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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二二章 

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第459話 亜獣人の禁忌

 騒がしいほどの怒声が聞こえる場所に辿り着くと、竜郎たちは驚きに目を丸くする。



「キャゥウウウッ」

「ケゥッ……ケッケゥッ」

「ヒヒッ──ヒヒンッ」

「「「「「ギャオオッ──ギュォォオオオオッ!!」」」」」



 現場には20人近い亜獣人がおり、意味をなさない言葉を叫びながら3人のイヌ系、キリン系、ウマ系の同胞であるはずの亜獣人を他の連中がリンチしていた。

 それはここまでの道中で見てきた喧嘩とも一線を画し、寄ってたかって3人を殺そうとしているようにしか見えない。



「ど、どどどどゆこと!?」

「いくら頑丈言うても、さすがに死んでまうよ」

「かといって、一概に暴力を振るっている方が悪いとも言い切れない状況なんだよな……」



 ここだけ切り取れば可哀想な3人だが、リンチをしていない住民もいるのに、それを止めようとしない。

 それどころか、当然だという視線を向けているような感じすらする。

 少なくともこの村の住民からすると、その3人はリンチされて当然といった様子なのだ。

 下手するとこの村において、暴行を受けている3人は大罪人であり、刑が執行されている可能性すらあった。


 竜郎たちも興味はあるが、さすがにこの村の生活を壊す気はない。

 亜獣人に恨みもなく、ここでただ暮らし続けるだけなら害もないのだから、好奇心が収まればそのまま帰るつもりなのだから。

 であれば事情も何も知らない部外者が、自分たちの常識や考えを押し付けて横から口を出すのははばかられた。



「しかし理由くらいは聞いてもいいのではないでしょうか? マスターなら、呪魔法でいくらでも誤魔化せますし」

「どういう理由でこのような制裁が行われているのか、それを知るだけでも、ここに住まう亜獣人のことが何か分かるかもしれませんからね」

「それも一理あるか」



 他所への精神干渉は、誰でも意のままに操れてしまうからこそ、竜郎の精神衛生的にも気軽にやりたくはない。

 けれどあまりにも情報がなさすぎた。それに──。



「万が一しょーもない理由で殺されちゃいそうになってるって場合もあるし、話くらいは聞いてみた方がいいのかも」



 何か周りを怒らせるようなことをしていそうなため、ただの憂さ晴らしというのはなさそうだが、亜獣人のことなどまったく理解できていない。

 何の理由もなく、生贄にされている可能性もゼロではないと、竜郎は呪と闇の混合魔法で、この辺り一帯にいる全ての亜獣人たちの精神に干渉する。



「止まれ」

「「「「「……………………」」」」」



 竜郎のそのたった一言で、人形のように一斉に動きを止めた。

 殴られ、引っ掻かれ、血塗れになっている亜獣人たちも、痛みを忘れて忘れて呆然と立ち尽くしている。

 圧倒的な力量差もあるが、もともと亜獣人は魔法への抵抗力が低めな種族であるため、少し力を振るっただけでこれである。

 しかしそれ故に、恐ろしくもある。この力に溺れないように、これからも使う前に躊躇う心を忘れないようにしなければと、竜郎は改めてその光景に背筋を凍らせた。



「話聞くなら、あの人なんてええんちゃう?」

「長老って感じのおじいさんだしね。いいかも」



 周りを見渡し一番年齢がいってそうな、杖をついてリンチを静かに見守っていた、一目で老齢と分かるトドの獣人に目をつけた。

 見える範囲にいる亜獣人の中で一際理性的な目をしており、長い歳月による経験を感じさせる。

 竜郎は皆を引き連れ、そのトド亜獣人の老人に近寄っていく。



「こんにちは。話を聞かせてほしいんだが、あの3人はなんであれだけの暴行を受けているんだ?

 俺たちはここのことを全く知らないから、その前提で教えてほしい」

「あ? ああ、あれの理由か……」



 村内を歩いているときに聞こえた会話を頼りにスキルで習得した、亜獣人の言語で話しかけると、苦々しい表情で、ちゃんと流暢な言語で語りだしてくれた。



「……奴らはな、儂らにとって最大の禁忌を侵したのだ。

 許されざる大罪であり、死ぬまで徹底的に痛めつける様を皆に見せつけ、過ちを起こさぬよう、抑止力にしようとしているのだ」

「……最大の禁忌? それに死ぬまで暴行をってのは、穏やかじゃないな。

 いったい何をやらかしたんだ。その禁忌ってやつを俺たちにも分かるように教えてほしい」

「禁忌とは厄災の力のことだ」

「……………………え? 説明そんだけ?」



 その言葉の後にまだ続くかと思いきや、それで分かるだろうとばかりに何も話さなかった老トドに愛衣が思わずツッコミを入れる。



「厄災の力というが……そんな特別な力、あの3人にはないだろ」



 これはもしや悪魔憑きや魔女だとか、地球でも言われていた迷信や思い込みで、酷い目に遭っているだけなのではないかと竜郎は思ってしまう。

 そう考えても仕方がないほど、その3人が特別、他の亜獣人たちと違う何かを持っている気配すらないのだ。



「私も調べましたが、普通……としかいいようがありませんね」



 それはミネルヴァも同意見で、リンチに遭い殺されそうになっていた3人はいたって普通。むしろ同種の動物系の亜獣人たちと比べて同等か弱いくらいだ。

 厄災の力なんていう、大げさなものは何もない。



「申し訳ないが、それだけじゃ俺たちにはなんのことかさっぱり分からない……。

 もっと細かく、その厄災の力とかいうのを説明してほしい」



 放っておくと出血多量で死にそうになっていたため、死なない程度に3人を癒してから竜郎はもう一度、老トドに問いかけた。

 すると「はあ?」と何故分からないのか、こちらが分からないという反応されたが、朱蒙による催眠状態なため、できる限り竜郎の意に添うようにと頭の中でどう説明すればいいのか考え出した。



「それだけこの村にとっては、共通の認識ということなのだろうな」

「厄災の力ねぇ。大げさな気ぃするわ」



 当たり前のことを説明することの方が、逆に難しい。そんな感じなのだろうと話していると、ようやく言語化できるように纏まったのか、老トドが口を開き、竜郎たちは会話を止める。



「あー……つまりあれだ。誰しも一定の年齢に達すると、堕落の邪神の声が聞こえるだろう?」

「んん? また新しい概念が出てきちゃったね……」

「ほんまにわけ分からんわ……なんやねん、堕落の邪神の声が聞こえるって」



 また当然のように意味不明な固有名詞を出してきて、さらに困惑させられてしまう。



「この場所に住んでいる人間特有の幻聴だとか、そういうのなのか……?

 にしては、そういう力の気配も、なにか術にかかってる様子もなさそうだが。

 ミネルヴァはどうだ? なにかそういう幻聴が聞こえそうな力が働いている気配はするか?」

「いいえ、なにも。しかし一定の年齢に達したときに聞こえる堕落の邪神の声……ですか」

「その反応、なにか思い当たるものがあるのか?」



 アーサーが他のメンバーとは違う反応を見せたミネルヴァに、そういいながら視線を向ける。

 するとミネルヴァは、「もしかしたら……」と言葉を続けた。



「それは、システムがインストールされるときの声ではないでしょうか。

 あれは一定の知性が宿った瞬間に、問答無用で全ての〝人間〟にインストールされる物でしたよね?

 亜獣人たちの知能レベルはほぼ同等なので、だいたい同じくらいの歳に聞くことになりそうですし」

「あー、堕落の邪神かどうかはさておき、あのシステムの声は亜獣人さんでも平等に届くものだよね。

 それなら幻聴とか、不思議な力が~って感じないのも説明がつくかも」

「言われてみると、そうとしか思えなくなってきたな……」



 もしそうならと、竜郎は自分のときのことを思い出しながらさらに老トドに話しかけた。



「確か……そう、《規定値内の知的生命体を感知いたしました。》《これよりシステムをインストールいたします。》《システムのインストールを完了いたしました。》《これよりシステムを起動します。》みたいな感じの言葉だったはず。

 これが堕落の邪神……とやらの声の内容で合ってるか?」

「なんだ。知っているじゃないか。それだ、それが堕落の邪神の声だ」

「なんでそれが、堕落の邪神なんて呼ばれてはるの?」

「昔から親が子に、その子はまた自分の子が生まれたら、堕落の邪神の声に、決して耳を傾けるなと教え込まれるのだ」

「耳を傾けるっていうのは、具体的にどういうことをしたらアウトなんだ?」

「そんなの決まっているだろう。あの気味の悪い、自分だけに見える板を使い、本来なら無いはずの力を、苦も無く得ることだ」

「ああ、それで堕落……言い得て妙ですね。

 確かにレベルアップで得られるポイントを消費すれば、簡単にスキルが得られるわけですし」



 竜郎たちはただ便利だと使い倒しているし、今の世界でシステムの恩恵を受けていない、便利に使っていない人間など存在していない。

 けれどここにいる亜獣人たちは、広いが外の世界に比べれば狭い亜空間の中の箱庭で生き続けた、ここだけが世界の全ての人間だ。

 そんな常識が生まれてもおかしくない土壌はあったのだろうと、竜郎も納得できてきた。



「なるほどな。つまりまとめるとだ。

 俺たちの知ってるシステムの音声アナウンスは、ここでは堕落を誘う邪神の声。

 システムは邪神が用意した堕落の力であり、それを使うこと自体が禁忌と呼ばれている。

 それでもって、システムを使って得たスキルを、厄災の力と呼んでいる。

 こんなところで合ってるか?」



 自分たちなりの解釈もまじえていたが、そこは呪魔法で伝えたいニュアンスを理解できるよう干渉したため、老トドにも竜郎たちが何をどう表現しているのか、意味はしっかりと伝わっていた。



「そうだ。ようやく理解したか。まったく鈍いやつらだな」

「そっちが訳の分からない迷信を作ってるからだろうが……と言いたいところだが、そんなことを言ってもしょうがないよな」

「だねぇ。でもこれで、とりあえずここの人たちがスキルをほとんど持ってない理由が分かったのかも」

「そもそも禁忌なんて言われて、もし取ったら殺されるわけやからなぁ。そらスキルなんて取れへんわ」



 一つ大きな謎が解けて、竜郎たちも少しスッキリする。



「それじゃあ、今度は、何で厄災の力なんて呼ばれているか知りたいな」

「これほど便利な機能に、そのような物騒な名前を付けるくらいですからね。

 何かしら、ここで起きたと考えるのが自然でしょうか」



 興味を引かれたように、アーサーがそう口にした。



「だろうな。ってことで、トドのお爺さん。その辺りについても、詳しい話を頼む」

「はぁ……仕方ないやつらだな」

次も木曜日更新予定です!

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