第331話 名前
ダンジョンの町の正式な名づけを頼まれ、その夜のうちに愛衣の出す珍妙な名前の数々をさばきながらも皆で話し合って無事に決め終わる。
決まったのなら早めにリオンたちに伝えた方がいいだろうと、翌日すぐに伝えに行ってみれば、あっさりと受け入れられ正式に町の名が決まった。
これからその名を確定させ関係各所に通達し、計画の最終段階を推し進めていくとのこと。
「本当にすぐに決めてくれて助かったよ。最終段階に入っても名前がなければ、締まらないからね」
「あと俺たちは、決まった芸術家の人たちと一緒に遊園地と魔物園の調整ってところか」
「そうだね。残りの面倒な調整なんかは、こっちでやっておくから」
現在は芸術家たち同士で全体のまとまりをつけるため、最終調整している最中。
もちろん自分の作品は選ばれた状態で固定だが、それ以外の細かい箇所で統一性を見せようということになったのだ。
「そういえばプークスはどうしてる? 上手く町には馴染めてるか?」
「タツロウから任された人物ということもあって、私も直接確認しに行ったりもしてみたけど、今や他の警備隊の者たちにも慕われているみたいだったよ」
「へぇ、そうなのか」
「強さは言うまでもなく、人柄もはっきりしているから武人には好かれるんだと思う。ああいう人はね。
にしても本当に驚くほどに強かったけれど。うちの騎士団が一斉に立ち向かっても、勝てるかどうか怪しいとまで騎士団長が言っていたほどだしね。
あれほどの人材が無位無官で名前すら知られずに、これまで生きて来たなんて信じられないよ」
今のプークスは栄養たっぷりな食事がとれるようになったことで、上級竜としての実力をいかんなく発揮できる状態だ。
イフィゲニア帝国でも上級竜となれば厚遇されるほどの力を持っているのだから、一般的な国家基準ならば国が丸ごと敵になっても滅ぼせるだけの力があって当然といえよう。
『プークスくん自身も物を知らないだけで、お馬鹿さんってわけじゃないしね』
『上級竜だけあって物覚えも、そこいらの種族と比べて別格だからな。
本人にやる気さえあれば、普通の国ならどこに行っても優遇されてたはずだ』
そんなプークスは裏表がなく、美味しい食事さえ取れれば機嫌もいい。
最初の方では突然やってきて一部隊の長に任命されたことに、いい想いを抱いていない者もいた。
けれど今では部下たちからも慕われ、他の部隊長や官僚からも一目置かれるほどの存在となり、既にこの町になくてはならない人物として君臨している。
「本当に優秀過ぎて、父上も自分の元に置きたいくらいだって言っていたくらいだよ」
「あははっ、でも無理だと思うな。プークスくんは、この町の食に夢中みたいだし」
「そういうことだね。とても惜しい気はするけど、本人の意思が重要なんだから」
紹介した側の竜郎たちも、プークスが今も元気で順調に日常生活を送れていることを知って安心する。
「じゃあ俺たちは、そろそろ帰ることにするよ。今日もやることは沢山あるからな」
「お互い忙しい身ではあるけれど、もうすぐこの町も開かれる。頑張っていこう」
「もちろん」
最後に握手を交わし、町の完成を願いながら竜郎たちはカルディナ城へと戻っていった。
「んんん? この気配はもしかして……?」
カルディナ城へ帰るなり、愛衣が見知った気配を感じそちらへと向かっていく。
魔法は使えないが、気配を読む力は竜郎よりも高い。
「なるほど、そういうことか」
「「あう?」」
竜郎もすぐに魔法を展開し、愛衣の行動の意味を理解する。楓と菖蒲はよく分からないままに、竜郎と愛衣にとてとてとついて行った。
「やっぱり! イシュタルちゃんだ!!」
「アイ。しばらくぶりだな」
「もう大丈夫……なのは見た通りか」
「ああ、ようやく私の体調も復活した」
カルディナ城内のリビングには、イシュタルがお付きのミーティアを連れて、作り置きされていたフローラの料理を我が物顔で食べていた。
しかしそんなことは少し前まではいつものことであり、竜郎たちも仲間である彼女がそうしたところで誰も気にしない。
だが最近は新たな真竜の創造により、著しく力を落としながらも卵の孵化に務めていたため、パタリと来ることはなくなっていた。
しかしそんな彼女は今、しっかりと元の力強さを取り戻し、竜郎たちの元へと来れている。これが示すところはつまり──。
「赤ちゃん生まれたんだね! おめでとう!! イシュタルちゃん」
「ありがとう。私も親友に喜んでもらえて嬉しい」
「これは目出度いな。それで? 今その子はいないのか?」
「今はまだ生まれたばかりで、城からは出せない……というより出したくない状態だ。
けれど少しだけ母上が見てくれると言ってくれてな。私は久しぶりに閉じこもっていた部屋から出て、ここでのんびり食事がとれるようになったんだ」
まだ国内にも発表はしていないが、身近な者たちは新たな真竜の誕生にお祭り騒ぎ。これからさらに国民への発表となれば、もっとイシュタルの周囲は騒がしくなる。
その前にとエーゲリアが気を利かせ、イシュタルに気分転換をさせてくれていた。
「えー……、イシュタルの娘ちゃんみたかったなあ」
「すぐに会えるようになるから、少しだけ待っていてくれ。その子たちにも負けないくらい、うちの子も可愛いぞ」
「「きゃわわ?」」
「そうだ。きゃわわだ」
「イシュタルもすっかり母性に目覚めたみたいだな」
「ふっ、確かにそうかもしれないな」
イシュタルは穏やかに微笑みながら、小さな楓と菖蒲の頭を撫でた。
「あっ、そうだ。生まれたってことは、もう名前も付けたの?」
「そりゃあそうだ。暇だったこともあって孵化する前から、あれこれ考えていたからな。
生まれた瞬間に、あの子の名前は決まった」
「へぇ、そうなのか。是非、イシュタルの子の名前を教えてくれないか?」
「うんうん! 私も気になる!」
「孵化する前まではいくつか候補があって迷ってはいたんだが、あの子の顔を見た瞬間、これしかないと思ったんだ。
私の娘にして、次代の帝位継承者。その名は──ユスティティアという。
今度会ったときにでも、名前を呼んであげて欲しい」
「ユスティティアちゃんだね! まっかせて!」
「ユスティティアか。いい名前だな」
「だろう。きっとあの子は将来、立派な皇帝となり私の跡を継いでくれることだろう」
すでに親バカ全開で、イシュタルは自慢するように鼻を高くし笑みを浮かべる。
それが逆に微笑ましくて竜郎たちも思わず笑顔になるが、名前の話題が出てきたことで、自分たちもついさっき町に名前を付けてきたことを思い出した。
「あ、そうそう。名前で思いだしたんだけどね。私たちのダンジョンの町にも、ちゃんと正式な名前が付いたんだよ」
「てっきりダンジョンの町という名前なのかと思っていたが、ちゃんとした名前が付いたのか。
私の娘の名を教えた代わりに──というわけではないが、気になるな。ぜひ教えてくれないか?」
「もちろんだ。ダンジョンに関しては、イシュタルだって関係者だしな。
ダンジョンの町の正式な名前は──」
竜郎と愛衣は目を見あってタイミングを見計らい、自分たちの町の名前を一緒に口にした。
「「エリュシオン」」
「エリュシオン……か。不思議な響きだが、どこか高貴な感じもするいい名前だな」
「だよね。私たちの世界の神話にある楽園の名前なんだよ」
「ちょっと中二病臭いが……、こっちだとそんなの分からないしな。
最終的にこれにしようって、昨日みんなで決めたんだ」
ギリシャ神話において死後の世界で、神々から祝福されし英雄たちが暮らす楽園とされている場所の名前がエリュシオン。
死んでもいなければ祝福されているかどうかも微妙ではあるが、確かにここにはこの世界の神々から恩恵を受け取った神格者が大勢いる。
一攫千金という〝夢〟を見せるダンジョン。この世界最高の〝美食〟を味わえる美味しい魔物。どこを見渡してもここにしかない、最高の〝遊び〟もある天国のような、楽園のような町。
そんな重なる部分から連想し、そうなればいいという願いも込めて、竜郎たちは自分たちの町に〝エリュシオン〟と名付けたのだ。
「完成した暁には是非、ユスティティアも連れていきたいな」
「歓迎するよ! 一緒に町を見て回ろーよ」
「イシュタルの方が落ち着く頃には、こっちも完成しているだろうしな。いつでも来てくれ」
「ありがとう、二人とも。そうさせてもらおう」
その後も少しだけ会話を楽しんだ後、イシュタルはまた皇帝としての職務に戻っていった。
竜郎たちもイシュタルの娘が来たときに喜んでもらえるようにと、より一層やる気に満ち溢れていったのであった。
「それじゃあ、今日もガンガンやっていくか」
「うん! がんばろ!」
「「あう!!」」
これにて第十七章『イシュタル創卵編』は終了です。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
今回の章では新たな美味しい食材が二つも加わった上で、イシュタルの子も産まれ町の名前も決まりました。
次章はエーゲリアの娘や、残りの食材の復活などもいくつか描いていく予定です。
また次章の開始ですが、次の週はお休みをいただきたいと思います。
なので十八章の開始は、4月6日(木)からの再会予定とさせていだきます。
それだはまた、次章でもお会いできることを願って──。




