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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第一章 再出発
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第02話 異世界の証明

「えーと……今、なんて言ったの? 伊勢海?」

「たぶん、お母さんが言ってるのは伊勢の海だよね。

 そうじゃなくて、私たちが行ってたのは異なる世界の異世界だよ」

「地震が起こった時に俺達が避難していた公園の空間にヒビが入って、そこから俺と愛衣はこの世界から他の世界に落ちたんですよ」

「…………なあ、竜郎。愛衣ちゃん。そういう冗談はいいんだよ。早く本題に入ってくれ。

 あまり大人をからかうんじゃない」



 普段はおちゃらけていることも多い仁だが、今回はわりと本気で竜郎や愛衣に怒りの視線を向けてきていた。

 そりゃあ、地震だなんだと忙しい時にわざわざ集めて与太話にしか聞こえないことを言われたら、さすがに怒りもするだろう。


 だが竜郎はそれに待ってくれと手で制し話を続ける。



「からかうつもりなんてない。そして冗談でもない。

 だが口で何を言おうと信じて貰えないというのも分かってる。

 父さんが仕事から帰って来るなり異世界に行ってた~なんて言われたら、病院に連れて行った方がいいかって考えるからな」

「いや、言わねーよ……。だがそれが分かっているのなら、父さんたちが言いたい事も分かるだろ?」

「ああ、分かってる。だからまずは、異世界で手に入れた力を見せていこうと思う。

 具体的に言うと──魔法だ」

「魔法って……。ねぇ、竜郎。本当に大丈夫? 地震が起きた時に頭でも打ったの?

 それとも高校生になってから中二病になっちゃったの?

 お母さん、それは困るわ」

「なってないからっ。いいから見ててくれ。直ぐにやるから」



 竜郎は母親に異世界での恥ずかしい思い出の扉を開かれそうになったので、急いで魔法を行使すべくソファーに並んで座る両親たちに向けて右手の平を突き出した。


 そして息をするかのように、慣れ親しんだ魔法を発動させた。



「「「「えっ!?」」」」

「まずは安全を考慮して光魔法」



 竜郎の手の平の前に突如として30センチほどの光の玉が出現し、事情を知らない両親たちは目を見開いてその光を凝視した。



「本物なの? ライトとか仕込んでない?」

「ないですよ、美鈴さん。これなら安全ですから、触ってみても大丈夫です。

 触ってみますか?」

「え、ええ。興味ある──ひゃっ、こっちに来た!?」

「好きに動かせますから」



 光の球体が竜郎の手の平の前から、美鈴の座っている場所までフワフワと飛んで行く。

 それにおっかなびっくり人差し指で突いてみるが、何の感触も無い。

 思い切って手をズボッと入れてみるが、その球体の中には何処にも光源が無かった。

 それを美波や仁、正和に伝えると、彼らも自分の手で確かめ始めるが、やはりこの光にトリックの類は見られなかった。



「それじゃあ、今度は闇魔法」

「今度は何か黒い煙の球体みたいなのが出てきたね」

「これもただの闇ですから、触っても大丈夫ですよ。正和さん」

「なら、触らせてもらおうかな」

「ええ、どうぞ」



 光の球体はそのままに、今度は闇で出来た球体を正和の前に移動させる。

 やはりそちらも、ただの真っ黒い煙で出来た球体が浮遊しているようにしか見えない。



「それじゃあ、今度は水魔法」



 そろそろ慣れてきたのか、仁が竜郎の手の平の前に出てきた浮遊する水の球体に自分から近づき覗き込む。



「ほんとに水みたいだな。これは飲めるのか?」

「うん、飲めるよ。そのおかげで、私とたつろーが異世界に最初に落ちた時、喉の渇きだけは無縁だったんだからね」

「落ちた? ま、まあ、それは後で聞くとして……試しに一口──」

「ど、どう? 仁君? へんな味する?」

「いや、普通の水だ。どういう仕組みだよ、これ」

「仕組みとか言われてもな。俺には魔法だよとしか言いようがない。

 他にもこんなことが出来るぞ。父さん、いっつも肩が凝ってるって言ってたよな?」

「ああ。30後半過ぎてから、全然取れなくなったんだよなぁ──って、まさか」

「そのまさかだ。それじゃあ──」

「──頼む!」



 竜郎が言いきる前に、仁はクルリと背中を向けて背広を脱いだ。



「シャツも脱いだ方がいいか?」

「いや、別に背広着たままでも、肩に直接触る必要もないんだが……まあ、いいや。

 それじゃあ、そのままリラックスしていてくれ」

「あ、ああ……」



 緊張した面持ちの仁の肩にそっと触れると、竜郎は《生魔法》を発動させる。

 そして仁の肩の凝りを一瞬でほぐし、他にも体調が悪そうな部分も癒しておいた。



「どうだ? 父さん。楽になったか?」

「………………ああっ、ああ! 凄いな魔法!! ひゃっほー!」



 肩をグルングルン回しながら、大人げなくはしゃぐ40代男性会社員。

 そんな父親の姿に苦笑しながら、竜郎はついでに治しておいたところも報告していく。



「あとついでに痛風も治して、血液もサラサラにして、肌年齢やら血管年齢も正常以上に治癒しておいたから」

「「「「はあ!?」」」」

「あははっ、みんな同じ顔して驚いてるよ、たつろー」

「だなぁ。こんな便利魔法があるから、治療に掛かれる人ほど健康寿命も長いんだよな、あの世界の人って」



 などと竜郎と愛衣がのほほんと話しているが、健康には気を使う年齢になってきた親世代からしたら重要な事だった。

 言われてみれば竜郎に何かされる前とされた後では、仁の肌ツヤがまったく違って見えた。



「そんな事まで出来るのかいっ? あの、竜郎くん。僕は腰が──」

「私もお願いしていいっ? 竜郎君」

「竜郎! 私もお願い! 肌年齢とか血管年齢とか若返らせて!」

「お、おう……」



 それから簡易竜郎クリニックが開かれ、全員の状態を最上級に健康で若々しい体にまで戻していった。

 そのおかげか、見た目に分かるほど全員の肌質が良くなり、数歳は若返ったように見えた。



「美波ちゃん! お肌プルプルよ!」

「美鈴ちゃん! お肌プルプルね!」



 特に母親二人には大好評で、互いにほっぺたを触らせ合ってはしゃいでいた。

 だが父親たちも、嬉しそうに腰痛が~眼精疲労が~膝の痛みが~疲れが~だのと、今までの辛かったエピソードを語り合いながら喜びに打ちひしがれていた。



「喜んでもらえたのは嬉しいんですが……これで異世界の話を真面目に聞く気になりましたかね?」

「まあ、そうね。竜郎が変な力が使えるようになったのは事実だもの。

 とりあえず全くの与太話でも、頭がおかしくなったわけではないという事だけは分かったわ」

「ね、ねえ。それを信じるとしたらよ? 愛衣も一緒に行ったのよね?」

「うん。そーだよ、お母さん」

「じゃあ、竜郎君みたいになんか凄い魔法が使えるようになったって事!?」

「えーと、魔法は使えないかな。でも凄い事は出来るようになったよ!」

「うちの子もかぁ。なあ愛衣。お父さんに見せてくれないかい?」

「まっかせてよ! たつろー、あれをお願い」

「はいよ」



 事前に親に説明するときに互いに何をするか決めていたので、竜郎は直ぐに返事をして魔法を発動させる。

 発動したのは《土魔法》と《闇魔法》。すると闇色に染まった小さな煉瓦れんがのようなブロックが竜郎の手の上に出現した。



「俺たちが行っていた異世界では、光魔法と闇魔法は単体だと大したことが出来ない魔法なんです。

 けど光魔法は別属性の魔法を強化し、闇魔法は別属性の魔法を変質させることが出来ます。

 そして今、俺が作ったのは、土の塊を闇魔法で変質させて極限まで硬質化させたブロックです。

 父さん、ちょっと触って確かめてみてくれ」

「ああ、任せろ」



 仁が竜郎から土のブロックを受け取ると、軽く叩いてみたり押してみたりと調べていく。



「これ鉄より硬いんじゃないか? とても土で出来ているとは思えない」

「正に鉄より硬いよ。それじゃあ、返してくれ」



 仁からブロックを受け取ると、今度はそれを愛衣に手渡した。

 視線が集まる中で愛衣は右手でそれを握って、皆に見えやすいように前へと突き出す。

 そして──。



「えい」

「「「「──えっ」」」」



 まったく力のこもっていない声と共に愛衣がそのブロックを握りしめると、握力だけで粉々に砕け散った。



「愛衣、あんた……」



 それを見た美鈴はショックを受けたような顔で愛衣を見つめた。

 愛衣はもしや、自分の母を恐がらせてしまったのではないかと背筋が凍りついた──のだが。



「せめてもっと可愛いのにしときなさいよっ! なんでそんなゴリラみたいな能力なのっ!?」

「ごりらぁっ!? 失礼だよ、おかーさん!! 私、女の子だぞ!」

「いやいやいや。竜郎君みたいに魔法とまでいかなくても、もっとなんかねぇ? あるでしょ?」

「あったよ、ありましたよ、確かにね! でも、しょーがないでしょー! 自分で選べた訳じゃないんだからー!」

「あら、そうなの?」

「え、ええ。特に愛衣の場合は、異世界に行って授かった初期スキルが《武神》というものでして、これは魔法適性が一切なくなる代わりに、最上級の武術適性を得られるスキルなんです。

 だから愛衣は実質、前衛物理職の道を突き進むほか選択肢が無かったんですよ」

「それじゃあゴリラは可哀そうだね。お母さん、愛衣にも謝らなきゃ」

「そうね。それじゃあ、仕方ないか。ごめんね、愛衣。ゴリラなんて言って」

「分かってくれればいいんだよ。でもこれだっていい所はいっぱいあるんだよ?

 もともと運動神経悪かった私が、今じゃオリンピック選手も真っ青な身体能力なんだから。

 その証拠に──ほらっ、こんなっ、こともっ、できるよっ!」

「「「「おー」」」」



 愛衣がその場でバク転。バク宙。空中で三回転からの最後は逆立ちで着地してみせると、全員が拍手をしてくれた。



「どうもどうもー」

「ちなみに今の愛衣なら、走って新幹線を軽く追い抜けます」

「竜郎は出来ないのか?」

「俺は魔法を使っていいなら簡単に出来る。空も飛べるし転移も出来るし」

「なんでもありだな、お前は……。もういっそ、我が家ではドラ○もんって呼ぼうか?」

「呼ばんでいい。ちなみに愛衣は《武神》でしたが、俺は《レベルイーター》というスキルを貰って、これで魔物なんかのスキルレベルを自分のスキルポイントに変換して、魔法を取りまくったらこうなりました。

 というか、帰る手段は色んな魔法を取得していって、最後に出てくる《時空魔法》を取るしかなかったですしね。

 ちなみにスキルポイントは、スキルを取得するために必要なポイントの事です」

「なるほど……。それじゃあ、こういう事かな? 竜郎君と愛衣は一緒に異世界に行ってしまった。

 けれどそちらでその《時空魔法》を取得することが出来たから、帰ってこられた──ということかい?」

「ええ、その通りです。正和さん」

「…………ねえ、一つ聞いていい? 竜郎くん?」

「どうぞ、美鈴さん」

「それが本当だったとしたら、いったいあなた達はどれくらい異世界とやらに行っていたの? 一月や二月じゃないんでしょ?」

「約500日の旅でした」

「「「「ごっ──」」」」



 一年を優に超える期間を、ただの高校生だった二人が右も左も分からない場所で過ごす事がどれだけ大変な事か。

 まして先ほど竜郎が魔物なんて口にしたことから、ここより安全な場所でもなかっただろう。



「だからあの時、愛衣は私に泣きながら抱きついてきたのね……」

「うん。だって、もう会えないかもって思ったことあったから」

「それじゃあ、あの時の竜郎の顔もそういうことだったのね……」

「まあ、久しぶりに顔が見れて嬉しかったからな」

「なんだよ。愛衣ちゃんみたいに、俺達に泣きついてくれてよかったんだぞ?

 ほら、父さんの胸にとびこんでこいっ! 竜郎!」

「とびこんでこいっ! じゃないわっ! もうそんな気分吹き飛んだよっ!」



 などと竜郎の両親と愛衣の母親が話している事に、ぜんぜんついていけていない人が若干一名。



「あれ? 愛衣、僕にはないのかい? こう……おとうさーん!! ……ってのは?」

「え? もういいよ。お母さんに抱きついて満足したから」

「──えっ」



 娘に拒否され魂が抜けそうになる正和に、竜郎は思わず──。



「えっと……俺が抱きつきましょうか?」

「……いや、いいよ。気を使わせてしまって悪いね、竜郎君……」

「い、いえ……正和さんがいいならいいんです」



 なんだかやるせない空気になってしまったので、竜郎は次の異世界の証拠を見せていくことにした。

 竜郎たちの家族の反応を見ているだけでも楽しそうにしているが、そろそろ下地も出来たので後ろに立っている人物たちも紹介していってもいいだろう。



「では気持ちを切り替えて、次に行きましょう。

 とりあえず、ここにいる全員、俺と愛衣が異世界に行ってたのかも──くらいには思えてきましたね?」



 竜郎の言葉に全員が頷き返してくれた。

 異世界かどうかは分からないが、竜郎と愛衣が大変な目に合っていたという事は完全に信じてくれたようだ。



「ならお次は、波佐見家の長女をご紹介いたしましょう」

「波佐見家の長女? あれ? 美波ちゃんとこには、女の子なんていないわよね? それとも二人目ができたの?」

「いいえ。妊娠もしてないし、竜郎以外産んだ覚えもないけど……何言っているの? 竜郎」

「ちょっと異世界で義妹が出来たんだ。これからうちに住むことになるから、よろしくな。父さん、母さん」

「「はあっ!?」」



 竜郎の突然の爆弾発言に、仁と美波は目を丸くしてそう叫んだのであった。

次回、第03話は12月21日(金)更新です。

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