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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二二章 

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第451話 たつろー幼稚園

 皇妹殿下パルテノスが爆誕し、まず竜郎たちが行ったこと。それは──────撮影会だった。

 高性能なデジカメを引っ張り出して、姉妹のように並ぶユスティティアとパルテノスにシャッターを切っていく。

 遊びたい盛りな二人だが、美味しい魔物食材をあげると食べるのに夢中になって大人しくしてくれる。



「生まれたての真竜の赤ちゃんを撮影する機会なんて、そうそうないからな」

「ふふっ、やっぱり赤ちゃんって、みんな可愛いよね」



 それぞれ単体の写真もひとしきり撮れたら、今度は他の竜王種の子供たちもまじえてまたシャッターを切る。

 フォンフラー種のフレイムとアンドレは、相変わらずクールだが、それでも真竜という存在は気になるのか、はたまた美味しい魔物食材があるからか、勝手に去っていくことなく、画角の隅の方で大人しくしている。

 他の子たちはただ年の近い子と遊んでいるだけで、どんどんオヤツがもらえると、ノリノリで撮影に付き合ってくれた。



「ふぅ、こんなもんかな」

「あとで絵にして、私にも貰えるかしら?」

「もちろん。最初からそのつもりでしたし」

「私も貰えるか」

「当然でしょ。イシュタルちゃんにもちゃんとあげるよ」



 親たちで後で印刷した写真を──と、子供たちが遊んでいるところ見ながら父母会のようなものにいつの間にかなっていた。

 さらに孵化したという知らせを聞きつけ、エーゲリア島からエーゲリアの側近眷属たち──アンタレス以外が、交代交代で一人ずつやってきては、新たな皇族パルテノスに挨拶していた。

 最後の挨拶には、一番の古株であるセリュウスもやってきて、恭しく小さな銀竜パルテノスに頭を下げる。

 挨拶されたパルテノスは「なにこのおじちゃん?」といった様子で、ペシペシ無邪気に尻尾で叩いていたが、セリュウスは、真面目な竜の顔を微動だにさせなかった。



「これでエーゲリア様も、安心して島へお戻りになりますね?」



 カルディナ城に逗留していたのは、あくまでパルテノスが生まれる間、弱った?エーゲリアの安全を考えてという話だった。

 竜郎たちもそれに見合うだけの素材など、むしろ貰い過ぎなほどに礼を貰っているので何の文句もなく、お世話をしていた。

 だがそれも終わり、セリュウスはパルテノスと共にようやく戻ってくれるかと考えていたのだが、当の本人にぷいっと視線を逸らされていた。



「……エーゲリア様? いかがされました? まさか……」



 ここにまだ居座る気なのかと、セリュウスは目を丸くして主を見つめる。

 さすがにこれ以上、竜郎たちに厄介になるわけにはいかないだろうと。

 それでもエーゲリアは、まあ待ちなさいとセリュウスを落ち着かせる。



「あの子たちも見てみなさい」

「……はあ」



 竜郎たちもつられて、エーゲリアが指さすちびっ子たちが集合して、遊んでいる姿に視線を送る。



「真竜の子がここまで気を許せて、気軽にじゃれつける同年代の子が、ここには沢山いるの。

 大人たちに囲まれているだけでは、この子たちが可哀相よ!」

「では定期的に寄らせてもらえば、よいのではありませんか?」

「…………この子たちが可哀相よ! ね、ねぇ、タツロウくんもそう思わない?」

「あー……まあ、うちは全然いいですよ」



 なんといっても、さすがは最強国家の先帝だ。お礼の質も量もそこいらの王族とは訳が違う。

 貰うものも貰えるのが分かっているのだから、あれだけ美味しい魔物食材を食い散らかされても何とも思わない。

 それにこっちの事情を全部知っているため、別に隠すこともない。子供たちも一緒にいて楽しそうだ。

 なので、居たいのなら別にいいよというのが、竜郎たち側の素直な感想だった。

 ただそれでイシュタルたちが、堕落していく母や主の姿を許容できるかが問題なのだが。



「そう言ってまた、だらだらされては娘たちにも示しがつかないぞ」

「さすがに娘の前で、だらけた姿なんて見せないわよぉ。いやねぇ、イシュタルったら」

「……私もあなたの娘なのだが?」



 ふにゃふにゃに蕩けたエーゲリアの姿を見たのは、ついさっきの話だ。



「あらあら、うふふ。そうよね。

 でももうあなたは独り立ちした、立派な大人なんだもの。この子たちと一緒の扱いはできないわよ」

「うーむ……」



 確かにイシュタルも、子供の頃は周りが大人ばかりで、同じくらいの子供の友達に憧れた覚えがないわけでもない。

 だがここには身分も関係なく、一緒に遊び、一緒に成長できる幼竜が沢山いる。

 竜郎たちのことも信頼できるし、常に誰かしらがカルディナ城を守っているため、安全面でも折り紙付きだ。

 子育ての場としては、かなり良いのは確かだった。



「住み込むのは意味が分からないがな。通いでいいだろう」

「幼稚園みたいな感じかな? うちはどっちでもいいよ、イシュタルちゃん」

「なんでイシュタルの方に聞くのかしら」

「エーゲリア様は、ここにいると自制心が溶けてしまうからではないでしょうか」

「そ、そんなことはないと思うけれど……」

「そんなことがあるから、私も眉をしかめているのだよ、母上殿」

「むうぅ」



 太古の昔から生きているとは思えない子供らしい反応に、やはりここにいると幼児退行してしまうのではないかと、竜郎さえも思ってしまう。



『これは確かに通いの方がいいかもしれないな』

『あはは、そうかも』



 イフィゲニア帝国の先帝の沽券にも関わりそうなため、こちらからは気軽に返事はできそうにない。

 だが折衷案を出すくらいはいいだろうと、竜郎からも一つ提案してみることにした。

 決してエーゲリアを住まわせることで得られる、珍しい素材に目がくらんだわけではない!



(リアも珍しい素材はあるに越したことはないだろうしな。うんうん)



 竜郎は誰にするでもなく、謎の言い訳を心のうちでしてから、思いついたことを口にしていく。



「とりあえずいきなり帰るって環境を変えるっていうのは、エーゲリアさんも大変かもしれませんし、数日くらいはここにいて、それから通いするっていうのはどうですかね」

「まあ……だらけ切ったところを、外の者に見せるのも困るか。セリュウスはどう思う?」

「そうですね。それにこれほど楽しそうにしているパルテノス様を引きはがすのも、抵抗がありますから……」

「それはうちの娘もだな……。侍女や私の側近たちにあやしてもらっているときよりも、ずっと楽しそうだ」

「ええ、ええ、そうでしょうとも」

『これ、もしかしてエーゲリアさん。この結果に導こうとしてたんじゃない?』

『奇遇だな、俺もそんな気がしてた』



 気が緩んでいるかと思いきや、ちゃんと自分の望む道のりに誘導していたのだと、竜郎たちもさすがに気付く。

 竜郎は思いついた提案をたまたま口にしたつもりだったが、そういう道筋になるようにするべく、彼女は最初にまだここにいたいと我がままを言ったのだ。

 このダラダラとしたのも、実はすべて演技だったのではないかとすら思えてくる。



『さすがは大帝国を何万年も治めてきた元女帝様か』

『私たちじゃ、どうしたってかないっこないね』



 だとしても別段、腹が立つわけでもないいい塩梅の誘導だ。

 戦闘能力もそうだが、こういう処世術も、彼女には叶いそうにないと苦笑してしまう。



「タツロウたちも、それでいいのか?」

「ああ、いいよ。ユスティティちゃんも、一緒に来てもいいからな」

「そうだな。この子も遊び相手がいた方が楽しいだろうし、通わせてもらうことにするよ。ありがとう」

「気にしないでくれ」

「たつろー幼稚園のはじまりだね!」

「せめて波佐見幼稚園にしてくれ……。まぁどっちでもいいんだが」



 こうしてカルディナ城は、幼竜たちの幼稚園となることが決定した。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
真竜と竜王種だらけとか物騒な幼稚園だな…w 一般人が通りかかったら消し飛びそう()
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