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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二二章 

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第468話 神話

 一目見ただけで全ての亜獣人は理解した。

 魂が叫んでいるようだ。あの方こそ、我らを創造せしまことの神なのだと。

 なんと立派なのだろう。なんと神々しいのだろう。

 亜獣人たちは、自分たちを支えるように側にいてくれる神の姿に胸を熱くする。



「アオーーーーン!」

「グワッグワッグワッ!」

「ヒヒーーーン!」

「ニ゛ャーーーーーーーーーーーーーー!!」

「ケッケッケッケ!」



 無性に叫びたくなった。だから皆一斉に空に向かって、猛る心のままに雄たけびを上げる。

 ああ、自分たちは何を恐れていたのだろう。これほどの神がずっと見守ってくれていたのに、邪神に心乱されるなど恥ずかしい。

 見よ。なんと醜き姿をした邪神か。肌は毛皮や分厚い皮膚に覆われることもなく、ツルツルで気色が悪い。

 牙もない薄く小さな歯に短い爪。あれでは肉も切り裂けないし、骨も硬い葉も噛み砕けないし擦り潰せない。

 細い胴体に長いだけの手足。あれでは簡単に圧し折れる。

 あんなものが創造主など、他の種はなんと哀れな事か。

 いっそ哀れなり。だから滅んだのだと。

 奴らは負けるべくして負けたのだ。


 それに比べて我らが創造主は、なんと見事なことか。

 強靭なタテガミに毛皮。太く頑丈そうな屈強な肉体。

 なんでも切り裂けそうな牙と爪。骨など容易く砕くだろう。

 全てが完成された存在と言っていい。

 その姿を見ているだけで、自分たちがどれほどに恵まれ、世界に愛された存在なのか実感が湧いてくる。



「邪神、恐るるに足らず!」

「俺たちには、本物の神がいる!」

「奮い立て! 我が同胞たちよ! 情けないところを、我らの神に見せるんじゃない!!」



 心折れていた亜獣人たちは一斉に立ち上がる。

 背後に立ち、見守ってくれる気高き神に感謝しながら、邪神を睨みつける。



《存在を許されざる終わり行く獣たち。神の名のもとに粛清します》

「粛清されるのはキサマだ!! ──ひっ」

「ギャウンッ!?」



 押し寄せるマグマの次は、降り注ぐ黒き雷。

 大きな音で亜獣人たちを驚かせ、光を吸収する稲妻は亜獣人たちの頭上に迫りゆく。

 しかし彼らに届く前に、結界のようなものに全て弾かれていった。

 最初は思わず悲鳴を上げてしまった亜獣人たちも、平気だと分かるとまた強気に笑う。



「ヒャハハハッ! ムダムダムダァアッ!」

「お前にはなにもできないぞ! 愚かな邪神だ! ガハハッ勝ったな」

《粛清します》

「ひぃぇえええっ!?」



 いやコントかよ……。とどこかで誰かが呟くが、彼らには届かない。

 空がダメなら地面から──。そう言わんばかりに星ごと揺れているかのように激しく大地が縦に揺れ、地面が割けていく。

 割けた地面に吸い込まれるように、亜獣人は世界の底まで落ちていってしまう。



《我の子らに何をする!》

「ワァアアッ!?」



 しかし獅子の亜獣人神が手を一振りするだけで地震は止み、落ちていった亜獣人たちは見えざる手に摘ままれるように引き上げられ安全な所に置かれる。

 割れた地面は元通りになり、静けさが戻ってくる。

 亜獣人たちも数秒は静かにしていたが、邪神の攻撃が通用しなかったと分かるや否や、また笑い声を上げたり、相手を見下した言葉を投げかけたりと、すぐにいきりだす。


 どこかで「えぇ性格してはるわ……」と苦笑する吸血鬼や、「ここまでくると、いっそ清々しい気がするな」と呆れる聖人竜がいたが、やはり亜獣人たちには届かない。


 その後も天変地異ともいえる暴力が亜獣人たちへ襲い掛かり、それに翻弄されながらもしっかりと亜獣人の神が救うという流れを繰り返す。

 だがそれも終わりを告げる。



《埒があきませんね。そこの神は立ち去ってください。でなければ──》

《どうするというのだ? 言ってみろ!》

《直接排除します》



 間接的な応酬から打って変わり、いよいよ邪神と獣神の一騎打ちがはじまった。



「あ、ああ……」



 神と神の戦いはそれはもう凄まじく、ド派手なエフェクトをまき散らしながら、空気は震え、大地は割け、止まぬ嵐が吹きすさぶ。

 亜獣人たちは手の出しようのない超常の者たちの戦いに、ただ「あー」だの「うー」だの呻くことしかできなかった。

 だがそれ自体は責められるものでなく、それが一般人の反応なのだから仕方がないだろう。

 けれどそれ以上に彼らは、時間が経つほどに不安が募っていく。

 少しずつではあるが、獣神が押され出しているのに気が付いてしまったのだ。



「ウゥゥ……神が邪神に負けるなどありえん……」

「おかしいだろ! ブモォオオッ!」

「な、なぁ、もしかしてだけどよぉ……。オイラたちが、その……足引っ張ってんじゃねーか……?」

「「「「「──!?」」」」」



 獣神は最強と疑っていなかった亜獣人たちは、何か実力以外の要因があると疑わなかった。

 そうなると何があると考え、亜獣人の中で敏い者たちが、自分たちの周りに張られている強固な結界に気が付いた。

 そしてそれを指さし、守られるしかない自分たちに力を割いているせいで、押されているのではないかと口にする。


 そこまで言われれば、頭を使うのが苦手な亜獣人でも察しがつくというものだ。

 誰もが絶句し、自分たちの無力さに絶望する。



「そんな……。このままでは俺たちの神が負けてしまう……」

「そんなの駄目だ!」

「アオーーン!! 俺ぁ足手まといなんて御免だぜぇ!!」

「バウバウッ! だよなぁ!! だったらもう、俺たちのやることは決まってるぜ!

 なぁおい、てめーらも同じ気持ちだろぉ!?」

「「「「「おう!!」」」」」



 普段は平気で喧嘩しているというのに、こういうときになると亜獣人たちの結束力は凄まじい。

 以心伝心と言わんばかりに、一人の大声を上げて同意を求めてきた男が何を言いたいのか理解し、老若男女関係なく覚悟を決めた表情で同意の声を上げていた。

 それから大声自慢の大猿亜獣人が、皆を代表して前に出て、自分たちの神へと向かって叫び出す。



「キキィィーーーーーーーッ! 神様ぁあああーーーーーーーーーーーー!! ウチらのことは見捨てていいっ!! もう十分だーーーーーーーーー! 足手まといには誰もなりたくねーーんですよぉーーーーーーーーーーーっ!!」

「パオーーーーン!! そうだぜ! 神様よぉ! 俺たちが死んだら、また新しい同族を創ってくれりゃぁ満足だぁあああ!! あんたのためなら、命なんて惜しくねーーー!!」



 彼らの決断は、自分たちは潔く死ぬから、獣神だけでも生きてほしい。勝ってほしいと大声で伝えていく。

 その思い切りの良さには、知識の収集にハマっているドラゴンも「その選択を取りますか」と目を丸くしていた。

 陽気な少女は「ちょっとシナリオと違う感じになっちゃったけど大丈夫?」と恋人に語り掛け、その恋人は「流れ的には問題ないだろう」と頷いた。

 しかしやはり彼女たちのやりとりは、亜獣人たちには届かないし気づくことはない。


 自分たちを切り捨てろと叫ぶ亜獣人たちに、獣神は感極まったように震え涙を流す。



《そなたたちは、我の子も同然。見捨てることなどできるはずがない!

 我は引かぬ、ここで邪神に終止符を打ってくれるわ!!》

「そんなっ!? 俺らのことはどうかっ」

《くどい!! それになんだ。お前たちは我が負けるとでも言うか!!》

「けど……なぁ……?」

「私たちを守りながらなんて……ねぇ?」



 信じたいが信じきれない。そんな煮え切らない言葉があちこちから零れていく。

 しかし彼らの神は、諦めてなどいなかった。



《我は神。我の信者たちの熱き心が、力となる! この意味、分かるだろう!!》

「「「「「???」」」」」



 「これ絶対に分かってへんな」と、亜獣人たちのぽかんとした顔を見た吸血鬼がどこかで呟いた。



《だからあれだよあれ! お前たちが弱気になると、神様パワーは弱くなる! けどお前たちが我が勝てると信じぬけば、それが我を強くするのだ! 信じろ! 我を! 信じるのだ、お前たちの父たる神を!! 分かったか!!》

「そういうことか!」

「モォ? どういうことだモォ?」

「いみ、わかんなかった」

「えっとだからぁ──」



 そこまで言っても獣神の言いたいことを理解してくれたのは半分ほどで、結局分かった亜獣人たちがもっと噛み砕いて皆に説明する羽目になってしまう。

 「分かりやすかったと思うのだが……」と聖竜人も困惑中だ。



「よぉーするに、神様信じて、俺らはここで応援してりゃいいってことか!」

「それならオレにできるかも! 神様ーがんばえ~~~!!」

「負けるな、神さまーーー!」

「お前らも声上げろ! 神様が俺たちの応援を待ってるぞ! せーーーの!」

「「「「「か み さ ま!! が ん ば れ~~~~~!!」」」」」

《なんかヒーローショーみたいになったな……》

「え? 今、神様なんて言ったんだ?」

「分かんねぇ」

《ち、力が漲ってきたと言ったのだ! その調子で、応援頼んだぞ!》

「「「「「がんばれ、がんばれ! 負けるな神様!」」」」」

《う、うおおぉ! 力が湧いてきた! これなら勝てるぞぉ!》

《なんて凄まじいパワー。これでは負けてしまうかもしれません》



 亜獣人たちの応援を背に、獣神は明らかに力を増していた。

 邪神はどんどん押されていき、ボロボロになっていく。

 誰がどう見ても形勢逆転だ。亜獣人たちもその逆転劇に大興奮で叫んでいた。



《誘惑の邪神よ! もう二度と、我が子らに手出しできぬようにしてやるわ!!》

《くっ、ここまで……ですか……。さすが真の神……といったところでしょうか……》

《これで終わりだ! ご……ご…………ゴッドパーンチ!!》



 冗談のような必殺技名に、どこかで少年が恥ずかしそうにしているが、展開には関係ない。

 燃えるように真っ赤に輝く拳を振り上げた獣神の攻撃が邪神の胸を貫いた。



《かはっ……ま、負けました~~~》



 邪神は最後にそれだけいうと、霧のように溶けて消えていった。



《うおおーーー! 我の勝利だ! 勝鬨を上げろ!》

「「「「「おおおおおーーーーーーーーーー!!」」」」」



 そうして亜獣人たちにとっての、神々の戦いに決着がついたのだった。めでたしめでたし。

次も木曜日更新予定です!

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