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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第三章 カルラルブ大陸編
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第48話 魔竜との決着

 ここまで追い詰められながらも、なにもしてこないということは、この魔竜はこちらにとって脅威となるスキルはないのだろうと判断し、竜郎と愛衣は認識阻害を発動させながら近づいていく。


 そのときに楓と菖蒲に竜郎の姿が見えなくなると、ぐずってしまうかもしれないので、魔竜だけにかかるように調整するのも忘れない。



『あんだけ恐がってるとなると、認識阻害しなくてもいけそうだけどね』

『けど腐っても竜だ。念には念を入れておいた方がいいだろう』



 魔竜の尻尾側にたどりつくと、竜郎は《多重レベルイーター》を発動。

 口内につくられた黒球を複数吹き出し魔竜に当てていくと、情報が頭の中に浮かび上がってきた。



 --------------------------------

 レベル:362

 スキル:《垂死覚醒》《極擬態死》《暴黒竜重腕》

     《暴黒竜刃》《鱗超再生》《竜飛翔 Lv.10》

     《かみつく Lv.17》

     《突進 Lv.16》《竜爪襲撃 Lv.15》

     《回転竜鱗飛散 Lv.18》《超速回転竜突 Lv.20》

     《強感覚 Lv.6》《竜火の息吹き Lv.14》

     《竜尾閃 Lv.12》《落下竜撃 Lv.14》

     《堅牢体 Lv.18》

 --------------------------------



(大当たりじゃないか! レベル300あればラッキーくらいに思っていたが、これならレーラさんも竜力増強できるんじゃないか?)



 明らかにされたレベルの高さに、竜郎は飛び上がりそうになりながらも、スキルを吸い出していく。

 愛衣は竜郎の嬉しそうな横顔から、思っていた以上にレベルが高かったんだろうと察した。



(《暴黒竜重腕》っていうのは、あの黒い鎧みたいな腕のことで、《極擬態死》っていうのが高度な死んだふりスキルってところだろうが……《垂死覚醒》か。

 ようは死にそうになると覚醒するってことなんだろうな)



 実際にこの魔竜は、このスキルのおかげで《極擬態死》《暴黒竜重腕》の両スキルを獲得していた。


 また余談だが、千子が蹴ったときに発動していたスキルは、《竜飛翔》《鱗超再生》《暴黒竜刃》《回転竜鱗飛散》《超速回転竜突》《落下竜撃》を合わせた、まさにこの竜にとっての必殺技だったりする。



(ということは下手に時間をかけて追いつめると、また変なスキルを生み出す可能性もありそうだ。

 そう考えると、今の状況はベストな拘束方法なのかもしれないな)



 亜子の《感情玩弄》で恐怖から動けなくなっているだけで、身体的なダメージは、さっきからこっそりとチビチビつまみ食いならぬ、つまみ飲みしている千子からの吸血のみ。

 垂死──今にも死にそうな状態とは違うと言える。



(終わりっと──んじゃあ、治療していきましょうかね)



 《多重レベルイーター》で相手のスキルレベルのみを糧にし終わると、竜郎ははやる気持ちを抑えながら光でブーストした生魔法を一気に行使していく。


 古傷になるほど再生は難しくなり、また大きな部位欠損の再生も難易度は高め。さらに治療行為とはいえ、魔竜自体が受け入れようとしていないので、魔法への抵抗力も働く。並みの生魔法使いでは不可能だろう。

 だが神力、竜力、魔力全てをまぜた強エネルギー神竜魔力を用いたこともあり、まさに一瞬で失った前足2本と太く立派な尻尾が生えてきた。



「ゥゥゥッ、ゥゥゥゥッ、ゥ……」

『ありゃりゃ? この魔竜さん、腕と尻尾が生えたことにも気が付いてない?』

『恩に着せる気はないが、ここまで無反応だとやったかいがないなぁ。

 まあ、いいや。それじゃあ、締めといこう』



 竜郎は杖を構え、闇魔法で極限まで硬質化した捕縛魔法つきの氷の鎖で魔竜を縛り上げていく。

 その氷には全力で呪魔法によるステータス下降、封印魔法もオマケについており、《垂死覚醒》が発動しないように全スキルを一時的に凍結しておいた。



「亜子、普通の状態に戻してくれ」

「了解よ、主様」

「──────ヴァッ!?」



 これまで恐怖で塗り固められていた心が戻り、ようやく自分の前足と尻尾のこと、そして氷の鎖によって捕らわれていることに気がついた魔竜。

 そこで竜郎は魔竜の顔の前までやってくる。



「こんにちは、魔竜くん。いちおう聞いておこう。俺にテイムされる気はあるか?」

「ゥウ──?」



 突如持ちかけられたテイム契約に怪訝そうな顔をするも、ちらりと亜子と千子の方を向けばどうやら、この人間は同胞なのだろうということくらいは理解できた。

 だったらと、この魔竜がとった行動は──。



「あれ? マジ──」



 テイム契約に応答があり、じわじわと契約が結ばれていく。

 竜郎は意外に思いながら、少し残念だがそれならそれでと見守っていると……。



「ヴァァアアアアッ!!」



 いきなり契約を取り止め、そのまま全力で竜郎に噛みついてきた。

 しかし竜郎に牙が当たると、あっさりとそれは折れてしまった。



「やっぱり、そうなるか。しかしテイム契約でフェイントかますなんて、一人でいる間に頭もよくなったのかもしれないな」

「ゥァ…………」



 冷たい目をする竜郎に、目線を逸らさず魔竜はゆっくりと後ろに下がっていく。


 実はテイムできるのならそれでもいいとは思っていたが、この魔竜に対しては試験のようなこともしていた。


 竜郎は呪と闇魔法で限界まで弱そうに見えるよう偽装し、体の周りに絶対に魔竜では貫けないほどの強度を持った障壁を纏い、わざと魔竜の目の前にやってきた。

 そんな自分が餌と見ていた人間たちと変わらない者に対して服従の意志を示すことができたのなら、この魔竜とも共存できるのではないかと考えたからだ。


 けれど結果は拒絶。

 それどころか、竜郎を目の前で殺して千子や亜子の動揺を誘おうとすら考えていたようにも思える。

 これではたとえ無理やりテイムしても、なにかの拍子に契約が切れてしまうようなことがあれば、ただの獣と同じように近くの人間に襲いかかってしまうだろう。


 そんなリスクを抱え素材を放棄してまで、竜郎はこの魔竜を欲しいとは思わない。



「お前からしたら本能のままに生きていただけなんだろうが、存在が危険なんだ。悪いがここで始末させてもらう。

 恨むなら閉じ込めたチャックたちの祖先にしといてくれ。そうしなければ出会うこともなかっただろうしな」



 閉じ込めなければ最悪エーゲリアたちが出張ってきて殺されていただろうし、竜郎たちにとっては幸運だったともいえるかもしれない。



『皆、今から繋いでいくが準備はいいか?』

『おっけー』『大丈夫だよー』『ん』『はい』『もちろんだとも!』『了解よ』



 竜郎はチャックたちに対して認識阻害しながら、《分霊神器:ツナグモノ》を発動。

 自分の胸元から出てきた虹色ロープを解いてできた細い糸を愛衣、ニーナ、千子、エンター、亜子、カラドボルグ、楓、菖蒲に繋いでいく。


 つながったことで入り込んでくる皆のエネルギーを混ぜ合わせ昇華し、一つの魔法を構築した。

 それは光の粒子が舞い散る氷でできた断頭台。まるで芸術作品のように美しいが、モチーフは処刑道具。


 竜郎が振り上げた杖を無情に降ろせば、氷の刃が容赦なく魔竜の首を刎ね飛ばした。

 だが一切血は飛び散らない。なぜなら切断面は綺麗に凍結されて、血を塞いでしまっているからだ。


 巨大な頭がボトリと落ちて、顎を微かに動かしながら目がぎょろりと動き竜郎をじっと見つめてきた。

 そしてその瞳に宿った生気が失われていった──かと思えば、再び輝きを取り戻す。



「──────!!」



 胴体を失った凍った首回りから黒い蛇のような長細い体が生えだし、声にならない叫びを上げながら竜郎に牙をむいてきた。



「──ふっ!」

「……………………────────」



 しかし竜郎は、これよりもっと異常なしぶとさをもつ魔物を相手にしたことだってあるのだ。

 相手の死亡が完全に確定するまで気を抜くわけもなく、冷静に余っていたエネルギーを使い魔竜の首と蛇のような胴体を、氷の刃を飛ばし竹を割ったように綺麗に縦に切り裂いた。


 ボトンと重い音を立てて、真中からに縦に2分割された頭が落ち、蛇のような黒い胴体は消え去った。


 それと同時にレベルアップはしなかったが、竜殺しの称号関連のアナウンスが竜郎の耳に届いた。



(封印していたはずだし、断頭なら一瞬で倒せると思っていたんだが、思っていた以上に《垂死覚醒》の効果は高かったみたいだな。

 もし同じようなスキルを見つけたら注意しよう)



 魔竜の目を見れば完全に光を失い、ただただどことも知れぬ方向を見つめて事切れていた。

 そこでようやく竜郎は分霊神器スキルによる繋がりを断ち、戦闘終了の知らせを仲間たちに念話で送った。



「最後のはいったいなんだったの? いきなりびょ~んて、体が生えてきたけど」

「死にそうになると覚醒するっていうスキル持ちだったんだが、おそらくそれが発動して、首だけでも生きられるスキルを取得したんだと思う」

「うへぇ……なにそれ。やっぱ竜っていうのは凄いんだねぇ」



 などと愛衣と話しながら竜郎が魔竜の頭をしまっていると、皆が集まりはじめた。


 楓と菖蒲がヘスティアの手を離し、竜郎に飛びついてくる。

 やはり分割されているとはいえ魔竜の経験値的なものが入ったので、今までより力が強くなっていた。

 これは少し大人しくできるようになるまで、レベリングしないほうが自分の身のためだなと密かに思っていたのだが、それよりもっと衝撃的なことが起きた。



「「パッパー!」」

「ん!? 今、俺のことパパって言ったか?」

「「うー! パッパ、パッパ」」

「レベルがあがったから、知能も少し上がったのかもしれないわねぇ」

「ほんまに小さい子は愛らしおして、かいらしいなぁ」



 亜子と千子も竜郎に抱きつきパッパ、パッパと連呼する楓と菖蒲にホッコリしていた。



「ねぇ! 私は!? ママって言ってみて、楓ちゃん、菖蒲ちゃん」

「「うー? まーま?」」

「いや~ん! かわいいーー!」

「「マーマ、マーマ!」」



 愛衣がほっぺにちゅっちゅとキスをしてきたので、いいことをしたのだと感じ、今度はマーマと連呼しはじめた。

 その光景にニーナが口を尖らせていたので、竜郎がおいでと手を伸ばせば、小さくなってその胸に飛び込んだ。


 その光景は、それはそれはなごむ光景だったことだろう。

 首のない魔竜の死骸が真後ろになければの話だが……。


 現にエンターと合流し、ようやくやってきたアクハチャックたちは、その混沌とした光景にどうリアクションしていいのか分からず、ただただ呆然と見ていることしかできなかった。






 魔竜の胴体もすべて収納し、飛び散った鱗やへし折れた牙の1本にいたるまで根こそぎ回収し終わると、竜郎はニーナからこの宝物庫の鍵を受け取った。



「それじゃあ、チャック。鍵は返す。あとは好きにここを使ってくれ」

「あ、ああ。ありがとう……。だが、目の前でどうどうと開けられてしまうところを見てしまったからな、もう宝物庫として使うのはよそうと思う……」



 レベル360という、竜郎たち相手だったので分かりにくかったが、一般的な国ならば簡単に滅ぶ魔竜すら完全に閉じ込められていたのだ。

 セキュリティ面からしても、ここほど優秀な宝物庫もないだろう。


 けれどたとえこの世で開けられる存在が片手の指の数以下だったとしても、開けられるという事実がある以上、このまま宝物庫として使うのは難しい。



「あー……なんか悪いな。ちょっとやってみたくなっただけだったんだが」

「ちょっとやってみたいという気持ちで開けられてしまったというのは複雑極まりないが、別に問題はないさ。

 今までだって、ここを使わずにやってきたんだから、脅威がなくなっただけで儲けものだ。

 タツロウ、そしてその仲間たちも。本当にありがとう」

「ありがとうございます」



 アクハチャックに続きウィリトンも深々と頭を下げて礼を言い、護衛たちも黙って頭を下げ感謝の意を示してくれた。



「喜んでくれたなら、こっちもやったかいがあったよ。それじゃあ、とりあえずここを出ようか」

「そうだな……」



 戦闘中は魔竜にしか目がいかずに気が付かなかったが、明らかに何年も前の血の跡らしき黒染みが点在していた。

 骨はないが、ここで魔竜に殺された者たちの跡だろう。


 そんなところでゆっくり話をする気分にもなれないので、とりあえずここから離れ、魔物博物館の客間まで戻ることになった。



「ああ、そうだ。昨日言ったと思うんだが、魔竜の件が片付いた今、相談したいことがあるんだ。話だけでも聞いてくれるか? タツロウ」

「ああ、話を聞くくらいなら問題ないよ。それに俺も相談したいことがあるからな」



 いったいどんなことを相談されるのだろうかと、ビックリ箱のような竜郎たちに頬を引き攣らせ、宝物庫から出ていく彼らのあとをアクハチャック一同、ついていくのであった。

次回、第49話は4月17日(水)更新です。

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