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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二一章 皇妹殿下爆誕編
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第405話 二度目の注入

 セオドアの一件に片が付き、しばらくはのんびりと受験勉強でもしていようか──などと竜郎と愛衣が話していた矢先に、また大きなイベントごとが舞い込んできた。



「それじゃあ、しばらくの間お世話になるわね」

「ぎゃう! 今日からお姉ちゃん一緒だー!」

「ニーナ。別に遊びに来てるわけじゃないんだからな?」

「分かってるよ。お姉ちゃんが赤ちゃんつくるんでしょ。どんな子が生まれるのかなぁ。楽しみだなぁ」



 次代の皇帝にしてイシュタルの娘──『ユスティティア』の誕生に熱狂していたイフィゲニア帝国も、ようやく上から下まで完全に落ち着きを取り戻した。

 その頃合いを見計らって、エーゲリアがいよいよ第二子を創造するためにカルディナ城を訪ねてきた。


 新たな娘を生み出すには、エーゲリアとて強制的に大幅な弱体化を強いられてしまう。

 そもそも弱体化したところでエーゲリアをどうこうできる存在がこの世界にいるのかという疑問はあるが、今回はその守護のために一時的にエーゲリアはカルディナ城に身を寄せることになっている。


 イシュタルは公務で忙しく、エーゲリアの守護として側に居続けるのは難しい。

 セリュウスをはじめエーゲリアの側近で固めていれば問題なさそうだが、それよりももっとここが安全だと竜郎たちを信じてやってきてくれた。

 ──と言えば聞こえはいいが、それが建前だということは竜郎たちももちろん分かっている。

 信じてくれていないというわけではないが、はらぺこドラゴン代表エーゲリアの目的は、ここで大好きなニーナと一緒に過ごし、美食を味わい尽くしたい! というもの。守護などもはや二の次扱い。

 とはいえエーゲリアから後日ちゃんと、それに見合った真竜素材などの報酬も受け取れる手筈になっているため、竜郎やリアからすれば大歓迎だ。


 連絡は事前に貰っていたので、竜郎たち側も既に準備は終えている。

 皆でエーゲリアを出迎え、お世話係としてついてきた彼女の側近眷属である聖竜リリィと一緒に歓迎した。

 ちなみにリリィは竜郎たちが地球から持ち込んだボードゲームで勝利したことで、エーゲリアのお世話もできる上に、美味しい料理も食べられるというこの役目をもぎ取った。

 セリュウスは竜郎たちのところなら安心だろうと、エーゲリア島の守護に専念しているのだとか。



「それじゃあ、タツロウくん。力を貰ってもいいかしら」

「え?」



 エーゲリアはなんてことないかのように、プラチナ色の卵型をした物をひょいと取り出した。

 それはイシュタルのときにも見たことがあるので、何かはすぐに分かった。

 それこそが真竜の卵となる核である。


 だがそれは別にいい。力を注ぐことだって問題ない。

 そんなことより竜郎が気になったのは、既にその核が存在しているということ。



『え? ちょっと待って。あれって創るときに、代償が必要になるんだよね?』

『そのはずだ。ということはもうエーゲリアさんは、一時的にとはいえ弱体化してるってことになるはずだが……』



 竜郎や愛衣だけでなく、他の仲間たち──幼竜たちやニーナ以外は奇妙なものをみる目でエーゲリアと卵核を見つめて固まる。



「ん? どうかしたの? タツロウくん。なにか、おかしなことでもあったかしら?」



 そんな竜郎たちに、不思議そうにエーゲリアがそんなことを言ってくるものだから、思わず「おかしいのはあなたでしょ」と喉元まで出かかってしまう。



「い、いや、随分とその……変わりがないみたいなので驚いて……」

「そうかしら? かなり弱まってしまって、いつもよりもずっとか弱いドラゴンだと思うけれど?」



 「どこがじゃい!」と、ツッコミを入れるのも我慢する。



「で、でもさ。イシュタルちゃんのときは、もっとこう……ね? 辛そうだったよ?」



 以前のユスティティアとなる真竜卵核に力を注ぎにいったとき、核を生み出した後のイシュタルにも出会っているが、そのときの彼女は喋ることすら辛そうで、ずっと大きな座布団のようなものの上に伏せっていたことを愛衣が指摘する。

 だがそれにたいしてエーゲリアは、「いやだわ、もう」と若干おばさん臭い仕草を取った。



「私もイシュタルを産んだときは、同じようなものだったはずよ。

 でももう初産じゃない二度目の子なのだから、慣れてしまったのね。きっと。

 だから見た目は元気そうでも、実は……うっ、ごほごほ。守ってもらわないといけないのよ~」

「ああ……はい。そうですか」

「そうなのよ。だからよろしくね」



 初産だとか、そんなことは関係ないだろうにとは思いつつも、どう見ても元気そうなエーゲリアに突っ込む気力すら失せてしまった。

 リリィは苦笑して「ごめんなさいね」と謝っているが、主人を諫めようという気はまるでなさそうだ。



「分かりました。じゃあそれに、俺たちの竜力と神力がピッタリ半々になるように、その卵核に注げばいいわけですね?」

「ええ、お願いするわ。要領はイシュタルの時と同じで問題ないから」

「了解です」



 もうちゃっちゃっと済ませてしまおうと、竜郎は《分霊神器:ツナグモノ》を発動。

 仲間たち全員と繋がり合って、疑似的に強大な1つの存在へと変化する。

 あとは言われた通りイシュタルの時のことを思い出しながら、同じように超純度の濃厚なエネルギーを壊さないよう丁寧に注ぎ込んでいく。

 エネルギーを吸うほど左側が少しずつきらめきを増していき、ちょうど半分のところで色の変化が止まって、それ以上の力はどんどんと抜けてしまう。

 ここで竜郎は力の注入をストップさせた。これ以上は意味がないことを、前のときに学習済みだ。



「これで大丈夫そうですか?」

「ええ、完璧よ。ありがとう。これで2人目の娘を迎えることができそうだわ。

 これで四人の真竜が揃えば、ニーナちゃんはもちろん、ソータ君がアルムフェイルの座を継いだことがばれたり、竜王種がここにも全員いたりすることが発覚しても、パワーバランスを心配する者はいなくなるはずよ」



 一生それら全ての秘密を隠し通すことは難しいとは、竜郎も分かっている。

 だが真竜二体の創造に協力することで、イフィゲニア帝国との友好を望んでいることもアピールできる。

 おもえばそんな理由が真竜をエーゲリアも産むとなった発端だったなと、竜郎も今更ながら思い出した。



「私の方でもう半分を染める必要もあるから、しばらく厄介になるわね」

「えっと……さ。エーゲリアさんなら、普通に今ここでびゃって完成させることとかできちゃうんじゃ…………?」

「そそそそっ、ソンナコトナイワヨー」

『そんなことありそうだな……』

『うん。だってエーゲリアさん、めちゃくちゃ元気そうだし』

『でもまぁ、別にいつも以上に食材の消費が増すってだけで、たいして負担にもならない…………はずだし、しばらくバカンス気分でここでのんびりしてもらえばいいか』

『そうだね。エーゲリアさん、とってもいい人だし』



 一瞬どれだけ食べる気だろうと不安がこみ上げてくるが、その分の報酬はもらえるので竜郎は考えることを諦めた。

 ただで世話をしろと横柄に言ってきているわけでもなく、やろうと思えばいくらでも食材は生み出せるのだから、ここでケチるのは逆に不義理だろうと。



「ああ、そうだ。1つ質問してもいいですか?」

「ええ、大丈夫よ。ちなみに私は、好き嫌いはないから安心して」

「ええ……それは分かってますから、ご心配なく。

 そうじゃなくて、エーゲリアさんは『魚介類』と『野菜』と『果物』。この中からどれか1つ選ぶとしたら、どれが食べたいですか?」

「ああ、そういうことね!」



 竜郎はイシュタルのときのように、新しい美味しい魔物食材を祝いとして用意しようと思っていた。

 残りは今口にした3種だけ。どうせなら本人が一番食べたいものを用意しようと、質問をしたわけだ。 

 エーゲリアもすぐにその意図に気が付き、ここは迷いどころだと眉間にシワを寄せ、真剣に考えはじめる。



『うん、これは食欲も全然衰えてなさそうだね』

『ほんとにな。エーゲリアさんクラスになると、もう弱体化したところで──って感じなんだろう、きっと』



 二人で弱っているはずなのに、それを微塵も感じさせず食欲に忠実なエーゲリアに感心していると、ようやく決まったようだ。

 重大な決断をしたぞとばかりに、真面目な表情を向けてきた。



「果物が食べたいわ! ほら、妊婦さんは甘酢っぽいものを食べたくなると聞くでしょう?」

「別にエーゲリアさんは、妊娠っていう状態とはだいぶ違う気がしますけど……分かりました。果物ですね。楽しみにしててください」

「ええ! 凄く楽しみにしておくわ! ありがとう、タツロウくん」

「お礼は食べてからでいいですよ」

「ふふっ、それもそうね。そのときのために、取っておくわ」



 終始和やかな雰囲気で真竜卵核へのエネルギー注入イベントは終わり、エーゲリアは彼女のために用意された広い部屋へと、リリィと案内役を買って出たニーナを引きつれ向かっていった。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
今更ですけど、愛衣は次代のために力貸さないほうがいいんじゃないかと。 まぁ、まとめたほうが強くなるかな?
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