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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第324話 アウフェバルグ帰還

 結局そのまま本当に、仁とアウフェバルグ一行に加え蒼太も一緒に朝まで飲み続けた。

 仁もこちらの世界のシステムのおかげで非常に頑丈になっていたこともあり、平気でドラゴンたちとも飲みで渡り合えていたのだから、こんなところでもステータスの高さがいかに重要なのか分かるというもの。



「つわものどもが夢の跡──ってか?」



 あのあと途中で竜郎や愛衣たちは楓と菖蒲を寝かすためにも、カルディナ城へと戻っていた。

 けれどその後は、お祭り騒ぎになっていたこともあり、竜郎たちの仲間や従魔たちの一部までも酒や食の匂いに釣られやってきたことで、即席の宴会がさらに大規模に膨れ上がっていた。

 フローラも楽しくなってしまったのか、その腕を存分に振るい料理も尽きることはなかったとか。


 しかし朝にもなると酒が入り上機嫌で腹も満たされ、眠気が最高潮まで上がってしまったのか、いい歳をした大人たちまでもが砂浜の上でだらしなく、されど幸せそうに砂を体中にまとわせ眠りこけていた。



「うーん、派手にやってくれたねぇ……」

「掃除は……まあ、ここにいる人たちにやってもらえばいいよな」



 食べ残しなどは、さすがに美味しい魔物食材も使われていただけあって一切なく、綺麗にひとかけらも残ってはいなかった。

 だがだらしなく眠る大人たちの周りには、食べ散らかした食器や、飲み散らかした酒瓶があちこちに散乱し、なかなかに酷い状態だった。



「ごいはごんばこ!」

「じぶーで、ぽいぽい!」

「ふふっ、そうだよ。ゴミはちゃんとゴミを出した人が、ゴミ箱にポイポイしないとね」

「ちゃんと分かってて偉いな、二人とも」

「「あう!」」



 お皿や酒瓶は再利用するので捨てはしないが、ちゃんと使ったオモチャは自分でしまうようになった楓と菖蒲が、困ったやつらだとばかりに腰に手を当て大人ぶる。

 そんな姿が可愛くて竜郎と愛衣が彼女たちの頭を撫でていると、昨日を含め何度目かになる念話が入ってきた。



『パパー! ママー! ニーナはまだ戻っちゃダメなのー!?』

『ごめんな、ニーナ。まだ昨日来たアウフェバルグさんが帰ってないんだ』

『まだ帰ってないの!? もー追い出しちゃってよ! その人!』

『なかなかそういうわけにもいかないんだよ、ニーナちゃん。

 アウフェバルグも、いろいろあったから、もう少しだけ待ってあげようね』

『うぅ~ママがそういうなら待つけど……。

 それじゃあ、いつになったらその人は帰ってくれるの? お昼ごろには、ニーナ帰ってもいい?』

『お昼は……ちょっと間に合いそうにないな……。どうみても、さっき寝たばっかりって感じだし』

『さっき寝たの!? その人って、たしかアルムフェイルおじさんの子孫だったよね?

 今度おじさんに会ったら、怒ってもらう様にニーナ言ってあげようか?』

『それだけは止めてあげてくれ……』

『うん、それはさすがに可哀そうが過ぎちゃうからね……。

 アウフェバルグさんのHPはゼロよ状態なんだよ。そっとしておいてあげて』

『う~~ん?』



 ニーナからすれば自分が大好きなパパやママの元に今いられない要因であり、尚且つ身内でもないのに敷地内で仲間を連れて宴会をしてバカ騒ぎをして、朝方に眠るだらしない人。

 というのが現在のニーナの、アウフェバルグに対する評価であった。

 とんでもないやつが、アルムフェイルおじさんの子孫にいたものだと。


 そしてニーナ大好きドラゴンズの一角を担うアルムフェイルに、そんなことを伝えようものなら、可愛がっていた子孫であろうと二重の意味で雷を落としかねない。

 人生の全てと言ってよかった目標を失いズタボロになった今のアウフェバルグに、その目標としていた張本人からさらに怒られるなど、砕け散った心が消滅しかねないだろう。


 さすがにそれは色々とダメだろうと、竜郎と愛衣が今日の醜態については、誰かが事の次第を伝えるとしても、ニーナだけは止めてねと強く言い聞かせておいた。



『じゃあ、おねーちゃんは? お姉ちゃんなら、今一緒にいるからすぐにいえるよ!

 お姉ちゃんもとっても偉い人だから、コラッて怒ってくれると思う!

 お姉ちゃんだって「どうだった?」って知りたそうにしてるし!』

『それも止めておこう。心情的にはアルムフェイルさんの方がきついだろうが、色んな意味でそれが一番まずいから』

『エーゲリアさんのコラッ──は、リアルに人生が詰む可能性すらあるからねぇ……』



 アルムフェイルだけであれば、まだ身内の中でとどめておけるかもしれないが、エーゲリアに怒られたとあっては彼自身の立派な経歴にも大きな傷がつくことになる。


 今回の件をきっかけに彼が転落人生を歩むことになるのは、暴れ槍の持ち主である蒼太の主として認識されている竜郎も寝覚めが悪すぎる。

 なのでこちらは「丁重にもてなしていたら、仁や蒼太と話が弾み夜を明かしてしまった」──くらいのニュアンスで、エーゲリアにはやんわりと伝えてくれるように頼んでおいた。



『でもエーゲリアさんのところも楽しいだろ?

 今日中には絶対に帰ってもらうから、今は一杯遊んでもらってくれ』

『エーゲリアさんも、これからイシュタルちゃんの卵の件で忙しくなるだろうし、しばらくは遊んでもらえなくなるだろうしね』

『そうなるとセリュウスさんとかも忙しいだろうし、ニーナの相手ができる人がさらに減ることにもなるからな。

 今のうちに、たくさん暴れておいた方がいいぞ、ニーナ』



 正直竜郎たちであっても、今のニーナの相手は骨が折れる。

 竜郎であればカルディナたちと融合すれば、あしらえるようになるが、彼女の運動に付き合うたびにそれは流石に大変すぎるというもの。



『あっ、そっか! なら今日も一杯、お姉ちゃんに遊んでもらうことにするね!

 ちょっと寂しいけど、ニーナはちびちゃんたちのお姉ちゃんだし!』

『そうだね。偉いね、ニーナちゃんは。帰ってきたら、いっぱい甘やかせてあげるからね』

『ほんと!? やったー!! ママ大好き!』



 その反応はお姉ちゃんとしてどうなのだろうかと思わなくもないが、竜郎と愛衣も甘えたなニーナが可愛いこともあって、そのことには突っ込まないでおいだ。


 そうしてニーナとの念話が途切れ、なんとかアウフェバルグのキャリアも救い、アフターケアとしては十分すぎるほどのことをしたといっていいだろう。



『ただ槍を見て話して、さようならするだけの簡単なやり取りだと思ってたんだけどなぁ……』

『思っていた以上に、めんど──……大変な人だったねぇ……』



 はぁ……と二人でため息を一度つくと、竜郎と愛衣は楓と菖蒲をつれて朝食を食べにカルディナ城へと戻っていった。




 お昼をだいぶ過ぎた頃、ようやく砂浜で転がっていた者たちが起きはじめ、自発的に片づけをしてから、本来の自分の日常に戻っていく。

 アウフェバルグもようやく起床し、お供の者たちに身だしなみを整えさせられ、見た目だけは来た時と同様しゃんとした状態になってくれる。



「タツロウ殿。昨日はとんでもない醜態をさらしてしまい、申し訳なかった……。なんと詫びればいいか……」

「いやいや、いいですよ。もとはといえば、僕の父親が発端なわけですし。

 それで? 少しでも気は晴れましたか?」

「あ、ああ……。喋れるくらいには、なんとか……」



 身だしなみは整えられても、やはり心まではそう簡単に整うわけもなく、あの威厳と自信に満ち溢れた力強さはすっかり鳴りを潜めてしまっていた。

 だが暴れ槍に攻撃され、ショックで呆然自失としてしまっていたときに比べれば、かなりマシな状態にはなってくれてもいた。

 一晩中泣きはらしたことで、少しは吹っ切れてはいるようだ。



「その……僕が言うことじゃないですが……、大丈夫ですか?」

「気を使わせて申し訳ない、タツロウ殿。

 たしかに今はもう私の中はカラッポで、これから何をしていいのかも分からない。

 なので少し仕事からも離れて、今一度自分を見つめ直そうと思う。今のままでは、何をしてもダメであろうから」



 アウフェバルグは本人の希望もあって、イフィゲニア帝国の軍部の重要な一角を担っている。

 緑深家を今すぐ継いでもいいほどの実力も資格もあるのだが、それもあって彼は家を継いでいないのだ。

 だが今回の騒動で、彼はそういったことからも離れて自分を見つめ直すという。



『イシュタルには申し訳ないが、卵が孵化するまではエーゲリアさんも帝国にいてくれるし……大丈夫だよな?』

『た、たぶん……あはは……』



 だがそんなことを竜郎たちに言われてもしょうがないので、はいそうですかと流しておくことに。

 ここまでフォローしたのだから、あとはそちらで何とかしてくれとばかりに。



「アウさん、逃げることは悪い事とも限らない。辛くなったら昨日みたいに酒でも飲んで、寝ちまえばいいのさ。

 あんまり自分を追い詰めすぎるんじゃないぞ? まだまだ俺たちは人生長いんだ。少しくらい楽しんだって罰は当たらんだろ」

「ジン殿……そうだな。私も──いや、俺も少し我慢していたことを、気晴らしにやってみようと思う。

 こう思えるようになったのも、ジン殿のおかげだ。本当にありがとう」

「俺のおかげじゃないさ。俺はアウさんに酒を出しただけだからな」

「ふ──そうだな」



 酒をかわし異様に仲を深めたようで、仁とアウフェバルグは男同士で何か分かり合ったように笑い合い、拳と指をこつんとぶつけた。

 アウフェバルグは名門の生まれで、強さも才能も本物。幼い頃から、仁のように気さくに話しかけてくるような者はいなかった。

 だから余計にアウフェバルグは、仁のことを気に入ったようだ。



「また、共に飲んでくれるか? ジン殿」

「ああ、いつで──」

「──いつでもはこっちにも都合があるから、ここに来るならアポだけは取って欲しいですね!」

「ああ、もちろんだとも。そのような不調法なことはしないとも。

 それにジン殿を我が家に招いたっていい」

「おっ、それもいいねぇ。アウさんのお気に入りの酒ってのも気になってるんだ」

「だろう。ジン殿ならそう言ってくれると思っていた」

『なんかこれでもうアルフェバルグさんとの関わりは薄くなるって思ってたんだが、変なところで結びついたな……』

『この人が来るたびにニーナちゃんを遠くにやらないといけないし、やっぱりちょっとだけめんど──大変な人だねぇ』



 悪い人ではないのは確かだが、こちらはニーナの存在に気づかれたくはないので、できればもう少し距離を取りたかった。

 だが今の彼に来ないでくださいというのも、竜郎たちの性格上できなかった。



「ソータ殿。その槍をいつか真に使いこなす日が来ることを、陰ながら応援している。

 私のために時間を作ってくれて、ありがとう」

「イヤ、コチラモアエテ ヨカッタ」



 蒼太とも酒を飲んだことで、前よりも仲良くなっていた。共にがっしりと握手を交わす。



「では、そろそろ我々はこれで。今回は本当に迷惑をかけて申し訳なかった」



 最後にまた頭を下げると、アウフェバルグはお供を引き連れ、ゆっくりと海の方へと戻っていく。

 だが来たときよりも、その背中は随分と小さく見えた──。

次も木曜日更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] アウフェバルグは社会的にも精神的にも死亡せずに済みましたか、運が良いですねw 先帝と祖先へニーナが「あいつ嫌いだ」と伝えた時の影響は空恐ろしいですw きっとオーバーキルで死体蹴りに違いありま…
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