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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第一章 再出発
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第03話 異世界人の妹

「ちょっと待ちなさい。うちに住むってどういうことなの? お母さん、何も聞いてないわよ」

「いきなりこんな事を言われても困るのは分かってる。けど、まずは会うだけ会ってほしい。この通りだ。母さん、父さん」

「「竜郎……」」「兄さん……」

「私からもお願いします!」

「「愛衣ちゃん……」」「姉さん……」



 竜郎と愛衣は、仁と美波に向かって深く頭を下げた。

 普段我儘なんて言わないし、聞きわけもいい子だっただけに、竜郎がこのようにして本気でお願いしてきたのは初めてだった。

 愛衣は愛衣で、今まで二人が見たこともないほどに真剣な顔つきをしていた。


 それだけにどれだけ本気で言っているのか理解でき、仁と美波は何と答えていいか分からずに一瞬戸惑う。


 話題の人物でもあるドワーフの少女──リアは、本当の家族との間には最後まで得られなかった家族愛を二人に感じ目が潤む。



「はぁ……──分かった。その子がどんな子でも、俺達は受け入れよう。いいよな、美波?」

「そうね、仁君。竜郎や愛衣ちゃんが変な子をうちの子にしたいなんて言うわけないし、それだけ真剣に頼むって事は何かその子にも事情があるんでしょうしね」

「ほんとかっ!」

「ああ。俺はこんなことで嘘は絶対に言わない。だからここへ連れてきてくれ、新しい家族をな。

 もしかして、ずっと外で待ってるのか?」

「え? ああいや、もうここにいる」

「「「「は?」」」」



 竜郎はリアが立っている方を手で指し示した。

 仁や美波、正和や美鈴もそちらに思わず視線を向けるが、そこに誰かいるようには見えなかった。



「今は認識阻害の魔道具を使っているから、皆には見えないんだ。

 リア、認識阻害の魔道具を切ってくれ」

「えっと、どっちにした方がいいですか?」

「ありのままの自分の方で頼む」

「……分かりました」



 この認識阻害の魔道具には、もう一つの機能が付いている。

 それは彼女がこちらの人間らしからぬ姿をしているので、銀髪と赤い瞳は黒髪黒目に、上に尖った耳も普通の形に、浅黒い肌もよくいる日本人の肌の色だと認識させる機能。

 これを使っていれば、リアはこの世界の住民からは日本人だと認識されるようになり、波佐見家の長女として家を出入りしていても外見的にはおかしくなくなる。


 だが今回竜郎が要望したのは、ありままの姿ということなので、この場にいる竜郎と愛衣の両親には、こちらの世界には存在しない種族の姿で現れるということ。

 リアはそのことに少し緊張しながらも、頭の上に乗っているニーナをイシュタルに預けると、ゆっくり胸元に下げていた認識阻害の魔道具のスイッチを切った。


 すると両親たちの目に、突如としてリアが竜郎と愛衣の後ろに出現したように感じた。



「り……リア、シュライエルマッハーと申します。よ、よろしくお願いします」

「「「「……………………………………」」」」



 突然現れた事、明らかに日本人──どころか、種族が違う人間を初めて見たことで、両親たちは目を丸くし口を開けたまま固まってしまった。

 なかなか戻りそうになかったので、竜郎はぱんぱんと手を鳴らして正気に戻していく。



「ほら、父さん。母さん。黙ってないで何か言ってくれよ。ちゃんと今の名前聞こえてたか?」

「あ、ああ。ちゃんと聞いてたぞ。リリア・シュライバーちゃんだな」

「名前の方はともかく、名字の方は全然聞こえてないじゃないか……」

「あれ? 違ったか?」

「その……最初の『り』はどもっただけで、名前はリアです。

 それと名字はシュライエルマッハーです。こちらはそんなに気にしないで大丈夫です」

「リア・シュライエルマッハー……リアちゃんね。

 私は竜郎のお母さんの波佐見美波です」

「父親の仁だ。よろしくな、リアちゃん」

「は、はいっ。よろしくお願いします!」



 勢いよく頭を下げるリアの姿に、なんとなくその心根の素直さのようなものを感じ取り、自然と二人の目じりが下がった。

 それを目ざとく観察しながら、竜郎は良い感触を得ている今、リアについて説明していった。



「この子は生粋のドワーフで、向こうでは戦闘にも加わっていたけど、装備品なんかの作成に尽力してくれていたんだ」

「装備品っていうのは、たつろーの杖とか私の武器とかの事ね」

「ねえ、愛衣。ドワーフっていうと、あのドワーフ? 映画とかにでてくる?」

「そーだよ。私たちのいた世界じゃ、当たり前に獣人やらエルフなんかもいたし、もちろんリアちゃんと同じドワーフも沢山いるの」

「そうなのか。まさに物語で語られるような異世界って感じだね」



 正和が少し興味深げに、異世界について想像の羽を広げはじめた。



「ちなみに、さっき父さんたちが何も見えない様になっていたのもリアが作った魔道具の力で、強制的に認識できないように錯覚を起こさせていただけなんです」

「魔道具っていうのはどういうものなの? 竜郎」

「魔道具っていうのは、魔法が使えなくてもスイッチ一つで魔法を発動させられる道具ってところかな。

 自分の魔力を吸わせて使うのもあるが、さっきのはエネルギーを内蔵しているタイプだから、今の父さん達でも使えるよ」

「それを使うと、俺達も透明人間みたいになれるって事か。ちょっと貸してもらってもいいか?」

「ええ、いいですよ」



 リアが仁に自分の持っていた認識阻害のペンダントを渡し、スイッチの場所を教えていく。

 そして仁は言われるままにペンダントを首に下げ、スイッチを押すと──。



「うそっ!? 本当に仁君が消えちゃったわ!」

「でもさっきの竜郎君の話だと、そこにはちゃんといるのよね?

 これも魔法の一種なら、竜郎君もできるの?」

「ええ、できますよ。これはしゅ魔法という、本来なら相手の弱体化や味方の強化なんかをしたり、他の魔法を何かに付与したり──なんて使い方をするものを、闇魔法で変質させることで視覚を通して相手にまじないいをかけ、認識を阻害するんです」



 竜郎の話を聞きながら仁はスイッチを切って、自分でも見たいと美波や正和たちにも実演してもらっていた。

 そうして満足いったところで、再びリアの元に戻ってきた。



「普段はこれを着けて、認識阻害ではなく外見的に周りと同じように見せかけて生活するつもりです」

「そっちも見せて貰ってもいい? リアちゃん」

「はい」



 リアの外見がドワーフではなく、こちらの日本人っぽい髪や目の色、耳の形に変化した。

 それに親たちは「おおー」と、凄いマジックを見せられた観客のように声を上げていた。



「本当に異世界の魔法は凄いんだね。愛衣や竜郎君が行った世界には、どんな魔法があるんだい?」

「そうですね。とりあえず基本は──」



 基本は『闇、火、水、風、土、樹、雷、氷、生、呪、解、光』の十二属性。

 これは向こうの世界では曜日の様な使い方もされていて、その属性の曜日になると──例えば火属の日に火魔法系のスキルを使うと少しだけ強化されるという特性がある。

 この十二属性であったのなら、向こうの人間なら誰でも必要なスキルポイントさえ満たせれば覚えることが出来る。


 ちなみに解魔法とは、解析する魔法。

 探査をしたり、その物体が何かを調べたりする時に大抵使用される。



「他にも別属性の重力、毒、音、封印なんてのもありますが、こちらは適性のある人だけが覚えられるって感じですね」



 一様に皆「へぇ~」と頷いているのを見た所で、話が脱線してきている事に気が付いた竜郎は、一旦軌道を修正することにした。



「とりあえず、その話は置いておきましょう。

 とにかくリアは外見的問題も自力でクリアできるし、戸籍やらご近所さんは俺が呪魔法で何とかするからその辺も心配しないでくれ。洗脳みたいなこともできるからな。

 だから今は、うちの妹を今後よろしくお願いしますと言う事で一つ」

「ええ、分かったわ。リアちゃんも、よろしくね」

「は、はい。その……ミナミさん」

「うーん……竜郎の妹というんなら、それは少し硬いわね。

 竜郎の事は普段なんて呼んでるの?」

「タツロウさんの事は、普段は兄さんと……」

「ちなみに、私の事は姉さんと呼んでるよ。

 たつろーの妹という事は、私が嫁入りしたら私の妹にもなるからね!」

「そうなのね。じゃあ、私の事も母さんとか、お母さんって呼んでくれない?

 ご近所さんに娘だと思われてる子に、息子には母さんって呼ばせてるのに、娘には名前にさん付け? なんて思われるのもいやでしょ?」

「それじゃあ、俺のことも父さんとか、お父さん、でいいぞ。リアちゃん」

「そ、そうですね……。その…………お母さん」

「──うっ」



 上目づかいでリアが恥ずかしそうに『お母さん』と呼べば、彼女は悶絶して今すぐにでもリアを抱きしめたくなった。



「お、お父さん」

「──がはっ」



 その流れのままに仁にも『お父さん』と呼びかければ、彼もまた胸を押さえて喜びに打ちひしがれた。



「美波……娘っていいな」

「そうねぇ……仁君」

「落ちたね」

「落ちたな」



 竜郎と愛衣も初めて兄さん姉さんと呼ばれた時には、同じようになった経験があった。

 それだけリアには守ってあげたいオーラが出ているのかもしれない。


 その後、ならば自分の事は呼び捨てにしてくれとリアが言うので、波佐見一家はリアの事を全員呼び捨てにすることになった。

 そんな所で、竜郎は話をさらに進めていくことにする。



「それじゃあ、次の人の紹介にいこう。まだまだ人数がいるから一気にいくぞ」

「は? ちょっとまて、一体何人いるんだよ。

 それでまた俺のうちに家族が増えるのか? これ以上は俺と美波が建てた家の面積的に厳しいぞ」

「まあまあ、そのうち二人は波佐見家に住むわけじゃないし、帰ったら地下室とか作るから大丈夫だ。

 それにうちにはリアがいるし、エネルギー資源も向こうからたんまり持ってきてるから電気がなくても家電を動かしたり、水道がなくても水が出せるようにできる。

 だから家計的には俺達3人だった頃より安くできるはずだ」

「そんな事も出来るようになるの!? ……正直助かるわ」



 美波のほっとした横顔を見た美鈴は、おずおずと手を上げてリアに話しかける。



「えーと、リアちゃん。私たちの家もそうして貰う事は出来ないかしら?」

「はい。大丈夫ですよ。大した手間ではないですし、姉さんの家族ですから」

「ありがとね、リアちゃん!」

「──わぷっ」



 愛衣にぎゅ~っと抱きつかれ、その胸に顔を押し付けられて少し苦しそうに手足をじたばたさせた。

 それを見た美波と美鈴もすすすっと近付くと、愛衣から奪ってリアを抱きしめた。



「あっ! 私の妹だよ! 取らないでよー」

「いいじゃない。愛衣の妹だったら、私の娘みたいなもんでしょー」

「私に至っては、これから一緒に暮らす娘なんだからいいのよー」

「ぶーぶー」



 愛衣がぶーたれ、リアはされるがままに可愛がられはじめた。竜郎はその光景に笑みを深める。



「さっそくリアは大人気だな」

「素直で良い子みたいだしね。うちの娘でも良かったくらいだよ」

「はははっ。渡しませんよ、正和さん。もう俺の娘ですからね!」

「父さんも完全に父性に目覚めたみたいだな。

 それじゃあリアの事はこれでいいとして、残りのメンバーも簡単に紹介していこうか。

 異世界人にも多少慣れただろうし、今度は一気にいくぞ」



 異世界人──そう聞いて、次はどんな人間が来るのだろうと今や興味津々な顔をした両親たちに向かって、竜郎は残りのメンバーを一気に紹介していくことにしたのであった。

予定よりも少し進行が遅いので明日も更新する予定です。

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