第364話 畜産施設づくり
次にやってきたのは仮名を『嵐島』と付けた、年がら年中嵐に見舞われているような、寒さとは別の意味で人が住むには厳しい環境の3つ目の無人島。
やはり今日も天候は荒れており、大雨状態で島に着た瞬間ずぶ濡れになってしまう。
竜郎は魔法で結界を作り、濡れた水分を自分を含め愛衣や楓、菖蒲たちから飛ばして乾かす。
「これで比較的マシっていうんだから、とんでもない所だよね」
「晴れのときに偶然来られたら、数週間は運が良くなりそうなレベルだ」
「あははっ、占いみたいで面白いかも。けどいちおう、嵐を遮る結界みたいなのは用意したんだよね」
「畜産用の施設にするつもりだからな。魔物の場合どこまで影響するかは分からないが、家畜にストレスを与えると肉質が悪くなるとか言うし」
「多少の嵐じゃびくともしないだろうけど、ずっと水浸しじゃ魔物くんたちも鬱陶しいだろうしねぇ」
一年中嵐に見舞われているような島だからと言って、そのまま使う必要もない。
広さは6島中最大サイズを誇り、面積的には放牧しやすい環境でもあるのだから、ここは魔道具で嵐を遮ってしまおうという方向で話が付いている。
「パパー、ママー! ニーナ、魔道具設置し終えたよー!」
「ありがとう、ニーナ」「ありがとね、ニーナちゃん」
「「にーねーちゃ!」」
この島の魔道具設置班に任命されていたニーナが、竜郎たちの気配にいち早く気が付き、水の魔道具も含め最初に必要なものは全て設置し終えたことを伝えにやって来た。
竜郎と愛衣に褒められて嬉しそうにしながら、既に認識阻害の魔道具は起動済みだとも報告してくれた。
「あとは真ん中のスイッチを押すだけで、傘も起動するよ」
「じゃあ施設を作る前に起動しておくか。魔法で防いでおく必要もなくなるし」
「ニーナがスイッチ押していい?」
「いいよ。ニーナちゃんが設置してくれたんだからね」
「ぎゃう~♪」
島の中央にやってくると、電柱のような円柱状の柱が1本立っていた。
それと似た円柱が島の決められた位置に複数個設置されており、それらの制御と発動も兼ねた柱が島中央のこれになる。
中央の円柱だけにある、竜郎の胸くらいの高さに付けられたパネルをニーナが爪の先で器用に押して設定を入力していく。
それが終わるとパネルの下から、起動のスイッチがせり出してきた。
見た目はいかにもスイッチですといった、10センチほどの赤く丸いものだ。
「「あう?」」
「カエデとアヤメも押したいの? じゃあニーナと一緒に押してみる?」
「「あう!」」
すっかり幼竜たちのお姉ちゃんになっているニーナを微笑まし気に、3人が一緒にスイッチを押す様を竜郎と愛衣は見守った。
すると中央の円柱から光の柱が空に向かって伸びていき、それに連動するように他の設置した円柱からも光の柱が中心地の上空に向かって弧を描くように伸びていき、全ての光の柱が繋がっていく。
「ギャウ! 上手くいったみたい」
「大成功だな」
空には大きな傘……というよりは、光の骨組みの透明なテントが張られたような状態となり、島に降り注いでいた雨風をそこで遮断してくれていた。
光の骨組みは日中には明るく、夜には暗くなるようになっており、ここで放牧される魔物たちの体内時計も狂わないように設定されている。
魔物にとってそれが、意味のあることなのかは不明ではあったのだが。
もちろん嵐だけを防いでいるだけなので、空気は普通に外から入ってくるので内部の酸欠の心配もない。
「これ凄いよね。大掛かりなことしてるのに、あんまりエネルギーも消費しないってリアちゃん言ってたよ」
「リアの技術は、日々向上し続けているからな。我が義妹ながら本当に凄い」
傘の中は温度、湿度もある程度エリアごとに調整することもでき、それぞれの魔物にあった環境を作り出してくれる。
それなのにエネルギーは一度満タンまで補充してしまえば、一年は軽く持つ計算になっており、コスパにも優れている。
嵐も疑似的に止んだので竜郎は雨風から防いでいた風魔法を解き、月読と共に施設の建造に勤しんでいく。
「やっぱり一番重要なのは、今手に入れている美味しい魔物たちの放牧場だな」
「こっちでもそれがメイン食材だからねぇ」
「ここに来れば、ちょっとくらいつまみ食いしてもいいのかな? ジュルッ」
「勝手なつまみ食いは禁止だぞ、ニーナ」
「食べるにしても、ウリエルちゃんたちの許可は取らないとダメだよ。
なんかいろいろとこっちでの販売のこととか、一杯考えてくれてるみたいだし」
「はーい……。我慢しようね、カエデ、アヤメ」
「「あぅ…………」」
しょんぼりされても、いざというとき数が足りないでは、富豪たちとやり取りしてくれているウリエルたちに申し訳が立たない。
それだけはしっかりと他の幼竜たちにも言い含めておかなければと考えつつ、竜郎はそれぞれの生体にあった区画を作っていく。
チキーモは砂漠の生き物なので砂地に。メディクは海の水で育てるのは微妙なので、専用の巨大水槽に竜郎の魔法で最適化した水を注いで──などといった様に。
最重要の商品でもあり食材であるため、それぞれできるだけ広くとっておいた。
もちろん、今後追加されるであろう残りの美味しい魔物食材の分の区画は確保した状態で。
「エサ入れもちゃんと機能してるな」
「ニーナが頑張って設置したんだよ」
「ニーナちゃんは偉いね。よしよし。従魔扱いだから、簡単に躾けもできてらくちんだ」
それぞれの区画には、巨大なエサ入れが複数設置されていた。
上部に魔物園でも使用されている、魔物たちの大好物パルミネを利用した魔物フードがたっぷり詰まったタンクが取り付けられている。
魔物たちがもっと食事が欲しいとなったとき、ペダルを踏めばタンクからエサ入れに供給されるシステムが組まれていた。
タンクも状態保存の魔法効果が掛けられている、下手な冷蔵庫で保存するよりずっと長く保存しておけるようにもなっている。
なので竜郎がここを踏めばエサが追加で出くると従魔の繋がりで教えておけば、後は勝手に欲しい分だけ自分たちで出してくれる。
水もなくなれば勝手に補充されていくため、忙しくなって数か月放置してしまった──なんてことになっても飢えも乾きもなく、元気いっぱいに過ごせるようにした。
陸地の余った所には白牛や触手団子など、これまで手に入れてきた準美味しい魔物たちのスペースも同様の方式で作り区切っていった。
「陸地はこれくらいでいいか。次は水棲魔物の生け簀作りだ」
「魚介類も大事だからね」
「うん、ニーナお魚も貝も大好き!」
水棲の美味しい魔物──ララネストやルカピ。準美味しい魔物で巨大ウニなど。
それら専用の生け簀を、海側の方に竜水晶で作り上げていく。
これらの魔物たちは海水をそのまま利用できるため、管理もかなり楽そうだった。
こちらもエサ入れの魔道具が設置されているため、飢えて生け簀の外に出て地球産の魚介類に手を出すということもないようにしている。
「魔物たちにとったら、俺たちが大量生産してる魔物フードの方が美味しいみたいだしな」
「不思議だよね。私たちは香りだけでもちょっとキツいのに」
水棲生物用の方は成分濃い目のフードになっているため、陸上の物より香りも強かった。
「ニーナもアレより地球のカニさんの方が、ずっと好き。そっちなら、つまみ食いしてもいい?」
「それもダメだ。むしろ地球産の生き物の方が俺たちにとっては稀少なんだから、そういうのは皆で食べないと」
魔物であればいくらでも量産できるが、地球の動物や魚介類はそうもいかない。
「そっかぁ……」
「「あう……」」
「ねえ、たつろー。準美味しい魔物とかで、似たようなのは用意できないのかな?」
「それならいるだろうな。準美味しい魔物は結構な種類がいたからな。
なにかしらの代替えになりそうな魔物くらいは、いるはずだ」
美味しい魔物は筆舌に尽くしがたい圧倒的な美味しさを持つが、準美味しい魔物であれば地球産の美味しい食材でもなんとか対抗できる。
逆に言えば地球産の美味しい食材を、準美味しい魔物で代用することも可能ということ。
「ウニはもう手に入れたし、エビ……というかロブスターはララネストがいる。
となると魚介で言えばカニやタコとかも、準美味しい物くらいのグレードのやつが欲くなってきたな」
「いいねぇ。ならカキとかアワビとかも欲しいかも」
「それな。魔物の方が管理もエサの用意も今となっては簡単だし、また《魔物大事典》で検索しておこう」
「ニーナなんだかワクワクしてきた!」
「「うっうー!」」
なんだか美味しい物の話だと敏感に感じ取り、楓と菖蒲もニーナと一緒にキャッキャッとはしゃいでいた。
「あ、そうだ。食材のことばっかりで忘れてたけど、この島の周りに沈没してる船はどうする?
なんか昔のお宝とかもあったんだよね?」
「そっちは今やってる島開拓がひと段落ついてから、興味のあるメンバーで宝探しって感じでやればいいんじゃないか?
今更どこかに消えてなくなるものでも、ないだろうしな」
「じゃあ、そっちは後のお楽しみだね」
「落ち着いて楽しめる状況になってから、やっていこう」
まだ魔物たちを放牧していないため閑散としている島となっているが、後々は自由に放牧と繁殖をさせる賑やかな環境になっていくであろう基礎は作り終えた。
地球での生産基盤も順調にできつつあることを実感しながら、竜郎と愛衣はここでの仕事を終えたニーナも連れて、今度は5人で次の島へと移動を開始した。
次も木曜日更新予定です!




