第329話 町の見学
空いた時間を使って、さっそく完成間近となったダンジョンの町へと繰り出した。
「ゆっくりしてたら遅刻するだろうし、認識阻害で一気に町の栄えていそうな所まで飛んで行くか」
「地下鉄は基本的にトンネル通るだけだしね」
「私は確認がてら乗ってみたくもありますが……仕方ないですよね」
既に町に通した地下鉄は、完全に現在町に入っている住民たちの移動手段として定着しつつあった。
メンテナンスは駅員として雇われた者たちが毎日定期的にやってはいるが、やはり作り手としてリアはそちらも気になっていたようだ。
リアしか触れないような箇所がそうそう壊れるような作りになっているわけもなく、緊急性は低いので、なかなかそのためだけにこちらに来ることもない。彼女は他にもやることをたくさん抱えているのだから。
「それじゃあいくぞ」
「「あう!」」
ちびっ子二人は竜郎と愛衣でそれぞれ抱っこし、認識阻害を発動すると選考者として連れてきた全員で町の中心の上空へ転移する。
重力魔法で皆を浮かせて巨大な樹木──にしか見えない竜郎が生み出した蜘蛛の魔物『ギャー子』に着地し、高い場所から見下ろし全体を観察していく。
「おお! あのあたりが栄えているようだぞ、心の友よ」
「みたいだな。さすがリオン。俺たちの求めてることがよく分かってる」
ダンジョンもメインの一つではあるが、やはり竜郎たちが気になっているのは『食』の要素。
店内でも食べられるが屋台のように店先ですぐに購入し、テイクアウトできる飲食店の店舗が建ち並ぶ街道が、竜郎たちの希望通り用意されていた。
まだまだ『食い倒れ街道』と呼ぶには料理人が入って運営されている店舗は少ないが、それでも扱っているものが美味しい魔物関係というだけあり、仕事の合間に寄っている住民が多かった。
「さっそく行ってみよ♪ どんな料理を出してるのか、フローラちゃんも楽しみだな♪」
フローラは料理することが多いこともあり、他の料理人の料理が気になっているようだ。
「あの辺りは一番安く美味しい魔物食材の料理を提供するところだから、贅沢に美味しい魔物を使っているわけじゃないんだろうが、逆にジャンクなものが食べられそうで新鮮でいいかもしれないな」
「うむ! 我も気になるのだ! 地球で食べたファーストフードも、なかなか美味しかったのだ!」
他にも比較的富裕層向けの店が連なる街道や、王族や上級の貴族など大富豪レベルが通える高級食い倒れ街道まであったりするが、竜郎たちが今見ているのは一般人でも手が出しやすい値段で提供している店が並ぶ方の食い倒れ街道。
値段のことも含め店舗数も一番多いので、ここが賑わうのも分かるというもの。
ちなみにこちらは富裕層や大富豪をターゲットにした店舗で使われなくなった、もしくは使わなかった部分を、より安い値段で降ろして買い取った美味しい魔物が使われている場所でもある。
だからこそ、一般人でも手の届く値段で売れる。
しれっとそちらに移動し徐々に認識阻害の魔法を解いて、周囲に自分たちの存在を馴染ませてから行動開始。
「うぅ……ここに立っているだけで、お腹が空いてきますね」
「「ぱっぱ、まっま。あえたべう!」」
「そうだね、順番に周っていこうね」
「おぉおおぉおおぉ…………やはりダンジョンの外に出て、こうして人間たちの営みに触れるのは最高だ。
まさか俺が人の身体を持って、こんな体験ができるとは……」
シュワちゃんがまだ大勢とは言えないが、それでも賑わっている街並みを行く一人の人間であることに感動を覚えている中で、竜郎は視線を巡らせ全体の値段を軽くチェックしていく。
「ハンバーガー一つでこの値段か……。少なくとも学生が気軽に手を出せる値段じゃないな」
「でも使っているものを考えれば、妥当だと思うな♪」
「美味しい魔物はようやく最近、少し値段が下がってきたとはいえ、それでも一部の大富豪でもない限り手が出せない代物であるからな。仕方ないのだ」
もしも竜郎が一高校生だったのなら、絶対に買わなかったであろう値段設定に驚いていた。
けれどそれは別に、ぼったくりというわけでもない。
これでも竜郎たちがリオンたちに伝えた、一般庶民でも美味しい魔物が食べられたらいいなという大雑把な願望を、現実的に考え叶えてくれた結果なのだから。
それに美味しい魔物食材にこだわらなければ、普通の飲食店や食品店とて別の場所にちゃんとある。
この町に住むのなら、食費だけで一人毎日数万払い続けろと言っているわけでもない。
「まあそうだよな。一番安い店が並ぶ街道っていうイメージがあったら驚いたけど」
「「ぱっぱ! はあくはあくー!!」」
「はいはい。今行くよ」
見た目は地球で言えば数百円から食べられる、ジャンクフード的な料理が売られているので面を食らってしまっただけ。
竜郎も生産者として自分が生み出している美味しい魔物たちに、どれだけの値が付いているのかも知っている。
たとえそのひと欠片、一粒だけであろうと、原価を考えれば当然の値段設定だ。
先に並んでいる愛衣やリアたちと一緒にいる楓と菖蒲に手招きされ、竜郎もその列に加わった。
「うまっ。いけるな、これ」
「こっちも美味しいよ! たつろー」
「なるほど……これは凄いですね……」
「ほんとだよねー♪ フローラちゃんもビックリしちゃった♪ まさに創意工夫! って感じ♪ ここに呼ばれた料理人さんたち、相当レベル高いよ♪」
「いつも食べているものと比べてしまえば味気ないが、それでもそれが逆に軽く食べるならありなのかもしれぬ……。
町ができたら我も、ちょくちょく通わせてもらうのだ」
「やはり人間になるのは最高だ。他のダンジョンの奴らには絶対に譲ってやらんぞ、こんな役得」
「「あむあむあむあむ」」
少し違う部分もあったりするが、地球にあるもので例えればハンバーガーにラーメン、焼きそば、お好み焼き、焼き鳥、アイスやクレープなどなど、様々な商品が売られていた。
それらを買いあさってテイクアウトし、空いた場所にたむろして立ったまま皆で摘まんで食べていく。
できのほどは大満足。
それぞれが料理人たちの技術と閃きによって、他の食材であれば廃棄されるような部分だけしか美味しい魔物食材を使っていないにもかかわらず、それらを奥に感じられる工夫がこれでもかと凝らされていた。
「この値段の割に混んでるとは思ってたが、これなら納得だ。みんな食べたがるわけだ」
「一度でも口にしちゃえば、また食べたい! って思う味だよね」
「私の目で観て製法を知ってしまったんですが……、これ一つ一つにとんでもない技術と発想、手間暇がかけられています。
並みの料理人たちじゃありませんよ、あの人たち……。王様やリオンさんたちは、いったいどこから、あれほどの人材を集めてきたのでしょうか……」
「それフローラちゃんも気になったな♪ だってホントなら、あんな小さなお店で働くレベルの人たちじゃないよ♪
それこそそこいらの小国なら、国一番の料理人っていわれてても不思議じゃないもん♪」
「うむ……さすが王家肝いりの案件なのだ。大衆向けの食事処まで、一流を用意したというわけか。恐れ入ったのだ」
「下手に美味しい魔物食材が使えない分、むしろここにいる料理人たちが一番優れている──なんてこともあるかもしれないぞ、心の友よ」
「リアやフローラの話を聞いてると、本当にありそうな話で怖いな……。
そんな人たちを、あんな小さな店に押し込めていいんだろうか…………」
「いいんじゃない? なんか働いてる人たち、みんな生き生きしてたしさ」
「ですね。少なくとも王侯貴族に命令されて、無理やり働かされている──なんてふうには見えませんし」
それもそのはず。あの場にいる料理人たちは、自ら望んでここにきている。
その腕はカサピスティという大国の中でも屈指の腕を持ち、なおかつ向上心が高い者たちばかり。
その者たちは、この町の高級レストランを任されてもいい──というより、むしろそちらを任されている料理人たちよりも腕がたつほど。
だがそちらを選ばなかったのは、美味しい魔物食材をふんだんに使ってしまえば、よほどひどい扱いをしないかぎり当然のように美味しくなる。
そんなお手軽さを感じてしまい、これでは自分でなくてもいいと考えてしまったから。
もちろん高級志向の店を構える料理人たちが優れていないわけではないし、それはそれで扱う技術も必要だ。
けれど彼ら彼女らは、あえて難しい道を選んだ鉄人であり変人たちの集まり。
必要最低限の美味しい魔物食材の端材とも呼べるものから、いかにしてその元となった食材の頂に近づけるか。
いつかはその端材だけで高級店の味にも負けないものをと、常人からすれば頭のおかしい不可能に、全力で挑戦しようとする者たちなのだ。
そんな料理人たちが半端な腕なわけがなく、今は弟子や子に元いた店は任せ心機一転、今このときを全力で楽しんでいた。
「それもそうか。なら俺が気にすることでも──」
『主様、そろそろ結果発表ですので、お戻りを』
『──分かった。直ぐに帰る。知らせてくれてありがとう、ウリエル』
結局食べているだけで時間は過ぎてしまい、他の場所を見る前に魔物園や遊園地を彩るデザインを担当する者たちが決まったようだ。
ウリエルから入った念話に礼を返しながら、竜郎たちはまた認識阻害で姿をくらませてから、転移で会場の近くまで飛んだのだった。
次も木曜更新予定です!




