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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十六章 ドゥアモス復活編
299/451

第298話 準備完了

 少々予想外な命神による助力はありながらも、結果的に良い方へと転がった。

 過去から続くこの島で暮らすことで安全が保たれ、外は穢れ生きていけない地獄のような場所という認識も、神の存在をチラつかせることで吹き飛んだようで、今彼らはフレイヤを新たな信じるべき寄る辺として拝んでいた。



『……なんだかとっても居づらいですの』

『まあまあ、嫌われるよりいいじゃん』

『それはそうですけれど……。しかしあのときの現象は、いったい何だったのでしょう。なぜわたくしはあんな不思議な神気を出すことができたのか分かりませんわ』

『ああ、それなんだが、命神さんがな──』



 本人は命神が言っていた通り普通の神気を垂れ流すときと大差はなく、命神の存在すら感じていなかったようなので、ここで竜郎が種を明かしていった。



『あのときの神気が命神様の? 本当にそうなんですの?』

『ああ、けどそんなに意外な事か? いちおうフレイヤを自己の眷属に迎え入れている神様じゃないか』

『い、いえ。神という存在はどれも恐ろしい印象しかなかったもので……』



 感覚的には普段の時と大差はないと言っていたが、その特別な神気から感じるものは確かにあった。

 それは優しく、自分も守ってくれるような、温かな感情が流れて来ていたようにフレイヤは感じていたのだ。



『てっきりご主人様が勝手に何かやっているのかとばかり……。そうですの、あれは命神様の意思だったのですね』

『その感じだと、ちょっとは神様たちへの恐さも薄れたりとかした?』

『恐いものは恐いですの。ですが……恐いだけの存在でもないと、少しだけ思えるようになった気もしますの』

『なら良かったね! フレイヤちゃん!』

『ええ、まあ、そういう意味では良かったのかもしれませんわね、ニーナさん。

 ……ただ、こんな状況でなければの話ですが』



 彼らの意識を変えたのは、新たな信仰。姉の目を逃れてぐーたらするためのスポットを探しに来たというのに、こんなキラキラした目をした者たちが周りにいては、うかうかとお昼寝一つできやしない。



『別の島とかならいいんじゃないのか?』

『いえそれが、なんだか《至上命令》を使っていたときに、あの神気が発生したせいなのか、微かですが彼らとわたくしの間に繋がりができてしまったようですの』

『んん? そうなるとどうなっちゃうの?』

『何となく繋がった相手のいる方向が分かる。近くにいれば、分かる。程度の第六感的繋がりが出てしまったようなんですの。つまり──』

『近くにいれば、彼らに察知されて拝みに来られるかもしれないと』

『ええ……、それに信仰心ようなものも意識すると感じてしまうようでして、少し離れた島程度の距離では気になってしょうがないですわ』



 つまり彼らの近くにいると、彼らの想いが混ざった不可思議な感覚がくすぐってくるような、そんな心が休まらない関係になってしまっていたということ。

 これでは姉の目から逃れられても、別の目から逃れられない。



『あーじゃあモヤ美にゲートを作ってもらうってのは?』

『なしですの……。あぁ……わたくしのぐーたらポイントがぁ……。はっ──実はこれは命神様の嫌がらせなのではっ!?』

『いやさすがにそれはないんじゃない?』

『でも神様ならこうなることくらい分かってたって、ニーナは思うよ!』

『ですわよね! うぬぬぅ……やはり神々は恐ろしい存在ですの……。わたくしから巧妙にぐーたらスポットを奪うなんて……』



 あえて何も言わずそれを聞いていた竜郎は、ただフレイヤに構ってもらえて嬉しかっただけで、そんな意図はなかっただろうに……と思いはしたが、今のフレイヤに言ったところで信じてもらえそうにはないので、命神には悪いが黙っていることにした。

 いずれ機会があれば、また誤解を解こうと。


 ──と、そんなことを念話で話しながら、ちびっ子たちの相手をしている間に、竜郎と約束を取り付けた村の代表──ガルボスが羊に似た魔物『アモス』を一頭連れて戻ってきた。


 魔物だというのに大人しいもので、完全に人慣れしきっていた。



「大人しいねー、この子」

「そういう個体ばかりを繁殖させて行き、ここまで大人しく人懐こい性格になったと聞いています」

「なるほど、どうりで」

「しかし本当に一匹でいいのですか? なんならもう二、三匹持って行ってもらっても、こちらは構わないのですが?」

「いえ、ここでは限られた資源で生きているのでしょうし、ここらも貴重でしょう? 我々はこの子だけで充分です」



 大人しいので触ってみれば、フワフワとした綿のような弾力が返ってくる。

 ドロシーにアーシェ、楓や菖蒲も触りたがったので、ちびっ子たちを抱っこして触らせてあげる。



「「ガウー!」」「「ふわふわ!」」

「ほんとだー。寝っころがると気持ちいいよー」

「「にーねーたん! ずっこずっこ!」」

「「ガウガウ!!」」

「ほらほら、順番にねー」

「うぅ……この伝わってくる信仰心がなければ、わたくしもだらしなくあの子に寝そべることもできたというのに……」



 フレイヤも一応それくらいの気は使ってくれているようで、愛衣に抱っこされてフワフワの羊毛に包まれるちびっ子たちとニーナを羨まし気に見つめていた。



「気に入ってくれたようですな」

「ええ、この毛も使ったりしているのですか?」

「はい。毛皮にもなりますし、撚れば頑丈な糸にもなりますよ。肉や乳以外にも、いろいろと我々の生活を助けてくれているのです」



 それだけにこの島では、アモスを大事に大事に育てていた。



「アモスの乳というと、けっこうそっちも出してくれるんですか?」

「ええ、飲んでみますか?」

「ぜひ」



 そういえば羊乳なんてものもあったなと、竜郎はどんな感じなんだろうと聞いてみれば、その実物を持ってきてくれた。

 念のため密かに解魔法で飲んでも大丈夫か確認してから、渡された石のコップでアモス乳を飲んでみる。



「あー、けっこういけますね」

「でしょう」

「たつろー、私も飲んでみたい」

「ほら」

「──ゴクゴクッ。おぉ……何か濃いね!」



 乳と言えば準美味しい魔物として牛肉担当になってもらっている白牛が出してくれるものを普段は飲んでいた。

 そちらは本当に高級牛乳のような、非常に慣れ親しんだ感じもある美味しさだった。


 だがこちらのアモスの乳の味は、牛乳と比べて濃厚で甘みもあり、白牛の牛乳に慣れ親しんでいる身としてはくどくすら感じた。



『アモスでこれなら、ドゥアモスはどんな乳を出してくれるんだろう』

『美味しい魔物のお乳なら、なんかすんごく美味しかったりしてね』

『ほんとにー!? ニーナ楽しみ!!』

『本体の味は間違いなく美味しいでしょうけど、そっちはまだどれほどの味かは分かりませんわ、ニーナさん。とはいえ、期待してしまうのは分かりますの』

『羊の乳と言えば、飲むものというよりチーズとかにするイメージがあるしな。

 俺はそっちの方にも期待したいところだ』

『おー! いいねぇ! 私チーズ大好きだよ』

『ニーナも! あぁ早く食べたいなぁ』



 まだ見ぬドゥアモスを夢想しながらアモスを見つめるニーナ。

 その視線に食われるとでも思ったのか、受け取ったアモスはフレイヤの後ろに隠れた。



『この子がいれば、もうドゥアモスを創造できるの?』

『他にももう何種かいるが、そっちはメジャーな魔物ばかりだから苦労はしないはずだ』



 現存するもっともドゥアモスに近い近縁種を入手した竜郎たちは、改めて現地の民たちにお礼を言って別れることに。



「いろいろと生活を荒らしてしまって、すいませんでした」

「いえいえ、これも神の思し召し。外と関わらなければ得られない幸せを知り、我々の未来は明るくなったとすら今では思っていますよ」



 チキーモの夢から覚めた後は酷い言いようだったのが嘘のように、今では皆晴れやかな表情をしていた。

 それが良かったのか悪かったのかはまだ分からないが、それでも自分がこうした結果彼らが不幸になることだけはしないように、今後も注意しておく必要はあるだろう。

 その一環として、竜郎は彼らに聞いてみた。



「今後はこの島に、よそ者が入って来ても大丈夫ですか? もちろん来るのは我々の仲間だけですが」

「ええ。ここまでくれば腹をくくり、フレイヤ様を信じるのみです」

「うぅ……視線が痛いですの……」



 なにやら現地民のキラキラとした視線にダメージを受けている人物がいたが、竜郎は重要なことを最後に問いかけた。



「けれど例えばそう、ここに穢れを運んできたという白や黒き翼を持つナルヤーガであっても、あなたたちは受け入れられますか?」

「………………それは、大丈夫だと思います。その者たちも生きてはいないでしょうし、俺たちは無理でもその子供たちが将来外に行きたいと思ったときのためにも、むしろ会っておく必要すらあるのかもしれません」



 遥か昔に流れ着いた天魔たちが彼らの生活をがらりと変え、そして今、天魔の始祖であるフレイヤが崇められているのだから、世の中分からないものである。



「そのときは僕らが安全に他の大陸に運びますから、いつでも言ってください」

「もしそのときがくれば、また頼りたいと思います。ではまた。

 フレイヤ様も……お元気で。いつでも気軽にいらしてください。全身全霊で歓迎いたします」

「……ええ、けれどわたくしはいつでも元気に暮らしていますから、あまりお気になさらず」



 アモスを引き連れ、元の大きさに戻ったニーナに乗って島を後にする。

 島の皆はフレイヤにいてほしそうにしていたが、彼女はソワソワとはやく帰りたそうだ。ニーナが大きくなったことで下の方でどよめきが聞こえたが、それらを無視して空高く舞い上がる。

 やがて彼らも見えない場所までくると、竜郎の転移で各地を飛んで他に必要な魔物の素材も手早く回収し終えた。

 竜郎が言っていた通り残りはありふれた魔物ばかりだったので、そこで何か問題が起きることもなく。



「よし! これで全ての材料が整った。あとはドゥアモスを復活させるだけだ」

「「やったー!」」「ふふっ」「「ガゥーーーー」」「「うっうー!!」」



 こうして竜郎たちは準備を全て整え、カルディナ城へと帰還したのであった。

次も木曜日更新です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分がやって貰って嬉しい事をしても相手が喜ぶとは限らない、な話でしたかw 貰って来た人馴れしたアモス……さて余命は幾らでしょうか(ぁ 果たして殺さないように素材を採取してくれるや否やw
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