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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編
429/451

第428話 海面を進んで

 『黄金樹と星闇の天蓋』を堪能し、そこで休んでから竜郎たちは大樹の後方にあった扉を通り外に戻ってきた。

 相変わらず生物の気配のない場所ではあったが、正規の手段で帰還してきたので暫くはあちらに連れ込まれることはない。



『けど転移で一気に行くこともできないから、気軽に来れなかった子たちを誘いづらい場所ではあるね』

『ん、ズルはだめだからね』

『面倒な手順を踏んででも、一度は見てほしい光景ではあったけどな』



 人気も全くないためちょうどいいと、その場でジャンヌに空駕籠を背負ってもらい、皆で乗り込んで次の行き先を確認していく。



「次は銀雨降る~っていう作品でしたよね?」

「はい。『銀雨降る白光の水平線』という作品です。

 海と空の境界線にかかる輝く雲から降り注ぐ銀の雨……本当にこの目で見られるのなら、さぞかし素晴らしい景色なのは間違いないでしょう」

「ってことは、次は海だね!」

「どんな光景が待っているのか、今から楽しみだわ」

「ヒヒーーン」



 ジャンヌは皆を乗せ空高く舞い上がり、目的の座標目指してその地から飛び去った。


 次の目的地は大陸から離れた海の上。

 『黄金樹と星闇の天蓋』の場所とはかなり離れていたが、ジャンヌのおかげですぐに辿り着けた。

 座標の真上。海上でホバリングしながら空駕籠の扉を開いて下を眺めれば、海流があちこちでぶつかり合い荒れ狂っている。

 一般人が飛びこめば、あっという間に波に呑まれて溺れ死ぬ。



「さすがジャンヌ殿。あっという間ですな。

 しかし困りました。この下にトワイライトが残した何かがあるはずなのですが……これでは」



 暴れ馬のように波飛沫を立てて暴れる海域にも負けず、漂う魔物も一緒に見えていた。

 大きさは3メートル程と大きく、形状としてはタコが近いか。

 8本の触手のような器官で器用に荒波をさばき、まるでさざ波かのように優雅に浮いている。

 またタコと決定的に違う点は頭のてっぺん部分に口があり、それを大きく開いた状態で海流から逃れられず飛びこんできた別の魔物を、海水ごと呑み込んで捕食しているところか。

 そんな魔物があちこちにブイのように浮いて獲物を待っている。



「あの程度の魔物も、このくらいの海流も問題ねぇだろ」

「だな。それにトワイライトの痕跡も見つけた。ちょっと下に行って見てみよう」



 そのタコもどきの強さは、カルディナ城付近に出る魔物と比べ大差はない。

 一般人の船が海流に流されここに来てしまえば、船もバラバラにされ1人残らずアレらに食われて数分で全滅するのだろうが……竜郎たちからすれば関係ない。



「「あーう?」」



 むしろ楓と菖蒲はタコもタコに似た魔物も食べたことがあったため、あれは美味しいのかな?と捕食対象としてしか見ていない。

 魔物たちも2人の熱視線を感じてか、どこか居心地が悪そうにすら見えてくる。


 だが今はトワイライトの残したものを確認するのが優先。

 竜郎たちなら何もせずその海に飛び込んでも問題はないが、ただ濡れるのが嫌という理由で魔法の障壁球で全員を包み込み海へダイブ。

 オーベロンもトワイライトが残したものならなんでも見たいというので、ガウェインに担がれ一緒についていった。

 着水すると先ほどの楓たちの熱視線が効いているのか、タコもどきたちは自然と避けるように離れていく。


 海流を強引に止めることもできたが、それが巡り巡ってこれから見ようとしている景色に万が一にでも影響が出たら困ると、できるだけ周囲には干渉せずどんどん海の底へと潜っていく。

 海流が激しく視界はかなり悪かった。けれど水深が上がるにつれて荒れていた海面の荒れ模様も納まりだしてくれたが、かわりに光が届かなくなり暗くなったことでまた視界が悪くなる。



「おわぁあっ!?」

「「きゃっきゃっ」」

「大丈夫ですよ。ここいらに俺の障壁が破れる魔物なんていませんから」

「でもいきなりだとビックリしちゃうよね」



 暗くなり海流が少し安定すると、今度は別の魔物たちが見慣れぬ獲物がきたぞと突撃してくる。

 突然障壁越しに赤く光る魔物の目のドアップが現れたことで、オーベロンは腰を抜かしそうになって楓と菖蒲に笑われていた。



(高齢だしメディカルチェックは小まめにやっておこう)



 念のため竜郎は解魔法で驚いた拍子に体に異常が出てないか診断し、ぶつかってくる魔物たちはすべて無視してさらに下へと潜っていく。



『ん、結構深い』

『トワイライトは泳ぎも得意だったみたいだな』

『もうトワイライトさんは、そういう次元の人じゃないと思うけどね』

『ヒヒーーンヒヒン(少なくとも私たちよりの人間だったんだろうしね)』



 海流にも負けずあっさり海底に到着。そこには海底に打ち付けるようにして、大きなモノリスが建っている。

 竜郎は魔法で明かりを生み出し、オーベロンにも見えるようモノリスを照らす。

 そこにも深海に生息する魔物はいたが、竜郎たちに興味はないのか近寄ろうともしないため、のんびり確認することができた。



「これ……は……地図……?」

「どちらかと言えば海図というべきかもしれないわね」

「目立つことなかれ。空を飛ぶことなかれ。点の場所以外で潜りすぎることなかれ。

 海流に隠れるよう、静かに進むことを勧める。そうすれば目当てのものが見られるだろう──か」



 竜郎たちが入ってきた場所を現在地として一番大きな点で表され、荒れている海域を点と線で結ぶように道順が書き込まれていた。

 点の位置は進行方向が変わる所をさしており、点と点の間にはどれくらいの距離なのか大よその数字まで書いてくれている。



「ん、飛んでいけたら楽だったのに」

「つっても俺らにとっちゃ、そこまで大差ねぇだろ」

「荒れ狂った海域を進みながら、正確な方角を維持した状態で進み続けるのも、俺たちには難しいことでもないしな」



 モノリスはジャンヌが撮影してくれたので、竜郎たちは荒れ狂う海面から頭一つ分だけ浮上する。



「なんでか理由は不明だが、深く潜ったままもよくないらしい。なら、この状態で進めば問題ない……か?」

「トワイライトさんのいう、潜りすぎるの基準もよく分からないしね。

 このまま顔が出るくらいの状態で進んでけばいいんじゃないかな」

「あと……ゆっくり……進……んだ方が……いい……か……も……?」

「目立つなと書いてあったのだし、その方がいいかもしれないわね」

「ヒヒーーン(じゃあ、しゅっぱーつ)」

「はいよ」



 障壁の形を球体から細長いゴンドラのような形にし、全員を包み込んだ状態で荒波を切り裂き、ゆっくりと前進していく。

 上から見ても荒波が被って視認しづらく、海に浸かっている部分も激しい海流が行き交い竜郎たちの姿を隠してくれる。

 タコもどきたちは環境に影響が出ないよう僅かに最小限の水魔法で海流を操り、どかしていくので接触もなく襲われない。

 他にも熱や匂いも竜郎の魔法で遮断されているため、トワイライトの目立つなという指示は完璧に守れているといっていい。

 そのまま順調に次の点の位置と思われるところに辿り着いた。



「この下にもモノリスみたいなのがある。ちょっと見に行ってみよう」

「点の場所なら深くまで潜っていいって書いてあったしね」



 竜郎たちはまた下に潜っていく。

 隠れる波飛沫や海流がなくなった途端、視覚的に捕らえた魔物たちがこぞって襲い掛かってくるが、障壁に受け流されて何もできず諦めて去っていく。

 なので気にせず海底にまでやってくると、またトワイライトが残していったモノリスが刺さっていた。



「ん、今回は点ごとに設置してくれてるのかも?」

「分かりやすくて助かるぜ」

「これがなければ、想定した海路から外れてるかどうか一目瞭然なわけだしな」



 モノリスに描かれていた点の大きさが、目指していた2つ目のものが一番大きく描かれ現在地として示してくれている。

 竜郎は魔法で距離も方角も常に測りながら進んでいるため、滅多なことでは迷うことも方角と距離を間違えることもないだろうが、こうして確認できると間違っているかもと考えることすらないので気を楽にして進んでいけるというもの。

 また一行は浮上し直し、3つ目の点が示している場所に向かって海を掻き分け進みはじめた…………のだが。



「目がいいやつだな。さすが鳥」

「いやいや、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよ。このままじゃすっごく目立っちゃう」

「大丈夫だと分かっていても、肝が冷えますな……」

「気の弱ぇ爺さんだな、まったく」



 フクロウに竜の翼を移植したような魔物が、群れを成して空から竜郎たちを捕食しようと飛び掛かってきだす。



「あれって……亜竜よね?」

「うん……間違い……な……い……よ……」

「それが群れを成して来るなんて悪夢としかいいようがないのだけど……、なんというかタツロウくんたちと一緒だと何とも思わなくなってきてる自分がいて、そっちの方が恐くなってきたわ」



 竜種ではないが、下級竜に近い才能を宿した生物──亜竜。

 そんな生物ヒエラルキーの中では、比較的上位に位置する存在が群れている。それだけで、ここに人が来れない理由が詰まっていると言えよう。

 その証拠に最初の頃はあれほど浮いていたタコもどきたちが、見渡す限り1匹もいなくなっていた。



「けど見た目が綺麗でいいな。1匹くらい、帰りに素材を持ち帰るか」

「ヒンヒヒンヒーーン?(かっこ可愛い系ではあるかも?)」



 翡翠色の羽毛は太陽に反射してキラキラと輝いており、クジャクのような長く伸びたフクロウとは違う尾羽も美しい。

 それでいて顔立ちは意外と可愛らしく、大きな目も愛嬌たっぷりだ。魔物園の一員に迎え入れれば、なんとも映えそうな魔物だった。



「ん、羽毛も売れるかも」

「良いですな。私もあれほどのものなら、ぜひ買わせていただきたいものです」



 最初はおっかなびっくりでよく見ていなかったオーベロンも余裕が出てきて、そのフクロウの美しさに笑みを浮かべていた。

 だがこのまま放置しているとトワイライトの目立つなという指示から外れてしまうため、竜郎は幻を魔法で作り出してフクロウ亜竜を誘導し自分たちから離す。

 さらに少しだけ深く潜って水をかぶり、なんとか隠れた状態を維持して進み続けることで、無事に3つめ4つめと点で示された場所を通過していき、あっという間に中間地点にまで辿り着けた。

次も木曜日更新予定です!

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