第318話 二種の復活
ウーウのいた海に面した港町を後にした竜郎たちは、そのまま残りの細々としたありふれた魔物の素材を集めて回る。
こちらはスパッドやウーウと違い必須クラスの素材はなく、代用もききやすい。あちこち飛び回る必要はあれど、集めるだけなら大した苦労はなかった。
そうして竜郎たちは帰宅は遅くなりながらも一日で二種類分の、美味しい魔物復活のために必要な素材を全て回収することに成功した。
「ふぅ、なんとか今日中に終わったねぇ~」
「でももう遅いし、復活させるとすれば明日だな」
「えー……じゃあまだお預けかぁ」
今は夜中に帰宅しカルディナ城のリビングで、フローラが作り置きしておいてくれた夜食を静かに三人でいただいていた。
なぜ三人なのかと言えば……今回一緒に来てくれた楓や菖蒲、フォルテやアルスは途中で眠ってしまったから。
竜郎が即席で作った簡易的な揺り籠に入って、4人とも気持ちよさそうに寝息を立てている。
「私やたつろーは寝ないでも平気だけど、ちびちゃんたちは寝ちゃったし先にやっちゃったら可哀そうじゃない?」
「今回はフォルテとアルスが大活躍だったしな。
この子たちにも最初に食べる権利はあげたいところだ」
「それもそっかぁ」
今からでも復活してほしそうにするニーナであるが、妹や弟たちをないがしろにしてまで食欲を優先することはなく、素直に諦めてくれた。
そこまで食に落ちていなかったことに喜びつつ、彼女の頭を二人で撫でていく。
「ニーナちゃんはいい子だねぇ」
「明日になったら、食べさせてあげるからな」
「ギャウ~♪」
褒められて嬉しそうにするニーナもまとめて寝室へと帰り、6人同じ部屋でその日を終えた。
翌日。朝早くから目覚めた竜郎たちは、いよいよカルディナ城の目の前にある砂浜で目的の二種の魔物の復活を試みていく。
オーディエンスは昨日と同じメンバーで、フォルテとアルスもちゃんといる。
大きなシートを敷いてから、その上に竜郎は最初に復活させる美味しい魔物の素材を設置していく。
「おっ、スパッドから置いたってことは、まずはお芋さんの方から復活させるんだね? たつろー」
「手に入れたのも、こっちが先だったからな。
それにブドウの方がデザートって感じがするし、最後の方がいいかなってな」
「ニーナはどっちが先でも全然いーよ! はやく食べよ食べよ!」
「いや……まだ復活させてないからな? 食べよは早いだろうに」
「「フィリリリィイイ~」」
「「あうっ!」」
「はいはい。今からやるから、そう急かすなって」
「ふふっ、みんな楽しみにしてるみたいだね。まあ……それは私もなんだけど」
普段はのんびり屋のフォルテやアルスからも、珍しく早く早くという意思が伝わってくる。
楓や菖蒲にも「そんなことはいいから!」と、怒られてしまう。
竜郎は食いし坊な奴らめと苦笑しながら大人しく準備を整え終え、魔物の創造系スキルを発動させた。
「ギャギャッ?」
「よし、成功だ。といっても、もう失敗する要素もないんだが」
「素材もきっちり全部集められたしね。
うーん、にしても見た目はなんか……お芋というよりトウモロコシっぽい?」
「あー、言われてみればそんな感じだな」
大きさは二メートルほどで、外見のフォルムはスパッドとは打って変わり、緑色の葉っぱのような膜で身が覆われ、天頂部からフサフサの毛のような触手針を伸ばした、まさに愛衣が言った通りトウモロコシのようである。
スパッドはその黒いジャガイモのような体にダイレクトに口をつけ食らうスタイルだったが、こちらはその触手針を突き刺し獲物の養分を吸って生きる魔物。
普段はその本体でもある実の部分を地中に隠し、獲物を待つスタイルというのもスパッドとは異なる点といえよう。
「ねぇ、パパ。この子はなんていう種族なの?
これからなんて言えばフローラちゃんが出してくれるの?」
「こいつの名前は『ソラヌム』。あの実を覆う部分を剥いて、その中身を食べるって感じの魔物だな」
「そらぬむ……ソラヌム! 分かった! ニーナ覚えたよ!」
「「そぬぬ! そぬぬ!」」
「「フィリリリー」」
「繁殖力っていう点ではスパッドほど強くないから、最初から大量に用意できるわけじゃないからな?」
「そうなんだ。お芋っていうくらいだから、ぽこぽこ増えてく子だと思ってた。
スパッドはそれで農家さんたちを苦しめてたしさ」
「あれくらい繁殖できたのなら、絶滅も免れてたかもしれないだろ?
とはいえこっちも言うほど繁殖力がないってわけでもないから、普通の生物系の魔物よりはハードルが低いんだけどな」
「なら安心だね!」
『ソラヌム』は種子をまき散らすというよりは、細胞分裂するように分化して増えていくタイプ。
なのでスパッドのような爆発的な繁殖力はないが、ネズミ算式に増えていくので生産には向いている種族ではあった。
「確かこの子って、いろんなお芋系になれるんだったよね?」
「ああ、そうだよ。育った環境で変わるみたいだから、これから増やしていろいろと試していくつもりだ。
どうせならそれぞれで、ベストな味を追求してみたいしな」
ジャガイモ、サツマイモ、コンニャクイモにキャッサバなどなど、味や質感まで環境でコロコロ変わる性質を持っているため、そういう意味でも竜郎はかなり期待している種類でもあった。
なにせ美味しい魔物というのだから、どういう系統の味になろうと美味しいことは確定しているのだ。
これからの美味しい魔物食材を使った料理の幅が、この一種だけでも大きく広がってくれるのは間違いないだろう。
「というわけで、もう少し増やして確保しておきたいから食べるのはちょっと待ってくれ」
「えーー。ニーナ楽しみにしてたのに」
「「あう……」」
「「フィリリリイィ……」」
「そうしょげるなって。ちゃんと今日食べる分は確保しておくから安心してくれ。
もう一種の方を生み出したら、一緒に試食するから」
「だって。よかったね」
「わーい!」
「「うっうー!」」「「フィリリリ!」」
ここで引っ張るのも可哀そうなので、素材集めに携わった面々は一足先に食べさせてもらうくらいはいいだろう──。
そう考えて竜郎は多めにスパッドの素材を軸にソラヌムを他にも複数体生み出し、《強化改造牧場・改》にさまざまな環境に分けて入れておいた。
どれくらいの時間で変化するのかも確認するために、時間を確認しながら。
「それじゃあ、ちゃっちゃと次も生み出していこう」
「次は果物だね。海に住む子らしいけど、砂浜の上で大丈夫?」
「快適に美味しく実ってもらうためには海の中がいいみたいだが、陸上で生きられないわけでもないから、このままここでやっても大丈夫なはずだ」
ウーウの素材を中心に必要となる魔物素材をシートの上に置いてから、竜郎は魔物の創造系スキルを行使する。
やはりこちらも狙った通り、ちゃんともう一種目の美味しい魔物食材として、この世界に復活を果たした。
「おーブドウの木に見えないこともない? かも?」
「木というより幹の部分は石に近いんだろうけどな」
ぱっと見は全長八メートルほどの、白い木といった見た目をしていた。
だが植物というより珊瑚に近い性質を持っており、その幹はザラザラとした岩のような質感をしている。
また枝のように伸びた部分からは葉っぱではなく、ブクブクと石鹸を泡立てたような泡状の白い塊が葉のように無数についている。
そしてそこから人の拳より二回りほど小さくした大粒を、複数集めて球状に固めたマスカットのような鮮やかな黄緑色の果実があちこちに吊るされていた。
「あの実が食べられるの? パパ」
「ああ、だからといって採りすぎると枯れるから、その辺は気を付けないといけないんだがな」
「全部とっちゃうと枯れちゃうんだ!?」
「すぐにってわけではないが、良い事でもないからな。普通に味にもかかわってくる」
あの実は繁殖のためにも必要な物でもあるので、本能的に常に吊るしておこうとする性質を持っていた。
そのため全てなくなると自身の栄養分も切り詰めて、無理やり実を付けようとして最終的に枯れて死んでしまう。
今は栄養や力が足りないから、実をつけるのを止めよう──なんて考えられるような知能もない。
なので採りすぎてしまえばそれだけ負担をかけ、すぐに死ぬことはなくとも次になる実の味にも影響が及んでしまう。
「それは大変だね。ニーナちゃん、美味しいからって食べ過ぎちゃダメだよ?」
「うっ………………はーい」
「まあ少し時間はかかるだろうけど、この魔物──『ウーリァ』も大量に増やして大量に収穫できるようにするから、たくさん食べるのはそのときまで待っていてくれ」
同じ果物の部類に入るラペリベレから酒竜たちが作ってくれた果実酒は、奥様方に非常に好評。
大酒飲み連中からは美味しいのは間違いないけれど、どちらかと言えばジュースに近く、ガツンと来る穀物系から作れる酒の方が好みらしいのだが、それでもしっかりと杯を空にする魅力を持っている。
ハウルにも試飲でいくつか渡してみれば、複数いたがリオンという正当な後継者が生まれたことで放置気味になっていた王妃や側室たちに飲んでもらったところ大好評。
会うたびに果実酒をせがまれるようになってしまったと伝えられるほど、今や王族に関わる者の舌をも虜にしている。
そのためウーリァも果実酒の新たな材料の一つとしても利用されていくのは間違いなく、食べる分以外にも大量に用意していく必要があった。
一本から複数の実が採取できるからといって、生産を怠ればすぐにまた枯らして絶滅してしまうのは目に見えている。
だから竜郎はこちらも大量に生産するため、カルディナ城の前に広がる海だけでなく、《強化改造牧場・改》にも専用の区画を設けて育てる気だ。
「あはは、そうしないとお母さんたちから圧がかかりそうだしねぇ」
「身内の分以外に酒造りや商売にも利用するとなると、かなりの量が必要になるだろうしな。
今の内から大量に用意できる下地を作っておかないと」
ウーウは乱獲できなかったので、その素材を複製してでも現段階で大量に創造し復活させていく。
普通の繁殖に任せてしまえば、ニーナたちの分も含めて市場に流せる量をと考えると、年単位の時間がかかってしまいそうだったからだ。
そうして魔物の創造というエネルギー消費の大きいスキルも平気で連発し、竜郎はこれからの生産のための下地としては十分な数を作り終えた。
「これだけ復活させれば十分だろ。それじゃあいよいよ──」
「「まうまう!」」
「そう、試食の時間だ」
「やったー!」
「「フィリリリリー♪」」
いい子に待っていた楓と菖蒲も敏感に試食の気配を感じ取り、砂遊びを切り上げ飛び上がる。
ニーナもいよいよかと生唾を飲み込みんでから声を上げ、フォルテやアルスも嬉しそうに鳴く。
「私も、もう楽しみすぎてお腹ペコペコだよ。早く食べてみよ!」
「俺も我慢してたからな。そこまで多くはないが、ちゃんと食べる分はもう用意してあるから、すぐに食べられる。
ってことで今回は贅沢に新しい食材二種だ、心してかかろう」
食べ慣れたはずのララネストですら、未だに飽きることなくその美味しさをかみしめられる。
そんな素晴らしい食材に分類されるものを、立て続けに初めてのものを二つも味わうのだから竜郎も愛衣も気合を込め、簡易的に用意されたテーブルの上に乗せられた食材に向き合っていくのだった。
次も木曜更新予定です!




