第471話 亜獣人創世歴:元年~1年
良かれと思って設置しておいた家をどう使うかで揉めてしまい、新世界に来て早々に二グループに分かれてしまった。
その後も少し竜郎たちは観察を続けたが、子供の喧嘩のように互いに近づこうとすらしない。
「このまま見ていても進まなさそうだな。仕方ない。あまりこういうことはしたくなかったが──時間を進めよう」
「おぉ……もう本格的に神様やるってこと?」
「ここまで来たら、もう少し安定するなり、新しい方向性が出て来るまで見届けるさ」
《強化改造牧場・改》内であれば、竜郎が干渉して内部の時間の進む速度を遅くも速くもできる。
見届けたいという気持ちもあるが、竜郎たちもずっとそれを見ているわけにもいかない。
呪魔法で言うことを聞かせるだけで抵抗感を覚えていたというのに、それはいいのかと竜郎自身思わなくもなかったが、一度受け入れてしまったのだからと決断する。
竜郎たちの1秒が1時間になるように設定し、まずは10日ほど送ってみた。
家を使うのではなく、壊すことを選択した者たちも離れた場所に竪穴式住居を作って、未だに見えない壁があるような関係性を二つのグループは貫いている。
「時間が解決するって感じでもないんかな?」
「だがまだ10日しか経っていない。マスター、さらに時間を進めて経過を観察してみましょう」
「そうだな。じゃあ今度は90日後の世界にしてみよう」
時間を戻す方はいろいろな面で問題が出てきそうなため、慎重に進めるべく刻んでいく。
内部では普通に時間を過ごしている亜獣人たちだが、竜郎たちが見ているモニターでは早送りするように光速で住民が動き、あっという間に朝と夜を繰り返し、さらに90日の時が経った。
亜獣人たちにとっては、新世界生活から100日後の世界である。
「前よりも距離が開いていますね。むしろ確執が酷くなっている気がします」
「なんでだよ。せめてそのままであってくれよ……」
ミネルヴァの言葉を確認するように、竪穴式住居派のいる場所を確認してみると、確かに以前は村の隅の方であったのに、村の外側まで追いやられていた。
「あう?」
「どうしたの? 楓ちゃん。そこに何かあるの?」
楓が仮想モニターに映る、村を引いてみた全体像を見つめ、小さな一点を指さした。
何だろうと注目して見てみると、何棟か破壊されたような痕跡があった。
話し合いでは自分たちの分は好きにすればいいけれど、他は手を出すなとなっていたはずだ。
少なくとも全体の七割を保有する木造派の面々が、数の力でそうするように押し切っていた。
「どうみても構造を研究するだとか、そういう破壊の後でもないですからね。察するに──」
「竪穴式住居派が短慮起こして、木造派を怒らせたって感じか」
ミネルヴァの言葉を継ぐように、竜郎は考察を口にする。そう思うと、もうそうとしか考えられない構図だった。
「なんで木造の家に住みたないんやろか? ここまで頑なにする必要性がよう分からんのやけど。
木材が欲しいなら、その辺りにいくらでも木はあるやろうに」
「生木がって言っても、落ちてる乾燥した木の枝だって豊富にあるしな。
困らないようにそう設定したし、実際に木造派たちは、そうして拾った枝で十分に火は賄えている。理解できないな」
「……少し失礼なことをいうようですが、亜獣人族の中でも特に頭がいいとは言えない種族が、竪穴式住居派に多い気はしますね。
快適かそうでないかなど関係なく、自分の住む場所はこういうところ──という考えに捉われているのかもしれません」
「親もそのまた親もず~っとそーしてきたから、これが正しいやり方なんだぞ~! って感じかな?」
そんな守る必要のある伝統でもないだろうにと竜郎は思ってしまうが、そうなんだろうなと納得してしまうところは確かにあった。
「ならもっと身に染みて木造建築の良さを知ってもらえば、この確執も解消されるかもしれないな」
「一度できた溝が、それほど簡単に埋まるでしょうか。いえ、マスターの意見が悪いと言っているわけではありませんが」
「いや、悪いと思ったら悪いってハッキリ言ってくれる方が、俺は嬉しいからな?
あんまり妄信しないでくれ。俺なんて大した人間でもないんだから」
「そんなことは──」
「──はいはい。アーサーはん、今はそういうお話じゃないんやから後にしといて。それよりも、もっと身に染みて~っていうと何しはるん?」
「四季を追加してみよう。それと小さい生物もかな」
そういいながら、竜郎は新しい世界の法則を追加していく。
本来はずっと温暖な気候である場所と、彼らのために用意した場所を設定していたが、春夏秋冬という概念を追加した。
その中には雨季であったり、台風が来やすい時期であったりも細かく設定しておいた。
さらに小さな生物──動物に限らず、虫系のモンスターを追加し、時期によって増えやすいようにしておく。
「あー、なんか分かっちゃったかも」
「俺が用意した家が発端だし、こんなつまらない理由でいずれ本格的な戦いが起きても寝覚めが悪いからな。
少し強引だが、家のメリットを知ってもらおう。じゃあ時間を進めてみよう」
暦は一番慣れている地球歴を採用している。一年は365日で、四季が巡る。
創世から465日。四季を設定してから一年経過するまで、内部の時を早めていった。
今回は早送りで巡る日常にも軽く目を向けていたため、なんとなくその動向も理解できている。
「おー、ほとんど木造派になったね」
「まぁ、争いの種はなくなってくれたって感じか。良かった良かった」
「さすがマスターです!」
四季が追加されたことで、春になれば小さな生物たちが騒ぎ出し、夏になれば雨季でじめじめと湿気をまき散らし、強い日差しが容赦なく住民を照り付ける。
秋になれば気温は落ち着いても台風が何度かやってきて、冬になれば一気に気温が下がり寒さが襲い掛かる。
まず小さな生物たちは、隙間だらけの竪穴式住居に入り込んで住民たちに噛みついたり、屋内をうろついて食べ物を奪っていったりと、不快な行動を繰り返していた。
蚊のような虫で、死にはしないが血を吸われればかゆくなる。ネズミ系ならちょっと血が出るくらいに噛みつかれる。寝るときに耳元で羽音を鳴らされ、目が覚めてしまう。
ただし亜獣人たちに甘い世界なので、そこで病気がだとか、飢え死にさせるほど容赦なく食料を食い漁っていくなんてこともなく、ただただイライラするだけのものだった。
だがその被害者は竪穴式住居の者たちばかりで、しっかりと戸締りしている木造派の住民は、贔屓されているレベルで──実際に竜郎が贔屓したということもあって、被害はほぼゼロ。
小さな生物たちが騒ぎ出す春を悠々と乗り越えていた。
夏は竪穴式住居では蒸し暑く、茹だるような思いで寝苦しい毎日を竪穴式住居派は過ごす羽目になっていた。
一方で後付けによる湿気を吸う効果のある木材としたため、暑くはあったが窓を開け、屋内の日陰にいればそこまで酷い暑さを感じなくなっていた。
秋の台風の時期では、竪穴式住居派は当たり前のように家が吹き飛んで、毎回ずぶぬれだ。
だが木造派の家はしっかりと雨風に負けず、その場にあり続けていた。
冬の寒さも竪穴式住居では防ぎきれないが、木造の家の方は火をたく場所もちゃんとあり、薪材を切らさなければ寒さに震えることもなかった。
そんな一年を通して、これでもかと木造の家の快適さを間近で見せつけられた竪穴式住居派は、日が経つにつれて一人また一人と木造派のコミュニティに頭を下げて、木造の一軒家を手に入れ吸収されていった。
そもそも亜獣人たちは、そこまで同じことを怒り続けられる種族ではない。
相手が反抗的なら反発もするが、謝ってくれば「そっか、いいよ。お前も住みな」と簡単に迎え入れる単純さがあった。
それを見越しての竜郎の作戦だった。
「まぁ、一部はもっとアグレッシブな方向に行ったわけだが」
「それはそれでその人の選択やと、うちは思うよ」
ほぼ全ての亜獣人たちが、木造の家は良い物だ。この世界では、これに住むのが正解なんだと察してくれたのだが、最後まで木造派に下らなかった者たちもいた。
ではその者たちはどうしたのかといえば、村から出ていった。
理由は、場所が悪い。こんなに広いんだから、もっといい場所があるはず。そう言って、新天地を探しに旅に出たのだ。
「どこに行っても飢える方が難しい設定になっていますし、新しい村をどこかで形成してくれるかもしれませんね」
少数派ではあったが、種を存続できる程度の人数ではあるため、どこかに根付けば自然と子を産み、数を増やしていくことは容易に想像できた。
ミネルヴァは世界の始まりから、亜獣人という種族がどう世界に溶け込んでいくのか。そんな普通では絶対に取れない記録に、珍しく大興奮していた。
「家問題による亀裂からの争いはなくなったが……俺もどうなっていくのか気になるな。もっと見ていくか」
「是非そうしましょう」
「あはは、もう止まれそうにないね」
もともとカルディナ城に引きこもっていたミネルヴァの、リフレッシュも兼ねてのお出かけだった。
随分と楽しそうにしてくれているため、竜郎も自分が気になっているというのもあるが、彼女のためにもと、さらに亜獣人たちの創世の歴史を少しずつ進めて経過を見守ることにした。
次も木曜日更新予定です!




