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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第314話 巨大ウニの討伐

 生態系を荒らすウニの魔物が出たのかと思えば、それは目的のウーウすらも食い散らかすだろうとフィクリは言う。

 ウーウは魚たちの産卵の場や隠れ家としてその身を提供し、その代わり魚を求めてやってきた小型から中型までの水棲魔物を食らって生きている。

 近付けば人も襲われることもあるが、それでも漁師たちからは魚の味方などと呼ばれ親しまれている。

 だがウニの魔物はそんなウーウよりも強い魔物。魚たちと一緒にいることもあり確実に捕食対象となって、ここいらの海域はウーウ以外にも甚大な被害を被ろうとしていた。



「今すぐってことはないだろうが、このまま放っておけば数か月後には確実にこの町の漁業は壊滅的な被害を被ることになる。

 だからもし行ってソイツに会うことがあったら、少しでいいから情報を持ち帰って冒険ギルドにでも伝えてほしい。

 俺が言うのは説得力がないだろうが、もちろん安全第一だけどな」



 それから運ばれてきた料理を口にしながら、より詳しい話が聞けたところで食事を食べ終わった竜郎たちは、彼と別れいよいよ海へと向かっていく。



「なんか思ってた以上に大変なことになってるみたいだね」

「この町は漁業で成り立っているらしいし、ウーウのため以外にも早めに対処したほうがいいだろうな」

「ついでにウニ?も美味しいと最高だよね! ニーナ楽しみだなぁ」

「「あう!」」「「フィリリリ~」」



 竜郎たちからすれば、手負いのフィクリたちを逃がしてしまう程度の魔物など脅威でも何でもない。

 それは驕りでもなく純然たる事実。なのでどうしてもニーナたちは討伐した先にある、ウニの味が気になってしょうがないようだ。

 それでも竜郎だけは何があってもいいように、どんな小さな事故も起きないように、直接調べるまではと警戒を心がけておく。



「あっちの方角だったっけ?」

「フィクリさんの話だと、そうみたいだな。ちょっとずつ、こっちに向かって進んでいるみたいだし。

 ってことで途中までは空から行こう。ニーナ、お願いできるか?」

「うんいーよ! 任せて!」



 既に認識阻害で民衆からの注目から逸らされているので、そのままニーナに元の大きさに戻ってもらい、彼女の背に乗って海上を飛んで進んでいく。

 竜郎はニーナの背の上から海中を水魔法と解魔法の複合魔法で探り、それらしい影や他にも磯焼けや海の異常を起こしている原因がないかもついでに調べていった。



「良かったというかなんというか、特に他に変わった原因はなさそうだったな」

「ってことはウニさえなんとかできれば、全部解決ってことだね」

「たぶんな。よし見つけた。この辺で止まってくれ、ニーナ」

「はーい」



 聞いていた情報に当てはまる、黒くてトゲトゲした丸っこい六メートル級の魔物が複数体いるのを、水中探査の魔法で捉えたのでニーナにその近辺で止まってもらう。



「それじゃあ、パパとママは潜って来るから、楓やフォルテたちはここでニーナお姉ちゃんと待っててくれな?」

「「あい!」」「「フィリリィイイ~」」

「ニーナちゃん、よろしくね」

「うん、ちゃんと見てるから安心して!」



 竜郎と愛衣ならば称号の効果で水中であろうが普通に過ごせるので、とりあえず二人で潜ってみることに。

 ニーナに子供たちを任せ、二人で海へと飛び込んだ。竜郎の水魔法によって水流を操作し、魔物がいる場所まで一気に沈んでいく。



『おーほんとにいるねぇ。でもでっかいと、ちょっとキモイかも。なんかガサゴソ動いてるし……』

『ほんと、まんまウニって感じのフォルムだな』



 まずは認識阻害で気配を完全に隠しながら、二人で海中から巨大ウニを観察していく。

 巨大ウニたちは体中から無数に生えた針を手足のように動かし海低を闊歩して、目につく生き物や海藻、なんでもえり好みせず食べては町の方へと進んでいく。



『町の方に行ってるのはなんでだろ?

 人間でも食べに行くつもりなのかな?』

『というより獲物がある方へある方へと進んでいったら、自然と町の方に向かっていくことになってるって感じなんだと思う。

 にしてもこの辺りの魔物にしては、異常なくらい強い部類に入るぞコイツ。なんでこんなところに……』

『うん、あれだとさすがに海中戦に慣れた人たちでも、よっぽど人並外れた力がない限り倒すのは無理だろうしね。私たちが来れてよかったよ。

 フィクリさんたちも、ほんと逃げられてよかったね』

『だな。なかなか厄介な能力も持っているみたいだし』

『そうなの?』

『ああ、たとえば──』



 あの手足のように動かせる針一本一本が感覚器官にもなっており、わずかな海流の変化、香りを感じ取って獲物を敏感に察知する。

 さらにちゃっかりと解魔法系統の解析スキルまでも所持しており、どの相手が一番死にやすいのか、厄介なのかを大よそ判断できる。

 また黒い体を海水に擬態し水中での透明化能力まで完備。生半可な解魔法では見破れないほど完璧な。


 数体で敵の注意を引き付けている間に、海水に擬態した巨大ウニの仲間が後方に周りこみ、一番死にやすそうな者から順に狙いを付けて、針を伸ばして槍のように突き刺して仕留め捕食していく。



『リーダーのフィクリさんとかが軽傷で済んでたのは、たぶんあの中では不意打ちが効きづらそうだから、まずは人数を減らして──って考えていたんだろうな。

 だからあのパーティで一番、攻撃が通りそうな順に重傷を負わされていったんだと思う』

『あー、だから守らなきゃいけない回復役の人が、真っ先にやられちゃったんだね。

 そういう人は大抵、物理攻撃に強くはないだろうし』

『継戦能力を削ぐって意味でも、そういう戦闘スタイルがこれまでも嵌まっていたからこその、自然界で磨かれた戦術なんだろう』

『でもそれだけじゃあ、私たちの敵にはならないけどね』

『直接調べてみた感じでもそうだな』



 だがどう見ても、こんな平和な町にほど近い海域に出ていいレベルの魔物ではない。そこだけがどうにも引っかかる相手だった。



『とはいえ、このまま被害が広がってるのを眺めているわけにもいかないし、さっさと始末していくとしよう』

『うん。ついでに美味しいかどうかも、ちゃんとチェックしないとだしね。それじゃあ、いっくよー!』



 ちょっと海中戦でもやってみようかと、竜郎が認識阻害をわざと解除する。

 巨大ウニたちは今まで強制的にそこいると分かっているはずなのに、いないと思い込まされていた呪いが解けて、鋭敏な感覚器官が二人の存在を感知する。


 数は全部で10体ほどとフィクリからは聞いていたが、実際は全部で19体。

 捕食中は警戒して海水に擬態して溶け込み、潜んでいる個体もいたからだ。

 フィクリたちはそのせいもあって、精確な個体数を確認することができなかった。


 だが竜郎たちは、隠れている個体も全て把握済み。

 愛衣も竜郎によってそれらの情報を完璧に共有しているので、たとえ寝ぼけていても不意打ちすら受けることはない。


 スイーっと愛衣が自力で泳いで一体に近寄っていき、伸びてくる針ごと《アイテムボックス》から出した剣で、一瞬でその身ごと切り裂いた。



『まだまだー!』



 半分に切り裂いて殺した一体の断面を足場にして、次の一体の元へと一気に海水を切り裂くよう突撃していく愛衣。あっという間に二体目も二分割された。

 同じように二体目を足場にして三体目に──と、まるで最初から海の中で暮らしている生物のように水中を縦横無尽に動き回り、どんどん巨大ウニが死体に変わっていく。

 ここにフィクリたちがいれば、夢でも見ているかのような錯覚すら覚えていたことだろう。



『助ける隙もないし、俺は回収にまわるか』

『おねがーい』



 手を貸す必要すらない圧倒的な殺戮劇を見て、竜郎は使おうとしていた攻撃魔法を変更し、水を操り死体の回収にまわっていく。

 その間にも既に狩られる側と化した巨大ウニたちは、一匹また一匹と数を減らしていき、いったい自分たちが何と戦っているのかすら理解する間もなく全滅した。



『お疲れ、愛衣』

『ううん、準備運動にもならなかったよ。もう他にはいない?』

『後でちゃんと《完全探索マップ》でくまなく調べてもみるが、ひとまずこの辺りにはもう一体もいない』

『だってー、ニーナちゃん。終わったよ~』

『じゃあ早く食べよ食べよ! ニーナもうお腹ペコペコだよ』

『いや、ここに来る前にフィクリさんに、ご飯奢ってもらってただろうに……』

『ニーナちゃんは育ち盛りだねぇ』

『うん! たぶんそれだと思う!』



 ニーナは精神的にはまだまだ幼いところもあるが、もう成体。

 だからそれ以上育つことはないんだけどなぁ──と竜郎は思ったものの、あえて念話で伝えることなく愛衣と二人で海上で待つニーナや楓、フォルテたちの元へと戻っていった。

次も木曜日更新予定です!

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