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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編
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第450話 爆誕

 ニーナにいっぱい甘やかされて、でろでろに蕩けてしまっているエーゲリアに、イシュタルは歩み寄っていく。



「いらっしゃい、イシュタル。あなたもご飯を食べに来たの? 今日のご飯はどうやら──」

「私も今日はここで食べさせてもらうつもりでいるが、ここに来た目的は母上に話があったからだ」

「私に話? なにかしら。お勧めの料理についてという話なら、この母に任せてもらって構わないわよ。

 やはり何と言っても一番は──」

「いや、その話ではない。というか、一度食べ物の話から離れてくれ」

「ええ~、もうあなたは一人の子を持つ母であり、皇帝としても完全に独り立ちして自分の考えで進めているわ。

 今更私の話なんて、あなたには必要ないわよ。だから美味しい話を──」

「さては母上。私が何を言いたいか分かった上で、はぐらかそうとしているのではないだろうな」

「え、ええっ!? そんな酷いわ! 母を疑うなんてあんまりよ!」



 口ではそう言っているが、エーゲリアの視線は盛大に泳いでいた。

 イシュタルはがっくりと肩を落としながら、大きな溜息を吐く。



「なんというか、ここで甘やかされ続けた結果、腹芸も随分とお粗末になってしまったようだな……」

「そんなことないわよぉ」



 いやだわぁと、エーゲリアは少しおばさん臭い仕草で前脚で空気を掻いた。



「まぁそれはもうどうでもいい。単刀直入に言わせてもらうが、そろそろ私の妹を孵化させてやってくれ」

「ええ……でも……ね? そのぉ……まだ時間がかかるんじゃないかしら」

「この目を見てもそう言えるのか? この子も早く自分の叔母を見たいと思っているに違いないぞ」

「ぎゃう~♪」



 イシュタルが我が子を抱き寄せて、その純粋な瞳をエーゲリアに向ける。

 ユスティティアは叔母が見たいなど思っておらず、ママに抱っこされて嬉しそうにしているだけだが、そのつぶらな瞳は祖母を動揺させるに十分な威力を持っていた。



「うぐっ。孫を出してくるなんて、卑怯よ。イシュタル」

「私も皇帝らしくなってきたと褒めてくれて構わないぞ」



 ぷくーっと頬を膨らませるエーゲリアに、イシュタルは気にした様子もなくそう言い返した。

 そしてさらに、追撃とばかりに伏兵まで現れた。



「お姉ちゃん、もうその子は生まれるの? ニーナも早く見たいなぁ」

「に、ニーナちゃんまで……。くっ、こんな可愛い子たちの純粋な瞳には勝てないわっ。イシュタル、恐ろしい子っ!!」

「はいはい。それで、いい加減に我が妹をこの世に生み出してくれるのか?」



 孫とニーナの純粋な瞳に、さしものエーゲリアもようやく諦めがついたようだ。

 むくれながらも、最後には折れてくれた。



「分かりました。分かりましたよ! もぅ、もうちょっとこの天国を味わわせてくれてもいいじゃないの。

 イシュタルったら、可愛くないわ。昔はあんなに可愛かったというのに」

「可愛くなくて結構だ。では頼んだぞ、母上」

「はぁい」



 心なしか後ろで料理を抱えたまま見守っていたリリィも、残念そうにしていた。



『いや、リリィさんは新しい真竜誕生の方を喜ぼうよ……』

『この人も俺たちの領地で堕落してしまったみたいだな。

 セリュウスさんがいたら、どうなっていたことか』

『あの人がここに来てたら、さすがにエーゲリアさんも、ここまでにはなってなかっただろうしね』



 もちもちボディになってしまった、リリィを見る竜郎と愛衣。

 さすがにセリュウスはああはならないだろうと、二人が話している間にも、エーゲリアはどんどん卵に竜力を注いでいく。

 もう必要な半分は竜郎たちが提供済み。あとは彼女が残りの必要な竜力を注ぎ終えれば、すぐにでも歴史上、同時に存在した真竜の数をまた塗り替える、大きな事象が起きようとしていた。



『エーゲリアさん本人を見てると、まったくそうは見えないが……』

『あはは……、別にうちに来たいなら、好きなときに来てくれていいのにね』

『そうだな。でも立場上、何泊もここで逗留するには、それなりの理由がいるんだろう』

『あー……、そうだよね。最強の竜帝国の先帝様なんだもんね。

 ニーナちゃんにデレデレになってるところを見ちゃうと、とてもそうは思えないけど』



 世紀の瞬間を見逃さないようにと、竜郎と愛衣もどんどん満たされていく卵を見つめる。

 付いてきていた他のちびっ子竜たちも、さすがに気になるのか、目を皿のようにしてじっと静かにエーゲリアに抱えられている卵を見守っていた。



『しかしやっぱりエーゲリアさんは余裕だったんだな』

『まーそりゃそうだよね。あっ、たつろー! ひびが入ったよ!!』

『おおっ!』



 キラキラと銀色の光を帯びた大きな卵にヒビが入り、その隙間から銀の粒子が舞い散る光景はとても美しかった。

 さすがにユスティティアの誕生には立ち会えなかったため、竜郎たちも興味津々だ。



「ま────間に合ったっ!! 孵化するなら教えてって言ったじゃないの、エーゲリア!」

「ああそういえば。ごめんなさい、レーラ。

 孫とニーナちゃんの目には抗えなかったのよ……」

「ど、どういうこと……?」



 レーラも見たかったようで、どこからともなくやってきて、愛衣の横に立っていた。

 あの様子ならまだ孵化しないだろうと油断していたが、真竜の新たな気配を察知して、取るものも取らずやってきたのだ。



「さぁ、こちらにいらっしゃい。可愛い我が子」



 このときばかりはエーゲリアも聖母のような雰囲気になり、硬い殻を破ろうともがく二人目の子を応援していた。

 そんな母に応えようと言わんばかりに、殻を砕く速度が上がっていき、最初にパカンッと足が殻を破って出てきた。



「わっ、ちっちゃ…………くはないけど、赤ちゃんのあんよが出てきたよっ、たつろー」

「ほんとだな。お、今度は右腕が出てきた」

「ガウゥ!」

「そうだな。ユスティティアも応援してやってくれ」



 イシュタルに抱っこされたままのユスティティアも、自分の時の事を思い出したのか、年下の叔母に向かって声援を送る。

 卵の中の子も順調だ。右腕が出てきたかと思えば、また足と共に引っ込んで、内側から殻を破っていく。

 ちびっこドラゴンたちも、各々の鳴き声で応援し、体に力が入っていた。


 そして皆が見守る中で、ついに──その姿を表した。



「キュァァゥ~~~」

「ようこそ、歓迎するわ。私の可愛い子」

「キュゥゥァ~~♪」



 一メートルはある、銀の赤ちゃんドラゴンが生まれた。

 史上五体目の真竜の誕生だ。

 エーゲリアは愛おしそうに舌でぺろぺろと我が子を舐め、赤ちゃんはくすぐったそうに身をよじりながらも、母の愛情を感じてご機嫌だ。



『うーん、ちょっと前まで渋っていた人とは思えないね』

『まぁ、それは言わないでおこう。にしても可愛いな』

『ね! おっきいけど、やっぱり赤ちゃんって可愛いよね!!』



 イシュタルがユスティティアを離すと、妹に歩み寄っていく。

 ユスティティアも興味深げに、新たな真竜をチラチラ見ながら母の後を追う。



「私も歓迎しよう。しかし、妹ができるとは思ってもみなかったな」



 イシュタルは未来を視る力を有しているが、みだりに使ったりはしない。

 この予想できない驚きと喜びを、こうして味わえるようにと。

 妹に手を伸ばすと、ガブリとその子はイシュタルの手に噛みついた。

 普通の魔物なら簡単に腕を無くす一撃だが、ここにいる面々にとっては甘噛みですらない。



「ははっ、元気いっぱいだな」

「ガウ」

「キュゥァ~?」

「ガウガゥ」

「キュゥ~~~♪」

「ガウ~~♪」

「さっそくこの子たちも仲良くなれたみたいね。安心したわ」

「ああ、同時期に真竜の子が存在するなど、前代未聞のことだからな」



 ユスティティアも生まれたばかりの叔母に手を伸ばし、噛みつかれていた。

 だが彼女にとっても痛くなく、「私と遊びたいの?」とさっそくお姉さんぶって構いはじめる。



「エーゲリアさん、その子の名前はもう決めてるの?」

「ええ、もちろん。ここでのんびりと休ませてもらいながら、考えさせてもらったわ」

「そうなのか。では母上、この子の名前を教えてくれないか?」

「いいわよ。この子の名前は──パルテノス。これからは、そう呼んであげてちょうだいね」



 なんやかんやと、生まれるまでにあったものの──こうして皇妹殿下が爆誕した。

これにて第二十一章 皇妹殿下爆誕編は終了です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


今章の章題はどちらかというトワイライト編だった気もしますが、最後には立派なイシュタルの妹が生まれたので良しとすることにしました。

九星についても、具体的な姿や後世に伝わっている話なんかにも少し触れられて、私としては満足できました。


そして、あと残された美味しい魔物食材も残り二種となりました。

残りの食材についても、楽しみにしていただけると幸いです。

また次の二十二章の開始は『11月13日(木)』を予定しております。

この先の展開についても詰めていきたいと思いますので、のんびりお待ちいただけたらと。

それではまた、次章でお会いしましょう!!

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スッピーが知ったらカルディナ城が聖地扱いされそうな
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