第372話 アスレチックな鬼ごっこ
「あー! もうやってる人がいるよ!」
「「まっめ!」」
群島にやってくると、先に試作段階のアクティビティを楽しんでいる人物たちの姿に視界に飛び込んでくる。
「マメタ、こっちだよー」
「キャンキャン!」
「次はこっちー」
「キャゥー!」
「彩たちも連れてきて正解だったな」
「さしずめドッグラン的な?」
そこにいたのは、フレイヤと同じ天魔種の彩──もっと正確にいうのなら、その一人が男女の姿に別れた『彩人』と『彩花』。
そしてもともとマスコット兼癒やし枠として生み出したが、もはや彩のペットと化している巨大な子狼──『豆太』。
せっかく豆太と走り回れる拠点ができたということで、準美味しい魔物の材料取りに一度異世界に戻った際に誘ってみたところ興味を持ったので連れてきていた。
そんな彼らが今、5つの群島を所狭しと駆け回る豆太と一緒に追いかけっこをしていたのだ。
さらにリアが趣味と実験を兼ねて各所に設置したオートタレットから、的確に2人と1匹の位置を把握し魔弾が発射されているが、彼らは崖際に設置されたステップなどを曲芸のように飛び跳ね一発もその体に掠らせもさせない。
「豆太もレベルが結構高いからか、あれくらいは余裕でついていけるか」
「タレットのレベルも5段階くらいあるんだっけ?」
「リアの話によると、そうらしい。今のは多分レベル1のモードのはずだ。
段階を上げるごとに、タレットの起動する数も索敵速度も、射出速度なんかも上がるとかなんとか」
「最大レベルの5だと、私たちでもいい運動になるって話みたいだしね」
魔弾は当初の予定通りステータスによる補正のない、地球人に当たっても死にはしない程度の威力なため竜郎たちになんの害もないが、避けることを強いられるとこれがなかなか難易度が高い。
子供たちのアスレチック場として作ったが、アーサーたちのような大人たちでも十分に楽しめるようになっていた。
二人と一匹が常人では残像すら追いきれない速度で駆け回っているのを眺めていると、あちらも気がついたのか一度止めて竜郎たちのいる場所へとやってきた。
「「たつにぃたち、そろってどーしたのー?」」
「キャンキャン」
「リアに試してみてほしいって言われたから、ついでに来てみたんだよ。
彩人たちはどうだ? 面白かったか?」
「「うん。楽しーよ」」
「アオーーン」
「ふふっ、豆太もご機嫌だね」
遊んでもらえてテンションが上がっているようで、豆太が大きな体をピョンピョン弾ませながら、尻尾もブンブンと振り回して「まだ動き足りないよ!」とばかりにアピールしている。
そんな豆太に楓と菖蒲は飛びつくように体にひっつき、その柔らかな毛皮をいつのまにか堪能していた。
豆太は遊びたすぎるぜいか、毛皮にへばりつかれても意に介していない。
「ニーナも一緒に遊んでいい?」
「あーめも!」「かーでも!」
「「いいよー。皆で遊ぼー。たつにぃとあーねぇはどーする?」」
「じゃあ私もやろうかな」
「俺は若者の体力についていく自信がないから、近くで見てるよ」
「もー、たつろーは私と一緒で歳とんないでしょ」
「まぁそれはそうなんだが、やっぱり俺は純粋な魔法使いだからな。
フィジカルモンスターの愛衣やニーナには、さすがについていけない」
竜郎も高レベルによるステータスのゴリ押しで異常な身体能力を有して入るが、さらに身体能力面で恩恵を受けている愛衣には及ばない。
魔法を使ってそれを補うことはできるし、愛衣やニーナもそこまで全力で暴れる予定もないだろうが、せっかくなら施設の試運転も兼ねて魔法無しでの状態を見ておいたほうが良いだろうと考えた。
決して運動して揺れる愛衣の胸を眺めていたいからなどと、そのような不純な理由ではないのだ。決して。
「なんか、えろろーな気配が……?」
「いやいや、なにをおっしゃる愛衣さんや。ほらほら、子供たちと遊んでおいで。
俺はさっきまで魔物創ってたから、ちょっと休もうかなと思ってるだけだぞ」
「ふーん……?」
何やら愛衣から疑いの眼差しを向けられる竜郎であったが、努めて紳士的な(本人からすれば)笑顔で彼女たちを送り出した。
「私が追いかけるから、捕まったらその人が今度は他の人にタッチしてっていう鬼ごっこ方式で行こっか」
「ニーナもそれでいいよ! 早くやろ」
「アオーーーン!」
「「マメタもしたいって。ボクたちもそれでいいよ」」
「うっうー!」
「じゃあ決まりだね。10秒数えるから、皆逃げて。じゅーーきゅーー──」
愛衣が目を閉じて10秒数えている間に、皆バラバラの方向へ散っていく。
楓と菖蒲もニーナに近いところをちゃっかりをキープしてはいるが、遊びのために皆から離れられるようになっている時点で甘えん坊からかなりの成長を見せてくれている。
「いーちーーーゼロ! それじゃあ──いっくよー!」
「はやっ。いきなりやる気十分だな」
ギュッと足元を踏みしめ、一番近くで挑発するように様子をうかがっているニーナに飛び込んでいく。
彩人と彩花は分裂しているためステータスがそれぞれ半減しているのと、楓と菖蒲はそもそもシステムすらインストールされていない。
豆太もレベルは高いが、そもそもの魔物としての等級はそこまで高くはない。
そのため、ここで愛衣がフィジカル面で全力を出せるのはニーナだけ。
愛衣はニーナに対してだけは一切の遠慮もなく、竜郎ですら一瞬見失いかけるほどの速度で追いかける。
「えへへっ、捕まらないよー!」
「おっと、やるねぇ、ニーナちゃん」
だがニーナの実力も伊達ではない。残像を残しフェイントすらも一瞬で何度も入れながら近寄ったというのに、ニーナはその全てを見切ってひらりと愛衣の伸ばした手を躱す。
ニーナも愛衣にだけは遠慮もなく、エーゲリアと遊ぶときのような感覚で動き不敵な笑みを浮かべる。
「くそっ、速すぎてちゃんと揺れが…………」
約一名まったく別のことに夢中になっている間に、遅れて愛衣とニーナを補足した魔弾がタレットからマシンガンのように撃ち込まれ、その砲火から逃れるために2人は真逆の方角へと弾けるように離れていく。
「まったく、兄さんはなにを見てるんですか?」
「え? いやなに、リアから頼まれたように、実際に運用されているところを見ているだけだぞ」
愛衣の胸を直に見るどころか触ったことすら何度もあるというのに、布越しに揺れる脂肪の塊を見て何が楽しいのだろうかと、いつの間にかやってきていたリアに呆れた視線を向けられるも、竜郎はなんてことのないようにそれを受け流す
「姉さんの胸なんて、いくらでも見ているでしょうに……」
「それはそれ、これはこれだ! もちろん、一般論の話であって、今ここの話じゃあないがな」
「別に隠さなくてもいいと思いますけど」
「兄の威厳は大切だろう」
「はぁ……そうですか。にしてもやはり、あのタレットの性能では2人の動きについていけてないですね」
「かなり頑張ってる方だと思うけどな」
人別にもタレットのレベルを設定できるため、愛衣とニーナに対しては5段階中の5で対応されているが、それでもやはり愛衣とニーナに照準をあわせ続けることができず、どうしてもバグったようにオートタレットが首をぐるぐる振っているような状態になってしまっていた。
リアはさらなる性能強化のために、その瞳の力を駆使しながら情報を集めていく。
「とりゃー! つーかまえた。次は彩花ちゃんが鬼だね」
「あーねぇ、前にいたと思ったら後ろにいたー……。うー、やっぱりこっちの状態のままだと反応が鈍いなー」
竜郎とリアが話している間にも状況は動き、ニーナからターゲットを変えた愛衣が彩花の背中に手を触れ鬼が交代する。
彩花はもう少し逃げられると思っていただけに、少し悔しそうにしながらもとっくに島2つ向こうに逃げてしまっている愛衣の背中を一瞬だけ見ると、崖の向こう側から隠れて覗き見ていた楓に狙いを定め、数多のアスレチックを平地のように駆け抜け、魔弾を踊るように回避し一気に肉薄する。
「きゃうー!?」
「ちっちゃいのに、これくらいなら逃げられちゃうんだ。ちょっとあの子たちこと、見くびりすぎてたかもー」
見た目が幼児なだけに彩花もステータスが半減した上で手加減をしていたというのもあるが、楓は頭では驚きながらも体は冷静にバク宙で迫る手を躱し壁面を蹴って彼女の横をすり抜け逃げていく。
豆太とともに子供をあやすくらいの気持ちで挑んでいた彩花だったが、意識を一段上げさらに速度も上げて鬼ごっこを続ける。
「キャンキャン!」
「分かってるよ。マメタも追いかけてあげる」
僕も追いかけてよと、魔弾をぴょんぴょんステップを踏んで躱しながら彩花を挑発する豆太が次の標的に。
30秒ほどの攻防の末に豆太が捕まってしまうが、それでも豆太は楽しそうに吠えながら鼻をひくつかせ、一番近くにいた彩人を捕捉し4本の脚で駆け出した。
「さすがにあの子たち相手だと、姉さんもニーナさんも手加減してますね」
「じゃないとワンサイドゲームになって、2人が楓たちや豆太から怒られるだろうしな。仕方ない」
愛衣もニーナも適度に手を抜き、されどあからさまにならないようにしつつ、鬼になった子供たちに捕まったりとしっかり母や姉として遊び相手に徹していた。
竜郎もその方がいろいろと観察しやすかったためご満悦な様子を見せながらも、子供たちの遊びを見守り、リアのために群島全体の魔道具によるギミックの動きもレポートが書けるくらいに細かく頭の中へ記録していった。
「キャゥーン」
「豆太も満足してくれたみたいだな」
「「うー」」
「「この子たちがシステムを手にしたら、もっともっと手強くなりそうだなー」」
存分に体を動かし満足した豆太は、竜郎が用意してくれた水をペロペロと舐めるように水分補給していく。
楓と菖蒲も無限の体力を持っていそうながらも、さすがにこのメンバーでの鬼ごっこは楽しくもあるが疲労もあり、竜郎から飲み物を受け取るやいなやぺたんと同時に座り込んだ。
飲み物に口をつけながら綾人と彩花は豆太を撫で、そんな幼児2人の末恐ろしさを苦笑していた。
「ニーナちゃんはまだまだ元気そうだね」
「ママも元気そうだね」
その一方で、まだまだ元気いっぱいの愛衣とニーナが残っていた。
2人からすれば、ようやく体が温まってきた──くらいの感覚だ。
「なら2人で、また鬼ごっこでもしてくるか? 今度はタレットにプラスして俺からも魔法でちょっかいをかけるから、それを躱しながらって感じでどうだろう」
「いいね! ニーナちゃんはどお? まだやれる?」
「いけるよ! わーい、こっちでこんなに動けるなんて思ってなかったな!」
休む子供たちを置いて、愛衣とニーナの鬼ごっこが直ぐに再開した。
目で追っていては見逃してしまうため、探査魔法で常に両者の居場所を把握し、その筋肉の動きから次の行動を予測し、完璧なタイミングで当たっても問題ない魔法を転移で飛ばして撃ち出すという、自分のスペックをいかんなく発揮した高度なことをやってみせていく。
互いに互いの相手をしながら、アスレチックな足場を駆け抜け、タレットの魔弾を避け、竜郎の突然転移で出現する厄介な魔法すら注意し続けなければならないと、難易度は2人であっても苦戦するレベルまで跳ね上がっていた。
「面白そうですね、マスター! 私の参加も許可していただけませんか!」
「我もやるのだ!」
「久々にちゃんと体を動かしてーところだったんだ。頼むぜ、マスター」
「3人も来たのか。いいぞ、たいして手間でもないからな」
アーサー、ランスロットに加えて、2人に誘われ一時戻ってきていたガウェインもその2人の中に加わる。
「じゃあボクも、次はこっちの姿でやろーかな」
「ああ、いいぞ。いってこい」
彩人と彩花も『彩』の状態に戻り、さらに身体能力が高い少女形態の悪魔となって全力モードでそこへ参戦。
続いて「最近はデスクワークばかりだったので、久しぶりに……」とやってきたウリエルが、「10日寝ずにゲームし続けたから、今度は体を動かしたかったところだったんすよね」とゲーム廃人になりかけているアテナも後に加わり、超人たちの大鬼ごっこ大会が開催された。
それはそれは見ごたえのある光景に、楓や菖蒲も「いつか私たちもあの中へ」と憧れ混じりに飽きることなく見入っていた。
「意外とここは人気の島になりそうですの」
「ですね。私ももっともっとタレットの性能を上げて、あの人たちに魔弾を当ててみせますよ」
いつの間にかやってきていた奈々は参加こそしなかったが、リアと一緒にそれを見ながら、今後の改善点について仲良く話し合っていた。
「し、しんどい……。身内ながら、凄いなうちのメンツは」
そんな中で竜郎は、その超人たち全員の相手を天照や月読の補助なくやっていたため、一人疲労を顔に出しながらも……仲間たちの楽しそうな姿に自然と笑みが浮かび上がっていた。
次も木曜日更新予定です!




