筋を伸ばし座っていた王妃も同時に声をあげた。

 僅かに残されている信用のおける重鎮たちも、目を剥いてアクハチャックを見ていた。


 だがその驚きはすぐに怒りへと変わっていく。

 先ほど鍵が見つかったと知らされたときとは打って変わり、パルラトンや王妃、重鎮たちは恐ろしい形相になっていた。



「ア……アクハチャック!! なにを勝手なことを!! もしそれで魔竜がこの国に解き放たれたら、どう責任を取るつもりだったんだ! いくらお前とはいえ許さんぞ!」

「まーそう言われるのは分かってたさ。だがあのときはそうするのが、この国にとって一番いいことだと思ったからこそ、強行させてもらった。

 現にもう誰が何をしようと、二度と魔竜は現れなくなったわけだしな」

「……は? お前はなにを言って──」

「口で説明するより、目で見たほうが早いだろう。タツロウ、頼めるか?」

「ああ」



 聞き手に回っていた竜郎は道中軽く打ち合わせていた通り、《無限アイテムフィールド》からあるものを取り出した。

 あるものを見るなり、その場にいる王たち全員が怒りなど吹っ飛び、ぎょっとし息をのんだ。



「な? 口で言うよりも早いだろ?」

「お、おおお、お前、もしやそれは──」

「ああ、この国にずっと重くのしかかってた魔竜の頭だよ、爺様」



 そう。竜郎が出したのは半分に切ったものを、綺麗に復元し直した魔竜の頭部。

 竜にしては小ぶりな頭だが、それでも一メートルはあろうその頭部から放たれる異様な気配は、その首の持ち主が並大抵の存在ではなかったであろうことを物語っていた。



「あの伝え聞く忌まわしき魔竜を討伐したというのか……」

「まあ、偉そうに言ってるが俺たちは完全にお荷物で、後ろで見ていることしかできなかったんだがな」

「それはそうだろう。その魔竜のもつ死してなお感じる気配……、儂でもおそらく足手まといにしかならなかっただろう。しかしこれが本当にそうなのか?」

「ああ、そうだよ、爺様。今なら宝物庫内で死んでいった者たちの遺物を探すこともできるし、中の宝物も取り放題だ」

「タツロウ殿。アクハチャックが言っていることは、嘘偽りない真実なのだろうか?」



 彼の言葉だけでは信じられず、パルラトンはタツロウを真剣な眼差しで見つめ問いかける。


 相手は世界最高ランクの冒険者。

 それは冒険者ギルドという巨大な組織が、最大級の信頼を置いている実力者ということを示すものでもある。


 そんな人物が、この様な場でたちの悪い嘘など吐けば、その信頼は地に落ち、ランクどころか冒険者としての身分も剥奪。

 さらに世界中に不名誉な情報が飛び交うと、一国の王にこのような嘘をつくにはリスクが大きすぎる。


 それだけに竜郎たちの言葉はアクハチャックよりも、何倍も真実味を帯びている。

 竜郎もそれをしっかりと理解したうえで、大きく頷き返した。



「本当です。僕らは魔竜の素材が欲しかった。カルラルブ国は魔竜の存在が重しだった。

 それらの話を聞き、我々が討伐したしだいです」

「それはいったい、いつの話なんだろうか?」

「今日の朝に出発してお昼すぎには帰ってきましたので、その間ですね」

「疑っているわけではないのだが……それほどの魔竜との熾烈な戦いともなれば、戦闘の余波がここまで届いてきてもおかしくないのではないか?」

「あー爺様。何か勘違いしているようだから口を挟ませてもらうが、俺たちがさんざん恐がっていた魔竜は、タツロウたち相手だと完全にそこいらのちょっと強いトカゲくらいの扱いだったぞ。

 とてもじゃないが、あの戦闘を熾烈とは言わない。あれはもう一方的な狩りと言ってもいい」



 無言で王たち側の者たちの視線が、バッと一斉に竜郎たちのほうへ向けられた。



「今彼が言った発言は、あくまで個人の主観なので肯定も否定もしませんが、レベルが最高でも350と言われていた上級竜であるなら、僕らにとっては美味しい素材の塊でしかないです」

「現に戦っていたのは、ほとんどチコさんとアコさんたちだけだったからね……」

「む、むぅ……それほどか……」



 今までウィリトンに対して視線すら合わせてこなかったパルラトンが、思わず漏れた彼の言葉に反応した。

 自分が思っていた以上に異常な存在だとなんとなく理解しはじめたのだろう。

 同時に、まず間違いなく、この国に巣食っていた癌とも呼ぶべき魔竜が消えたということも。


 しかしそうなってくると、パルラトンの悪い癖が出てきてしまう。

 もともと演技が苦手な性格の彼は、誰が聞いてもわざとらしいと思う空咳を一つついた。



「ごっ、ごほん。たしかにアクハチャックの言葉は信頼に値するようだ──が、しかしどうせならもっと大きな確証が欲しいところ。

 そこで儂に一ついい案があるのだが、どうだろうか」

「爺様よ、いったい何を言いだす気だ?」

「い、いやぁ、その、な? 今のところ、この国で一番強いのは儂だろ?

 アクハチャックとて、まだ儂には勝てはしないしな」

「それは確かにその通りなんだろうが……それで?」

「それでだ。そういうことなら、儂とタツロウ殿たちの誰かが模擬戦でもしてだな、そこで勝ってみせてくれれば、この場にいる誰が見ても、凄い力の持ち主だと理解できるだろう。うむ、非常にいい案だな!」

「はぁ、あなたは自分が戦ってみたいだけでしょうに……」



 王妃が小さく零した言葉は静かだったこともあって誰の耳にも届いたが、本人が完全に聞こえないふりをするものだからアクハチャックも突っ込みを入れられる空気ではなかった。


 アクハチャックはそんな状況で、遠慮がちに竜郎たちに振り返った。



「タツロウ。あんなことを言っているがどうする? なんなら無視してくれても全然いいぞ。

 爺様はただ強いやつと一人でも多く戦ってみたいと思っているだけだからな」

「ななななな、何を言っているアクハチャック! 余計なことを言うんじゃない!」

「あのなぁ、爺様──」

「なんだ、孫!」



 二人は仲がいいのか、ただ相性がいいだけなのか、二人で口論をはじめてしまう。

 しかしそんな中、竜郎たちは今の提案について念話で話し合っていた。



『どうする? たつろー』

『う~ん……そうだな。どうやらただ俺たちと戦ってみたいっていう純粋な気持ちみたいだし、そこで気に入ってもらえるようなら、今後の話もより潤滑に進むだろうな』

『じゃあ受けるってこと?』

『ああ、今後の利益のためにも受けておこう』

『ニーナがやってもいいよ! パパー』

『私でもいいぞ! マスター。魔竜戦ではあまり活躍できていなかったからな!』

『いやぁ、ニーナやエンターだと分かりやすすぎて効果が薄い気がするんだよな。そうなると、この中では俺が一番適役だと思う』

『効果って何のことか聞いてもいい? 主様』

『一言で言い表すのなら衝撃度──かな』



 竜郎のその念話に、質問をした亜子はもちろん、他の面々もクエスチョンマークを頭の上に浮かべていた。

 けれど竜郎がもう少し分かりやすく説明すると、ああ、そういうことかと納得してくれた。



「パルラトン王陛下。ならば僕が相手をしましょうか?」

「おっ、おお! いいのかな!?」

「いいのか? タツロウ」

「ああ、いいよ。それでいろいろ懸念事項も片付けたいからな」



 懸念事項? とアクハチャックが聞き返す前に、竜郎はパルラトンに向かって発言する。



「ですが一つ賭けをしませんか? もし僕と戦って一度も有効打を与えられなければ、チャックたちが今回、僕らに魔竜の件を勝手に話したことをできるだけ穏便に済ませてもらいたいです」

「う~む……うるさそうなやつらもいるからな……だがしかし、賭けというのは面白そうではある……う~~~む」



 既に知らぬ仲でもないので単純に助けたいという気持ちもあったが、ここでアクハチャックたちに恩を売っておくことで得られる利もあるだろうと思ったからこその提案だった。

 けれどパルラトンだけの意見で強行できないらしく、説得しなければならなさそうな身内の顔を何人か思い浮かべ唸りはじめる。

 だが、それも直ぐに終わった。



「──よし、分かった。もし儂が有効打を一度も与えられなければ、儂は全力でアクハチャックの擁護に回ろう」

「えっと、ウィリトンもお願いします」

「……うむ、分かっているとも。だが、賭けというからには儂が勝ったときの提案も飲んでもらえるのだろうか?」

「ええ、まあ、僕らができる範囲でになりますが」

「ならば! 儂が勝ったらタツロウ殿たちの誰でもいいから、定期的に儂と模擬戦をしてもらいたい!」

「……え? それでいいんですか?」

「あまり無理を言って嫌われては困る。では、それでいいかな?」

「ええ、それで大丈夫です。」



 竜郎限定であったのなら少し面倒とは思ったが、誰でもいいのなら自分を含め手が空いている人員を定期的に送ればいいだけだ。

 それほど難しい提案でもないと判断した。



「それで場所はどうしましょうか? ここでは不味いですよね?」

「いいや、ここで大丈夫だ。この城はどこでも戦えるよう、特別頑丈に作られておるからな」

「あー、確かにそんな感じしますね」



 この城が外も中も飾り気がないのは、戦いになったときに壊さないようにということなのかもしれない。

 それでも竜郎たちが少し力を込めて攻撃すればあっさり崩れるだろうが、模擬戦でそこまでする気もないので大丈夫だろう。


 ということでこの王の謁見部屋とは思えないほど、ほとんど何もない部屋の中心で少数のギャラリーが見守る中、無手と無手で5メートルほど距離を取って向かい合う。



「武器や防具をつけてもいいんですよ? パルラトン王陛下」

「儂もこれでいい。というか体術使いだからな。この身一つあれば誰とでも戦える。それが儂だ。

 ……にしても先ほどから凄い自信だな。ますます楽しくなってきたぞ、タツロウ殿」



 普通ならば馬鹿にしているともとれる状況ながらも、パルラトンは完全に竜郎を格上と認め、挑戦者の気分で心躍らせていた。

 こんな気持ちになるのは、どれくらいぶりだろうかと。


 試合の合図はアクハチャックがすることになっている。

 やや遠巻きに見つめながら互いに準備ができたことを確認し、強く手を叩きながら声をあげた。



「──はじめ!」

次回、第52話は4月24日(水)更新です。

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