第465話 世界作り
何もない空間にポツンと佇む竜郎たち一行は、さてどうしようかと周囲をなんとなしに眺めていく。
この切り取った空間は、極小モンスターたちが作り出した亜空間よりずっと広い。
「元が北海道くらいだとするなら、日本列島くらいのサイズにはなってるかな」
「おー、そう聞くとどれくらい広くなったか分かりやすいかも」
どうせ住まわせるのなら、広い方が亜獣人たちも嬉しいだろうと竜郎はそう設定した。
それでも《強化改造牧場・改》で作り出せる総面積からすれば微々たるもの。今後のことを考えても、全く支障がない範囲でのことなので問題ない。
また完全に空間ごとに切り離せるため、偶然別の空間で亜獣人たちと出くわす──なんて事故も起きない。
「人も取り込むことはありませんし、犠牲者もこれでいなくなりますね」
「大した頻度ではなかったのだろうが、それでもいないに越したことはないからな」
「そうだな」
ミネルヴァとアーサーの言葉に、竜郎も頷いて肯定した。
「ほな次は、どんなとこにするかっちゅう話になるけど……、あんまり世界観いうか、生活環境をガラッと変えるんは良うない思うわ」
「ここなら何でもありだから、私たちの世界みたいな世界にもできそうなんだけどね。それだと、びっくりしちゃうよね」
妄想のSF宇宙船まで創造できてしまう、もはや牧場の定義を疑いたくなるレベルでなんでも空間だ。
当然ながら地球のような、科学で生活を楽にした住居を並べることだってできる。
なんなら神のように食べ物を空から降らせて、狩りに行かず毎日食っちゃ寝しているだけで生きていける激ヌル世界にだってやろうと思えばできてしまう。
「逆に甘やかすだけ甘やかして牙を完全に抜き、生物としての狂暴性を剥ぐ──というのは無理でしょうか。
そうすれば架空の世界ではなく、ちゃんとした世界に開放することもできませんか?」
「おぉ……ミネルヴァちゃん、意外とエグイこと言うね」
「それでもあの狂暴性は種族的な物だろう。一時的に腑抜けにしても、甘えられない境遇に戻れば、すぐにでも牙をむくと思うぞ」
「俺もアーサーと同意見かな」
「せやなぁ。甘やかしたことで、逆に増長する可能性すらありそうやし……」
たいして亜獣人と関わったわけではないが、甘やかしたら甘やかしたで、また訳の分からない方向に振り切れそうだと、嫌な信頼感が竜郎たちの中で芽生えてきていた。
「まぁ何かしらの改善策がいつか見つかることがあるとしても、今は無難にいっておいた方がいいか。
急激な変化はなし。元いた環境をベースに、アップグレードする感じでいいか」
「とりあえず、それで良いと思うよ。違いすぎると拒否感が出ちゃう人もいるかもだし」
「となると──こんな感じか」
「さすがマスター。これには何度も見ても驚かされますね」
なんでも褒めてくれるアーサーの話を耳半分に聞き流しつつ、まずは雛形として、先の亜空間の環境をコピペして拡大しただけの空間に切り替えていく。
白い紙に風景イラストが印刷されていくように、あっという間に周囲の景色が塗り替えられていた。
「どうせならループする世界にできへんやろか?」
「ん? それはどういうことだ?」
「今までは端のある世界やったやろ?
せやからせめて偽物の中でも、本物みたいにならへんかなあって思ったんやけど、無理そうやろか」
「いや、無理ってことはないぞ。つまり小さな地球みたいにするってことか」
「ですが地球のように球体にしてしまうと、さすがに小さすぎておかしなことになりそうですね」
村の域を出ない人口からすれば、十分すぎるほど広大な土地を用意している。
しかしミネルヴァがそういうように、それでも地球のように丸くしてしまうと、そこに住まう人間は球体の上にいるなと確実に分かる程度の面積でしかない。
亜獣人もさすがにそこまで無知ではないし、おかしな巨大球体の上で生活となると、いずれは慣れるとしても、最初は嫌がる可能性も高いだろう。
「せやから、端と端を繋いでループさせたらどうやろかって思たんや」
「ああ、ループっていうのはそういうことか」
「えっと、端に行ったら反対側の端に移動するって感じ?」
「せやね」
「ああ、それなら確かに無理やり球体にするより、それっぽくなるかも」
実際には繋がっていないが、竜郎の力で平面でありながらループする世界を作ってしまおうということだ。
そうすればどこにいようと終わりはなくなり、広大な土地をまるで大きな星に住んでいるように錯覚できるようになる。
「それじゃあ、それも採用してみよう。何か不都合が起きても、簡単に修正できるしな」
空間を意識して、綺麗に全ての端と端をループさせた特殊空間に切り替えた。
「アーサー。試しに飛んできてくれないか?」
「お任せを」
アーサーならこの広い土地でも、一瞬で一周できる。
「面白そうだし、私も試してみよっと」
「ほな、うちも」
追加で愛衣と千子も別方向に走っていき、あっという間に背中が消えていく。
だがアーサーも含め、愛衣も千子も待つほどもなく逆側からやってきた。
「妙な継ぎ目も感じず、シームレスに繋がっていました」
「私の方も変な感じもなく一周できたよ」
「うちも変な感じはあらへんよ」
「こちらもずっと観測していましたが、完璧にループしているのを確認しました」
ミネルヴァだけでなく、竜郎も解魔法で三人の動きを確認していたが、そちらでも完璧にループしていることが確認できた。
これで一つの惑星らしき、異空間ができあがる。
「あとは海とかもあったらどう?」
「確かに、そっちの方がそれっぽいな」
少し面積を広げて、海水で満たしていく。単純に一繋ぎの大陸ではなく、いくつかに分割し、小さな島なんかも海面に作り出してみる。
ここまでくると段々と皆も、世界作りが楽しくなってきたのか、世界の象徴となる高い山を作ろうだとか、大きな湖や川。気候の違う場所など、細かく設定を詰め込んでいく。
「実際に人が住むところだから、余計に熱が入るな」
「あはは、そうかも」
「ここは地形的にもう少し盛り上がっていないとおかしいかもしれません。
それとこちらにも川を通して──」
さらにミネルヴァができるだけ自然にあるような形になるよう、アドバイスを入れてくれ、かなりそれっぽい世界ができあがった。
「次は魔物だな」
「草食、肉食どっちも満足できるようにしてあげたほうがええやろな」
「もちろん、そのつもりだ。味は魔法寄りになりそうだが、そこは我慢してもらうしかないな」
「この世界ですと、マスターの魔力で全て育つわけですからね」
竜郎の魔力でこの世界の全てが構成されているため、通常の世界よりも全てに魔力が染み渡っている。
そのため魔法使い系の種族だと、より美味しく感じるのだが、武術系の種族では少し味が落ちたように感じてしまうというデメリットもあった。
なので出荷する美味しい魔物食材も、そのあたりに気を付けて、全てを《強化改造牧場・改》内だけで完結させていないのだ。
そして亜獣人たちは、魔法の素養はどの種であろうと漏れなく低い、ごりごりの武術系種族だ。
なので通常の自然界で食べる魔物よりも、少し味は落ちて感じることだろう。
「野生に近い種族だからこそ、舌は敏感そうですしね。強さはどうされますか?」
「基本的には、もとの亜空間にいた一番強い魔物を上限に分布させていけばいいと思ってる」
「基本的にはってことは、強い魔物も解き放っちゃうの?」
「挑まれれば応えるみたいな、ボス的な存在を用意しておこうかなと。
強さを追い求めるなら、そういう魔物がいた方が人生に張りも出るだろうしな」
たとえば世界の象徴たる一番高い山の頂上に、亜獣人たちからすればかなり強い魔物を住まわせる。
けれどそういった魔物は、自分の住処からは出さずに、亜獣人側から手を出さない限りは攻撃しないと命じておく。
そうしておけば、無駄に挑もうとは普通なら思わない。
けれどただ漠然と生きるだけを良しとせず、己をどこまでも高めたいと思う、意識の高い亜獣人たちの矛先として用意しておく形だ。
「山だけでなく、こっちの湖にも──」
「せやったら、こっちの川上にもあったらそれっぽいんやない?」
「いいな。採用だ」
そうしてああでもないこうでもないと、皆で相談しながら、できるだけ自然に、けれど元いた亜空間とそこまで暮らすための苦労は変わらない、新たな亜獣人たちの住まう世界作りを進めていった。
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