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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編

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第449話 イシュタル来訪

 無事に新たな美味しい魔物食材『ノースリンネ』を手に入れてから、数日が経った。

 量産化もどんどん進んでいき、一日の収穫量もかなり伸びてきている。



「この調子ならあと数日もすれば、外に売りに出せるくらいの数は見込めそうだな」

「ノースリンネで作ったバナナ?シェイク、とっても美味しかったなぁ」

「「あう~~……」」



 愛衣も考えただけで涎が出そうになるくらい美味しい果実を思い出し、うっとりしていると、楓や菖蒲も何のことなのか察して母親と似たような蕩けた顔をしていた。



「残りの美味しい魔物食材はあと二つか。どっちを先に目指すべきか迷うな」

「えっと、あと残ってるのはお野菜と魚介類だっけ?」

「そうだ。それらが一つずつだな。けどうちは肉食が多いし、最後は魚で締めるのもいいかもしれない」

「ベジタリアンの人にはごめんなさいだけど、やっぱりお野菜って、どうしてもメインの食材って感じじゃないもんね。

 魚介類だと、豪華!って感じのも多いし、私もそれがいいかなぁ」

「じゃあ次は野菜で検討しておこう。

 まぁどっちが最後に来ても、美味しいに違いないことだけは確かなんだけどな」

「だね!」



 世は事もなし。

 世界的な危険地帯でもあった『世界災凶絶景七選』での衝撃もそろそろ薄れ、平和な日常を取り戻して落ち着いてきていた。

 そんな竜郎たちに、念話が入ってきた。



『アイ、タツロウ。ちょっとそっちに行ってもいいか?』

『うん? イシュタルちゃん? 別にいいよ! ご飯食べたくなっちゃった?』

『うっ、それはそれで魅力的だが、そろそろ母上をせっつこうと思ってな。

 いい加減邪魔だろう? ずっとゴロゴロして、世話になってばかりというじゃないか』

『別にエーゲリアさんなら、いつまでいたって構やしないけどな』

『カルディナ城だって広いし、エーゲリアさん一人増えてたところでって感じだよね』

『いや、そう言ってくれるのはありがたい。ありがたいんだ。

 だが身内が……というか、母親が友人宅に入り浸り続けるのは、娘としていたたまれなくなってくるんだが……』

『『あー……確かに』』

「「う?」」



 竜郎と愛衣も自分の母親が、友達の家でダラダラと食っちゃ寝と過ごしているところを想像し、その気持ちを察してしまう。

 何とも言えない表情をしている両親を見上げ、幼女二人はどうしたんだろうと首をかしげていた。



『そういうわけで、いい加減に私の妹をこの世に誕生させてやってくれと一言言いに行く。切り札も連れてな』

『切り札って?』

『私の娘だよ。母上にとっては、かわいい孫だ』

『ユスティティアちゃん! じゃあうちの子たちも呼んで、ちびっ子ドラゴンクラブでも創設しちゃう?』

『はははっ、それもいいかもな。あの子にも、同年代の友達というのがいてもいいだろう』



 竜郎はちびっ子ドラゴンクラブってなんだ? と思ったが、愛衣とイシュタルの間では通じ合っているようだったため、あえて口を挟むことはなかった。



『じゃあいつでも歓迎するからね。好きなときに来て』

『ありがとう。そうさせてもらうよ』



 念話が切れたところで、竜郎たちは自由気ままに外を出歩いている、楓と菖蒲以外のちびっこドラゴンたちを呼び集めて回った。

 最近は特に出歩くことも多く、時空間を司る魔王種──モヤ美による移動手段の便利さもあって、他の竜王たちのところにも自発的に会いに行って可愛がられている、なんてこともしていた。

 まだ小さいということもあって、竜王やその親たちは、すっかりちびっ子たちに甘々になってしまっている。


 そんなどこにいるかも分からない野生児たちをなんとか全員呼び集め、イシュタルの娘──ユスティティアとの対面を果たすこととなった。



「邪魔をする」

「全然邪魔じゃないよ、いらっしゃい。イシュタルちゃん。

 それにユスティティアちゃんも、いらっしゃい」

「グァ~~」



 イシュタルの隣には、頭の先から尻尾まで入れれば二メートルはある銀色のドラゴンが、愛衣ではなく、普段見ない小さな竜たちを見て興味深げな瞳を向けていた。

 まだ生まれて間もないため、システムもインストールされていない赤ちゃんだ。

 それでも竜郎は、せっかくだからと小さな真竜にちびっ子たちを紹介していた。



「こっちの子がヴィータとアヴィー」

「キュァ~~!」

「ガウッ!」

「それでこっちが──」



 まだ赤ちゃんなのに、ユスティティアはとても利発そうなドラゴンだった。

 竜郎が紹介を終えるまで静かにその言葉に耳を傾けてくれていた。



「うちの子たちとも、仲良くしてくれると俺も嬉しいよ」

「ギャウ!」

「ははっ、うちの子も仲良くしたいらしいな」



 すぐにユスティティアと竜郎の子らも打ち解けて、エーゲリアのいる部屋に向かう道中も仲良くじゃれ合っていた。



「お、おぉ……みんな元気だな。見ててちょっとハラハラするぞ」



 不安そうに見つめる竜郎の視線の先には、竜王種の子供たちとギャウギャウ鳴きながら、噛みついたり尻尾で叩いたり、傍目から見れば喧嘩しているようにしか見えない光景が広がっていた。



「うーん、でもこの子たちなら、本当にじゃれ合いの範疇でしょ。ねぇ、イシュタルちゃん」

「そうだな。むしろこれくらいでなければ、体を壊しているのかと心配になるぞ。

 だがまぁ、この子たち以外の子供に、同じことをすれば、上級竜の子でも大怪我をしていそうではあるが……」

「いや、駄目じゃないか……」



 竜郎もこの世界に馴染んではいるため、そのくらいでどうにかなるとは思っていない。

 だがユスティティアたちにとっては甘噛みでも、その咬合力はそこいらの魔物であれば、軽く肉を千切り取れるだけの力が込められているのも、気づいていた。

 彼女たちにとっては軽く肩を叩き合う、気安い動作でしかない尻尾の一撃も、そこいらの魔物であれば木っ端微塵にするほどの威力ではあった。

 音が凄いのだ。鱗を牙が擦る「ガリィッ」という音や、尻尾の打撃音もぺしぺしなどという可愛いものではなく、「ドバシンッ」と衝撃波で竜郎の髪が揺れるほどだった。

 心なしかいつも竜王種の子ら同士のスキンシップよりも、三割増しぐらいの強さのような気がしてならず、思わず大丈夫なのかなと心配になってしまったのだ。



「真竜っていう凄い竜だから、うちの子たちもはしゃいでるのかもね」

「何はともあれ、我が子に同年代の友達ができて、私は嬉しいよ。

 我が国の中では、どうしたってあの子は私の子であり、次期皇帝と見なされているのだからな。

 同年代の子らも、いずれも未来の家臣だ。

 それにこの子たちのように、身分関係なく、じゃれ合えるだけの力のある子供というのも、それこそ竜王種くらいでなければいけないだろう」

「そう考えると、とんでもなく選択肢が狭いんだな」

「イシュタルちゃんも苦労したのかな?」

「苦労……というものはない。友達という概念も、当時の私にはなかったからな。それが当たり前だったんだ。

 周りには常に、母上やその側近たちもいてくれた。寂しいとは感じていなかったさ。それに──」

「「それに?」」

「今はこうして話し合える、唯一無二の友もできた」

「私たちだね!」「俺たちのことか」


 自信満々に胸を張ってそう言い切った愛衣たちを見て、イシュタルも心から嬉しそうに笑顔を浮かべた。



「ああ、そうだよ。できることなら、この子にとってのそれが、ここにいる子供たちであってほしいと私は思う」

「だね」「だな」



 今も仲良く轟音を立てながらついてくる子供たちを、優しい瞳で見守りながら、竜郎たちはエーゲリアのいる部屋へとたどり着いた。



「うぇへへぇ~~、ニーナちゃん。こっちきて~。お姉ちゃんが抱っこしてあげる~♪」

「ギャウ? ニーナはもう、そんな赤ちゃんじゃないよ」

「ああん、もう。そんなこと言っちゃ嫌よぉ。お姉ちゃんの心を癒してほしいなぁ」

「それでお姉ちゃんは楽になるの?」

「ええ、そうよ!」

「じゃあ、いいよ」

「あはーー! 可愛い、可愛いわっ!! むぎゅ~~~」

「ギャウ~~♪」

「「「…………………………」」」



 部屋に入るなり、そんなやり取りを見せられ、竜郎と愛衣とイシュタルは思わず無言になってしまった。



「うん、これは早く孵化してもらった方がいいな」

「こんなエーゲリアさん、見たくなかったよ……。

 さすがにここまでじゃなかったのに……。

 あんなにでろでろになっちゃって、もうスライムだよ。スライムエーゲリアさんだよ」

「ああ……もっと早く来るべきだったか……。

 それに世話役で一緒に来ているはずのリリィはどこに行ったんだ」



 本来ここまでならないために、諫めるべきエーゲリアの忠臣であるはずのリリィが見当たらない。

 と思っていると、後ろから大量の料理を抱え、鼻歌混じりにやって来るリリィの姿を見つけた。



「おい……何をやっているのだ」

「あ~~……、イシュタル様も食べますか?」

「お前、太っただろ。少し見ない間に、ちょっとモチッとしてるぞ」

「ええっ!? ちょっと運動しなきゃ駄目かしら……。

 でもタツロウさんたちのお城って、まるで天国なんですよね~」



 イシュタルに指摘され、聖竜リリィはお腹のあたりをポンポンと叩く。

 マジマジと見ていなかったため、竜郎は気づいていなかったが、確かに言われてみれば、最初にエーゲリアと一緒に来た時よりもフォルムが丸くなっていた。



「うん、リリィさんのためにも、早くしないとダメだなこりゃ」

「あはは……、真竜の側近眷属でも、やっぱり食べすぎれば太るんだねぇ……」



 あまり気にせず好きにしてもらっていたが、予想以上にエーゲリアとその側近がスライムを幻視してしまうほど、だらだらのでろんでろんに成り果てていた。

 さすがの竜郎や愛衣も、これはヤバいなと、イシュタルとリリィの間で流れる微妙な空気に、苦笑するしかなかった。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
真竜をここまで堕落させた人間は世界初なんじゃなかろうか もはや偉業と言っても過言ではないかもしれない
ぽんぽんペインにならないからって、ダラけすぎでしょw
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