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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十七章 イシュタル創卵編

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第303話 本物の使者

 アルムフェイルたちと別れ、数日の時が経った。

 その間に竜郎はすぐに次の美味しい魔物には行かず、今ある美味しい魔物たちをできるだけ安定して供給できるよう、個体数の増量に注視していた。


 そのおかげで今は全体的に、生産を安定させることができた。



「これでもちょっと不安だけどな」

「うちの子たちの分だけでも、けっこういるしねぇ」



 当初は美味しい物ばかり食べていてはと言っていたが、料理の研究をするという名目もあって、今では一日三食ほぼ何かしらの美味しい魔物を使った料理を食べるような日常を送っていた。

 このような贅沢は、世界広しと言えど竜郎たちのいるこの場所だけだろう。


 さらに近い未来。エーゲリアが世界で五人目の真竜を生み出す際は、ここで保護を兼ねて彼女とその卵を預かることが決まっていた。

 

 エーゲリアには竜郎が分霊神器を使ってカルディナたちと融合した状態であっても、勝つのは難しい真竜をのぞけば最強の黒竜人──セリュウスがいる。

 それになにより卵の生成で弱っていようと彼女を倒せる存在などいないであろうというほど、ぶっちぎりでこの世界最強を誇っているというのにだ。


 その理由はニーナと『食』目的であろうことは明白。しかしエーゲリアを預かることで、いろいろと今では手に入らないような珍しいものをくれたりするらしいので竜郎たちも異存は全くない。

 しかしかのあの腹ペコドラゴンをしばらく逗留させるとなれば、自分たちの分+よそに流す分に加えて、彼女の分も用意しておく必要がある。

 だからこそ竜郎は、がんばって外への流通も滞ることなくエーゲリアを迎え入れられるよう動いていたのだ。



「お姉ちゃんがお泊りしに来るの楽しみだなー」

「ふふっ、そのときはニーナちゃんが、たっぷり歓迎してあげてね」

「うん! ニーナ頑張るよ!」

「かーでも!」「あーめも!」

「そうだな。二人も頼んだぞ」

「「あう!」」



 最近ではかなり喋られる単語も増えてきて、いつまでも赤ちゃんのように思っていた楓や菖蒲も、いよいよこの世界に知的生物だと認められシステムを魂にインストールされるときが近づいてきているようだ。



「少し寂しい気もするが、やっぱり嬉しいことだよな」

「そうだよ。この子たちも今よりもっと、いろんなことができるようになるんだろうね。」



 異世界に来ている時間も含めても、まだ二十歳は過ぎていない竜郎と愛衣ではあるが、楓や菖蒲だけでなく、他の幼竜たちも確実に成長を遂げてきており、同年代と比べていささか早すぎる子の成長の喜びを二人で味わった。



「成長とは違うが、町の方もかなり本格化してきたな」

「だねぇ。昨日行ったら知らない人が一杯もう町に住んでたし」


 ダンジョンの町にして美食の町の開発も既にかなり仕上がってきており、リオンたち貴族──町の運営サイドの人間たち以外の居住区もほぼ全てが完成。

 少しずつ町で働くことになるなっている住民たちの受け入れも、順次始まっていた。


 魔物園や遊園地はまだいろいろとデザイン関連で調整が残っているが、町の骨格だけで言えば外部に公開できる体制がほぼ完成したと言っていいだろう。


 いろいろなことが進みはじめていることを感じながら、竜郎と愛衣は2人仲良く座って休んだ。

 そうしてしばらく穏やかな時間を過ごしていると、カルディナから念話で連絡が入った。



『ピィ。ピュィーーピィーピーーィュ(パパ。ドルシオン王国のエルカロイから言伝を預かってきたわ)』

『エルカロイから?』

『えるかろい……? ってなんだっけ?』



 エルカロイとは、聖雷のドルシオン種の竜王が治めるドルシオン王国が誇る魔竜調教施設のこと。

 竜郎たちはそこへ、象竜のファン太を預けていた。何故なら彼は基本的に自信家でプライドが高く、弱いものと見れば上から目線で接することを良しとする困った竜だったからだ。

 竜郎が強引に言うことを聞かせることもできるが、いつもいつも縛っているのは竜郎自身も大変であるし、縛られる方もストレスがたまる。

 だがそういう強硬手段で教育してもらわなければ、いずれなにかの拍子にイフィゲニア帝国だけでなく、竜郎たちが招いた妖精郷の友人たちに大して酷い態度をとってしまう恐れもあった。


 だからこそ竜郎は、ドルシオンの王──マルティントに頼んで特別に専門家による教育を外部勢力である竜郎たちの魔竜に施してもらっていたというわけだ。



『あーあー! そうだった。もちろんファン太のことは忘れてないよ。施設名を忘れてただけだから』

『そうだな。いちおう簡単な経過報告は、ドロシーたちを連れていくときに聞いてはいたし』



 中途半端に会うのはよくないと、預けてから一度も竜郎は会わせて貰ってはいないので今どれくらい性格が丸くなってくれているか正確なことは知らない。


 今日はカルディナがドロシーやアーシェたちを連れて行ってくれていたので、彼女がその施設──エルカロイから言伝を預かってきたというわけである。


 またぞろ迷惑をかけてしまったのではないかと、ファン太に対して不安を感じながら内容を聞いてみれば──。



『え? 教育が終わったから、連れ帰ってもいいって?』

『ピューー(ええ、そう言っていたわ)』



 引き取るのは主人である竜郎がやるべきだろうと、また後日父が行くとカルディナは返してきてくれたそうだ。



『分かった。今日はもうすぐ夕方だし、明日にでも迎えに行こう』

『ピィィィーーピュー、ピューーィュー(どんなふうになっているか、すこしだけ楽しみだわ)』

『ふふふっ、そうだね。すっごく真面目な優等生になってたりして』

『人格……というか竜格矯正までいったら、それはもう調教の域を超えている気がするが……』



 とにもかくにもファン太に会いに行くのは楽しみだと竜郎は笑みを浮かべ、すぐにまたあの変わった先代竜王──リグンアロフや王子──リゲンハイトと会うことになりそうだと微妙な表情に変わる。

 ──と、カルディナとの念話を終え明日の予定を頭の中でこねくり回していると、今度は別の人物から念話が入る。



『主様。今、お時間よろしいでしょうか?』

『うん? 今度はミネルヴァか。ああ、ぜんぜんいいぞ。今ちょうどカルディナからの用事は終わったところだし。それでどうしたんだ?』

『はい。実は海上より上級竜が複数体、ゆっくりとこちらへ向かってきているのを捕捉しました』

『上級竜……ってことは帝国関係というか緑深家の家臣の人たちかな?

 おとついだったかにイシュタルちゃんがご飯を食べに来たとき、近々アウフェバルグささんの訪問の日程決めのために使者が来ると思う~って言ってたし』

『はい。私もそうだと判断しています。先頭を行く三体の上級竜は深緑色の旗を振りながら来ていますし、まず間違いないかと』



 陣形としては前に旗持が三体。その後ろに一番格が高い上級龍。その両脇後ろに上級龍が二体の計六人の竜と龍が向かってきているようだ。



『ならこっちも出迎えないとな。前みたいなことにはならないだろうし』

『あはは、さすがにそうなったらアルムフェイルさんが激おこだよ、きっと』

『おじさんが怒ったら凄そう!』

『ニーナは、いちおう奥の方で隠れててくれ。たぶんその一番格の高い上級龍って人は、緑深家に近い血筋の人だろうし』

『はーい!』

『その後ろに付き従ってる者たちも、おそらく同系統でしょうね。私は必要ですか? 主様』

『いや、緑深家の人たちなら大丈夫だろ。そのまま好きにしていてていいからな』

『はい。わかりました』



 ミネルヴァとの念話を切り、竜郎は愛衣と楓、菖蒲をつれてカルディナ城の目の前にある砂浜へと急いだ。

 九星関係ならばいざしらず、竜王関係であれば気が付かれはしないだろうから二人がいても安心だ。


 しばらく砂浜で待っていると、前の双紅家の愚か者たちとは全く違い、品のある正面三体の竜がうやうやしく砂浜に降り立ち四人に頭を下げた。

 そのすぐ後に、後ろにいた二体の龍が頭を垂れ、最後に中央のアルムフェイルより薄い緑色の鱗を持つ上級竜が頭を下げた。



「お初にお目にかかります。私の名はサロンスト。緑深家直系アウフェバルグ様の名代として参上いたしました。

 あなた様が、タツロウ・ハサミ様で間違いございませんか?」

「ええ、はい。僕がタツロウです。名代ということは、訪問の日程を決めに来たと思っていいですか?」

「はい。そうさせていただければと」



 サロンストは緑深家の分家の家長であり、非常に本家と近い血筋を持つ存在。

 本来であれば竜王くらい身分の高い者でもなければ、九星家の本家筋の者以外に頭を下げるような人物ではない。

 そんな人物を名代として送り込み、これだけ丁寧に接していることからも、緑深家は最大限の敬意を竜郎たちに払ってくれていることがうかがえた。


 もちろんその裏でイシュタルやエーゲリアが、太い太い釘を刺していたということもあるのだが、もともとアウフェバルグも礼を失する気はなかったので問題はない。せいぜい使者の位が最上級クラスに上がったくらいだろう。


 そんなお偉いさんだということは竜郎はもちろん知らなかったが、それでも非常に清廉潔白な気性を彼から感じ、前の双紅家の名を出し脅してきた者たちがいかに愚か者だったのかよく理解できた。



「予定としては、いつでもいいのですか?」

「できれば準備もありますので、数日は間をいただきたく。もちろんお望みとあらば、明日にでも来ることもできましょうが」

「いえ、いろいろと僕らもやることはありますが、それでも自営業みたいなものですから時間の都合は付けやすいです。

 そんなに急ぐこともないでしょうし、そうですね……12日後、一週間後の今日。昼頃はいかがでしょう?」



 この世界では12日で一週間なので、間違っていない。



「はい。その日程であれば、十分余裕をもって対応が可能かと。お気遣いいただき、ありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ」



 かなりあっさり終わったなと拍子抜けした気分でいると、竜郎とやり取りをしていたサロンストが言いづらそうに重い口を開いた。



「あの……ご無礼を承知でお願いがございます。もちろん、気に障るようであれば、いくらでも謝罪いたしますのでどうか聞くだけ聞いて頂きたい」

「はあ、聞くだけでもいいのであれば聞きますけど、なんでしょう」

「ソータ殿を一目、会わせいただけないでしょうか。緑深様から直接かの槍を賜った人物を、この目で見てみたいのです」

「ああ、そんなことですか。別にいいと思いますよ。ちょっと本人に聞いてみます」

「ははっ、ありがとうございます!」



 彼らの中ではアルムフェイルから槍を賜るというのは、神から宝具をいただくに等しい。

 同じ緑深ものでないことは残念ではあるが、アルムフェイルが認めたのであれば間違いない、どれほどの英傑なのだろうと気になって仕方がなかったのだ。


 それは彼だけの意向ではなく、アウフェバルグが一目だけでいいからまずお前が見て来てくれないかと頼まれていたというのもあるのだが。


 念話で蒼太に連絡を取ると、彼も快く応じてやって来てくれた。

 普段は巨大な龍なのだが、槍に認められるため修行を重ね、今では三メートルほどにまで縮小することができるようになっていた。



「あなたが、ソータ殿でございますか?」

「ソウダ──デス」

「いえいえ、敬語など結構でございます。そうですか……あなたが……」



 そこには「お前が?」という失礼な感じは一切なく、この御仁がアルムフェイル様に認められたのかと、サロンストのお付きの者たちまでキラキラとした視線を蒼太へ投げかけていた。



「モ、モウ、イイダロウカ……」

「え、ええ! ありがとうございます! ああ、できれば手形をいただけは──」

「ソ、ソウイウノハ、チョット……」

「あああっ、ですよね。申し訳ありませんっ」



 これほど尊敬のまなざしを受けることもそうそうなく、居心地が悪くなった蒼太は少しの間来ただけで、すぐに去っていってしまった。

 それでもサロンストたちは、その去り際までしっかり焼き付けようと、その後ろ姿に熱い視線を見えなくなるまで向けていた。



「では一週間後また」

「はい、お待ちしています」



 そうして本当の使者の訪問は、最後まで嫌なことが起きることもなく終了した。

 そしてこのときサロンストたちには、美味しい魔物食材のお土産も恐縮する彼らに渡していた。

 なので彼らが帰還後。また竜郎たちに会いに行くには、あの食材を手に入れるにはどうすればいいのかと、美味しい魔物食材のファンをまた増やすことになるのだった。

次も木曜日更新予定です!

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