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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第322話 打ち砕かれる夢

 長い話もようやく区切りがつき、アウフェバルグ自身も槍の件に関して納得がいった様子だった。



『もう用事がないなら、菓子折り持たせて帰らせたくなってきたな……』

『あはは……また、あの超大編の話を聞くってのは私ももうお腹いっぱいだし、賛成したいかも』



 なのでアウフェバルグがまた話をしはじめる前に、美味しい魔物素材のお土産を持たせて帰られせてしまおう──なんてことを竜郎や愛衣が考えていると、それに気が付いたわけではないのだが、ふと思い出したかのように彼が口を開いた。



「そうだ、忘れていた。もしソータ殿が授かるのに相応しいと、直に見て私自身の心の区切りも付けられたのなら、頼みたいと思っていたことがあったのだった。いいだろうか?」



 蒼太が竜郎にいいかという視線を向けてきたので、無言で頷いて自分で決めていいと意思を返した。



「コノ オレニ デキルコトデアレバ、デキウルカギリ キキタイトオモウ。

 イッタイ、ナンダロウカ?」

「それは有難い。いやなに、それほど難しいことではない。

 実は私は、その槍がちゃんと振るわれている姿を見たことがないのだ。

 できればそれを使っているところを見せてほしい」

「ソレハ……」



 アウフェバルグからしても、アルムフェイルが暴れ槍を使えるほど若かった時代には生きていない。

 だが今は新たな若き才能を持つ龍へと、暴れ槍の持ち主が変わった。


 できればそれが自分であり、若かりし頃のアルムフェイルのように暴れ槍を振るい、その姿に自分を重ねてみたかったという思いは今もある。

 しかしそれが無理だというのなら、他人でもいいので見てみたいと純粋に思ってしまったのだ。


 だがまだ蒼太は完全に使いこなすどころか、入り口にも立てていない。

 アウフェバルグが望むようなことは、まだできそうにないと言いよどむ。



「お願いだ。もちろんその暴れ槍は、一朝一夕に使えるようなものでないことも理解している。

 それがソータ殿ほどの才ある龍であろうともだ。

 しかしその片鱗だけでいい。今できる限りでかまわない。その槍がアルムフェイル様と駆け抜けた、在りし日の姿をこの目に焼き付けたいのだ!」

「…………ワカッタ。ソウイウコトデアレバ、ヤッテミヨウト オモウ」

「おお! それは有難い! 感謝するぞ、ソータ殿!」

「いいのか? 蒼太」

「アア、イマデキルカギリヲ、ミセテミヨウトオモウ。ソレニ──」

「それに?」

「メズラシク コノヤリガ、ノリキニナッテイル……トデモイエバイイノカ、イマナラバ フダンイジョウノコトガ デキルキガスル」

「そうなのか? 見世物になるのは嫌いそうな槍だと思ってたが……まあ、そういうことなら俺は止めないよ」



 無様に腕を壊される結果を、誰よりもアルムフェイルを信奉するアウフェバルグや、緑深家の者たちに見せる──というのは勇気がいることであった。だが蒼太には槍の方が使って見せてやれと、いっているように感じていた。

 それだけ暴れ槍との対話で、意思疎通ができるようになっていたからこそ、分かる微細な感情で。


 ならばどれだけ彼らに無様を晒すことになろうとも、蒼太はその槍の願いを叶えてみせようと奮起する。

 緑深家からの失望よりも、蒼太にとっては槍のことを理解できるようになる方が優先だからだ。

 そうすることで何故プライドの高い暴れ槍が、見世物になると知ってなお今使ってみせろと訴えかけてくる理由も分かる気がして。



「デハ、デキルダケ ハナレテイテクレ」

「いや、そういうことならせっかくだし、どうせなら近くで見てもらおう。俺も協力するからさ」

「アルジ?」



 槍もやる気を出しているならばと、蒼太の主という立場である竜郎も一肌脱ぐことに。

 杖を取り出し、今自分ができる全身全霊の時空魔法による防御を張り巡らせた。


 これにより蒼太と周囲の次元が目の前にいるようでいて、目の前にいないという不思議な状態となり、たとえ暴れ槍の力が暴走しても蒼太以外、周囲に危険が及ばないようにしてみせる。



「──こ、これはっ!? これはタツロウ殿が?」

「ええ、皆さんのことは蒼太の主としてしっかりと守って見せますので、安心して見ていてください」

「これほどの大魔法を使ってなお……喋る余裕すらあるというのか…………。私ですら底が、底が見えない…………」



 緑深家最強と言っても過言ではない、アウフェバルグですらその力に身を震わせ、お付きの従者たちは声も出せず固まっていた。

 まだカルディナとしか融合していないので、これで他の分霊たちとも融合して魔法を使えば、どんな反応をするのだろうか──といたずら心が出てきてしまう竜郎であったが、今日の主役は蒼太と暴れ槍なので自重する。



『それに暴れ槍といえど、使い手は若かりし頃のアルムフェイルさんじゃないんだ。

 そっちだとむしろ全開状態でもきつかったかもしれないが、蒼太なら俺とカルディナだけでもちゃんと守れるはず』

『ピュィイイイーーーー!』

「アリガトウ、アルジ」



 竜郎にも何だか暴れ槍が一瞬だけ輝き、礼を言ってくれたようにも感じたが、一瞬すぎて気のせいだったのかもしれないと思い直す。



「デハ ヤッテミセヨウ」

「──っ。よろしく頼む!」



 竜郎の力に圧倒されていたアウフェバルグも、その従者たちも、思い出したかのように蒼太に向き直り、一瞬たりともその槍が使われる姿を見逃さないとばかりに釘付けとなる。


 蒼太は自分に浴びせられる視線が気になりはしたが、この世界には自分と暴れ槍だけが存在していると思い込めるほどに、すぐに集中し槍と意識を同調させていく。

 これも修行の成果の一つといえよう。



「…………」



 何故か今日はいつもより抵抗も少なく、蒼太は暴れ槍が手に馴染むような感覚を覚えながらも、集中だけは途切れさせない。

 もしここで気を抜こうものなら、この槍はどれだけ機嫌がよかろうと、遠慮なく蒼太の腕を吹き飛ばしてくるだろうから。


 蒼太はそんな無様だけは晒せないと強い意志を持ち、ゆっくりと龍力を込めながら、その槍先を天に向かって突き出すように振り上げる。



「ぉ────おぉっ!! あれこそが雷水か!!」



 槍が持つ固有の能力『雷水』が、まるで水が渦を巻くように槍に沿って天へと伸びていき、最終的に槍としての姿から大剣のような形へと変化した。

 水のような質感をした薄青色の雷がピカピカと点滅し、日がまだあるというのに眩しいくらいだ。


 その神々しさにアウフェバルグは感動に身を震わせ、アルムフェイルが築いた伝説の一ページを間接的に見られたような気分にさせられる。

 それは従者たちも同様で、誰もが涙を流しその姿を記憶に、心に刻みつけていく。



「ねぇ、これってもしかして槍が蒼太くんのこと認めてくれたってことかなっ?」

「分からないが──あのセリュウスさんですら、雷水を槍の形にするのが限度だったっていうのに、今の蒼太は槍から大剣の形にできているんだ。

 明らかにあの時のセリュウスさんより、あの槍を使いこなせているのは間違いないぞ、これは!」

「「あう…………? ──っ!? そーにーたん! すおいすおい!!!」」



 竜郎や愛衣ですらその姿に興奮し、寝ていたはずの楓と菖蒲も何事かと飛び起きて、蒼太に向かって「凄い凄い」と連呼する。



「ムゥ…………」



 蒼太ですら、ここまでできたのは初めてのこと。

 本来ならば蒼太自身も喜びたいところでもあった。

 だがしかし──蒼太は今やアルムフェイルの次に、暴れ槍という存在を理解していると言っても過言ではない。


 だからだろう。蒼太にはなぜ急に、ここまでの姿を見せてくれたのか。その理由の方が気になり、不気味で仕方がなかった。

 暴れ槍の方もその感情を理解しながら、蒼太をからかうように「よく俺のことが分かってるじゃねーか」とでも言いたげに、愉快そうな感情が手元から伝わってくる。



「イッタイ……ナンノツモ────グッ!?」

「どうした? 蒼太!」

「キュウニ──シュドウケンガッ!!」



 思わず蒼太が何のつもりかと問いかけようとしたその瞬間、暴れ槍という名に相応しい暴走をしようと、蒼太の制御から離れようとする。

 これは不味いと全力で蒼太も抑えにかかるが、ちゃんとそれができるなら普段から苦労などしていない。


 あっさりと主導権を握り返され蒼太の制御から完全に抜け出した暴れ槍は、蒼太の力を吸い取るだけ吸い取って、その雷水の刃を────アウフェバルグに向かって恐ろしい速度で伸ばしていった。



「──っ!?」

「おいおい……、俺の魔法がなかったらヤバかっただろこれ……。何考えてんだ、あの槍」

「ほんと……下手したらややこしい方向に、緑深家との関係がこじれちゃってたかも」

「「うっうーー!」」



 まさかアルムフェイルの槍に攻撃されるとは思ってもおらず、またショックを受けたということもあり、アウフェバルグは一歩もその場から動けず、その攻撃を受けることしかできなかった。

 いくら優秀な神格龍であろうと、同じ神格龍の蒼太の龍力を余すことなく吸い取った暴れ槍の一撃をくらえば、ただでは済まない。


 だがそれでも竜郎の時空魔法による次元防御層によって、その雷水の刃が彼に届くことはなかった。

 竜郎や愛衣ですら防御しておいてよかったと冷や汗を流す中、楓と菖蒲はカッコイイ!とばかりにはしゃいでいる。



「クッ…………ナゼコノヨウナコトヲ…………」



 そしてこの一瞬の騒動を引き起こした張本人ならぬ張本槍は、しれっと元の槍の状態に戻って蒼太の腕を吹き飛ばすことなく、その手に握られていた。

 蒼太が怒るように問いかけるが、人であれば狸寝入りを決め込むように一切の感情の返答も来ることはない。



「ス、スマナイ。ケッシテ、キデンヲ ネラッタワケデハナカッタ。ソレダケハ シンジテホシイ」

「…………あ、ああ。もちろんだとも…………。

 あれはどう見ても、蒼太殿の意志ではなく、真に槍の意志だった…………」



 あわや殺されそうになったというのに、アウフェバルグはそのこと自体に怒った様子は微塵もなかった。

 だがあれほど威風堂々としていた彼は完全になりを潜め、どこか悲し気で泣きそうなほどその顔を歪めていた。



「あの……大丈夫ですか? どこか怪我でもしたというのなら、すぐに治しますけど……」

「いや、竜郎殿。私はあなたのおかげで、掠り傷一つ負ってはいない。

 そしてそれが分かっていたからこその、戯れだったのだろう…………。

 そうか…………槍も私を拒絶するか…………」

「ソウイウコトダッタノカ……」



 その最後のアウフェバルグの一言で、槍の感情が蒼太にも理解できた。

 つまり暴れ槍は、自分の物にはならないと分かりつつも、それでも未練だけは捨てきれていなかったアウフェバルグに対し、「何があろうと、お前に使われる気はねぇよ」と強い意思を叩きつけたかったのだ。


 今まで憧れていたアルムフェイルの槍にそこまでされ、さすがのアウフェバルグも取り繕えないほどショックを受けていた。

 それはアルムフェイルのようになりたいと幼い頃から抱いていた夢を、そのためにこれまでの長い人生をかけて磨き上げてきた夢を、アルムフェイルが誰よりも長い時を歩み、戦場を共に駆け回った暴れ槍によって、木っ端みじんに壊されたと言っても過言ではない……。


 そのことが理解できたからこそ竜郎も愛衣も、従者たちも、今の彼にかける言葉が出てくることはなかった──。

次も木曜更新予定です!

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