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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十八章 エリュシオン解放編

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第343話 例の一件について

 野菜の新たな可能性が生まれ、この場は非常に明るい雰囲気に包まれていた。

 楓と菖蒲もなんだか美味しいものがまたできるんだろうと、彼女たちなりに理解し喜んでいる。


 なので竜郎は、もう一つしようと思っていた報告を言おうか言わまいか、少しだけ躊躇する。

 だが黙っていても余計に時間が過ぎるだけだと、彼は重い口を開いた。



「話は変わるんだが、聞いてほしい。

 実はボダだけじゃなくて、昨日の夜に豆の方──カポスの亜種も調べたんだ。

 それで、そっちにかなり危なそうなものを発見した」

「危ない? っていうと、どんな感じの?

 カポスの100倍くらい、すっごい毒が強い豆の魔物とか?」

「ある意味だと、すぐ死ねる分ただ毒素が強い方がましな気もするな。

 けど毒という意味では、微妙に合っているのかもしれない。

 俺が見つけたのは、言ってしまえば違法なドラッグの類。

 それも依存性が非常に高く、一度広がれば絶対に厄介なことになるやつだ」

「えーと……、まさか竜郎くん。その魔物を生み出そうとは思っていないよね?

 それとも麻の実みたいに、それも食べ物として利用できるってことなのかな?」

「いいえ、それはそういう利用法も危険な上に、特に美味しくもない最悪のものです」

「じゃあなんで、たつろーはそれを話題に出したの?」



 必要もなさそうだし、他の亜種と同じようにスルーすればいいだけじゃないかと愛衣は疑問を持つ。

 竜郎がわざわざ明るい雰囲気の中で、こんなことを言ったのだから、必ず意味があるはずだと。

 そしてそれは、正解だった。



「それは色々と条件が合っているなと感じたからだよ、愛衣」

「条件…………って、もしかして、ボダやカポスを取りにいった死の森の件について言っているのかな? 竜郎くん」



 死の森の件というのは、もちろんクシャスの縄張りが、ここ数年の間に広がっているというもの。

 森には侵入者がおり、その情報を調べ冒険者ギルドへ報告しただけで竜郎たちが離れた一件だ。



「はい。あれの犯人は、そのドラッグになりうる『マルスソム』という魔物を、またこの世界に生み出そうとしているのではないか──という懸念が出てきてしまったんです」

「またこの世界にってことは、もういない魔物なの? パパ」

「ああ、いない。けどあそこにいるボダの毒も一緒に吸って育ったカポスからなら、俺みたいに特殊なスキルがなくても、人為的に品種改良して生み出せるみたいなんだ。

 つまりそのくらい近いところまで、あの場所で下地が揃っていたんだ。

 それに今朝がたミネルヴァとレーラさんに頼んで調べ物をしてもらっていたんだが……千年以上昔の話に、あのあたりで実際にマルスソムを使った症状と酷似した、国が滅びそうになるほどの大きな薬物事件が起きていたそうなんだ」



 竜郎はこの魔物のことを知ったとき、まさかこれじゃないよなと思いながらも、嫌な予感がぬぐい切れなかった。

 そこでレーラやミネルヴァに頼み、死の森周辺で過去にそのような事件がなかったのか調べてほしい──とお願いしておいたのだ。

 今やあちこちから本の収集もなされ、ミネルヴァも積極的に細かな情報を集めてファイリングしているため、カルディナ城の情報量はかなりのものになっていた。

 そこへさらに長い時を生きたクリアエルフたるレーラの知識も借りたことで、上記の事が発覚した。



「《魔物大事典》に書いてあった絶滅した時期も、その事件の辺りだ。

 話によるとその事件が起きたとき、その薬物を流した犯人を捕らえる際の戦いで、大きな火災があったみたいなんだ。

 その火災に巻き込まれて、マルスソムはこの世界から消えたんじゃないかと思ってる。

 まあレーラさんが言うには捕らえようとした国側が、マルスソムが二度と生まれないよう、大元の存在が何だったのかすら隠すために、早々に火を放って焼き払ったんだろうっていってたんだけど。

 燃やしたときの煙も危険だが、それが一番確実な抹消方法だろうしな」

「ということは、その薬物が何から作られていたかは、歴史の闇に葬り去られているはずだったと。そういうことかい?」

「はい、そうです。けどもし、どこかでその方法を見つけた。もしくは保持していた人物がいれば品種改良を繰り返し、マルスソムを復活させてドラッグを生成することは可能でしょう」



 断定するには早すぎるが、もしそうであった場合、あの辺りに非常に厄介な薬物が流通する可能性が高い。

 なにせ『マルスソム』の症状は、一時的に強い幸福感と快感を得られる代わりに、脳を蝕み思考力が落ちて理性が失われていく。

 依存性も高く、数回も使用すれば禁断症状があまりにも強すぎるため、強い意志を持って薬を抜こうとしても、その苦痛で死に至る者が続出するほど危険な状態に陥ってしまう。

 それが嫌なら、死ぬまで永遠に薬を摂取し続けるしかない。


 そうして一度染まってしまえば、無理やりにでも染めてしまえば、薬のために何でもやる、死をも恐れぬ生きた人形が完成する。

 過去の薬物事件を起こした首謀者は、そうやって大勢の人を薬で操り、国家転覆を図ったとされている。

 それだけ聞けば、これが万が一にでも流れたときの危険性が分かるというものだ。



「ねえ、たつろー。治療法はないの?

 だって私たちの世界ならまだしも、こっちの世界には魔法っていう便利な力があるんだしさ」

「あるぞ。必要なのはレベル18以上の生魔法と解毒魔法の両方。

 それらを適切に使うための、解魔法がレベル15以上必要だけどな。

 だから俺なら治療することもできる」

「でもそれってパパだからできるってだけで、普通の人じゃ難しいんじゃないかな?

 エーゲリアお姉ちゃんなら、簡単に治せちゃうだろうけど」

「エーゲリアさんは、俺からしても別格だしな。むしろできないわけがない。

 それにイシュタルでも、もうできるかもしれない。

 あとはクリアエルフとかになってくるんだろうが、その条件で探すのは難しいってレーラさんも言ってたくらいだ。

 とてもじゃないが、一般的な国でそれができる人材を用意するのは難しいはずだ」

「うーん……となると、特殊なスキル持ちの人がいれば何とかなるかもってくらいかな?」

「だろうな。生魔法や解毒魔法、解魔法という正規の治療法に頼らなくても、俺たちの知る限りでもウサ子なら知人限定になるが簡単に治療できるだろうし」



 ウサ子であれば見たことのある人物なら、《惑星記憶貼付》で強制的に健康だった時の状態に復元できる。

 それならば、確かに薬物だろうが何だろうが関係ない。

 薬物を摂取していなかった頃の身体に、戻るのだから。



「そこまでぶっ飛んだスキルでなくても、そういったドラッグの症状を抜き去ることに特化したスキルだとか、軽減するスキルで後遺症覚悟で自浄作用に任せるっていう対処法もあるのかもしれない」

「けどそれも、そう都合よく世界に何人もいるとは思えないね。

 実質、僕らのような特殊なケースの者たちでなけば助からないようなドラッグと思ったほうがいいかな。

 やっぱりどこの世界も、薬物ってのは恐いものだね……」

「ですね。なのでもしそうでなかったとしても、もう一度俺たちで調査したほうがいいと思ったんです」

「だねぇ。違ったなら違ったでいいわけだしさ」



 身内ならば治療法もある。

 それにカサピスティとも距離のある、別大陸の国の話。

 放っておいても、身内や知り合いが危険にさらされる可能性は低いのかもしれない。

 けれど今自分たちが動くことで、未来に起こりうる大きな不幸が取り除けるのなら、何とかしたい。

 そう思えるほどに、竜郎と愛衣はもうこの世界に愛着を持っていた。



「それは町の人たちに薬のことは言わずに、ニーナたちが危ないのを無くしちゃえばいいの?」

「俺は、それが一番いいと思う。品種改良の方法が分からなくても、偶然それに至ってしまう可能性だってあるんだから、カポスからそういった危険なものが生まれる──という事実すらあまり広めたくはない」

「だからこそ、昔の人はさっさと焼いて元凶を素早く隠したんだろうしね……。

 僕もそれが良いと思う。そんなものは、永遠になくてもいいんだ」

「麻酔薬みたいに、人体に有益に使えるようなものですらないですからね。

 ただただ生物にとって有害な豆を作り出すだけなら、その情報は俺たちの中で隠し通せばいいと思います」

「結果的にそれでクシャスの縄張りの拡大が防げちゃえば、あの町の人たちもハッピーだろうしね」



 徒労に終わっても、竜郎たちは「なんだ違ったのかぁ」と笑い話になる程度。

 もし竜郎の考えが当たっていれば危険な薬物を生み出そうとしている馬鹿を、もしくは馬鹿たちが不幸になるだけ。

 ならば解決に乗り出すのに、何の不都合もない。



「ねえ、パパ。それってもう、できちゃってるのかな?

 だって数年前から、クシャスの縄張りが広がってるのが判明してるんだよね?

 なら悪い人たちがいるなら、もっと前からやってたってことになるよね?」

「品種改良を行っている人物のもっているスキルに、それを早めるものがあるならもうとっくにできているはずだ。

 だが今のところあの近辺でそういった事件も起きてなさそうとは、ミネルヴァも言ってくれていた。

 通常の品種改良の方法でいけば10年以上はかかるらしいし、まだ今日明日にでもって感じではないはずだ。

 だから悠長にまずは明るい話題をって感じで、エンリッチャーを出したわけだしな」

「けど早くやるに越したことはなさそうだよね。さっそく行っちゃう?」

「ああ、そのつもりだ。正和さんはどうしますか?

 いちおう一緒に関わったので話をしに来ましたが、畑を優先してしまっても構いませんよ」

「さすがにここまで聞いて、それじゃあ僕は畑の管理をしてるね──とは言えないよ。

 僕に何ができるとも思えないけど、せめて今回の件を見届けさせてほしい」

「分かりました。なら一緒に行きましょう」

「「あうあ!」」

「ふふっ。もちろん、二人も一緒にね」

「「あう!」」



 こうして竜郎たちは、再び死の森の一件の調査に自ら乗り出すことになったのであった。

 できれば違っていてくれと願いながら。

すみません! 遠方に行く用事ができてしまったため、来週分の投稿はできません!

次は再来週の7月6日(木)更新予定です。

ただでさえ週一更新なのに、申し訳ないです……(泣

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― 新着の感想 ―
[気になる点] カルパって何処から出てきたのでしょうか? 何処にもなかったと思いますが見落としが有ったり間違ってたらすみません<(_ _;)>
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