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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編
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第410話 親子喧嘩

 その決定に驚いていたのは、竜郎たちだけではなかった。

 第一王子であるフーガロンや遠巻きに見守っていた数人の重鎮たちは、驚愕の表情でオーベロン王を見つめていた。

 さすがの彼らも、竜郎の提案に魅力を感じてくれていたようだ。



「父上、正気ですか! さすがにこの話は受けるべきでしょう!」



 今は父ではなく国王として振舞っている状況なのに、思わず父上と呼んでしまうほどフーガロンは怒りすら覚えていた。

 だがその怒りに逆上し、オーベロンも負けじと言い返してくる。



「何を言うか! あれほどの美に対し、悪戯に手を加えるなど私にはできぬ! させられぬ!!

 それが分からぬお前ではないだろう! あのままの自然体こそが、最も美しい姿なのだと!!」

「それはもちろん分かっていますとも! ですがそれも国あっての、民あってのものでしょう!

 少し手を入れたくらいで、レーテシャローフロスティが見せてくれる景色が全て台無しになることはありません。

 ですがここで得られる利益は、将来的にも我が国にとって、我れらの宝である民にとって──」

「うるさいうるさいっ! もう決めたことだ! 私の目の黒いうちは、絶対にレーテシャローフロスティを傷つけさせたりなどせんわ!」



 フーガロンとて、レーテシャローフロスティを大切に思う気持ちはある。

 王家主導のもと、彼自身もその事業に加わり手塩にかけて、その美しさを保てるように苦心してきたのだから。

 そしてお披露目会で公開する際に見せてくれる、あの美しい光景を眺めたとき、全ての努力が報われるようなその瞬間が、たまらなく好きだった。


 フーガロンたちにとって、その光景はもはや一つの芸術作品。

 絵画のモナリザの微笑みを見て、隅の方でいいから一部削らせてくれなんて言われてもルーブル美術館が絶対に許さないように、たとえ一匹でいいと言われても「複数体いるからいいよ」とは本来ならないのだ。

 彼らにとっては、それくらいの重いことを竜郎たちは要求していたことになる。


 だがフーガロンはそれでも、竜郎が提示してきた案の方が魅力に感じた。

 彼としては芸術を愛する気持ちは、人一倍強い自覚はある。

 それでも竜郎たちの恩恵が得られる時代は、もろに自分が統治する時代になるのは明白。

 ここで世界中に注目され、どんな大国の王もこぞって関係をもちたいと思っている竜郎たち。

 そんな彼らといい関係を築き、国をより繁栄させられれば、自分やその子の代の統治は安泰だ。


 この国の一番の懸念点は、その貧弱な武力。

 今庇護してくれている大国の機嫌しだいで、全てのノウハウを奪われたうえで国を乗っ取られることも絶対にありえないわけではない。

 レーテシャローフロスティのファンになってくれている、別の大国もある。そういった国々が、どこかの国が独占しないよう目を光らせてもくれている。

 逆に言えば上からものが言える、今の軍事力の低いシャルォウ王国が管理して定期的に開放してくれる方が、余計ないさかいも生まずに済む。

 下手に財力で軍事力を上げてしまうと、そのバランスが揺らぐかもしれないと妙なちょっかいを掛けられることもあるため、あえてシャルォウ王国はか弱い存在でいることを半ば強制的に義務付けられてしまっていた。


 兵士たちが身に着けている鎧が、戦場で役に立たないことも理解している。

 王族が皆、そういうものが好きというのはもちろんあるが、そういう方が他の国は安心してくれるのだ。

 この国に住まう兵士たちや民たちも、それが分かっているからこそ、受け入れてくれていた。


 けれどここで竜郎たちが後ろ盾についてくれれば、これからはどんな国とも対等に交渉できるようにもなる。

 なにもそれで今までずっとこの国を下に見て、許容の範囲内ではあるが無茶で強引なことを要求してきた国々に、偉そうな態度を取り返したいわけではない。

 あくまで対等になりたいのだ。無茶な要求が来てもハッキリと断れて、その分だけ民や芸術、この国の未来のために時間やお金を使えるようにと。

 それが次代の王として自覚している、フーガロンの想いだった。


 だからこれだけは、たとえレーテシャローフロスティが見せてくれる景色の一部を犠牲にしたとしても、絶対に受け入れるべきだと声を荒げる。



「なら私の代で変えるまでの事。王よ。今すぐその玉座から降りてください! 私が跡を継ぎます。正常な判断をつけられない王など不要だ!」

「なんだとぉ~~っ? 貴様など勘当だ! 王位は第二王子に継がせることにした! 書記官を呼べ! 今すぐ継承権を書き換える!!」

「このバカ王が!!」

「このバカ息子が!」

『えーと……これどうしようね』

『どうしようって言われてもなぁ』



 良かれと思いかなりの好条件を出した竜郎だったが、そのせいで王位継承にも関係したとんでもない親子喧嘩がはじまってしまった。

 本来なら王の味方であるはずの臣下たちも今回ばかりは何も言えず、さりとて王子のように歯向かうこともできず、それを見守ることしかできていない。


 王のオーベロンも特別優秀なわけではないが、愚かではなかった。

 だがフーガロンは未来を見ているのに対して、彼はもう今しか見られなくなっている。

 彼にとっての未来は、もう残り少ないからだ。


 残り少ないからこそ、歴史にその名を刻みたい。誰もが語り継いでくれる、レーテシャローフロスティの観光業を思いついた、かつての王のような存在になりたい。

 そういった気持ちがないわけではないが、自分が死んだ後に語り継がれても、それを実感することなどできないと思ってしまった。

 死んでしまえば、何も感じず考えられない死体になって灰になり土に還るだけ。

 ならばそれに、なんの意味があるのだろうか?


 自分が名を残すなんてことよりも、生まれた頃からこの歳になるまで、ずっと側でこの国を支え、世にも珍しい美しい姿で感動を与え続けてくれたレーテシャローフロスティ。

 孫やひ孫とも代えがたい、愛しいその魔物たちに最後に報いたい。誰にも傷つけさせたくない。誰が何と言おうと、私が守らずして誰が守るのか。

 オーベロンは息子とは逆に、そちらの思考に至ってしまったのだ。


 フーガロンに反論されるほどに、オーベロンの意志はより固くなる。

 逆にオーベロンに反論されるほど、国の未来が見えなくなってしまった王はもはや不要。私が早急に王位を継ぐべきだという意志が、より固くなっていく。



『めんどくせー親子だな。もう魔法で黙らせちまえよ』

『ヒヒーン、ヒヒン、ヒヒヒーーーーン。(聞いてる感じ、なんの生産性もない会話になっちゃってるしね)』

『ん、さっきから同じことばっかり言い合ってる。甘い物でも食べて落ち着いた方がいい』

『それはヘスティアちゃんが食べたいだけじゃなくて?』

『ん、アイちゃんにはお見通しだった』

『ふふっ、そうだね。けどここで冷静さを取り戻してもらうには、それもいいかもしれないね』

『美味しい魔物食材の魔力は、どんな親子喧嘩でも止められるだろうからな。ちょっとやってみるか』



 甘い物である必要もなかったが、彼らのような芸術狂いが好みそうなデザートを《無限アイテムフィールド》に入れていることを竜郎は思い出す。



「「ぱっぱ! ちょーだっ、ちょーだっ」」



 竜郎がそれを出した瞬間、芳醇なバラの香りが部屋中に広がった。

 それにちびっ子たちはすぐ反応し、竜郎のズボンのすそを引っ張ってくる。

 ヘスティアは何も言わずに、じーーーーーーーーーーっと竜郎に熱い視線を向けていた。



「はいはい。ちゃんと楓と菖蒲の分もあるから、安心してくれ──ヘスティアの分もな」

「ん、そういってくれると信じてた」

「「………………?」」



 その何とも香しい、嗅いだだけで美しい花畑が脳裏に浮かんでくるような匂いに、オーベロンもフーガロンも喧嘩を止めて、楓や菖蒲が食べているソレに見入っていた。


 ──ソレとは、ラペリベレやウーリァという果実の美味しい魔物食材をふんだんに使ったゼリー。

 バラ蜜でゼリー自体にも味付けが施され、それによってゼリーでありながら芳醇な香りを放つデザートになっている。

 また見た目もフローラはこだわり、バラの花をあしらったデザインで目でも楽しめる。そんなデザートに仕上げてくれていた。


 その美しいデザートと、バラの香りとそれに混じった果実の香りに、お腹もすいていなかった王族2人の腹の虫が鳴り響く。



「2人とも、食べてみてくれませんか? 僕らがどれほどの美味しい食材を、レーテシャローフロスティの犠牲で手に入れようとしているのか。

 あなた方が手塩にかけて育てたレーテシャローフロスティを、犠牲にするほどの価値があるものなのか、これで確かめてみてください。

 僕らが捜しているのは、これらに匹敵するほどの美味しい食材だと確信していますから」

「そ、そういうことなら……頂くとしましょう」

「……ですね」



 気になっていたのか、竜郎が水を向けるとすぐに乗ってきてくれた。

 2人は竜郎からゼリーの容器とスプーンを受け取ると、一度その美しさに目を細める。だがその香りの暴力に抗いきれず、その芸術ともいえるデザートにスプーンを入れた。

 そのまま毒味も気にせず、口に入れていく。



「「はぅっ!?」」



 椅子から転げ落ちそうになるほどの衝撃。

 今までの人生で味わったこともない、想像を絶する美味しさ。適度な甘みに酸味が口いっぱいに広がっていく。

 2人の目からボロボロと、美味しさのあまり感情が爆発し、涙が勝手に零れだす。

 美味しいものを食べたことはあったが、泣くほどに美味しいものは食べたことがなかった。

 スプーンの一掬いごとに減っていくゼリーに、減るな減るなと矛盾したことを念じながら、すぐにその全てを食べ尽くしてしまった。



「どうですか? 素晴らしい食材ですよね?」

「素晴らしいだとか、言葉で表していい次元を越えていますぞ!」

「本当ですね! これほどのものとは……。これまでの食は何だったのかと、常識を根底からひっくり返された気分です」

「そう言ってもらえると苦労して手に入れて、育てた甲斐もあるというものです。

 ではもう一度、オーベロン国王陛下に問います。その〝味〟は、レーテシャローフロスティを一体犠牲にするほどの価値もありませんか?」

「むぅ……それは…………」

「父上!」



 ことここに至っても、オーベロンの天秤はまだ落ち切っていなかった。

 そのことに息子もいい加減にしろと詰め寄るが、煮え切らない態度が続く。

 だがようやく決心がついたのか、より一層老け込んだような雰囲気を纏いながら、息子をどかして竜郎を真っすぐ見つめてきた。

 逆にそれが断られたときのことを思い起こさせ、嫌な予感を覚えるが、結果としてはそれほど悪くない答えが聞けた。



「私がレーテシャローフロスティを傷つけるということを許すことは、どうしてもできません」

「父上、まだそんなことを!」

「慌てるでない、フーガロン。それはあくまで、私〝が〟だ」

「ということはもしや……」

「ああ、私ももう老いた。これからはお前が、この国を導いてやってくれ。

 老いて霞んだ私の目ではもう、この国の行く先を見通すことはできぬようだからな……」

「では私が決めてもよいのですね?」

「ああ、まだ正式に譲ってはいないが、近いうちに王位継承の儀を正式に執り行おう。お前が次の王だ。頑張りなさい」

「はい! 全力でこの国のため、民のために尽くしたいと思います!!」

『おーなんかよく分かんねーが、まとまったみてーだな』

『だな。ふぅ、これで俺も邪法に手を染めなくて済んだ──』



 話の流れからして、これからはフーガロンが王としてこの国に君臨し、竜郎たちに許可をくれることになったと思っていいだろう。

 これにて一件落着。多少面倒事は起きたものの思ったほどではなかったなと、竜郎が一息つこうとしたそのとき、まだ終わってなかったことを思い知らされた。



「だがそれはそれとして、一つだけ受け入れてもらいたい条件がございます」

「……え? えぇ、まぁ……とりあえず、その条件をうかがってもいいですか?」

「ちょ、父上? 何を言い出す気ですか! 今でも充分に破格の条件ではありませんか」

「分かっておる! これがどれだけ厚顔無恥で、厚かましい願いかということも!

 だがそれでもどうかっ、どうかっ! この哀れな老いぼれ、人生最後の願いを叶える手伝いをしていただけぬでしょうか! この通りです!!」

「頭を上げてください、父上! あなたはまだ、この国の王なんですから!」



 オーベロンは必死の形相で、彼からすれば孫よりも若くみえる竜郎に向かって土下座した。

 息子が慌てて起こそうとするが、どこにその老人の身体に力があるのかというほどビクともしない。

 額を絨毯に擦りつけ、懇願し続ける。



「生涯そんなことは無理だと、ずっと諦めてきました。

 ですがあなた方がいてくれるなら、私が幼少期よりずっと抱いてきた大いなる夢が叶えられるはずなのです!

 なのでお願いします! 私が個人で所有する財産であれば、全てお譲りしても構いません! ですからっ、この通りです!!」

「とりあえず、その夢……ですか? それを聞かせてくれませんか。

 それを聞く前から、無責任にやるとは言えません」

「ですな……。私としたことが、もう人生でこの機会を逃せば二度と叶わぬと熱くなってしまっていたようです。

 私がハサミ様方に叶えて欲しい願いとは──」

「願いとは?」



 そこでようやく顔だけあげ、無駄に溜めてからようやくオーベロンは口を開くとこう言った。



「私の人生最後に、世界災凶絶景七選を見させてはいただけませんか!!」



 ──と。

リアルの方が年末年始は慌ただしくなってしまうため、次回の更新は一週あいて、1月9日(木)とさせていだきます! よいお年を!

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― 新着の感想 ―
観光旅行かな? さすがに竜郎たちであれば大丈夫だとおもうけど、この世界だと例外がなくもないからなあ。 どうなるかなあ。 革命児の更新、今年はこれが最後ですね。 また来年! よいお年を!!
なんかやばそうな名前ですね。 後一箇所竜郎達のお家になってそう
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