表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

327/454

第326話 真竜卵核創造

 イシュタルから真竜の卵核創造が近いと告げられてからの数日間、今か今かと連絡を待っていると、ついにその旨を知らせる念話が竜郎たちの元へと届いた。



『今日は土属性の日ということもあるのだろうが、最高潮に私の調子がいい。

 というわけでこれから私は、次代の真竜の卵を創り出そうと思う』

『分かった! イシュタルちゃん、がんばってね!!』

『ああ、頑張るよ』

『俺たちの協力が必要になったら、いつでも呼んでくれ。こっちは用事も入れずに待機しておくから』

『そうしてもらえると助かる』



 イシュタル自身の卵の際は、クリアエルフの中でも最年長格の土神の巫子が協力者として最も多くの竜力を提供した。

 そのためイシュタルが生まれ持った性質は土属性に寄っている。

 なのでこの世界の基本となる12属性の中で、最も土の属性が活発となる今日──土属性の日にイシュタルの調子が最高潮を迎えてくれた。


 エーゲリアからもGOサインが出たことで、いよいよ覚悟を決めイシュタルは自身の心臓の一部も捧げ、莫大なエネルギーを消費して次代の帝国を担う娘の創造を試みることに。


 過去に共に冒険し強大な敵を倒したことで、念話で繋がれるようになった者たち全員から、それぞれ激励の言葉を貰い、イシュタルは一人一人に礼を述べながら集中するためにそれを打ち切った。



「成功するといいね、イシュタルちゃん」

「初代のイフィゲニアさんのスキルもなかった時代とは違うんだし、エーゲリアさんも近くにいるんだから失敗しようもないさ」



 やはり真竜の子となると、どうしても思い出してしまうのはイフィゲニアが残していった真竜になれなかった存在とイドラのこと。

 だがあの時代は次代の真竜の作り方さえ手探りだったがゆえに、試行錯誤を重ねた結果起きてしまった事故のようなもの。


 エーゲリアが生まれ、イシュタルが生まれたように既にその技術は神々がスキルとして形にし、必要なものさえ用意できれば確実に成功できるようになっている。

 その失敗が起きてしまったからこそ、今や安定して次代の真竜をイシュタルが生み出せるようになったのだ。

 竜郎と愛衣もそのことに感謝し失敗はまずないと分かっていながらも、それでもやはり大切な仲間であるイシュタルの一世一代ともいえる大事だいじなので、心の中で成功することを祈っておく。



「俺たちは俺たちの力が必要になったとき、すぐに協力できるようにしておこうな」

「うん。そうだよね」

「かーでも!」

「あーめも!」

「うー……、ニーナも協力したかったなぁ」

「ニーナはしょうがないさ。ニーリナさんの力を受け継いだ時点で、イフィゲニアさんとの繋がりができたわけだしな」

「その縛りがなければ、ニーナちゃんも手伝えたんだけどねぇ」



 今回はイフィゲニアに連なる竜とは無関係な竜力が必要とされる。

 なのでニーリナの心臓を宿し、その存在までも受け継いだニーナの竜力は今回使うことはできない。

 だがその一方で楓や菖蒲たちなど、竜郎の元で生みだされた竜王種の幼竜たちならば、イフィゲニアによって生み出されたり、生み出された存在から生まれていった竜ではないため、今回の竜力提供の一助となることができる。


 竜郎や愛衣たち異世界人というイレギュラーに加え、竜王種でありながらイフィゲニアと無関係な生まれを持つ特殊な存在たちの力まで、イシュタルの娘となる真竜の卵は受け取ることができるようになっていた。



「他にも父さんたちも竜力を持ってもらったし、俺たちのところにいる竜たちも総動員で協力してもらう予定だ。

 かなり大所帯になるから、場所も用意しておいてほしいとは言ってあるけど大丈夫だよな、たぶん」

「それこそ大丈夫でしょ。エーゲリアさんが任せて、逆に妥協される方が困るっていってたわけだしさ」



 イフィゲニア帝国にある本城はとても大きいが、それでも今竜郎たちが連れて行ける人員も多いうえに巨大なものもいる。

 どこに全員が入るんだろうと首を傾げながらも、竜郎はいつ呼ばれてもいいように少しの間、外の仕事を受けるのを止めることにした。




 イシュタルが真竜の卵──の元となる核を生み出すと報告があってから、また数日が経った。

 はじめてのことでイシュタルも苦労したようだが、なんとか無事に真竜核を生成し本日やっと完璧に安定した状態に持っていくことができたと、エーゲリアが使いに出した彼女の側近眷属の聖竜──リリィが伝えてくれる。



「だから今日にでも、竜力の提供を頼みたいとエーゲリア様がおっしゃられているんだけど、大丈夫かしら?」

「もちろん。そのために皆予定を空けて待ってましたからね。それでどうやっていけば? 俺が転移で連れて行けばいいんですか?」

「エーゲリア様が直接、空間同士を繋ぐ穴を作り出すので、そこを通ってきてくれるかしら」

「分かりました。じゃあ、皆を呼んできますね」



 すぐに集まれるように準備はしていたので、あっという間に竜郎たちの元にいる竜力を提供できる人材や眷属、従魔である竜たちが終結する。

 修業中の蒼太はもちろんのこと、領地を警護してくれている蒼太の部下である竜たちや、町の守りについている蠍竜までも含めて全員を。

 暴れ槍も蒼太が真竜の創造に関わるということはなんとなく伝わっているのか、今日ばかりは本当に大人しくしてくれていた。

 ここで邪魔をしようものなら、アルムフェイルの顔に泥を塗ることになりかねないとばかりに。



「大丈夫だとは思うけど、ニーナは町の方の守護を頼む」

「うん! 任せて!」



 町にはもう人が住み始めているので、念には念を入れて蠍竜のいた穴をニーナに埋めてもらう。



「あとカルディナ城の留守番は頼みますね、ルティさん」

「ええ、任せてちょうだい」



 蒼太の部下たちの穴には、竜郎たちの領地の上空に住んでいる初代風神の巫女──セテプエンルティステルが一時的についてくれるので安心だ。

 彼女も竜力の提供者としては申し分ない力量の持ち主ではあるが、せっかくなら竜郎に所縁のあるメンバーで固めたほうが純度の高い力が真竜核に注がれるはずだとエーゲリアが判断したため、今回は遠慮してもらうことになったのだ。



「というわけで、皆いったん俺の《強化改造牧場・改》の中に入ってくれ」



 竜郎と所縁があり竜力を持つメンバーを根こそぎかき集めたので、その全員に一度《強化改造牧場・改》の中へと入っていってもらう。

 こうすればゾロゾロと列をなしていかずとも、竜郎一人が行くだけですぐに全員の移動ができるのだ。


 愛衣や楓、菖蒲以外の今回行くことになっている全員がそこに入ったのを確認すると、リリィのいた場所に大きな空間の穴が発生する。



「ここを通れば、エーゲリア様とイシュタル様がいらっしゃる場所へ行けるわ」

「分かりました。じゃあ、行ってきます」

「いってくるね!」

「「ばいばー!」」

「ばいばい! ニーナいい子に待ってるからね! 楓と菖蒲はいい子にね!」

「いってらっしゃい」



 竜郎が軽く調べた限りでも、かなり高等な時空間魔法。エーゲリアはそれを離れた場所にいともたやすく発生させてみせるのだから、さすがといったところだろう。

 楓と菖蒲の手を愛衣と手分けして繋ぎながら、その穴の中に歩を進めていく。


 そうしてニーナやセテプエンルティステルに見送られ進んだ先には、巨大なだだっ広い異空間が広がっていた。



『どうやら無理やりエーゲリアさんが空間を魔法で広げて、皆が入れるようにしてるみたいだな』

『やっぱりすごいねぇ、エーゲリアさんは。でも、たつろーでもやろうと思えばできるよね?』

『まあできないこともないけど、エーゲリアさんの場合は最初からこうでしたっていうくらい安定してるから、ここまでの完成度を要求されると難しそうだ』



 そんな空間にはエーゲリア、セリュウス。そしてドラゴンの状態で辛そうに大きな座布団のようなものの上に伏せるイシュタルと、それを守るようにつめる彼女の側近眷属たちの姿が見えた。



「いらっしゃい。ありがとう、来てくれて」

「いえ、大した手間でもないですから」

「それにイシュタルのためだしね! 全然大丈夫だよ! エーゲリアさん」



 イシュタルはしゃべるのも辛いため、応対はエーゲリアがしてくれた。

 エーゲリアの許可を取ってから、今回連れてきた全員に《強化改造牧場・改》から出て来てもらう。

 無理やりエーゲリアの魔法で広げられているため、全員が出てもまだまだスペースには余裕があるほどだ。



「それで、その真竜の卵となる核は?」

「こ……こだ」



 はじめてそこでイシュタルが言葉を発し、辛そうにしながらも長い首を持ち上げる。

 するとその下に大事そうに抱えられた、プラチナ色の卵型をした物体が確認できた。



「あそこに竜力と神力を半々になるよう注いでほしいの。頼めるかしら?」

「ええ、そのために来たんですからね。じゃあ──準備します」

「あり……が……と、う」

「いいんだよ。それよりもイシュタルちゃんは、無理して話さなくてもいいからね」



 準備とは竜郎の《分霊神器:ツナグモノ》で連れてきた、自分と関係性の深いもの全員と繋がり合うこと。

 愛衣と手を繋ぎ、カルディナたち魔力体生物組とは一つになる。

 そしてリアやレーラ、ウリエルやアーサーたちを含めた仲間たち、幼竜たちや両親たち。人間ではないが竜郎の眷属や従魔となっている竜たち。

 それら全員に太い糸のようなものを伸ばし、魂やシステム同士を繋ぎ、自分を主体とし疑似的な強大な一つの存在となっていく。



「凄まじいな……よもやここまでとなるか」



 その膨大な力にセリュウスですら驚きの声を上げ、エーゲリアも自分に傷をつけられる、イシュタルならば万全の状態でも一撃で葬り去れそうな力を前に苦笑する。

 イシュタルの眷属たちなど、言葉もなく口を開いて固まってしまっていた。



「ふっ──」



 竜郎は仲間たち全員の竜力を混ぜ合い、ただ足した以上の強力な、超純度の濃厚な竜力に昇華する。

 さらに神力持ちたちの神力を同様に混ぜ合い、こちらも超純度の濃厚な神力に昇華させていく。



(あとは竜力と神力を半々の割合で注いていけばいいと──)



 質の高い凄まじい竜力と神力が竜郎から湧き上がり、エーゲリアに視線で許可を取ってから、ゆっくりイシュタルの前に歩いていく。

 イシュタルはそんな竜郎に、そっと真竜の卵核を差し出してくれる。



「じゃあ、いくぞ──」



 無言で頷くイシュタルを前に、壊さないよう少しずつ竜郎は核に向かって竜力と神力を同じ割合になるよう調整しながら流し込んでいく。

 愛衣も手を繋ぎ制御を手伝ってくれているので、それ自体はそう難しい事ではなかった。


 卵型のプラチナ色をした物体は、竜郎から流されるエネルギーを吸うほどに左側から徐々にきらめきを増していき、それがちょうど半分のところまで至ったところで完全に止まる。

 他者から提供してもらう必要のあるエネルギーは、全て注ぎ終わったのだ。それ以上流しても、弾かれるように周囲に霧散していくだけだった。



「もういいわ、タツロウくん。ありがとう」

「はい。それじゃあ、止めますね」



 エネルギーの提供を止め、同時に分霊神器も解いて竜郎は元の状態に戻った。



「…………予想はしていたけれど、まさかたった一度の協力で半分完成してしまうなんてね」

「前代未聞ではありますが、これであとはイシュタル様が頑張れば、新たな真竜様がお生まれになることでしょう」



 本来は真竜の核を完全に卵にするためには、必要なエネルギー量が量だけに何年もかけて竜力と神力を持った者たちに協力してもらう必要があったのだが……竜郎たちという存在がいたおかげで、たった一日でそれが終わってしまう。

 あとはその対となる真竜側の竜力と神力をイシュタルが注いでいくだけで、セリュウスが発言したように彼女の娘として四人目の真竜がこの世に誕生するというわけである。


 イシュタルは安堵したように首を垂らし、また卵を覆い隠してうずくまった。

 そうやって少しずつ自分の竜力と神力を吸収させていくのだ。眠るように、イシュタルはもう微動だにしなくなる。



「イシュタルに変わって、もう一度礼を言うわ。ありがとう。

 これでイフィゲニア帝国の未来も明るいわ。これからも仲良くしていきましょうね」

「もちろんです。それとイシュタルに英気を養ってもらうために、美味しい魔物食材もたくさん持ってきたので受け取ってください」

「ちゃんとエーゲリアさんの分も入れといたからね!」

「あら!! ほんと!? それは嬉しいわっ!!」



 たくさんの美味しい魔物食材がつまった箱を竜郎が取り出していく中で、自分の分もあると知ったエーゲリアは、卵にエネルギーを注いだ時以上に喜んでいるように見えた

 ……だが、竜郎たちは気のせいだということにして、邪魔にならないよう来たときと同様の手順で空間の穴を通って元の場所へと戻っていった。

次も木曜日更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とうとうイシュタルとの当初の約定が果たされましたねぃ さてアルムフェイルがイシュタルの娘と対面できる日は来るのかどうか 蒼太の修行の成否も含めて楽しみです
[気になる点] 竜力と神力どっちも必要なんじゃないですか?イフィゲニアとの関係がない神格者がクリアエルフくらいしかいなかったから大変だったはず。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ