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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編

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第412話 お宝自慢

 せっかくなので実際にあるという本物のヘスパー・トワイライトの絵画、『世界災凶絶景七選』シリーズの1枚を見せてもらうことになった。

 内密に話があると近衛兵たちには説明し、秘密の隠し通路からオーベロンたった1人での案内のもと、地下へと進んでいく。


 迷路のように入り組んだ通路。何枚も道を隔てる扉。魔法錠、物理錠の両設置の多重錠は当たり前。

 魔法使い対策のため魔力を通さない──竜郎からすれば通しづらいだけだが、特別な素材で作られた壁で何重にも囲まれ、魔法での透視やスキャン、穴あけでの侵入対策も万全。

 それこそ竜郎たちほどではないにしろ、レベル10ダンジョンを探索できる程の実力者を集めなければ、盗みに入るのは不可能な厳重さだ。



『もっとガバガバかと思ってたが、これなら盗むのはほぼ不可能だな』

『抜けてるように見せかけて、案外本命を隠すためにわざと盗みに入らせたとかかも』

『ん、思ってたより、よく考えてる』

『ヒヒーン、ヒン、ヒヒヒーーン、ヒヒン、ヒヒヒン、ヒヒーーン。(お金があるってゆーのはバレてるし、盗みに入らせてこんなもんかって思わせた方が、本命が狙われづらくなるってことなんだね)』

『正直ちょっと見直したぜ。変な一族って評価は変わんねーが』



 わざと警備上穴のある設計の城を建て、盗まれていいものをそれらしい宝物庫に保管。あとは盗賊界隈の情報網に誤情報を掴ませ、ヘスパー・トワイライトの絵画のような大本命は存在すら隠し通すという作戦を取っていた。

 お金があるからこそできる、大掛かりな仕込みである。


 だがそのセキュリティの高さに比例して、少し進んでは立ち止まるということが多く、道中はかなり時間がかかってしまう。

 それ故に竜郎たちも暇を持て余し、懸命に開錠しているオーベロンをよそに少し距離をあけ雑談に花を咲かしていた。



「それにしてもまさか、世界災凶絶景七選の内の1枚がこんなところ──っていったら失礼かもしれないけど、あるとは思ってもみなかったわ」

「……そんなに……凄い……こと……?」



 竜郎たちもまだまだこちらの世界で知らないことは多いが、それ以上に一般人の文化や生活について知らないことだらけのルナは、興味深げにイェレナにそう問いかけた。

 妖精郷から妖精樹の調査、研究のために竜郎たちの所へ派遣されるだけあり、博識な彼女はそれを受けて丁寧に説明してくれる。



「そうね。世界災凶絶景七選の7枚の絵画で、所在が分かっていたのは2枚だけ。

 他の5枚の原物は、どこにあるかも分かっていない状態だったのよ」

「それなのにちゃんと複製画は7枚分あちこちに存在してるって、ちょっと不思議だね」

「何万年も前の作品らしいし、オリジナルが散りじりになる前に描いた複製画が出回っていたとか、そんなところだろうな」



 竜郎が適当に思いついた予想を話していると、イェレナはチラリとオーベロンの方を見た。

 今度は物理的な方でなく魔法的な方の鍵の開錠に集中しているのを確認してから、小さく手招きして皆を自分の側に寄せ、声を潜めて語り出す。



「実はね。ここだけの話なんだけど、私……というより妖精郷の住民のほとんどは、公には行方不明扱いになっている残りの本物4枚が、どこにあるのか知っているの」



 まさかの発言に愛衣が驚きの声を上げそうになったが、さり気なく竜郎が口を押え、オーベロンに話が聞こえないように魔法で音を遮断する。

 イェレナがわざわざ声を潜めているということは、すくなくともオーベロンには知られないほうがいいと判断したからだ。



「ん? 妖精さんたちが全部もってる?」

「いいえ、ヘスティアちゃん。そうじゃないわ。

 7枚の内1枚だけ、プリヘーリヤ様が所有しているの。今も妖精郷のお城に飾ってあるわよ」



 イェレナの故郷──妖精郷で女王として君臨しているプリヘーリヤの名前が、ここで出てきた。

 妖精郷は身内以外は入れない特別な異空間にあるため、善良な妖精種しかいないこともあり、平然と誰でも見られる場所に飾ってあるという。



「んじゃあ、他の3枚の絵はどこにあんだ?」

「ガウェイン君たちも知ってるところよ。世界で一番安全な場所に保管してあるの」

「世界で一番な場所って言うと、もしかして…………エーゲリア島なのか? イェレナさん」

「ご名答。行方不明扱いの残り3枚は、エーゲリア様が私物として所有していらっしゃるそうよ。

 それにそもそも原本の7枚は、もともとエーゲリア様が全て所有していたらしいの。

 けれどエーゲリア様が様々な理由で知人に譲渡していって、その後に長い時の中で世界中に3枚は散っていったのでしょうね。

 プリヘーリヤ様もイシュタル様ご生誕の際の、妖精郷からの贈り物の返礼品として渡されたと言っていたから」

「なんか貴重そうな絵なのに、結構ざっくりと渡しちゃってたのかな。エーゲリアさん」

「あんまり絵に興味がありそうな人でもなさそうだしな」

「そうね。書物の類は好まれるようだけど」

「ん、けどそうなら全部の本物が見たいっていう願いだったら、すぐに叶えられたかも?」

「ヒヒーン(みたいだねー)」



 まさかの世界的に行方不明扱いされていた名画が身近な人物のものだったと知り、竜郎たちも驚かされる。

 だがもしもヘスティアが言うように、オーベロンの望みがオリジナル7枚が全て揃っているところが見たいというものであったのなら、現地に行くよりも早く終わっていたかもしれない。

 やはり無理だからそちらの条件にしてくれと頼み込めば、オーベロンもさすがに分かってもくれそうだ。

 とはいえもう行くと約束してしまったことなので、ここから変更する気もないのだが。



「7枚の複製画の最初の発行元も、エーゲリア様のようね。せっかくなら複製画でもいいなら、色々なところで見られるようにとそれなりの数が出回っているはずよ。

 原本から直接描かれたものよりも、今では複製画からさらに複製された絵の方が多いのでしょうね」

「なるほどねぇ」



 そんな小話をしていると、オーベロンも開錠し終わり進みはじめる。

 竜郎たちはまたその後に続き、本命の宝物庫のある場所へとのんびり向かった。

 複雑な順路といくつもの扉を開錠して通り、ダミー扉をスルー。かなり地下深い場所までやってきた。

 そこに他の扉とまったく同じものがあったが、鍵の開錠の難易度がそこだけ一段間高い物となっていた。



「ここに入っています。ではどうぞ」



 正規の手段のはずなのに開けるだけで20分近くかけ、いよいよシャルォウ王家の秘密の宝物個の扉が開かれる。

 その中には、件の絵や本当に隠したい宝物が納まっているという。

 竜郎たちにはガラクタにしか見えないものも沢山あったが、イェレナの「え? これもここにあったの!?」といった反応からして、どれも相当に珍しい物なのだろうと察することができる。



「気になるのか? 菖蒲も」

「あう」

「う~~……?」



 だがイェレナ以外にも芸術の分かる者がいた。菖蒲は特にイェレナが驚いていた芸術品に目を奪われうっとりと鑑賞していた。

 片やずっと一緒にいる姉の楓は、そんなものの何がいいの? と妹の行動を不思議がっている。



「ほほぅ、そちらのお嬢様は芸術がお分かりになるようですね。ならこちらのこれも、気にいるのでは?」

「しゅごぃっ!」

「その歳でこれのよさが分かるとはっ! 素晴らしいですぞ!!」

「ハジェニの仮面じゃない……。元の所有者から盗まれて、もう何百年も行方知らずになっていたはずなのに……」

「これ……も、凄い……?」

「ええ、これ一つで城が建てられるだけの価値があるわ」

『えぇ……、あんな気持ち悪いお面が凄いお宝なの?』

『あんなのくれるって言われても、いらないって俺なら言いそうなお面だぞ』

『ヒヒーーン、ヒヒン、ヒヒーヒヒーーン。(けど菖蒲の反応からして、凄い物なのは間違いなさそうだよ)』

『ん、驚きの審美眼』

『まじで分かってるみてーだな。すげぇじゃねーか』



 触っただけで呪われそうな不気味なお面にしか竜郎たちには見えなかったが、分かる人にはその良さが分かるようだ。

 菖蒲は真剣にそのお面を観察していた。その様子にますます、オーベロンも興奮していく。



「ではお嬢さん。ハジェニの仮面のよさが分かるということは、こっちのガフロの壺も好きなのではないですか?」

「あう? うっうー!」「うぅ……?」

「やはり気に入りましたか! やりますなぁ! これはなかなか理解されないことで、有名ですのに!!」

「ちょっと待って。これがガフロの壺ですって?

 あなた何か非合法な方法で、芸術作品を世界中から集めているのではないでしょうね? これも盗まれたものじゃないの」

「そんなまさか! 国際法に基づいて、他者に断罪されるような愚かな方法は取っていません。まぁ……多少、灰色なことはしていますが」

「灰色って……。まぁ面倒そうだから、私もみなかったことにしますけどね……」

「そうしていただけると助かりますな、ははは……」



 持ち主はとうに死んでいるほどの年代物だが、それでも正規の相続人がどこかから出てくればオーベロンも対応せざるを得なくなるため、そうなると他の関係ない大国も横やりを入れてきそうでもある。

 イェレナの言葉に甘えるように、オーベロンは乾いた笑いを浮かべていた。



「イェレナ……これも……お城……建つ……?」

「そうね。それくらいのお金を、ポンと出す人もいるはずよ」

「そうですとも。これを手に入れるのに、私も非常に苦労したものです」



 壺というよりもはや謎のオブジェ。一度素人が成形した粘土を殴って潰して焼いたような、ぐちゃぐちゃとした飾り気のない土色の焼き物。

 だがそれでも、城が建つらしい。



『まじか。うーん……やっぱり何がいいのか、さっぱり分からないな』

『お父さんが陶芸教室で作ってきた壺の方が、まだ高そうに見えるよ』

『ヒヒーーン、ヒヒン(あれじゃあ壺としての役割も、果たせないだろうしねー)』

『ん、ぐちゃぐちゃ。意味不明』

『あんなもんで、たけー酒が唸るほど買えるってんだから、世の中分かんねぇもんだぜ』

「ではこちらの──」

「あうあう!」

「なんでこれもあるのよ……」

「これ……も……、お城……?」

「そうねーお城が建つわー」

『あー、これ本命のこと忘れてそうだな……』

『たく、俺はちっとも楽しくねーから、早くしてほしいぜ』

『まぁまぁ、菖蒲ちゃんも楽しそうにしてるし、ここは大人として菖蒲ちゃんのために見守っててあげようよ』

『ヒヒヒーーン、ヒヒン、ヒヒヒーーン。(ここでしか見られないものも多いだろうし、あの子には色々見せてあげたほうがいいよ)』

『ん、英才教育。将来すごい芸術家になるかもしれない』

『それもそうだな。今の内から、いい物を沢山見せてあげよう。悪いな、ガウェイン』

『まぁ、マスターが待つってんなら、俺にも異存はねーよ。ガキじゃねーんだからな』



 菖蒲があまりにも楽しそうなので、はやく本命の絵を見せてくれとも言い出せず、彼女が満足するまでオーベロンのお宝自慢大会に竜郎たちも付き合った。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
これあれだ。ゲームの途中でサブクエとかで立ち寄るけど、そこまで収穫ない辺境の国で寄らなくてもいいくらいだけども。 クリア後とかラスボス倒したあとにくると、やけに頑丈だったり罠ばっかのエリアを見付けて…
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