第39話 王家の秘密
「王族とは思っていましたが、現王の孫ですか」
「そういうことになるんだが、堅苦しいのはもうやめようぜ。敬語で話すのも話されるのも苦手なんだ。俺のことはチャックとでも呼んでくれ」
「仲良くするつもりはないんだが……、そっちがそういうのなら、そうさせてもらうよ。
……それで、とにもかくにもこれだけは先に聞かせてもらいたい。
ゼッルマト・マピヤという人物は存在するのか?
さすがに王族だろうがなんだろうが、誘拐や監禁なんかの犯罪行為は見過ごせない。冒険者ギルドに通報するが」
ここでばかりは嘘を吐かれると面倒なので、竜郎は呪と闇による混合魔法で嘘が吐けないように場を支配した。
「そこは安心してくれ。そもそもゼッルマト・マピヤなんて人間も、マピヤなんて家も、俺たちの祖先がずっと昔にでっちあげた架空の家なんだからな」
「やっぱりそうなのか……」
「たつろーは分かってたの?」
「確証はなかったぞ? けど王族が、それもどちらかといえば裕福な国の王族が、いくら資産家とはいえ国民の一人になり変わる理由が思い浮かばない。
まあ、馬鹿な王族が暴走して──って可能性も考えていたわけだが」
などと竜郎が話していると、ずっと苦悶の表情を浮かべて悩んでいたゼッルマト・マピヤあらためウィリトンが、どこかやけっぱちな様子で兄のアクハチャックの横に腰かけた。
そして兄のほうに顔を向け、アクハチャックが頷き返したのを確認したところで、両手の指の頭同士を合わせてから、指の付け根あたりに魔力を集中させる。
すると、まるで完成したパズルを崩すかのように、髪や皮膚がボロボロと零れ落ちていき、平凡な顔をした壮年の爬虫人の男性から、アクハチャックに似たオレンジに近い砂色の髪をした、だがどこか兄よりも利発そうな顔をした爬虫人らしき青年の姿が現れた。
零れたピースはソファーや床に触れると、そのまま粒子となって空気中に解けて消えた。
ウィリトンの両手全ての指には、同じような幾何学模様が刻まれた緑色の指輪が一つずつはめられていた。
これが竜郎の言っていた魔道具である。
「十個全て揃った完全な状態なら、これは人間に見破られるものではないと思っていたんだけどね。
まさかこうもあっさりと見破られるなんて、いまだに信じられない」
「おもしろい魔道具ですね。それだけの物となると、恐らく人造ではなく──」
「ああ、ダンジョン産だろうね」
幻術など魔法系の耐性が高い魔法特化型の竜郎をもってしても、すぐに看破できないほど強力な他人に偽装する魔道具。こんなものを、ほいほい人が作れるはずもない。
となれば、どこかのダンジョンで手に入れた、人間よりも高次元の存在が生みだした魔道具に他ならない。
だが「だろう」と断定しなかったのは、それはダンジョンで手に入れたものではないということなのだろう。
「それと僕にも敬語は使わないでほしい。王位継承権第一位の兄ならばともかく、その末席にいる僕なんかに、あなたがたが敬意を示す必要はないんだからね」
「え? 継承権一位って言った? 孫だって言ってなかったっけ? それともお父さんたちはもう……」
「いや、両親ともに元気にやっている。そして俺はれっきとした現王の孫。
もっと細かく言えば現王の息子である父は第三王子で、俺たちはその第二夫人の子だ」
ならば他に子供がいないのかといえばそういうことでもないようで、アクハチャックの父には三人の妻がいて、第一夫人は二人。第二夫人は二人。第三夫人は一人産んでいる。
さらに叔父にあたる第一王子と第二王子にも、おなじくらい子供がいるとのこと。
「んん? それだけ王様候補がいて一番なんだ。凄いね、チャックさん」
「あ? あー……そう、だな。つっても、俺は王じゃなくて、別のものになりたいんだが……まあ、その話は聞きたいなら後でいいだろう」
「それもそうだ。だがその前に、その指輪の魔道具も気になるな。
なんとなくこんなようなものと理解しているが、どんなものか具体的に教えてもらえると嬉しいな」
「これはいちおう王家の秘宝にあたる物なんだが……、ここでいっちょ心象をよくしておいた方がいいか。ウィリトン、説明してくれ」
「……分かったよ」
もうどうにでもなれと言わんばかりに、吹っ切れた表情でウィリトンがその魔道具について教えてくれた。
この魔道具は計十個の指輪から構成されており、発動することで解魔法への完全耐性を付与されたうえで、超が付くほど強力な偽装能力をもつ別人の皮をかぶることができるというもの。
さらにその別人の皮は本当の皮膚のように生命活動をし、気力や魔力なんかのエネルギーも本物のように流れているので、生半可な視覚系スキルでも看破されないという優れものだ。
このエネルギーの偽装により、竜郎が最初に《精霊眼》でパッと観た限りでは表面の皮が邪魔をして、その中身が見えなかったというわけである。
しかし竜郎のもつ《精霊眼》は、使いこなせば遮るエネルギーのその先のエネルギーも見通せるスキル。
なのであらためてゼッルマトの皮膚のその向こう側を観たとき、竜力もないのに低レベルながら竜系スキルを持つという、分かりやすい亜竜の特徴をもった人間が収まっていることに気がついたのだ。
またアクハチャックに気が付けたのも、その後に防音の結界のエネルギーで遮られ、パッと見、見通せなかった壁の向こう側を覗いた時に、彼の姿が書類棚の向こう側に見えたから。
さらに巧妙に隠されているが、この部屋の中には盗聴器のような魔道具が仕掛けられていて、その盗聴器から防音の結界を越えて、書類棚の向こう側にある部屋に会話を届けていたのにも、その時に気が付けた。
とまあ、いろいろと頑張って見破ったわけだが、もしこの場に《万象解識眼》をもった彼の義妹──リアがいれば、一瞬で看破してくれただろう。
精霊眼のくだり以外の部分を聞かされた愛衣は、素直にその魔道具の持つ性能に驚きの声をあげた。
「ふぇー。めちゃんこ便利な魔道具じゃん」
「ああ。俺も弟もそう思う。だがな、それだけのことをなすのだから、当然欠点もある」
「どんな欠点があるんだ?」
それは使用者の個体レベルを使用中、強制的に10以下にし、さらに武術系、魔法系、その他戦闘に使用できそうな全スキルが凍結されてしまうというもの。
これにより使用者は、どんなに元が強くても、そこいらの新人冒険者でも倒せてしまうほど弱体化してしまうのだ。
ならば逆にそれを利用して強者に嵌めさせれば弱者でも勝てるように──と思うかもしれないが、この魔道具はそんなに便利ではない。
この指輪をはめると、その特性を自然と理解してしまう。
また使用するには一定以上の知性を持ち、なにかに操られた状態などではなく、はっきりと自分の意志で使用を念じなければ発動されない。
また個体レベルが300以上のものが嵌めて使用すると、強制レベルダウンができずにオーバーフローをおこし崩壊してしまうという欠点まである。
「だが指輪の数を減らせば、効果も薄れる代わりに欠点も薄くすることはできるんだけどね」
「ああ、それでさっき完全な状態がどうのと言っていたのか」
普段はこれをいくつかに分けて、ゼッルマトの家族を別の王族のものが演じていた。
だが今回は竜郎たちと面会しなければならないということで、急いで十個すべての指輪を集めて周っていたため、受付嬢の想定していた以上の時間がかかってしまったというわけである。
「ああ。しかし『ディオノルム』のリーダーたちでさえ気がつかなかったものだから、いくらそれを超えた存在と言っても大丈夫だろうとタカをくくっていたんだけど……そんなに次世代の最高ランクは甘くはないと思い知らされたよ。
どうやって見破ったかは……?」
「秘密ということで」
「ははっ、まーそうなるよな。ってことで、そろそろ本題に入ってもいいか?
なぜ王族が、マピヤなんて架空の家系を作り上げることになり、くだんのチキーモのクチバシについた宝石を欲しがっているのかを」
「ああ、よろしく頼む」
「ただこれは重大な国家機密だ。この場にいるのは俺たちの身内みたいなもんだから知っているが、本来は絶対に語っていけない秘事だ。
そのことは理解しておいてもらいたい」
「そこに正当性があるのなら、わざわざ言いふらすようなことはしないと誓うよ」
「ありがとう。タツロウ。ではまず、マピヤが生まれるきっかけになった出来事を話すとしよう──」
その昔。まだこの世界が安定しきれていない、不安定な時代。
当時のカルラルブ大陸には今のように立派な国ではないが、それでも新興国家としての体裁は十分保てるようになっていたカルラルブ王国が既に存在していた。
いくら大きな湖が大陸の中央にあるとはいえ、不毛な上に寒暖差も激しい住みづらいこの地を奪おうとする他者も当時はいなかったため、戦の心配もなくのびのびとその新しい国家は成長していこうとしていた──そんな時分のこと。
当時の王は、湖からそれなりに離れた砂の底に、妙な洞窟のようなものがあるという報告を受けた。
さっそく調査してみると、海水が固まったような壁に覆われたダンジョンの迷路のごとく広いものだということが判明した。
しかもその壁は壊しても壊しても勝手に修復するため、たいして質はよくないが、簡単にいくらでも塩を採ることができるようになった。
『ん? それって前に見たダンジョンの残骸のでっかいやつ?』
『そうじゃない? あのちっこいのだけじゃなくて、そんなのもあったんだね』
ヘスティアと愛衣がそんなことを念話で話している間にも、さらに話は進んでいく。
さっそく塩の採掘のために、その洞窟の中に入った砂を外に出しつつ、当時の王は自ら率先してその謎迷宮の全貌を明らかにすべく行動していると、とある一角に宝物庫のようなものが見つかった。
それは金銀財宝はもちろん、不思議な魔道具や天装と呼ばれる人造では不可能な性能をもつ、ダンジョンでしか手に入らないような特別な装備品も数多くあった。
「その中にあった不思議な魔道具の一つが、この他人に偽装する十個で一つの指輪だね」
「なるほど」
当時のカルラルブ王はその莫大な財宝を前に、いらぬ争いが起こらないようにと、迷宮調査に同行していた近衛や側近たちにはこの場の秘匿を命じた。
信頼も厚く指導者として誰よりも尊敬される人物だったこともあり、その場にいた誰もが王にこの場の処置を託し、ここだけの秘密となった。
ただ、このまま宝の数々を放置していてはいずれ誰かに見つかるだろう。
なのでなんとかして近日中に王城に秘密裏に運びだそう──ということになったのだが、中にある宝物を見ていた王が、一つだけ不思議な青い宝石のようなものが無造作に床の隅の方に落ちているのを見つけた。
なんだかよく分からないが触ってもとくに何も起きないし、それほど大きくもないものだからと、それだけポケットに入れて先に持って帰ることにした。
だが王がそれを持ったまま外に出ると、今までぽっかりと空いていた宝物庫へつながる穴が閉じてしまった。
そのときはなぜそんなことになったのか分からずに、あわてて残された者達を救出しようと塞がった穴をこじ開けようと必死に掘削した。
けれど不思議なことに、どんなに修復する壁を壊しても、今立っている場所から一メートルもない先にあったはずの宝物庫の入り口に繋がらない。
「まるで先ほどの宝物庫は、ここではない別次元にあるようだ」
そんな言葉を王の側近の一人が口にした時、王ははたと先ほどの宝石の存在に気がついた。
いくつかサンプルにと他にも宝物を持ってきた側近たちではなく、自分が出た瞬間に閉じてしまった。
そして王が持ちだしていたのは、その宝石のみ。
もしやと思い宝石を懐から取り出し、既に傷一つなく修復し終わった海水の壁に押し当てる。
すると壁が消え去り、再び宝物庫への扉が開かれた。
閉じ込められてしまったと思い絶望していた残された人たちも、突然また開いた扉に驚きながらも喜んだという。
そしてあらためて全員が出たのを確認してから、また王が宝石を持って離れると、宝物庫への入り口が消えてしまった。
けれど再び宝石を近づければ、簡単に扉は開かれた。
このとき全員が、その青い宝石のような何かこそが、その宝物庫への鍵なのだと悟った。
そしてその鍵さえあれば、絶対に他人が入れない鉄壁の宝物庫が自由に使えるようになるということも。
『ねーたつろー。それってさぁ』
『ああ、ダンジョンの残骸だろうな』
『でも、そんなにちゃんと残るのもあるんだね』
『あるのかもしれないが、この大陸に巨大な湖を残すために迷宮神が意図的に手を出したと言っていたし、その影響もあるかもしれないな』
『なーる』
王たちはすぐさま必要な、いざというときにすぐに使いたい魔道具や天装などだけを回収し、残りの財宝は必要なときにきてとりだせばいい。そして王家の隠し宝物庫として利用しようと話が決まった。
「ぎゃう? チキーモのクチバシについてるってやつも、そんなのじゃなかったっけ?」
「俺も今、ニーナと同じことを考えていた。つまり、あるは……あくは? …………チャックたちは、なんらかの理由でチキーモのクチバシについてしまった宝物庫の鍵を入手して、その中の財宝が欲しい──って話でいいのか?」
「そんな簡単な話だったら、どんなによかったことか……。
むしろそうなら、大々的に発表して見つけた人にくれてやってもいいとすら思えるよ」
なんだ財宝が欲しいだけなのかと竜郎が少し興味を失いそうになっていたのだが、苦々しい顔をし答えたウィリトンの返事からして違うらしい。
すぐに兄のアクハチャックが「だよなぁ」と、うつむく弟の肩を叩きながら話を継いだ。
「まあ、俺たち王族側からしても財宝が手に入るにこしたことはないが、正直今の王家もこの国も、そこいらの国より裕福だ。
新しい架空の人物とその家族をでっち上げて、千年以上も財宝のために時間と人材、そして金を費やすなど無駄でしかない。
それならその分、別の事業をして稼いだ方がずっと早いだろう。
おそらく資産家のマピヤという架空の一族をつくりあげ、そこで王家が貿易業なんかで稼いだ額のほうが既に多いとすら考えられているくらいだからな」
「となると、別の理由があるってことだね」
「ああ。というのも──」
宝物庫を発見し、ますます勢いに乗った遥か昔のカルラルブ。
王は人民を大切に思い、人民は王を慕い、皆が明るい未来を信じて突き進もうとしていた──矢先のこと。
カルラルブ国に未曾有の災厄が降りかかることとなる。
それは突然の出来事だった。
いつもと変わらない灼熱の太陽に照らされる中でも、活力に満ちた国民たちが、いつもの日常をすごしていると突如、国中に響き渡るほど大きな咆哮が耳に届いた。
当時も今ほど頑丈ではないにしろ、壁は築いてあった。
砂漠に適した魔物から進化した爬虫人の精鋭部隊もいる。
そして何より王家は天魔の強者とも渡り合える亜竜の爬虫人たちだ。
どうせすぐに誰かが倒してくれるような、そんな魔物が来たのだろう──そう楽観視して、すぐ逃げなかった。
だが壁をあっさりと壊し姿を現したそれを見た国民たちは、誰もが恐怖し、その魔物が吐く息吹きに焼き殺される運命をたどることとなる。
それほど大きくはなかった。せいぜい四、五メートル。
全身に棘のように尖った分厚い漆黒の鱗を身にまとった大蜥蜴、といった外見をしている。
だがトカゲとは決定的に違うものが、その背中には生えていた。立派な竜翼が四枚も。
それはこの世界最強の種、すなわち竜。
しかも知性をかけらも持ち合わせない、ただ破壊を周囲に振りまくだけの魔物の竜──魔竜。
まだ安定しきれていない時代ということもあり、危機回避のために過剰に一か所に集まってしまった世界力を消費し魔物を生みだしたら、たまたま竜だったという不運でしかない事故。
けれどそれは、どんな事故や災害よりも人々に猛威を振るっていく最悪の事象だった。
その魔竜はカルラルブ国を我が物顔で横断し、邪魔だとでも言うかのように国民を踏みつぶし焼き殺し、ときには餌だとでも言うように人を喰らいながら、湖に向かって進行してきた。
当然、王家の血筋をもつ亜竜の爬虫人たちや精鋭部隊も動きだし、なんとかしようとするも格が違った。
全ての攻撃が通じることなく、ごみ屑のように散っていく。
貴重な水源でもある湖に住みつかれ、気まぐれのように周囲の建物は壊されていった。
もうこの国は終わりだ──。そう誰もが思ったことだろう。
しかし王は諦めてはいなかった。
自分の近衛兵と、わずかに残った自分の親族──亜竜の爬虫人たちとともに、遠距離から強力な一撃をお見舞いすることに成功する。
それは宝物庫でみつけ、王家が秘蔵していた数百年に一度しか使えない魔道具。
けれどその威力は強力で、その竜の鱗に初めて傷をつけた。
はじめて味わう衝撃に、なにが起こったわからず、しばらくキョトンとする魔竜。しかし、すぐに攻撃されたのだと理解し怒り狂い王たちを追いかけはじめる。
王たちは国外に逃げ行く。魔竜もそれ追って国外に出た。
そして王たちは秘蔵していた魔道具や装備品の数々を使い捨てるようにして応戦していき、最後に王と数人だけとなりながらも見事、魔竜を討ち取ったのだった──。
「ぎゃう! 魔竜を倒したんだ! やったね!」
「いいや、ニーナちゃん。それは対外的に当時の国民に伝えた話であり、真実ではないんだよ」
「ぎゃう?」
なに言ってるの? とウィリトンの言葉にニーナは可愛らしく首を傾げるが、それだけで竜郎はその魔竜をどうしたのか察することができた。
「倒していないんだな。その魔竜は」
「ああ、どう頑張っても、たとえ宝物庫で見つけた魔道具や天装を駆使しても、歯がたたない魔竜だったそうだからな」
「え? でもそれじゃあ、その魔竜はどうしたの──って、まさか!」
「ああ、そのまさかだ。閉じ込めたんだよ、その絶対に鍵の持ち主しか開けられない宝物庫の中にな」
「やっぱりか……」
そう。倒すことができないと、当時の王やその周囲の者達も理解できていた。
だからこそ便利に使っていた不思議な宝物庫の入り口まで、何人もの犠牲を払いながらおびき寄せた。
そして少しでも時間が稼げるようにと、最後に王家の血筋を持つ者を囮に魔竜を宝物庫の中に入れることに成功。
そしてその最後の犠牲者の断末魔──自ら志願し囮となった愛する我が子の悲鳴を聞きながら、当時の王は涙を流し扉を閉ざした。
数人の近衛をつれてボロボロになりながら王が国に戻ってくると、そこにあったのは破壊の限りを尽くされた自国と死体の数々。
その光景に王は魔竜への怒りとともに、亜竜と竜の違いを身をもって知った。
そして王は思ったのだ。もう二度と、こんなことを起こさないためには力がいるのだと。
だから心から願い、深く心に刻み込んだ。
なにがなんでも、たとえ自分はなれずとも、その子孫の誰かが竜へと至り、愛する家族を、愛する国民たちを、誰一人害されることのない、最強の竜の王をこの国に──と。
「だから必死になって竜になろうとしてたんだね。ここの王様は……」
もっと軽く、竜になれそうだからなりたい! くらいの無邪気な発想から滅茶苦茶なことをした酷い王たちだと思っていたのだが、もっと深く根差した思いがあったらしい。
愛衣はなんだか申し訳なく思い、当時の王に心の中で謝罪した。
「でもそうか。竜が閉じ込められた宝物庫の鍵となる宝石をなくしたから、必死に探していたというわけなんだな」
「ああ、そのとおりだ」
「あれ? でもそれってかな~~~り、昔の話だよね? とっくにその竜も死んじゃってるんじゃない?
食べ物だって飲み物だって、その宝物庫にはなさそうだし」
「いいや、おそらく生きてる」
「ずいぶんとハッキリ言うんだな。まあ、竜ってのは思っている以上に頑丈なのは確かだが……」
おそらくといいながらも、半ば確信をもって生きているというアクハチャックに竜郎が疑問を投げかけると、彼は一度大きく息を吐きだしてから口を開いたのであった。
「それが、俺たちがカギをもっていない理由と繋がるんだよ」
「それも聞かせてくれるんだよな? チャック」
「ああ、もちろんだ」
次回、第40話は3月27日(水)更新です。