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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第三章 カルラルブ大陸編
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第42話 デイユナル砂漠

 なんだかんだと話していたらお昼時を過ぎてしまっていたので、博物館内の応接室に食事を用意してもらっていただくことに。

 ソファーを挟んだ向こう側に座り一緒に食事をとっている兄弟に、竜郎は話しかける。



「そういえば、チキーモが比較的よく出没する場所とかはあるのか?」

「ん~……チキーモがと限定的ではないが、やたらと強い魔物がはびこっている場所はある。

 あそこの入り口付近は俺たち王族なんかもレベル上げのために行ったりもするが、その奥は危険だからほとんど行かないっていうな」

「ああ、確かにあそこなら一体くらいはいそうだね。お目当てのチキーモがいるかは分からないけど」



 どうやらこの大陸にもカルディナ城が建っている竜郎たちの領地のような、他と比べて特に危険な魔物がはびこる領域があるようだ。



「まずは一体でいいからチキーモがどんな魔物かを知っておきたい。

 だから、とりあえず目的の奴じゃなくてもいいんだ。場所を教えてくれないか?」

「分かった。サキマ、地図を」

「承りました」



 後ろに立っていた執事に書類棚からカルラルブ大陸の地図を出してもらい、護衛たちが机の上に乗った食器を少しどけて真ん中に広げてくれた。

 アクハチャックは一度フォークを置いて、その地図を指差して説明してくれる。



「中央がここ王都カルラルブ。そしてタツロウたちの入ってきた、王都北東部にあるイルミナーという大きな三大港町の一つがここ。

 んでもって王都の南部にある妖精大陸側に面したジェンミナーという、三大港町の一つがここだ」

「ふんふん。それでそれで?」

「この三つを線で繋いでいくと潰れた三角形みたいな形になるんだが、件のデイユナル砂漠と呼ばれている危険区域は、その底辺の真ん中より少し南東に進んだこの辺りになる。

 いけば一般人や観光客が間違って入らないように看板がいくつか立っているから、すぐに分かるはずだ」



 指でぐるぐると円を描くように示したそこは、竜郎たちがもらった領地ほど広大ではないが、それなりに面積のある場所だった。

 そこ──デイユナル砂漠と呼ばれる場所の砂中を、全部調べるとなると面倒くさそうだ。



『でも一体でも見つければ、パパのマップ機能でチキーモが見つけられるようになるんだよね』

『ああ、《完全探索マップ機能》を使えば、俺の認識したことのある人や物なら大抵地図上に表示できるようになるからな』

『ほんと便利だよねー。たつろーのそれ』



 スキル《完全探索マップ機能》のおかげで、竜郎たちはとりあえず一体でもチキーモを見つけるなり倒すなりすれば、この世界にいる──といってもこの大陸にしかいないが、全てのチキーモがどこにいるのか的確に分かるようになる。


 目当てのチキーモも、亜種ではなく宝石をクチバシにつけたチキーモというだけのようなので、どれかまでは特定できなくても全ての内のどれかには表示されるはずだ。



「魔竜を相手にしようとしているタツロウたちにこんなことを言うのもなんだが、いちおうそこは人が住めないほどに危険な魔物が数多く出没する。十分に気を付けてくれ」

「分かった。心配ありがとう。にしても、今の指輪を着けていないウィリトンやチャックたちでも危ないのか? そこは」



 竜郎が観る限りでは、アクハチャックのレベルは100を超えているし、その弟は下手をしたらそのチャックよりも少し上といったところ。

 さらにそこへ、ここにいる二人の護衛をつければ、そうそうやられることもないように思えた。



「入り口付近ならそれほど数も多くないし、数で勝っていれば危険は少ないだろうが、奥へ進むにつれて数が増えていくからな。

 四方八方から連続して多数でこられてしまうと俺たちも、どうしようもなくなってしまうんだ」

「狡猾な魔物も多いからね」

「なるほど……」



 もしこの一件が終わったら、そこをくれと試しに言ってみようかと思う竜郎。

 人が立ち寄らない、魔物素材も豊富。それにチキーモを《強化改造牧場》以外でも養殖しようと思うなら、砂漠地帯のほうが快適に育ってくれそうな気もすると、竜郎たちにとってはなかなか好条件な場所だろう。




 それから昼食を食べ終わるとアクハチャックたちと一度別れ、さっそくその『デイユナル砂漠』とやらに赴いた。



「ん。なにもない」

「でも魔物はいるよー。あれ美味しいかなぁ」

「……さっき食べただろ、ニーナ」

「ぎゃう~」



 もらえた時のことも考え、下見がてらとデイユナル砂漠と普通の砂漠の境界付近に立って眺めてみると、砂砂砂──時々魔物と、ほんとうに何もない不毛な場所だった。


 唯一ある人工物は、ここから先は危険だと書かれた看板がいくつか破壊されているが立っているだけ。



「だがそのほうが好き勝手できそうだし、いいんじゃない?」

「まだ貰えると決まったわけじゃないが、たしかにそこも魅力的だな」



 とりあえず前方にいた一メートルほどの大きさをした、やたらと筋肉質なウサギのようなネズミのような、そんな魔物を三匹倒してみた。

 個体レベルは三匹とも70オーバー。確かに一般人が立ち寄っていい場所ではなさそうだ。


 そんな三匹の魔物の内一体は、生肉を所望したニーナが血を撒きらしワイルドに食べていた。



「お味はどーお? ニーナちゃん」

「そこそこおいしーよ。ママも食べる?」

「生はちょっと、遠慮しとこーかなぁ」



 ニーナが右手でむしり取った毛皮の付いた血の滴る肉を無造作に出され、愛衣は少し顔をひきつらせながら丁重にお断りしておいた。


 楓と菖蒲が興味深そうに眺めていたが、なんとなく幼女が生肉を喰らっている姿は絵面的に厳しいので、大丈夫だろうが食べさせるのはやめておいた。


 ニーナについた返り血を綺麗に洗い流してから、周囲を軽く探索してもチキーモらしきものは見つからなかったので、より多く魔物が生息していると言われているデイユナル砂漠中央に向かって、砂塵を撒き散らし陸路で一気に突き進む。

 魔物の血で通った跡を染め上げながら。


 道中、竜郎は地中探査をしていたが、チキーモらしき魔物は見つからなかった。

 というわけで、中央と入口のちょうど中間くらいの場所で腰を据えて探してみることに。


 立ち止まったヘスティアが、ぐるりと周囲を見渡した。



「ん。ここ、ぜんぜん魔物襲ってこない」



 ここまで威圧感を抑えていたせいもあったが、まっすぐ砂漠を走っている竜郎たちに襲い掛かってくる魔物は数多くいた。

 そのつど返り討ちにしながら素材だけはありがたく頂戴してきたわけだが、ここの一角にはそういう魔物もいなかった。

 だからこそ、ここで一度詳しく調べようという気になったわけだが。



「だねぇ。まあ、たぶんアレのせいだろうけどさ」



 そう言った愛衣の視線の先には不自然な、砂を固めて作ったであろう巨大オブジェが一つそそり立っていた。

 形はやや歪んでいる円柱状で、大きさは15メートル近い。

 洞穴のように下の部分に大きな入り口らしき場所があり、ナニかがこの中で暮らしているようだ。



「エエッエエッエー!」

「パパー、なんか住人さんが威嚇してきてるよ」

「だなぁ。しかしこう言ってはなんだが……ちょっと可愛いかもしれない」

「あー私も、それ分かるかも」



 そのナニかは、円柱の塔の天辺の縁に頭を乗せて、顔だけをちょこんと出して上から竜郎たちに向かって威嚇しはじめた。


 見えている部分は頭部だけで残りは塔の中で見えないのだが、その顔はエリマキトカゲのよう。

 首回りについた襞襟ひだえり状の皮膚飾りを目一杯広げ、つぶらな瞳をより大きく見開いて、必死で竜郎たちを追い払おうとしていた。


 これまでデイユナル砂漠で邂逅したどの魔物よりも強く、頭部の大きさからいって全長8メートルはあるだろう。

 普通の人間や魔物ならそこに恐怖を感じるところではあるのだが……、竜郎たちにはなんだか愛嬌のある顔に見えてホッコリしてしまった。



「しかもアレ、レア魔物っぽいなぁ」

「ん。亜竜だと思う」



 竜郎たちにはそよ風にすらなっていないが、軽度の竜の威圧を放っているのが感じ取れた。

 だが竜というほどでもないので、亜竜で間違いないだろう。



「ねぇ、たつろー。ちょっと可愛いし、テイムしてみたら?」

「無理そうだったら討伐するしかないが、それもいいかもな。

 現地の魔物ならではの情報も分かるかもしれないし」



 ということで竜郎一人で相手をすることになった。

 楓と菖蒲は、なんだかこの旅でまた少しだけ離れられるようになってきていたので、愛衣とヘスティアに託しておいた。


 重力魔法で体を軽くし風魔法で宙を舞う。円柱の塔から顔を出すエリマキトカゲ風亜竜に、無遠慮に近づいていく。

 当然、亜竜は攻撃してくる。怒りながら、ねばねばした唾を吐きつけてきた。



「きたなっ」

「エェッ!!」



 空中でそれを躱し、ねばねばした唾は砂の上に落ちると、ジュウッ──と砂を溶かすような音が聞こえた。



「酸性の唾ってところか。しかも体に張り付いて、なかなか取れないっていうオマケつきの。なかなか嫌なスキルを持ってるな」

「エッ! エエエッエエッ!!」



 竜郎は炎の球体を自分を中心にして展開し、唾は当たったはしから蒸発していく。

 どんどん近づいてくる竜郎に唾攻撃は効かないと悟った亜竜は、慌てて塔の中に引っ込み下まで降りると、今度は入り口から顔をだして砂を槍のようにして竜郎に向かって何本も伸ばし攻撃してきた。



「砂を操作して槍を作れるのか。ここだと便利そうなスキルだな」

「エエッエェー!」



 だが竜郎が周囲に展開した炎の球体に当たると、その全てがドロドロに溶けながら地面にボトボト落ちてしまう。


 竜郎はそのまま砂槍を無視して下に着地し、入り口から体を出す亜竜に近づいていく。

 そして土魔法で砂の鎖を作って操り亜竜を拘束していくと──、不意に後ろから目のない蛇のようなナニかが飛び出し襲いかかってきた。



「おもしろい尻尾を持ってるな。まあ、探査魔法で分かっていたんだが。

 さしずめ首元の目立つえりで注意を引きつつ、砂中に潜らせた尻尾で後ろからガブリってのが、お前の狩りの常套手段ってところか」

「エエェエエエェ……」



 炎の球体に当たってしまうと、その目のない蛇のような頭部を先に付けた亜竜の尻尾が蒸発してしまうので、その前に氷魔法で凍らせて地面に落とし無力化した。


 砂の鎖でがんじがらめにされた亜竜は、さらにその鎖が持つ呪魔法と封印魔法、捕縛魔法の効果により、動くこともスキルを使って攻撃することも、一切できなくなってしまう。

 そこで亜竜は諦めたかのように、抵抗をやめてジッと竜郎を見つめてきた。



「そんな死を悟ったような顔をするなよ」

「エエェ……?」



 竜郎がここで《強化改造牧場》に備わっている能力の内の一つ、テイム契約を持ちかけた。

 すると戸惑ったように首を傾げ、どうしようか悩みはじめる亜竜。

 そこで竜郎は、もうひと押しすることにした。



「うちに来れば、こ~んな美味しいものが食べられるぞ?」



 《無限アイテムフィールド》からララネストの大きな切り身を取り出し、顔の前において食べるように身振りで示した。

 亜竜はクンクンと匂いを嗅ぎ、なんだか美味しそうだと感じたのか、バクリとその身を飲み込んだ。



「エエッエエッ!!」

「おお、そうか。うちに来たいか」



 亜竜は竜郎に顔を摺り寄せ、テイム契約をあっさりと受け入れてしまった。

 それを見ていた愛衣は、桃太郎印の……と小さな声でなにやら呟いていたという。


 テイム契約を受け入れてくれたので拘束を外すと、すっかり竜郎に……というよりララネストの美味しさに魅了された亜竜は従順になっていた。


 そのままの勢いでムリかな──と少し思いながらも、眷属化していいか聞いてみると「もっとさっきのくれるなら……チラッチラッ」と、自分の魂を食べ物で売ってしまうという相当な食いしん坊だった。


 ララネスト丸々一匹を出し全部食べていいぞと言うと、竜郎に前足で抱きつきラブコールをしてからお腹いっぱい食べていった。

 その間に眷属化を済ませつつ、竜郎は今回の目的であるチキーモについて何か知っていることはないかと眷属パスを通してイメージで語りかけてみる。



「エエェ~~……………………エエッ!」

「おおっ、知ってるのか! お利口さんだなぁ、お前は」

「エエッ!」



 でしょー! とでも言うように鼻を鳴らしながら、たまにチキーモらしき魔物が狩りをするのを見かけるというポイントをイメージで伝えてくれた。


 それはここからさらにデイユナル砂漠中央にいったところで、この亜竜も一度でいいからあの美味しそうな鳥を食べてみたいと思っていたので、よく覚えているらしい。



「養鳥できるようになったら、お前にも食べさせてやるからな」

「エェェエェ~~!」



 もう大好き! と言わんばかり竜郎に抱きつく亜竜に、さすがにニーナや楓、菖蒲も我慢できなくなったのか駆け寄ってきた。


 その光景に愛衣も微笑みながら、「たつろーは、わたしんだー!」と同じように走っていく。

 そしてヘスティアはマイペースに《アイテムボックス》から飴を出し、口いっぱいに頬張るのであった。

次回、第43話は4月3日(水)更新です。

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