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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二二章 

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第472話 亜獣人創世歴:1年~200年

 住居問題は竜郎の嫌がらせともいえる策により、ほぼ全ての亜獣人たちが木造建築を選び、それでも頑なに嫌がった勢力は村を出た。

 これまで一つだった亜獣人の群れが二分されてしまったのは変わらないが、それでも険悪な雰囲気はなくなり、村に残っている者たちは相変わらず自分勝手ではあるが、それでも彼らなりに仲良くやれていた。


 一方で外に旅立った第二勢力も、順風満帆な旅路だった。

 亜獣人のために創造されたといっても過言ではない世界だけあり、村を出ても草木は生い茂り、適度に弱い食用として配置した魔物もあちこちにいる。草食肉食共に飢えとは無縁だ。

 水源となる川や湖も適度に散らしてあるため、渇きによる脱水で死ぬなんてこともまずない。

 村外派は辛い季節もあるが、死ぬほどではないから我慢すればいいと慣れてしまってもいた。

 村内派などはもっと、気楽な生活を送っている。



「最悪、亜獣人同士で共食いとかしそうで恐かったから食料に困らないようにしたが、ちょっと過剰すぎたか」

「なんかもう定住先探すの止めて、あちこちフラフラ気ままに散歩して移動する人たちになってきてるもんね」

「別にそれが悪いってわけでもないんやけどね。なんや全体的に、さぼり癖がつき出した気ぃするわ」



 その日暮らしでも食うに困らない。前の世界よりも彼らのことを考えて創造されているためか、2年目を過ぎた頃には全体的に肥満体型の亜獣人が増えてきていた。



「マスターの優しさ故に、と言ったところでしょうか」

「過保護も過ぎれば毒になってきそうですね」



 5年目に突入した頃には、ブクブクと肥え太った亜獣人ばかりになってしまった。

 そのせいでこれまでの亜獣人たちには無縁のものだった、贅沢病ともいえる疾患を抱えだし、それが原因となり早死にする個体も出てきた。



「遊牧チームの方も、ほとんど動かなくなっちゃったね……」

「というかここに至ってもまだ、スキルを取る人ら少なくあらへん?」

「神に……マスターが積極的に取れと言ったというのに、よく分からない連中だな。取った方が便利だろうに」

「もともと彼らには取ってはいけないという強い共通認識があったというのもあるでしょうし、なにより……取る必要がないですからね」

「「「「あー……」」」」

「甘やかしキャンペーンは終わりにしよう……」



 最初こそ木の家を自分たちでも作れるようにと、作り方やどんな木が使われているのかなど、亜獣人の中では比較的知識層に分類される者たちが頑張ってる風な様子を出していたが、さすがはといったところか。半年ほどで飽きて止めてしまった。

 そんなことをしなくても余裕で生きていけるし、何より周りがダラダラ過ごしているのに、自分たちだけ頑張るのがアホらしく思えてしまったのだろうと竜郎は察する。


 満場一致で甘やかすのを止めようという意見が通り、環境をもっと厳しくしていくことにした。

 もちろん、いきなりハードモードに叩き落とすなんてことはしない。

 緩やかに、死なないよう細心の注意を払いながら、ある程度の苦労を伴わなければ生きていけない環境へと100年かけて移行していった。


 魔物を強くして、これまでは子供でも倒せるような魔物だらけだったが、ちゃんと戦う力が無ければ倒せないようにした。

 これにより魔物は危険なんだと再確認させられた。


 植物や木の実も食べてはいけないものを混ぜ、その辺のものを適当に食べてはお腹を下すようにした。

 また魔物も植物も、何も考えず食欲のままに食べてしまえば枯渇するということも、身をもって教え込んだ。

 やはり実体験をもって経験すると、彼らもしっかりと学習してくれる。

 それもご丁寧にできるだけ死者が出ないようにと段階を踏んでやっていったため、頑なにさぼることしか考えていなかった亜獣人は淘汰され、生きるために適応した者たちが残り次世代へとその精神は繋がれていった。

 そのおかげで、生きるために活動する活力が彼らに再び戻っていった。


 また最初の甘やかしキャンペーンの一環で要した木造の家も、劣化を早めた。

 特に放置されていた空き家は痛みが激しく、その崩れるさまを見て、今住んでいる家も永遠にあるわけではないのだと理解した。

 だが家のない生活にはもう戻れない。なんとか自分たちで再現できないかと、100年かけてようやく奮起しはじめてくれた。



「逆に言えば、100年かけてもまだ自分たちで簡易的な木造の家すら作れないという……」

「ま、まぁこれからだよ! たつろー」

「簡単に家作るゆうても、難しそうやしねぇ」



 村外派は極寒の冬を乗り切るために、洞窟暮らしを始めていた。

 冬場のために食料を確保する必要もあり、ちゃんと保管していなければ、他の虫や小動物系の魔物に奪われ飢えてしまうということもあったからだ。

 環境的にはこちらはかなりサバイバルよりな生活で、村内派よりもシステムを使ってスキルを取得する者の割合が多くなっていた。


 人口の増加割合も不安定なはずの村外派の方が多く、村外派は100年かけてさらに分散し、6グループにまで増えている。

 その6グループ間では互いに縄張りを設け、お互いの場所は不干渉でいくことを決めて交流はほとんどないが、割と近い場所に纏まってはいた。

 たまに入り込んだ時に喧嘩が起きるが、殺し合いというほど酷いものではなく、縄張りに踏み込んだ方が悪いという共通認識があるようだ。

 おかげで最低限の秩序は村外派も保たれている。


 一方で村内派は人数が多い環境が長く続いたことで、協調性が少しだけ生まれ、相互の助け合いも増えている傾向にあった。

 生活も初期より随分と苛酷ではあったが、マンパワーでそれを押し切っている形だ。

 けれど人数で解決できてしまうが故に、スキルに頼ろうという気持ちは薄いようだった。



「別に使わなくてもいいなら、こっちもそれで構わないんだが、せっかく使っていいっていう流れを作ったんだから、スキルも覚えていってほしいな。どうすればいい?」



 発展というよりは、どうしても停滞を選びがちな亜獣人たちだ。

 せっかくならもう少し先に進んでほしいと、上手くいってきたからこそ竜郎にも欲が出てきてしまう。



「やはり使わざるを得ない状況を作るのが手っ取り早いのではないですか?

 例えば強敵となるモンスターを村に放ち、それに立ち向かうための力を求めるようにする……とかが分かりやすいでしょうか」

「地球の歴史を見ても、戦いが文明を引き上げているからな。私もミネルヴァの案を採用するのがいいと思いました」

「戦うだけでなく、守るための建造も覚えてくれるかもしれへんしなぁ。ええんとちゃう?」

「じゃあ、適度に厄介な〝敵〟を作るか」

「あと憧れも刺激するのもいいかもよ」

「っていうと?」



 愛衣の提案に竜郎はピンとこずに問い返す。



「スキルをとった人が英雄になれば、自分もああなりたい! って強さを求めるようになったりするんじゃない?」

「敵を倒すエース的な存在、憧れの的を作ってより向上心を刺激しようってことか。よし、やってみよう」



 最初はゴブリンのような小さなモンスターの集団を差し向け、明確な敵を作り出した。

 守らなければ家屋は荒らされ、家族が、友が、同胞が傷つけられる。

 様子を見ながら敵を少しずつ強くしていくことで、亜獣人たちはさらなる力を求めてスキルに積極的に手を出しはじめる。



『ギャッギャッギャ』

『緑鬼め! これでも食らえ! アォオオーーーン!』



 創世から200年が経った頃、これまで約100年戦い続けたゴブリンたちのボス──ゴブリンキング(竜郎によって改造された強いホブゴブリン)が、自ら亜獣人の村を攻めてきた。長きに渡り続いてきた、亜獣人VSゴブリンの最終決戦だ。

 村一番の戦士、狼亜獣人のサベロとその心強い仲間たち八人を筆頭に、ゴブリンキングと死闘を繰り広げる。

 死闘といっても不自然なほど、この100年、亜獣人たち側にゴブリンとの戦いで死者は出ていないのだが、その戦いははた目から見ていても手に汗握る激闘だった。


 100年の度重なる戦いの中で、目に見えて亜獣人たちの文明は成長していた。

 ゴブリン側にも集落をつくらせ、そこで外壁などの防衛設備の重要性や、農業という概念を亜獣人たちに示したことで、建築するという考えが本格的に芽吹いた。

 彼らは竜郎たちの仕込みによるゴブリンの知恵を盗み、戦いに向いていない種が建築系や農業系、食材の保存に向いた乾燥や冷却系などのスキルを取ったりと、前線を支える。

 戦いが得意な者たちは、後方支援する者たちと明確に役割が分かれたことでより強さを求めることができた。


 戦いのスキルを取得し、日々の狩りでその技を磨き、ゴブリンたちに負けないように己を鍛え、我こそが一番の戦士だと戦いに明け暮れた。

 その上澄みがこのサベロとその仲間たちだ。ゴブリンキングの大斧を回避し、喉笛に噛みついた。

 振りほどこうと暴れるゴブリンキングを、仲間たちが攻撃し、抑え込む。

 ゴブリンキングと一緒に来たゴブリンたちは、他の戦士たちが食い止める。



『グォオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!』

『ギャ──ォゴッ』



 硬い皮鎧で守られていた首を噛み千切り、ゴブリンキングは致死のダメージを受けて後ろに倒れる。

 あとは殲滅戦だ。キングを失い、烏合の衆となったゴブリンたちは亜獣人たちによって滅ぼされた。



『アオーーーーン! 緑鬼、おそるるに足らーーーず!』

「これで英雄が生まれたな」

「皆、キラキラした目でサベロさん?だっけ、を見てるね」



 サベロが勝鬨を挙げている一方で、ゴブリンキングが身に着けていた武器や防具に興味を持つ亜獣人が現れだす。

 鉄に魔物の素材を混ぜた武器と、魔物の皮を加工した防具。これがあれば自分たちもサベロのように、元から恵まれた肉体を持っていなくても戦えるのではないかと。


 これも竜郎たちが残した布石である。ゴブリンキングが裸一貫で攻めてきていたなら、もっと早くサベロたちが殺せていたのは、誰が見ても明らかだった。

 誰か一人くらいはその有用性に気づくだろうと、滅ぼされたゴブリン集落には鍛冶場を用意してある。

 そこを使って何かを作り出したり、学びを得てくれるのではないかと期待して。



「村外派の人たちの文明は少し遅れたが、こっちはこっちで順調そうだな」

「そうだね。立派な遊牧民族になってる」



 ダメージコントロールといっては失礼かもしれないが、同じことをして失敗したときの保険として、村外派にはまた別の方向性を示していた。

 生まれながらにテイマーの素質を持った者がいたため、その者の近くにワザと瀕死の羊系魔物を行かせて、偶然を装いテイムまでをお膳立てした。

 そこで魔物を飼うという方法があることを少しずつ教え込み、食料を自分たちで増やして食べる。モコモコの毛皮は冬の寒さをしのぐのに便利で、寒さも克服し更に寒い地域へも行けるようになった。

 羊系以外にも荷物の運搬に向いた魔物や、亜獣人たちと共に戦い索敵できる魔物もテイムできるようにして与えた。


 ちょくちょく敵も出して、家畜を守るための戦いを覚えさせる。

 こちらの敵は移動式の効率のいい家、いわゆるパオやゲルなどに似た住居の存在を伝えた。

 そのまま家畜の重要性を竜郎たちはあれやこれやと、間接的に介入して押し込んでいったことで、この100年で村外派はさらに規模を大きくし、分散していき世界のあちこちで亜獣人たちが根付き出していた。

 村内派は強者であるサベロが実質的なリーダーを務めていたが、こちらは戦いというよりは、天気を読む力をもっていたりと全体に利をもたらす者、あるいは知恵の高い者がリーダーを務める傾向が強かった。

 ある意味では村外派の方がゆったりとした生活になっているが、その分だけ自然と共生する適応力が村内派より高まっているように思えた。



「ええ塩梅で、ちゃう文明を築き出してはるなぁ」

「このまま互いに別れたまま発展していくのか、それともどこかの歴史でまた交わるのか……気になりますね。主様?」

「はいはい。もっと先を見てみようか。創世から200年かけて、いろいろと教え込んでようやく武器防具製造に意識を向けられたわけだが……、さてどうなることやら」



 こうして亜獣人たちは、また新たな時代へと歩みを進める。

次も木曜日更新予定です!

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