第304話 蒼太の現状
翌朝、ファン太を迎え行く前に蒼太の様子を見に行くことに。
竜郎と愛衣、ニーナと楓に菖蒲、そして蒼太に会いに行くと言ったらついてきた沃地のソルエラ種──ソフィアとアリソンも連れて、領地内でもあまり人が行かない奥まった場所にやってきた。
周囲は蒼太と暴れ槍のやりとりで、森……とは既に呼べないほどに荒れ果てた剥き出しの土とデコボコの大地が広がった場所だ。
「………………」
そこには素の大きさをした蒼太が、とぐろを巻くように地面に座り、龍力を流した状態を維持した暴れ槍を片手に瞑想をしていた。
蒼汰もすでに気が付いているのだろうが、それでも集中を切らせば暴れ槍がヘソを曲げるので対応できずそのまま瞑想を続けていく。
竜郎もそれは分かっているので気にしなくてもいいようにと、少し離れた場所で愛衣とニーナと一緒に、幼竜たちの相手をしながら静かに待った。
「……マタセテ スマナイ」
「いや、気にしなくていい。蒼太が頑張ってるのは分かってるし、応援もしてるんだからな」
「アリガトウ、アルジ」
「前も聞いたと思うけど、槍の方はどうだ? もう龍力を流してても持ってるだけなら、かなり普通に見えるが」
「ダイブ ナレタ……トハオモウ。ケレド、スコシデモ ナンジャク ナコトヲ カンガエルト オコラレルカラ キヲ ヌケナイ」
前は《アイテムボックス》にしまって封印するような形で持ち運んでいたが、今では普段から手に持ち行動することができるようになってきていた。
だがそれでも気難しい槍なので、ちょっとでも気を抜けば怒られるという。
「軟弱な事って例えばどういうことなの? ソータ?」
「ソ、ソレハダナ……」
例えば暴れ槍を持っている最中にふとニーナのことを思い浮かべ、気持ちが緩んだり。
ニーナが竜郎たちといろいろな場所に行っているが、自分がこうして領地で引きこもっている間に、そこでイケメンドラゴンにナンパされたりはしていないかとハラハラしたり。
ニーナが……ニーナが……と、ほぼニーナ関連のことだったこともあり、まさにその本人からの指摘に口ごもる蒼太。
すぐにそうだと察しがついた愛衣が、助け舟を出すことにした。
「まあまあニーナちゃん。蒼太くんにもいろいろあるんだよ。いろいろね」
「いろいろ? そっかぁ……大変なんだね」
「ソ、ソウダナ……」
蒼太は愛衣に向かって視線を向け、ありがとうと無言で礼を伝えてきたので、彼女はいいってことよとばかりにウィンクで返した。
「それで昨日も少し話したとは思うけど、改めて伝えておくからな。
来週の21日、生属の日にアルムフェイルさんの直系の子孫である神格龍が訪ねてくることになった。それでいいよな?」
「アア、イツデモカマワナイ。スデニ カクゴハ デキテイル」
アルムフェイルの全盛期を共に駆け抜けた、最初の竜──帝国の竜たちにとっては神にも等しいセテプエンイフィゲニアが授けし暴れ槍。
使えるかどうかはともかく、本来ならば竜王家にも匹敵する名家──緑深家にとっては是が非でも家宝として末代まで大切に守り続けると誓えるほどのもの。
それがエーゲリアやイシュタル。授けた側の子孫である帝室の真竜の誰かが持つというのなら納得もできようが、縁も所縁も微塵もないどこの馬の骨とも分からない若い神格龍に渡すというのだから、それを喜ぶということはありえない。
そう考えているからこそ、蒼太は決死の覚悟を持って自分が持つに相応しいと認めさせてみせると意気込んでいた。
とはいえ、暴れ槍を渡すと決めたのは誰あろうアルムフェイル本人。
その行先を決めるアルムフェイルの意志を捻じ曲げるなど、エーゲリアやイシュタルですら躊躇うほどなのだから、緑深家であろうと彼がイエスと言えばイエスと答えるほかない。
そこに文句を挟むどころか文句を考えることすら不敬であるという考えなので、本家ですら仰せのままに状態。
今回来る予定になっているアウフェバルグとて、憧れの存在が認めたというのなら一目その姿を見せてほしい。
自分が長年望んでもなれなかった、アルムフェイルが槍を託してもよいと思わせた男とはどんな人物なのか、気になって気になって仕方がなかっただけ。
決して蒼太から槍を奪ってやろうなどという、浅ましい考えは持っていない。
「けどその様子なら、槍を振るくらいならもうできるんじゃない?」
「油断しなければ、もう普通に持てるみたいだしな」
「なら早くおじさんに見せに行こうよ!」
「イ、イヤ……ソレガ……」
「んん? 何かあるの?」
「ジツハ……。マア、マズハ ミテホシイ」
無理やり押さえつけるようにしなければ、龍力を流した状態では持つことすら叶わなかったあの暴れ槍を、今では常態で持って過ごすことすらできるようになっている。
アルムフェイルの出した条件は彼が死ぬまでに、龍力を流した状態でちゃんと槍を振るくらいはできるようにしておけというもの。
それならば一振りするくらい、余裕なのではないかと思っていたのだが……どうやらそうでもないようだ。
竜郎たちの期待に満ちた視線に居心地悪そうにしながら、蒼太は槍をギュッと握りしめ斜め下に向けて構える。
その堂に入ったキリッとした姿に、ソルエラ種のソフィアとアリソンに楓と菖蒲も「お~」とカッコイイ兄の姿に感心したように口を開いていた。
「デハ…………ハッ──グゥッ!?」
斜め下から上に振り上げ、そのまま一気に下に降り下ろそうとするも、下向きに力を入れた瞬間手元が爆ぜて暴れ槍がすっ飛んだ。
直接触ることは竜郎でも難しいので、魔法で──それでもかなり抵抗されたが無理やりに近くの地面に刺しつつ蒼太に声をかける。
「大丈夫かっ!?」
「ア、アア……ダイジョウブダ、アルジ」
「さっすが、凄い再生力だね」
完全に指が吹き飛んだはずだが、蒼太が持つ自前の回復力で既に元通りに治っていた。
「ねーソータ。今何があったの? 途中まではすっごく良さそうだったのに」
「ジツハナ……」
実演した後で、ニーナの問いに蒼太は答えていく。
それによれば普通に龍力を流した状態で持つことはできるのだが、槍を振ろうとする動作に入ると急に機嫌を損ねてしまうという。
「心当たりはあるのか?」
「ズット、ソレニツイテ カンガエテイタノダガ……ドウヤラ コノヤリハ──」
ただ振るうことを許さず、さらにその上の暴れ槍が持つ特殊な固有能力。持ち主の意思一つで変幻自在に形を変えられるという液状化した雷──『雷水』。
それを使ってでの一振りを元の主人──アルムフェイルに見せろと言っているように蒼太は感じているという。
「槍さんが勝手にハードル上げてきてるってこと……?」
「マア……イッテシマエバ……ソウナルト」
「本来なら前提条件をクリアしてるっていうのに、それをさせないための抵抗がさっきの暴走っていうことなのか……。そこまで意思を持っていてなお、システムがインストールされてないって逆に凄いな」
「オレモ ソウ オモウ。──ム」
蒼太が苦笑しながら暴れ槍を拾うと、抗議するかのようにピリピリとした人で言えば静電気が流れるような痛みが伝わってきた。
こういうところが、無機物らしくないと言っているのにと、さらに蒼太は困ったように眉間にしわを寄せた。
「じゃあ雷水の方は、どこまでできるようになったの? ソータ」
「確かにニーナのいうみたいに気になるな。
前みたいに無理やり押さえつけるようなやり方だとダメだったんだよな。今はどうしてるんだ?」
「イマハ──」
龍力を流し活性化させた状態で、瞑想をしながら長い時間共に過ごす。
そうしてアルムフェイルと暴れ槍の〝主従〟という関係ではなく、対等な〝相棒〟として互いに理解しあおうと対話をしている真っ最中。
「それがさっき私たちが見た、瞑想だったってことだね」
「アア、ソウナル。ソウシタコトデ、ライスイデ ヤリヲ フレルヨウニナレ。──ソウ イッテイルノダト キガツケタンダ」
「なるほどなぁ。ってことは、まだ修行は必要か」
「……ソウナル。ダガ カナラズ チカイウチニ ナシトゲミセル。ナシトゲナケレバナラナイ」
まだまだアルムフェイルも死ぬ気はないようだし、竜郎たちの美味しい魔物食材の宅配のおかげで食欲も戻り、あのままの状態よりは寿命は延びているのだとは思う。
だがそうはいっても、とっくに死んでいてもおかしくない老体というのは変わりない。
悠長に明日は大丈夫、明後日もとだらだらやっていれば、できるものもできなくなる。それにそういう妥協を、暴れ槍は絶対に許さない。
そんな甘えを見せた瞬間、蒼太はこの槍に見限られてしまうだろう。
槍にとっても生涯使わせるのはただ一人と決めた主から、別の持ち主に移るというのは苦渋の決断でもあったのだ。
それなのに半端な気持ちで持たれたら、それは怒りもするだろうというものなのだから。
「ギャオ!」
「ギャーウギャォ!」
──と、話に一区切りついたのを見計らって、ソルエラ種の二人が蒼太に遊んで絡みだす。
「かーでも!」「あーめも!」
それを見て暇をしていた楓と菖蒲も、遊びなら私たちも大歓迎だとばかりに近寄っていく。しかし──。
「ス、スマナイ。マダ コノアトモ シュギョウガ アルノダ。ホカノモノニ アイテヲ シテモラッテクレ」
「まあ蒼太も頑張ってて忙しいだろうしな。俺が相手するから、蒼太はそっとしておいてやろう。な?」
「「あーい!」」
素直に竜郎の言葉にニコニコしながら抱き着いていく楓と菖蒲。この後ファン太を迎えに行く予定もあるのだが、それまでならいいだろうと竜郎も二人を抱き上げ、続いてくるだろうソフィアとアリソンを待ち構えていたのだが……。
「ギャウッ!!! ギャウギャウギャァアアアウ!! ギャーーーーウ!!」
「ギャーゥ……」
姉であるソフィアが癇癪をおこしたように、その場でジタバタ暴れ出し、妹のアリソンが「お姉ちゃん……」となだめようとしてくれるも一向に落ち着く様子はない。
「どうしたんだ、ソフィア? パパじゃ不満か?」
「ママもいるよ?」
「ニーナお姉ちゃんも遊んであげるよ!」
「ギャウギャウゥゥゥゥゥウウウウウッ!!」
「ギャウギャウ……」
「うーん……そういうことか」
「どゆこと?」
「どういうこと?」「「どううとー?」」
愛衣の真似をするように、ニーナと楓と菖蒲が同時に首をかしげる姿が可愛くて笑いそうになりつつも、竜郎は今伝わってきたソフィアとアリソンの感情をもとにどうして癇癪を起こしたのかを説明していく。
「つまりな。この子たちは蒼太に遊んでほしかったんだよ。最近は……というか、もうずっとだけど、修行ばっかりで幼竜たちのことは相手にしてあげれてなかったからさ」
「あー……そっか。とくにソフィアちゃんは、蒼太くんのこと大好きだったしねぇ」
ソフィアは冒険が大好きだ。そしてそんなソフィアが好きなアリソンは、そんな彼女の後をついて、一緒に領地内を冒険したりする。
そしてご飯時になると蒼太が兄として探して迎えに来てくれて、彼の背に乗りカルディナ城へ帰宅する。
そんな時間がソフィアは特にお気に入りだったのだ。
だが最近では、来てくれるのは別の人ばかり。もちろんその人たちも嫌いではない。だがそれでも、ソフィアは蒼太が大好きなのだ。もっと遊んでほしいし、構ってほしかったのだ。
そして今日こそはと竜郎たちについてきたのに、また邪険に扱われソフィアはショックと怒りで地団太を踏んでしまった──というわけである。
そのことを聞かされて、最近は忙しいからとソフィアたちをかまってあげられていなかったことを、今更ながらに蒼太は気付き彼女たちに手を伸ばす。
「ソウカ……ソレハ、スマナカッタ。アニ トシテ、キヅイテ ヤレナカッタ……」
「ギャウギャウゥッ!」
知らないもん! と伸ばした蒼太の指先をぱちんとはじくも二、三度同じようにやっていると、気が済んだのか落ち着いて彼の指に掴まってそのまま体をよじ登っていく。
「ギャウー!」
姉が行ってしまうので、アリソンも慌てて蒼太の指に飛び乗り追いかけ彼の体を駆け上がる。
「ねー、ソータ。忙しいってニーナも分かってるよ? でも今日は、その子たちとね……?」
「──ッ!? ア、アア。ソウダナ。ソウシヨウ。──フッ、ヤリモ ソフィア タチヲ カマエトイッテイルヨウダ」
ニーナの上目遣いに心臓を射抜かれたような衝撃が走り、さらにソフィアたちに伸ばしたのとは別の手に握っていた暴れ槍からも、家族は大事にしろよというようなことを言われたような気がした。
「~~~~ッギャウ!!!」
「──ム? ドウシタ──タタタッ。イタイジャナイカ。ドウシテ カミツク?」
「ギャウギャウ!!」
そしてニーナを見てデレデレしている蒼太が何故か気に入らないソフィアは、私に構うの! とばかりにその体にかじりついた。
この子たち程度の噛み付きで──と思われるかもしれないが、かなり体も成長してきてTレックスのような見た目の顎から繰り出されるソフィアの噛み付きは強力だ。
針の先で優しく突かれる程度の痛みを、神格龍である蒼太にまで届かせていた。
「あははっ、嫉妬かな? 可愛いなぁ、ソフィアちゃん」
「まあ、幼い妹が兄に憧れる──なんてこともあるのかもしれないしな」
「んん? みんなソータのことが大好きってこと?」
「ああ、そうだよ。ってことで蒼太。今日はその子たちの相手を頼めるか?」
「ア、アア。マカセテクレ。タマニハ ヤスミヲトルノモダイジダロウ」
「ああ、それとスッピーは最近どうしてる?」
竜郎たちの領地内で居候している聖竜の通称スッピー。彼も強くなるための修行中であり、最近竜郎は会えていない。
蒼太ならば離れていても念話が繋がるが、彼はそうでないので少し心配になったのだ。
「スッピー モ ゲンキダゾ。リア ニモラッタ ソウビモ ダイブ ツカイコナセルヨウニナッテキテイタ。オレモマケテハ──」
「ギャウ!」
「ア、アア ワカッタ。キョウハ オマエタチノ アイテダ」
「「ギャウ♪」」
スッピーもボロボロになるまで追い詰めるタイプだが、回復能力もちゃんと持っているからか大丈夫なようだ。
それならば一安心だと、竜郎と愛衣はニーナと楓、菖蒲をつれて、蒼太とソフィア、アリソンが目いっぱい楽しんでくれることを願いながらカルディナ城へと戻っていったのだった。
次も木曜更新予定です!




