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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第316話 海の再生とウーウ

 スパッドの件に続き、巨大ウニに食い荒らされ磯焼けした海の海藻の再生もできるというので、竜郎はフォルテとアルスを連れて海底までやってきた。



『一呼吸で数時間以上息を止めてられるって、さすが竜王種って感じだね』

『フォルテとアルスの場合は尻尾だけ伸ばして海面から出せば、そっちで空気を取り込めるからずっと潜っていることもできるみたいだぞ』

『ニーナだったら三日くらい息しなくても平気だよ! お姉ちゃんだからね!』

『そうなの!?』

『まじか……。お姉ちゃんが関係しているかどうかはともかくとして、やっぱり普通の人間とはスペックが違いすぎるな』



 限りなく外見が人に近い上に、まだ小さく幼い楓と菖蒲ですら素潜りで一時間程度は余裕で泳いでいられる。

 九星の座を継いだニーナなら、数日間は息継ぎなしで泳ぎ続けられるという。そりゃあ、うちの海も荒されるわけだと竜郎は心の中で苦笑した。



『でもパパとママは、ずっと潜ってられるでしょ? ニーナよりも凄いよ?』

『私らは、またちょっと違う気がするけどね』

『素の肉体能力ってわけでもないしな』



 そんなことを話しながら、思っていた以上に海中作業も大丈夫そうだということが分かったので、今度は全員で海に潜って海底に向かった。



『俺たちが介入したところはまだ残ってるが、それまでのところは酷いな。

 根っこすら残さず、ご丁寧に食べ尽くしてる』

『徹底してるねぇ。それでも大丈夫なの?』



 根が残っているのなら、そこから竜郎が魔法で再生することも簡単だったが、あの巨大な体からは想像もできないほど器用に根こそぎ食らっていた。

 これを竜郎だけでやるとすると、生き残った海藻を使って広げていくという方法が考えられるだろう。


 フォルテとアルスに現状を細かく眷属のパスで伝えると、力強く大丈夫だという感情が返ってきた。



『いけるみたいだ。だが、どうやってやるのかが気になるな』

『とりあえず、やってみてもらお』

『そうだな。失敗しても俺が責任をもってなおすから、自由にやってくれ。フォルテ、アルス』



 水の中で「フィリリリリィ」と鳴くと、フォルテとアルスはまだ残っている海藻に、匂いを嗅ぐかのように鼻先を近づける。

 数秒ほどそうしていたかと思えば、今度はパクっと小さく一齧り。磨り潰すように口の中で味わうと、準備が整ったようだ。

 力がより使いやすいよう、縮小化を解除して元の大きさに戻っていく。



『キラキラが出てきたよ』

『ほんとだ。綺麗だねぇ』



 フォルテとアルスの体から緑色の光の粒子が発生し、周囲に広がっていく。

 その状態のまま二体は足並み揃えて、海底の荒れ果てた方へ向かってノシノシと陸を歩くように進行していく。



『おお~こうなるのか。壮観だな』

『海のトト〇じゃん! トト〇、トト〇!!』

『トト〇ってなあに?』

『俺たちの世界のアニメ映画のキャラクターで、ああやって植物をにょきにょき生やすことができた……はず?』



 緑色の光の粒子を散らしながら二体が通った場所から、ポポポポッ──という効果音が聞こえてきそうな勢いで、根も残っていなかった海底から海藻の芽が出て、そのまま大きく大きく伸びていく。



『しかもこれ、もともと生えていたであろう場所から、ちゃんと生やしてる。

 むやみやたらに増やしてるわけでもないみたいだ』

『器用な子たちだね。普段はのんびりしてるのに』



 粒子は二人が進むほどにどんどん海中に広がっていき、巨大ウニたちが食べ散らかし失われた海藻をほぼ元の状態に戻していった。

 ほぼ──というのは、むしろ前よりも生き生きとしたハリや弾力のある海藻だったからだ。



『なら俺も少しばかり協力していこうかな』

『たつろーは何するの? 海藻をもっと増やすとか?』

『いや、せっかくだから消えた魚を少しだけ元に戻そうかと思ってな』

『そんなことできるの? パパ』

『普通の魚はちょっと難しいが、中には弱すぎて普通の魚と変わらない魔魚も、この辺にはそこそこいたんだ。

 それらの素材を取ってくれば、ある程度は放流できると思う。

 あんまりやりすぎると逆に生態系が滅茶苦茶になりそうだから、あくまで生態回復の補助になればいいかなぁくらいに抑えておくつもりだけどな』



 下手に人間が手を加えたことで酷いことになった例など、地球にはいくらでもある。

 竜郎自身が素人ということもあり、寂しくなったこの辺りに元々いた魔魚だけを最低限繁殖できる程度に放流することにした。




 途中で休憩をとったりしながらも、しばらく荒された海域の再生に努めていると、ここから町のある方へ逃げていた普通の魚など、海棲生物たちが敏感に環境の変化を察知してか、ちらほらと戻ってきはじめていた。



「…………ん? あれは!」



 完全には程遠いものの元に戻りつつある海を、潜った状態で眺めながら達成感を味わっていると、魚たちの他に別の魔物も元の場所が安全になったことに気が付き、戻ってきてくれた。

 その魔物の姿形に、竜郎は思わず水の中で一人声を出す。



『どったの? たつろー』

『たぶんアイツだ!』

『何のことを言ってるの? パパ』

『ウーウだよ! 俺たちがここに来た本来の目的の!

 海が元に戻ってきたから、向こうから勝手に来てくれたみたいだ』

『『え!? どこどこ!?』』

『あの木みたいなやつだよ』



 外見は歩く木のモンスターで、いわゆるトレントと呼ばれているものに近かった。

 だが色は完全に海藻色で、枝の先にはツブツブの黄緑色の房を葉っぱのように大量に生やしていた。



『あれかぁ。ん? ってことは……もしかしてウーウから復活させられる美味しい魔物の果物食材って〝海ブドウ〟なの?

 あれ見た目だけでブドウっていうより、海藻なイメージなんだけど』

『海で育つ海のブドウっていう意味では、確かに海ブドウって言った方が近いんだろうが、美味しい魔物の方はもっと巨峰とかピオーネとかに近い形の実を付けるはずだ』

『つまり今回探しに来た果物の魔物は、ブドウみたいなのだったってこと?』

『そうなるな。ちなみにアイツは食べ──』

『食べられるの!? ニーナ食べてきていい?』

『ウニをたらふく食べたばかりだってのに……。けど食べるのは、お勧めしないぞ、ニーナ』

『え~? なんでなの? ニーナ食べてみたいのに……』

『その理由はな。ぶっちゃけ、あいつは美味しくないんだ』



 そもそもの話、竜郎たちが目的としていたブドウ系の美味しい魔物は、その美味しすぎる果実から絶滅にまで追いやられた。

 その魔物は果実の部分が魔卵の役割もしており、そこを全て食べ尽くされてしまうと繁殖できないのだ。


 故にその魔物はその中でも不味い個体が生き残りやすくなり、その不味い個体が他の不味い個体と繁殖を繰り返した結果、別の美味しくない亜種の魔物として派生──進化した。


 そんな進化先の魔物がウーウなのだから、その味は知恵ある存在たちが興味を示さなくなったほどに不味い。

 そのことを《魔物大事典》で調べ知っていただけに、竜郎はニーナの行動を止めようとする。



『で、でも、もとは美味しい魔物なら……ちょっとくらいは美味しいよ、きっと!

 ちょっとニーナ、採ってくる!』

『あっ──ニーナちゃん、行っちゃった』

『ほんとに、エーゲリアさんの変なところが似てきちゃったなぁ。

 美味しいと分かってる方を復活させて食べた方が、ずっといいだろうに』



 そこまで説明されても、ニーナの食への探求心は止まらなかった。

 ささっと目にも止まらぬ速度でウーウの側まで近寄ると、ウーウ自身も気づかないほどの早業で一房ちぎって戻ってくる。



『パパとママも食べてみる?』

『ま、まあ……せっかくニーナちゃんが採ってきてくれたんだし、ちょっとだけ食べてみようか……な?』

『……そうだな。どれだけ不味くなったことで、その身を守ったのかってのは少し興味がある』



 さすがに子供たちは可哀そうなので「俺たちの反応を見て、それでも食べたいと思ったら言ってくれ」と伝えてから、一房からさらに小さくちぎったキャビアより少し大きい程度のプチプチを口の中に放り込んだ。



『…………うぇぇ。まずぅぅ…………』

『美味しくない!! これウーウじゃないかも!』

『ウーウであってるからな? ニーナ。

 ……にしても不味いな。生臭いし、ベチャベチャして口当たりも悪い。その上、苦瓜みたいなえぐみと苦さもある。

 さすが九星に狙われながら進化して生き残った個体だ』

『あっ……これも九星さんたちの仕業なんだ……』

『ちらっと聞いた話で推測した限りだとな……』



 元の美味しさは知らないが、それでも美味しい魔物の枠を埋められるほど最上級の果物系食材になれた存在だったはず。

 そんな魔物をここまで不味くさせるとはと、竜郎と愛衣は改めて九星の……ある意味では凄い部分にガックリと肩を落とす。


 父と母やニーナの残念な表情に楓と菖蒲は「いらねっ」とすぐに興味を無くし、フォルテとアルスもそっと伸ばそうとしていた首を引っ込めたのだった。

次も木曜更新予定です!

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