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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二二章 

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第470話 エゴ

「カーーーーット! お疲れ様~」

「「かっーちょ! あうああ~」」



 愛衣の掛け声を真似するように楓と菖蒲が声を上げながら、どこから調達してきたのか、花束を持って竜郎とミネルヴァの所へ駆け寄ってきた。

 獣神──竜郎。邪神──ミネルヴァ。でヒーローショー……ではなく、なんちゃって神話を繰り広げていたため、映画のクランクアップごっこがしたかったのだろうと、楽しそうな愛衣を見て竜郎は苦笑する。



「マスター、素晴らしい演技でした。ハリウッドも目指せるかと」

「んなわけあるか。あんな演技で出られるなら、皆ハリウッドスターだぞ」



 楓と菖蒲からミネルヴァと一緒に花束を受け取り、代わりにお菓子をあげたら飛びあがりながら喜んだ。

 ちゃんと多めに渡された意図も察して、お兄ちゃんたち──フレイムとアンドレにもお菓子を分けてあげていた。



「これで一件落着ってところやろか」

「ということでいいのでしょうね。おかげで、面白いデータが収集できました。今回は付いてきて良かったです。

 ですがその……主様、あまり趣味がいいとはいえないのかもしれないですが……」

「ああ、亜獣人たちの今後の生活も見てみたいってことか」

「はい。これから亜獣人という種が、どんな歴史を辿っていくのか。その歴史を記録したいのです」

「あははっ、ミネルヴァちゃんらしいね。でも私も実はちょっと気になってたり、ちらちらっ」

「はいはい。分かったよ。俺もあの世界を創った人間として、どこかで破綻してないか、しばらくは状況を見守るつもりだったし、ちょっと見てみるか」

「せやね。どんな生活をはじめようとするのか、ちょっと興味あるわ」



 あまりよそ様の生活を覗き見るのは気が引けたが、自分たちの作った世界で、どんな生活がはじまるのか。その最初の一歩を見たいという意見が多かった。

 そこで竜郎は、魔法で大きなモニターのようなものを出し、亜獣人たちにドローンカメラを向けるように、その光景を映し出す。



「あ、さっそくこっちが用意した家を見つけたみたいだよ」



 愛衣が指さす向こう側では、彼ら全員がちゃんと雨風凌げるだけの、簡易的ながら作りはしっかりしている木造の家が立ち並ぶ区画を見つけたシーンが流れていた。

 音声も拾うように調整すると、彼らの声もモニターの方から流れてくる。

 ここは《強化改造牧場・改》の中。竜郎の自由の利く空間なため、これくらいのことは簡単にできてしまう。


 新しい世界に駆けだした亜獣人たちは、謎の物体が並ぶ場所を発見し騒ぎ出す。

 誰か自分たち以外にも、あの神に招かれていたのかと。

 しかし誰かがそこにいた形跡は一切なく、どれも真新しい。



『アオーーン! 神様が用意してくれたんじゃねーの?』

『チチチッ。そういうことか! 確かにこれは助かるぜ』

「お、意外と好印象だったか。そうそう、俺らからの贈り物だ。こだわりがないならそのまま住んでくれよ」

「せやけど……なんや、おかしない?」

「え?」



 誰も使っていないことを確認した亜獣人たちが、自分たちの用意されたものと認識してくれた所まで想定通りだった。

 しかし彼らは家に入ることをせず、手でバシバシと叩いたり、壁で爪研ぎしたり、げっ歯類系などは齧っている者までいた。一向に中で休もうとする者が現れない。

 とりあえず中に入って、住み心地を聞かせてくれよと、喜びの感想を期待していた竜郎は、意図しない謎の行動に戸惑いの表情を浮かべる。



『グォグォッ、ォォオッ! 良く乾燥してるし、いい薪になるぞ』

『程よい硬さで爪が気持ちいいニャ~』

『ガジガジガジガジ──』

「……えぇ」

「マスターがせっかく建てた家だというのに、もったいないことをする……」



 最悪、壊して煮炊きの薪にでも──と口にした覚えはあるが、それでもさすがにしないだろうと半分冗談のつもりだった。

 だが彼らはそれを家だと認識せず、住居にするという発想すらない。それどころかまた縄文人のような、あの竪穴式住居を作ろうとする者まで出てきていた。



「いや、なんでやねーーん! そこに住めばいいだろて!」



 思わずエセ関西弁で竜郎は叫んでいた。そうしている間にも、みるみるうちにボロボロになっていき、力づくで壊してただの木材に変えられそうになる。



「なんでわざわざあんな住みづらそーな方を選ぶんだろ。不思議だねぇ」

「もうあの人たちの間では、家っちゅうたら竪穴式住居って思い込んでるんとちゃうかなぁ」

「そんな固定観念に捉われない知性を持った者もいたはずですが……興味深いデータですね」



 竜郎は考える。どうしようかと。

 あそこはもう、彼らの住まう世界だ。悪戯に干渉する気はない、というスタンスでいるつもりだった。

 しかしこのままでは、せっかく細部にまでこだわった世界も探索してもらえず、あの亜空間の中での歳月を、文明を開花させるわけでもなく、また繰り返すだけになってしまうのではないか。

 新しい世界に来ても、発展も望まずずっと同じ。種の存続だけを重要視し、生きるためだけに生きるのか。

 このまま放置を選べば、確実にその変わらぬ永遠が続くだけなのだろうと竜郎は思ってしまう。


 それが彼らの選択なら、それでもいいのだろう。

 しかし世界を提供した側からすると、どうせなら、あんなモンスターの作った亜空間で過ごした頃よりも、もっといい人生を送ってほしいと思ってしまった。



「ご……」

「ご? どったの? たつろー」

「豪雨よ降れー!」



 それはエゴだ。自分の思想の押しつけだ。

 しかし少しでいい。少しでいいから、この竜郎たちが細部にまでこだわり、皆で考えて作った世界に来た意味を、意義を、自分だけの人生を、彼らには見出してほしかった。


 竜郎は申し訳なさも感じながらも、その世界に豪雨を降らせ空から雷を降らす。

 家を建てた場所は温暖で気候の変動は穏やかという設定にしたのに、もうこの時点で破綻してしまった。



『キュィィンっ、なによ突然!?』

『ギャゥゥウウ! 雷、気をつけろ!!』

『お、おい、この中に入れば安全じゃないか!?』

『お、おお! なんだかいい場所じゃない』



 突然の豪雨というより雷雨に、家を壊そうとする手を止め避難場所として、目の前にあった穴倉程度にしか思っていなかった家へと一斉に潜り込んでいく。

 そうして雷雨が過ぎ去るのを、家の中で待っていると、次第にその中身に興味が移っていく。

 あれほどの風雨にビクともせず、中も広い。これまで住んでいた家と比べて、ずっと住みやすい。

 もしかしたらこれを壊すのは、もったいないのではないか。

 そう考える者たちが出はじめる。



「よ、よし。住む方向に意見が傾いてきたぞ」

「さすがマスター! 神の如き采配です!」



 アーサーは何をしてもこんな感じなので気にしない。

 未だに薪にしないなんてもったいない派もいたが、この木の家に住むという発想が生まれたことで、彼らの中で新しい選択肢が生まれはじめた。


 竜郎が雷雨を止めると、やがて亜獣人たちは外に出て、このまま住む派と薪にしてこれまでの家を作る派で分かれた。

 木の簡易建築の丈夫さと居心地の良さを知った割合の方が少し多く、六割ほどはそこを家としてやってみようという話になった。

 だが残り四割は破壊を選んだ。その選択を変えてまで、家に住めという者も亜獣人たちの中にはおらず、それで話は終わりかと思いきや……。



「元気な人らやなぁ」

「なるほど、我の強い彼ららしい争いの理由です」



 破壊を選んだ亜獣人たちも、他の亜獣人たちが住むと決めた家に手を出そうとは思っていなかった。

 しかしなら他のは壊してもいいだろうと、最低限の木の家だけ残し、残りは全て破壊しようとしはじめた。

 それをみた木の家に住もう派閥は、ちょっと待てと彼らを止める。

 家族が増えたときの、自分たちの子供たちのための家として残せと。

 だが壊す派閥は、そんな今いない者たちのために譲るということが気に食わなかったようで──住む派と壊す派で争いがはじまった。



「自分たちでこの家を作ろうとは思わないのかな?」

「いえ、興味を持ったからか、その構造を調べはじめた亜獣人も、ごく少数ながら存在します。

 このままいけば、彼らの内の誰かが、大工となって木の家を作れるようになるかもしれません」



 そのまま喧嘩の成り行きを見守っていたが、結局人数の多い家に住み、余った家は保全する派閥が押し勝った。

 死者は出ていないが、不満を隠そうともしない壊す派は、家を建てた区画の端に追いやられていく。

 この時点であれほど結束の強かった亜獣人は、既に二派閥に分かれてしまった。



「余計なことしたか……?」

「ん~、でも広い世界だし、別々の村を作っても良いと思うけどね。

 少なくとも私は、たつろーの行動で、新しい未来の可能性が一つ増えたって思ったけどね」

「そうか」

「そうだね。けど、たつろーはさ。この人たちに干渉することにしたんだね」

「……そうだな。せっかくだし、もう少しこの亜獣人たちの人生に干渉してみることにする」



 それで幸せになれるかどうかは分からない。結果的に最悪の結末が待っているのかもしれない。

 だが竜郎は彼らにもっと、違う人生の可能性を見せたいと思ってしまった。

 その可能性を与えた上でなら、もう好きにすればいい。

 世界の作り手であり、提供者として、エゴをぶつけてみることにしたのだった。

次も木曜日更新予定です!

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