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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編
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第407話 面倒事な予感

 冒険者ギルドに入ると、やはりこちらも町中と同じく閑散としていた。

 この辺りは特に魔物が多いわけでもなく、やっかいなのがいるということもなく、そこまで冒険者業の需要がないのだ。

 おばさんの職員も明らかに暇そうに欠伸をしており、一切待つこともなく竜郎の話を聞いてくれた。



「スリンカという魔物がこの辺りの地域にいるはずなんですが、ご存じないですか?」

「スリンカ……? ちょっと分からないですねぇ。私はこの地域の出身ではないので、ここいらの魔物に詳しい者を代わりに呼んできましょうか?」

「そうしてもらえると助かります」



 おばさん職員は「よっこいしょ」と腰をあげると、今度は奥の方で事務作業をしていたおじいさん職員を呼んできた。

 腰もかなり曲がっており、だいぶ老齢な様子。

 そこでもう一度同じ質問をすると、おじいさんもはじめは「はて?」と首をかしげだす。



「いや……じゃが、どっかで聞いた気が…………うーーーん?」

「おじいちゃん! 頑張って思い出して!」

「「じーた! ばんば!!」」

「ヒヒーン!」



 愛衣と楓、菖蒲やジャンヌからの声援に、まんざらでもなさそうな表情をしながら、より必死になって記憶から『スリンカ』と呼ばれる魔物のことを思い出そうと頑張ってくれた。そして──。



「そうじゃ! レーテシャローフロスティじゃ!」

「おいおい、じいさん。俺らが聞いてんのは、スリンカとかいう魔物の事だぞ」

「それにレーテシャローフロスティって、確か王様の宝物っていう景色のことよね? なんで急にその名前が……?」



 ガウェインとイェレナが続けざまに、おじいさんが頭を使いすぎてボケてしまったのかと話しかけるも、間違っていないと首を振る。



「そもそもレーテシャローフロスティは魔物の事じゃ。

 今でこそ観光を気にして洒落た名前にしとるがな、儂のじいさんの親世代くらいまでは、スリンカと呼ばれていたはずじゃぞ」

「え? レーテシャローフロスティっていうのは、後付けの名前なんですか?」

「儂の記憶が正しければ、そのはずじゃ。

 スリンカというのは響きが悪いじゃったとかなんとか……まぁ、どっちにしろ、名称を変えた理由は大したことではなかったはずじゃ」

「名前が変わったって言うなら、それはそうなのかもだけどさ、えっと……景色なのに魔物なの?」



 景色と魔物がイコールで繋がらず、愛衣は思ったままのことを口にしていた。



「景色として売り物にしとるが、中身は立派な魔物なんじゃよ。

 その一体一体が、それはそれは綺麗でのう……。

 もともとは自然にスリンカが集まってできた巣があったところを、王家がその土地ごと買い取って『宝』と呼んだのじゃ」

「手入れ……大変……って、おばあさん……言ってた……けど……?」

「ん、勝手に生きてられるなら、世話の必要ない」



 自然に『宝』の状態が維持出きているのなら、ヘスティアの言う通り王家がわざわざ税金を使って管理する必要はない。

 荒す人が来ないように環境保護をするというのなら分かるが、レーテシャローフロスティのお披露目会について教えてくれたおばあさんの話では、それも含まれているのかもしれないが、四六時中心血注いで大切に手入れをしているような口ぶりだった。



「より美しい色艶を維持するには、完璧に計算された栄養管理が必要だとか言っていた気がするのう」

「じゃあマジでそのレーテシャロとかいうのが、俺たちの探してるスリンカだってのかよ」

「儂の記憶が確かなら、そうなんじゃろうなぁ。

 間違ってたなら、すまん。何ぶん、儂もそれを聞いたのはかなり前じゃったから、ちょっと自信が無くなってきたわい」

「あー……じゃあ聞きたいんですけど、もしもスリンカがそのレーテシャローフロスティだと仮定するとですよ?

 その素材を手に入れようと思ったら、王家が管理している所以外から探して見つければいいんです……よね?」



 なんだか嫌な予感がしてきたが、念のため自分たちに都合のいい可能性を竜郎がおじいさんへ問いかける。

 だがその言葉を聞いたおじいさんは、キョトンとした顔をした後、すぐに肩をすくめた。



「そんなものは、いないといっていいじゃろうな。

 貴重な観光資源にもなっとるわけだし、隅から隅までくまなく探索して、1匹残らず王家が管理しておるはずじゃ。

 どこかで勝手に増やして似たようなことをされでもしたら、こんな寒い以外何もない辺鄙な国じゃなく、より行きやすいとこに皆行ってしまうじゃろうて」

「ですよね……。なんかそんな気がしてました。

 そうなるともしスリンカの素材が欲しかったのなら、その王家と交渉しない限りは、絶対に手に入らないと思ってもいいんですかね」

「そりゃそうじゃろう。あ、間違っても管理地区に侵入して、無断で奪い取ろうなんて考えるんじゃあないぞ?」



 やろうと思えば一切の証拠も残さず、数匹盗み取ってくるくらいわけはない。

 すぐに魔卵を作って抜けた場所にスリンカを置いておけば、盗まれたことにすら気づかせない自信もある。



『ヒヒーン、ヒヒン、ヒーーーン(でもさすがに、それは最終手段だよねー)』

『代わりのをおいておくから、お宅で管理してる魔物を勝手に殺してもいいですよねってのは……さすがに悪人寄りの発想だしなぁ』

『できることなら、ちゃんと許可を得て分けてもらうほうが気持ちがいいしね』

『俺は別にどっちでもいいと思うがな。その王家からすりゃ、景観さえたもてりゃ別にいいんだろ?

 あんまりにも強情なら、遠慮する必要もねーだろ。

 こっちはイフィゲニア帝国の皇帝様の、妹様の出産祝いの果物を作ろうってんだしよ』

『ん、甘い果物のためには仕方ない。いざとなったらやるべき』

『ヒヒン、ヒーン、ヒヒヒーーーン。ヒヒーーン、ヒーーン。(ダディが必要なのは、スリンカじゃないわけだしね。ここみたいにそいつで見物客を取り入れる必要なんて、私たちの町にはないわけだし)』

『あの町なら人を呼ぶ方法なんて、他にもいくらでもあるわけだしな』

『そんなに綺麗だっていうなら、個人的にカルディナ城とかに飾るとかは許してほしいけどね』



 たしかにカルディナ城まわりに飾っても、見に来られるなら来てみろというような立地だ。こられるのは身内くらいだろう。

 それを唯一の観光資源としている王国から、観光地としての価値を奪うなんてことはまずあり得ないし、したいとも思わない。



「え? まさかおぬしたち……よからぬことは考えてないじゃろうな?」



 すぐに否定せず、黙って念話で会話しはじめた竜郎たちに、おじいさんの職員は怪しい人物を見るような視線を向けてきた。



「いや、さすがにそんなことしませんよ。ただ欲しいと思ってたのが、そんな状況だと思わず困ったなと思いまして。つい黙り込んでしまいました」

「ああ、そうじゃったのか。もしそうじゃったら、絶対に無理じゃからやめておけと説教するところじゃったわい」

「心配させてしまったようで、すいません。じゃあ、ちょっと直接王家の方に掛け合ってみることにします」

「いやいや、相手は王様じゃぞ? いくら小国とはいえ、そんなにほいほい会えるもんか。

 まして会えたとしても、向こうは絶対にレーテシャローフロスティを分けてなんぞくれんじゃろうて」

「ま、そこはこっちで上手くやるから、おじいちゃんは心配しないで」

「会うだけなら、俺らなら余裕だろうしな。なんなら俺の酒を少しくれーなら分けてやってもいい」



 あまりにも堂々とした態度で言うものだから、さすがに虚勢やでまかせとは思えず、おじいさんは感心したように目を丸くした。



「へぇ、あんたらそんなコネがあるような冒険者さんたちだったんか。

 もしかして高ランクだったりするんですかね?

 だったら軽々しい態度を取り過ぎましたかねぇ?」

「そこそこの冒険者というだけですから、気にしないでください。

 情報凄く助かりました。ありがとうございます」

「そ、そうか? ならいいんじゃけども……まぁ、がんばんな。

 だめじゃとは思うが、こっから上手くいくよう応援しとるからのう」

「はい」



 知りたかった情報は得られたので、竜郎たちは冒険者ギルドを後にする。



「王都はこの町から近いし、さっさと行ってみよう。話の分かる王様だと助かるんだが……」

「タツロウくんたちの身分証なら、王様に会うくらいわけないでしょうしね。

 それにきっと、美味しいものを渡せば王様も分かってくれるんじゃないかしら」

「ん。美味しい物は誰にでも有効」

「人間さん……は……みんな……単純……」

「美味い飯と美味い酒、それさえありゃ、人間なんて幸せを感じられるもんだからな。

 よっしゃ、さっさと行こうぜ。俺もはえーとこ、新しい酒の素材になりそうな果物を確認してぇからよ」

「それじゃあ、ジャンヌちゃん。またお願いね」

「「じゃんねーた! おねがーちま!」」

「ヒヒーーン!(任せて!)」



 一度町を出てから、またジャンヌに空駕籠を背負ってもらい竜郎たちは乗り込んでいく。

 少し北へいった辺りにある王都を目指し、竜郎たちは次の目的へとジャンヌ乗って飛んで行った。

次も木曜日更新予定です!

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