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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第三章 カルラルブ大陸編
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第46話 魔竜潜みし場所へ

 呆然と天井を見上げていたアクハチャックとウィリトンの意識も戻ってきたところで、話を戻していく。



「無事鍵も手に入ったし、これから魔竜退治に行きたいんだがいいよな?

 あとは細かい入り口の位置なんかを教えてもらえると話が早いんだが」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。こちらとしては最初の一匹目のチキーモを手に入れるだけでも、最低でも一月はかかるんじゃないかと思っていたんだ。

 こちらの気持ちの整理がまるでできていない」

「いやチャックたちは場所を教えて、ここで座っていてくれればいいんだから、別に心の準備もなにもないだろうに」

「そういうわけにはいかないだろう……。俺とウィリトンも、見届け人としてついていかせてもらいたい」



 半ば予想していた言葉ではあったが、竜郎は少し嫌そうな顔になる。


 少しずつだが離れられるようになった楓と菖蒲とはいえ、まだ竜郎が見えるところにいてほしいと訴えかけてくるので連れていくしかない。

 そうなると二人の護衛は絶対なわけだが、それくらいなら今のメンバーで十分だ。


 だがさらに追加で王族兄弟二人がくるとなると、もれなく護衛も一緒についてくるだろう。

 それだと最低でも四人の足手まといが増えることになる。


 千子たち三人も戦力に加わったのでキャパシティ的には余裕だろうが、それでも相手は竜。

 なにか予想外の事態が起きたときは身内最優先になるので、下手をしたら手が回らず死んでしまうことだってあるかもしれない。


 そんなことを遠回し気味に角を立てぬよう伝えていくと、向こうもそれは承知の上だという。



「もし何かあった時は、こちらは捨て置いてくれてもいい。

 だが討伐が無理なようなら、入り口だけは最優先で閉じてほしい。たとえ、俺たちが置き去りになったとしてもだ」

「僕と兄さんが書いた公的な文書もサキマに預けてあるから、もしものときもそちらに迷惑がかからないよう対処も完璧だ。そこも安心してもらってもいいよ」



 兄弟二人から少し離れた場所に立っていた執事らしきサキマと呼ばれた老齢の男性が、二枚の封筒を胸元から出してこちらに見せてくれた。

 それを王家に提出すれば、もしも王族二人が死んでしまったとしても、それは自己責任であり、竜郎たちにはなんの責任もないと証明できるようにしてあるらしい。



「まあ、それだけの覚悟があるのなら別にいいか。こちらも殺させる気はないから大丈夫だとは思うし。

 だがそんな文書を後出しで出せるようにしてあるということは、現王には話していないのか?」

「話したりしたら議会だなんだと長期にわたって話し合いがなされるだろうし、そうなれば竜郎たちの出席も──なんていろいろと面倒なことになるだろう。

 その全てに協力し待ってくれるというのなら、それでもいいんだが……?」



 そこまではしてくれないし、待ってもくれないよな? といった感情のこもった視線を向けられてしまい、竜郎は苦笑する。


 たしかにそんな面倒事になるようなら、勝手に行動して魔竜素材だけ頂いて証拠も残さずおさらばするだけだ。

 けれどそうなってしまうと王族たちは、いもしない魔竜の存在にこれからも永続的に苦しめられることになるだろう。


 だったら自分たちの代で全てを解決できるかもしれない存在に出会えたこの瞬間を逃さないよう、強引にでもことを進めたほうがいい──というのが兄弟が出した結論だった。



「でもさ、それで全部解決したとしても、勝手なことしたなー! って、あとで怒られたりしないの?」

「そうなったらそうなっただよ、アイさん。僕ら二人がそれで何らかの責を負うことになったとしても、結果がちゃんと出ればこれからのこの国の未来は明るい。

 まあ、それが終わってもイフィゲニア帝国との関係に頭を悩ませることになるんだろうけどね……」



 エーゲリアはともかく、おそらく側近眷属筆頭セリュウスに嫌われているだろうし、その道のりは遠そうだ。



「そこは頑張れとしか言いようがないな。それじゃあ、次の話題だ」

「……まだ何かあるのか?」

「そんなおびえたような顔するなって、ただちょっとチキーモを乱獲しちゃったから、けっこうこの大陸から減っちゃった、ごめんなーっていう話だから。

 ああ、もちろん、全滅はさせてないぞ。それにツガイも何組かちゃんと残しているから、このままでも絶滅することはないだろう」

「うぅ……頭が痛い……。何を言っているのかもう考えたくない……」



 相手側がすっかり頭を抱え込んでしまったので、この話はまた時間のあるときにということに。



「話も決まったことだし、そろそろ行くか。そっちの準備は大丈夫か?」

「あまりにも予想外に早かったものだから、正直なにもできていない。

 一時間後に王都の門の前に集合ということでどうだろうか?

 そちらは歩いているだけで目立つし、こちらはあまり目立った行動をしたくない」



 ちらりと竜郎と愛衣の側にいるメンツに視線を向けるアクハチャック。

 人種らしき少年少女に、幼女二人。見た目は美しい女性の姿をしている千子。

 ここまでなら容姿以外で目立つところはそこまでないが、ニーナ、ヘスティア、エンター、亜子は種族的にも非常に目立つ。


 マピヤという隠れ蓑とはいえ、それなりに知名度のある人間とそんなわけのわからない団体が一緒にいれば必ず興味を持つ人間がでてくるだろう。

 姿を偽装する魔道具も、強力が故に自由に外見を設定できるわけでもないのだ。


 そんなこともあって、一時間後に竜郎たちが入ってきた門の前で集まることとなった。




 約一時間後。最小限の護衛を連れて魔物探しをするという名目の元、外にやってきたマピヤ一族に扮するアクハチャックとウィリトン。

 そして護衛である爬虫人の男性と天族の女性4人と無事合流できたところで、さっそく件の洞窟に向かっていく。


 その道中、暇だったのもあり、せっかくなので以前アクハチャックたちが話していた王位継承権について聞いてみることにした。



「ああ、それか。三年に一回開かれる王族たちによる闘技大会があるんだが、そこでの成績によって、王位継承権の順位が決まるんだ」

「え? 身内同士の戦いで王様決めてるの?」

「前にも言ったかもしれないけど、我が国の王に必要とされるのは、まず力なんだ。

 魔法だろうが武術だろうが知略だろうが、最終的に勝った者が王に相応しいってね」

「それだと問題のある人物でも、強ければなれるってことになりそうだが大丈夫なのか?」

「昔はそれで国が多少荒れたこともあったようだが、今は精神的に問題があるかどうかもしっかりと審査され、それに合格した者でなければ参加することができないとされている。

 それに昔は殺して生き残ったものが──なんて滅茶苦茶なことをしていたときもあったようだが、ちゃんと闘技大会の規則も定義されていて、今となっては運動競技に近い。

 そしてそこで戦士として恥じない心を持っているかどうかも爺様なんかに見られるから、そこまで大きな問題にはならなくなったんだ」



 そこでアクハチャックは優秀な成績を修め続けたからこそ、現在第一位の継承権を持っているのだという。



「あれ? でもチャックさんて、前に王様にはなりたくないって言ってなかったっけ?

 なんでその大会に出場してるの? もしかして強制参加ってやつ?」

「精神的に問題がなく、五体満足である王族なら男女問わず強制参加だね。

 その上で手を抜いたりしたら祖先たち、そして闘技会に参加した者たちを侮辱したとして罪に問われるから、兄さんも本気でやらざるを得ないんだよ」

「でもそういうウィリトンも、それなりに強いんじゃないのか?

 チャックとそれほど差があるように思えないが」

「それは……」



 竜郎が以前観た限りでは、ウィリトンのレベルはアクハチャックよりも高いように思えたからこその質問だったのだが、ウィリトンはばつが悪そうに下を見るだけで答えは返ってこない。

 するとアクハチャックが見かねて話してくれた。



「こいつは頭もいいし真面目だし、戦う力だってちゃんと持っている。

 兄バカでもなんでもなく、純粋な戦闘能力なら俺より上だとも思ってる。

 だがこいつは、昔まだ小さかった頃に俺と親父が模擬戦をしているときに大怪我をしたのを見てから、対人戦が苦手になっちまったんだ。

 それから魔物相手なら本気になれるのに、対人戦だと及び腰になって普段の実力をまるで発揮できないんだ」

「あー、心的外傷ってやつだね」

「しかもその態度が気に入らないっていうんで、お爺様にはかなり嫌われていてね。だから僕の継承権は、ほんとに下の下なんだよ」

「ウィリトンなら、いい王になれると思うんだがなぁ」



 残念そうにつぶやくアクハチャックの言葉に、黙って付いてきている護衛二人も大きく頷いていた。

 周りの人に慕われているようではあるし、王に相応しいというのもあながち間違いではないのだろう。


 ──と、そんなことを話している間に、目的地となる洞窟の入り口にたどり着いた。


 突然全部を閉鎖すると怪しまれるということで、今も一部開放して塩の採掘をしているが、奥の方は魔物も潜んでいて危ないからと封鎖してある。

 実際に砂を掻きだしてからは小型の魔物がどこからか入り込んで住みつくようになったので、興味本位でも立ち入ろうとする者もいなかったのも幸いした。


 王族だけが知っているような人一人が何とか入れる、元から穴が開いている場所があり、そこから真昼間でも目立つことなく入ることができるようになっている。

 上手く偽装して塞いである穴の中へ竜郎が照らした魔法の光をいれると、それに反射して大量の甲虫型魔物の目が光り輝いた。



「ぎゃー、キモイ!」



 外見はテントウムシのように丸く、6本ある足は後ろ足だけが長い。

 そのためお尻を天井に向けるような前傾姿勢のまま、照らす光を餌だと言わんばかりに群がってこようとする。


 ──が、愛衣が《体術》スキル保持者の上級者だけが使用できる気獣技を行使。

 左腕に黒竜の頭が気力によって具現化したものをまとい、それを穴の中に突っ込むと、そこで巨大化させて薙ぎ払っていく。

 結果、先ほどまでいた甲虫たちは塵も残さず消え去った。ついでに洞窟の壁も穴も大きく抉れ、徐々に修復しはじめていた。



「ふぅ。そんじゃま、いこっか。あ、素材欲しかった? たつろー」

「べつにいいかな。そんなに珍しい魔物って訳でもなければ、等級も高そうじゃなかったし」



 竜郎たちは大したことじゃないと、洞窟に一人ずつ小さな穴から侵入していく。

 まずはヘスティアが穴が修復しきる前にはいっていく。

 ヘスティアが向こう側に行くころにはもとの大きさに塞がって来たところで愛衣が行き、竜郎が楓と菖蒲を穴の中に入れながら、自分が──と順番に続いた。


 だが愛衣の気獣技の威力に驚いたアクハチャックたちは、目を見開いたまま硬直していた。

 アクハチャックたちとて、あの程度の魔物であれば一人で殲滅できる。

 けれどその時に行使した愛衣の攻撃に込められた、あり得ない程のエネルギー量を身近で感じ、それだけのことをしてまるで消耗した様子もない状態に驚いていたのだ。



「行かへんの? なら、うちらが先に行ってもええ?」

「あ、ああ。お先にどうぞ」

「おおきに」



 並び順的にアクハチャックたちの次に入る予定だった千子が話しかけると、ようやく意識を取り戻し、彼らは彼女たちが入っていくのを見届けることに。

 千子は細身の女性なのでするりと穴から入っていき、エンターが次に入っていこうとするも──。



「む? やはり私が通るには穴が小さいようだな。仕方がない、──ふん!」



 ガタイがよく大きな翼も生えているエンターでは、穴は小さかった。

 なので無理やり両手で穴の縁を持ち、気合の声と同時に横に広げるような動作を取った。

 すると穴は一時的にとはいえ、エンター一人が余裕で入れるほどに拡張され、彼は塞がる前にさっと中へと入っていく。



「兄さん。あの壁はあそこまで脆かったっけ? たいして力を込めているようには見えなかったのに、あんなに大きな穴が開いているんだが……」

「とんだ馬鹿力だな……」



 お次に亜子。彼女はガタイはよくないが170センチほどと、そこそこ長身で大きな翼を八枚も生やしているので穴は少し小さい。

 無理矢理入れそうではあるが、それではつかえて少しばかり無様な様子をさらすことになるだろう。



「しかたがないわねぇ」



 彼女は優雅に片手を前に出すと煎餅型に潰れた楕円形の黒球を生みだし、壁を大きく消滅させてから、すっと修復する前に入っていった。



「ずいぶんと簡単にやってたが、とんでもないエネルギーが込められてたぞ……。見てるだけで寒気が走った……。

 ヘルカ、同じ天魔族として、あの二人をどう思う?」

「おそらく、私のようなただの天魔族ではなく、そのさらに上位種族ではないでしょうか。私ではおそらく相手にもならないでしょうね」

「種族差を踏まえたうえで、レベルも桁違いに向こうのほうが上でしょうしね……」

「イガーショもそう思うか」

「はい。敵として現れたら絶望していたでしょうが、味方となるとほんとうに魔竜すら倒してくれそうだと思えるほど心強いです」



 護衛の二人、爬虫人の男性──イガーショ。天族の女性──ヘルカも、ここまで格の違いを見せられると逆にすがすがしくなり、魔竜との邂逅が目前に迫り硬くなっていた体が少しほぐれた気がした。



「おーい! チャック。なにしてんだ。はやく来ないと置いてくぞ」

「ああ! 今いく!」



 遅れて入ってきたアクハチャックたちと再び合流した竜郎たちは、彼らに案内されながら進んでいく。

 道中出てくる魔物は──。



「なんべんもこりへんのねぇ」



 暗闇こそ我が領域と言わんばかりに、千子が先行してかたっぱしから殲滅してくれた。

 そこで千子もやはり竜郎たちの仲間なんだと、あらためてアクハチャックたちは再確認した。



「ここだ」



 そこは通路の途中といったところ。おそらく何も言われなければ、ただの壁だと思って通り過ぎてしまっていただろう。

 竜郎が解魔法で調べても違和感を感じるが、そこが何かを解析することはできないほど巧妙に隠されている。



「ここに宝石を当てれば開くんだよね。パパ、パパ! ニーナがやってもいい?」

「ああ、いいぞ」

「やったー!」



 竜郎から鍵となる青い宝石を渡された30センチサイズのニーナは、ウキウキしながら壁に近寄っていく。

 これから魔竜と戦うというのに、こんなに呑気な雰囲気でいいんだろうかとアクハチャックたちが考えている間に、ニーナが宝石を壁に押し当てれば、そこに大きな穴が開いて向こう側の空間が現れた。



「ん? これは……もしかして」

「どったの? たつろー。魔竜ちゃん、死んじゃってるとか?」

「いや、そうじゃない。ニーナ。一度、扉を閉めてくれ」

「しめるのー? はーい」



 ニーナが宝石を持って少し離れると、向こう側への入り口は完全に塞がった。

 それを観ながら竜郎は、ふむふむと1人納得し、一昔前に使っていたライフル型の大きな杖を持ち、その先端を壁に押し当てる。


 竜郎のメイン装備である小型ライフル杖は天照の元にあるので、今回はこっちを使うことにしているのだ。



(解魔法で開閉の過程を解析していたが、これって──)



 まずは解魔法と水魔法で、海水が固まってできたような壁を改めて解析していく。

 しかしこれでは、ここが他と違うというのは分かるが何が違うのかまでは分からない。

 そこで竜郎は解魔法、水魔法に加え、時空魔法を混合し解析してみると、その向こう側にある別次元にある空間をハッキリと認識することができた。



(時空魔法を混ぜて探査すれば、こういうのも分かるのか。新しい発見だな。

 それじゃあ、お次は──やっぱりか。ならいけるんじゃ……)



 竜郎は時空魔法と探査を混ぜて、向こう側の空間とこちら側の空間の間を解析。

 それから時空魔法で、向こうとこちらを繋ぐように魔法を行使していくと──。



「あ、やっぱり開いた。鍵いらないな、もう」



 それでしか開くことができないと言われていた鍵は、小さくなったニーナの可愛らしい手の中だ。

 だというのに、入り口となっている穴の縁はややガタガタしているが、宝物庫へと繋がる道がちゃんと開いていた。



「「「「はあぁぁぁぁあああっ!??」」」」



 王族組が護衛と一緒に叫んだ。

 けれど竜郎たち側の人間は、「おー開いたー」くらいの感想で、それなりのリアクションしかとっていなかった。



「よし、気になることも分かったし行くとするか」

「おー! 魔竜の素材、ゲットだぜー!」

「ああそうだ。チャックたちは来るのはいいが、後ろの方で離れてみていてくれよ?」

「……………………あ、ああ。わかった」



 アクハチャックの返事を聞きながら、竜郎たちは意気揚々と、ちょっとそこいらへピクニック! と言わんばかりの気軽さでズカズカ宝物庫へ踏み入っていく。


 その光景を見ていたアクハチャックたちは、まるで宇宙人を見るような視線を竜郎たちに向け続けたのであった。



「もうなんなんだよ……あいつらはよぉ…………」

「……はは、もう僕は考えるのをやめたよ」

次回、第47話は4月12日(金)更新です。

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[一言] スペースチベットスナギツネになる爬虫人類か……www
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