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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第十六章 ドゥアモス復活編
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第295話 彼らの事情

 彼らには悪いが、とにもかくにもここではいそうですかと帰るわけにはいかない。

 竜郎たちに侵略の意図はなく、例え彼らに攻撃されても無力化するだけで傷つける気すらないのだから、少しぐらいは話を聞いてくれてもいいだろうにと、まずは対話の糸口を探っていく。



「何度も言っているが、こちらにあなた方を害する気はないんだ。出て行けと言うのなら、用が済み次第すぐにでも出ていく。だから──」



 竜郎が下手に出過ぎるのもよくないかと敬語はやめ、両手を上げ無害アピールしながら一歩踏み出した。



「──近づくなぁああっ!!」



 すると勇猛果敢に見えた一番手前で竜郎たちに立ち去るように叫んでいた戦士が、ヒステリックに声をあげ両手を鎌を振り回しながら一歩下がった。

 その後ろにいた村の入り口を守る住民たちも、釣られるように竜郎から詰められた距離を離そうと身を反らせていた。



『なんだか俺をヤバイ化物みたいに思ってないか……? この人ら』

『まあ実際に強さも能力も化け物みたいなものですし、間違ってないですわ』

『でも私ら力を抑えてるし、よっぽど感覚が鋭い人たちじゃないと、そこまで怯えるほどでもないと思うんだけど』

『ニーナも頑張って抑えてるよー!』

『だよなぁ。一般的にはけっこう強い部類だけど、俺たちの隠してる力を見破れるほどでもないから、ことさら恐がられるほどってわけでもないちょうどいい強さだと思ってたんだが』



 だというのに近寄られただけで、殺されるとでも言わんばかりの異常な反応。ますます意味が分からないと竜郎は首を傾げた。

 竜がいるとはいえ、見た目はニーナも含めて幼い姿。竜郎と愛衣はまだまだ成熟した大人と呼べるほどではないし、フレイヤも見た目は美しい女性なので威圧感はさほどないというのにである。


 気を落ち着かせてくれと両手を前に出し、竜郎が三歩後ろに下がって距離を開けたことでようやく彼らも少し落ち着きを取り戻してくれた。



「何をそんなに恐れている? 俺たちは何もしないと言っているのに」

「何かするかどうかなど関係ない!

 ナルヤーガは不浄なる者……我ら清浄なる存在が接触すれば、あっという間に死に絶えてしまうだろう!」

「……はあ? 俺たちが不浄なる者?

 言葉だけ聞けば失礼極まりない言い分なのは気になるが……なんでそうなる?

 侵略とかそういうのを恐れているわけではないってことか?」

「当然だ! ただ武力でこの地を奪おうというのなら、いくらでも戦う意思はある!」

「えぇ……? えーと……じゃあ、ちゃんと訳を聞かせてほしい。その反応からして、なにか根拠となることがあったんだろう?

 少なくとも俺たちと接したくらいで、あなた方が死ぬとは思えないんだが?」



 外部の者と接触しただけで死ぬ種族など聞いたことがない。

 というより、いくら隔離された島だとはいえ、そんな種族がいたのならとっくにこの世から淘汰されていたはずだ。



「それを話せば帰ってくれるのだな?」

「その話を聞いて、本当に俺たちがあなた方に近づいただけで殺してしまうと納得できたのなら、速やかに帰るよ」



 アモスが手に入らないとなると、アモスを産み出すための素材から集めにいかねばならなくなり、それがかなり迂遠で面倒な手順になるのが分かっているだけにここで手に入れられるにこしたことはない。

 アモス自体はそこまで特殊な種ではないが、創造するには地味に手順が多い種でもあるからだ。


 だが手間さえかければ、それもできなくはない。

 無限ともいえる生を授かった竜郎たちならば、そのくらい時間をかけても別にどうということでもないのだから、もしも本当に彼らを傷つけるような結果になるのなら諦めるべきだろう。

 ただニーナやちびっ子たちは、もうすぐ美味しい魔物が食べられると心待ちにしているため、やっぱりもう少し待ってくれというのは気が引けるのだが。



「しばしそこで待て。村の者と相談がしたい」

「分かった。大人しくここで待っているよ」



 そう言って彼らは見張りを数人残して、村の方へと去っていく。

 そこで竜郎はこの空いた時間で、自分たちでも情報を集めてみることにした。



『レーラさん。今いいか?』

『あら何かしら? たしかアモスっていう魔物を探しに行っているのよね?』

『うん、そうなんだけどね。実は私たち今──』



 竜郎たちは念話ですぐに話が聞ける中で、最もこの世界に詳しいであろう年長者のクリアエルフ──レーラにそんな種族が本当に存在するのか。あり得るのかと質問してみた。

 彼女ほどの知識マニアならば、他種族と接しただけで死ぬなんて言う奇妙な種族がいれば、話くらいは聞いたことがあるだろうと。


 だが返ってきた答えは──。



『そんな種族知らないし、いないんじゃないかしら。

 ある程度法則を持って世界の管理者──神々が人間という種の創られ方も定めているのだし、そんな無茶な生物をわざわざ作る意味もなければ、作ろうともしないはずよ』

『多様な種を産み出すってのは、人類の滅亡を防ぐ手にはなるだろうけど、やっぱりいくらなんでもそんな種はないよな』

『ええ、だからその……いい辛くはあるけれど、その人たちの妄想なのではないかと私は思うわ。

 一つの可能性として〝呪い〟という手段はあるけれど、そんな強力な呪いを村単位でかけられているのなら、タツロウくんやフレイヤちゃん、それにニーナちゃんだって何かしら違和感なりなんなり感じているでしょうから、その可能性もないでしょうね』

『そっかぁ、私は魔法に関してはかなり鈍感だから気が付かない可能性もあるけど、たつろーとかは絶対そういうのは分かっちゃうよね』

『ああ、どんなに隠蔽しようとしても、さすがに面と向かって言葉が届く範囲まで近づいておいて、気が付かないってのはありえない』



 この世界で長く生き、その常識や世界の法則も熟知しているレーラが言うのならほぼ間違いない。

 これで本当にそういう種族だという可能性も、限りなくゼロに近づいた。

 後は本人たちが何故そのような勘違いを抱くようになったのか、聞いて判断すればいい。



『お、戻ってきたな。レーラさん、参考になったよ。ありがとう』

『ええ、助けになったのなら何よりよ。私もドゥアモスの味が早く知りたいのだから、楽しみに待っているわね』

『善処するよ』



 村の方へ引っ込んでいった彼らが、それなりに年老いた男性一人を新たに加え戻ってきたので、レーラとの念話をここで打ち切った。



「我らのことを話そう! そのために、村の歴史を全て知る語り部も連れてきた!」

「ありがたい! 是非、その話を聞かせてほしい!」



 彼らは真に殺意を込めた警告にも臆さず、呑気に構えることすらしない竜郎たちの態度から、自分たちが束になっても勝てない相手なのだろうと悟っていた。

 であるのに自分たちの話を聞こうとするということは、心から害する気はなく、無理やり押し入ったり近寄ったりしてくることはないのだろうと考え、彼らもできるだけ関係を持ちたくないとは思いつつも、『説得』して帰ってもらうという手段に賛成が傾いたのだ。


 語り部と呼ばれた老人が前に出て、それでも竜郎たちが十分な距離を保ったまま声を張り、彼らの村に伝わる話を語りはじめた。



「それは遠い遠い、途方もないほど昔。その頃からわしらの祖先は、ここで暮らしておった」

「へぇ、そんな昔から……」



 暇そうにしだしたドロシーにアーシェ、楓に菖蒲はニーナやフレイヤに任せ、老人の語りに耳を傾けていく。

 それによれば、彼らの種の歴史は古く。まだ世界が不安定だった激動の時代。魔物によって住む場所を追われ海に飛び出し、這う這うの体でたまたま流れつくように見つけたこの島に住むことになった。


 海には危険な魔物もいたが少数ならば生きていけるだけの資源がこの島内にあり、少しずつここに生活の基盤を築き上げ、村と呼べるほどの規模にまで成長を遂げることができた。

 そんな生きるだけで精いっぱいだった時代も乗り越え、比較的余裕ができてきた頃、この島に外の人間が複数人流れ着いた。

 皆が皆、全身傷だらけでボロボロだった、白や黒い翼を背に付けた別の種族の人間たちが。


 彼らの祖先はその者たちを見て、昔のボロボロになってこの島にやってきた自分たちのことを思い出し手厚く介抱することにした。

 その甲斐もあり、やがて彼らは快復し、何故あんな状態になっていたのかと問いかけたという。



「すると彼らはこういったそうだ。自分たちはあらゆる種族から迫害されるようになり、どこにも居場所がなかったと」

「白や黒の翼を持った人たちが迫害……?」



 白や黒の翼と言えば、フレイヤがその真祖たる天魔の種族が真っ先に思い浮かぶ。

 だが彼らは他種族よりも恵まれた強い種族であり、そうそう迫害を受けるようには思えない。

 違う種族なのだろうかと続く話にさらに耳を傾ける。



「その者たちが言うには、島の外の世界は穢れに満ちており、それが彼らの種族のせいだと非難されていたんだとか──」



 だが彼らからすれば、それは間違いであり、決して自分たちのせいではない。世界が穢れたのは、多くの種族が一つのところに集まりすぎたせいなのだと言ったという。



『ねぇ……たつろー。なんか段々真相が掴めてきたかも』

『奇遇だな。俺もどういうことか分かってきたところだ』



 彼らの祖先は介抱した翼の者たちと話をし、また純朴だったこともあり、その話をありのまま受け入れ、悪い者たちではないと、行く場所がないのならここにいればいいと村に受け入れてしまう。



「それが悲劇につながるとも知らずに──」



 最初は何ともなかった。それどころか翼の者たちも優しく、受けいれた村の者たちにも心から感謝し率先して村の生活をより良くしようと精力的に働いてくれた。

 そして翼の者たちは彼らの祖先以上に力が強く魔法も巧みで、本当にこのままいけば日々の生活はより豊かになっていくと確信を持てるほどに。


 だが段々と、悲劇の足音が村人たちに忍び寄ってくるようになる。

 最初は村人の子供。熱を出したように体調を悪くし、最後は全身が茹で上がったように真っ赤になって死んでしまう。

 その頃から翼の者たちは、妙に村人によそよそしくなる。


 そしてそれは一人では終わらなかった。それどころか、加速度的にその人数は増していき、次々と村人は全身を赤くして死んでいった。



「それは、その者たちが来るまでは一度たりともなかった奇病。

 わしらの祖先は、そこでようやく気が付いたのだ。これは、その者たちが運んできた〝穢れ〟のせいなのだと。

 そしてそれに気がついた頃には、既にその翼の者たちは姿を消してた後だった……」

「けど俺たちは、その翼の者たちとは違う種族なんだが?」

「先ほど語ったであろう。その者たちの言葉を。

 その者たちはこう言っていたではないか、『島の外の世界は穢れに満ちている』──とな」

「ああ……そういう風になったのか……」

「この島の外に住むものは、その穢れの中で生きているから平気なのかもしれないが、我々は違う。

 この穢れのない清浄な大地に育まれ、無垢に生きてきた清き存在。

 分かったか? ナルヤーガたちよ。我々は少しの穢れでも生きていけないのだ。だからこそ、この地で誰に迷惑をかけることなく密かに暮らしている。

 そこへお主たちナルヤーガが穢れをこの地に運び、穢れに弱い我々の命を脅かそうとしているのだぞ。

 いいかね? この村ではナルヤーガと接触した者は追放され、その身を遠く離れた別の島で魔物に食らわせるという決まりになっている。

 だからもし、わしをはじめ、ここにいる誰かにナルヤーガが触れれば、わしらはその者と永遠の別れをすることになるのだ。家族はその亡骸すら、弔ってやることができんのだ……。

 だからどうか……そのようなことを、わしらにさせないでもらいたい。この通りだ」

「いや、そんなことしないでくださいよ! 俺たちからは、絶対にそちらに近づきませんから!!」



 老人が大地に額を付け土下座して頼みはじめたので、竜郎は慌てて顔を上げるように声をあげた。

 だがそれを見て村人たちは竜郎たちが優しいからこそ、これが一番有効な手なのだと悟り、他の者たちまで男女問わず土下座しはじめてしまう始末。

 狙い通りそれは、ただ力で押し切ろうとする者たちより、よっぽど竜郎たちに効く行動だった。



「わかりましたから! 頭を上げてくれ!!」

「では……去ってくれるということでいいのだろうか?」

「その前に少しだけ、こちらからも外の世界の今の常識を教えさせてほしい!!」

「今の常識?」



 竜郎のその言葉が気になったのか、一人二人とようやく頭を上げてくれた。



「ああ、そうだ。その穢れなんだが、おそらく島の外の世界では『赤死病』なんて呼ばれている流行病だ」



 『赤死病』とは他種族同士が手を取り合い、様々な種が交じり合う国家が増えだしたことで、この世界で起きた大きな悲劇。

 本来はそれほど酷い症状にならなかったはずの病毒が、様々な種族を行き来して変異し、非常に致死率の高い病毒へと変異した、今では別称とされる『天魔病』などとも呼ばれていた世界中で流行した病。


 それは当時、真偽が定かでない中、天魔たちが広げたと噂され迫害を受けていたという。

 その点でも、先ほどの語り部の老人の言っていた話と合致する。



『でもなんで、その天魔さんたちは平気だったんだろう?』

『致死率は非常に高いなんて言われていたが、絶対に死ぬわけじゃない。その人たちは生き残って抗体ができていただとか、まだ完全に変異する前の天魔には効果のない病毒だったのかもしれない。

 それに地球でもペストとかエイズだって、何故かかからない体質の人だっていたりするらしいじゃないか。そういう可能性だってある』

『へぇ~そうなんだ』



 逆に病原地帯の中で少数がピンピンしていれば、余計にこいつらのせいじゃないかと疑われかねない。

 それも発生の原因だと言われた天魔ならなおのこと。

 案外、ここに来た天魔たちは、そういう理由でここに追われたのかもしれない。



「だが安心してほしい! 今の世界は、その病原菌は存在しない。つまり穢れなんて無くなっているんだ!」

「なに……?」



 そのために本来死ぬことのない真竜──セテプエンイフィゲニアは人柱としてその命を使い、病毒の根絶。感染防止。病状回復。致死性の高い病毒への変異が今後起こらないように世界の法則として刻み付けたのだから。


 もはやこの世界には流行病などというものは『赤死病』に関わらず、その他の病気ですら起こりえない。

 なので彼らのやっている穢れへの対策は、もう完全に無駄な事なのだ。

 だが──。



「だから──」

「──例え本当にそうだったとしても、我々は変わらんよ」

「……それは何故?」

「何故? おぬしたちは真に心優しきものなのかもしれない。だがな、それを証明するために我々に命を懸けろとでも言う気かね?

 それが本当かどうか確かめるために、わざわざ我々が危険を犯してまで」

「それは……」

「それにどれだけの時間を待てばいい? どれだけの時間をかければ完全に証明できる?

 一日二日で証明できるのか? ひょっとしたら十年後、二十年後に同じように死ぬ同胞が出ないとどうして言い切れる?

 こうして日々、外の者たちと関わらなければ、お主たちが去ってくれれば、そんなことを気にせずに、いつも通り生きていけるというのに」



 それはそうだろう。いきなり外から来た──それも彼らからすれば、穢れた存在であるナルヤーガ。

 そんな流れ者の言葉を信じるよりも、今まで通り多少窮屈でもこの島で安寧と暮らしていれば、何も変わらない穏やかな毎日を送れるのだから。


 これは諦めた方がいいか……。そう竜郎が考えはじめたところで、後ろから──仲間たちのいる方から小さな声が耳に届いた。



「その気持ち……少し分かる気がしますわ」



 その声の主はフレイヤ。

 彼女はその生まれにより、無気力に過ごせば誰に脅かされることなく穏やかな人生が送れるという考えが深く根付いてしまった存在。

 ある意味では、例え世界がどう変わっていようとも、不安のない人生のために永遠にこの外から切り離された島で生きていくという選択をしている彼らと似ているといえよう。



(それはいいことなのか?)



 酷い話かもしれないが、彼らがどう選択しようと竜郎はそう選択したのならと放っておける。

 ここで永遠に生きていたいというのなら、それを邪魔する権利は竜郎にはないのだから。


 だがここでその主張を認めてしまえば、フレイヤをこの世に生み出した者として、彼女のその考え方まで肯定してしまうことになるのではないかと背筋がヒヤリと凍り付く。



(そうなってほしくない。フレイヤには何だってできる力があるんだから、もっと広い世界を見てほしい)



 ならばどうするか。竜郎はここから彼らを説得する手はないのかと、全力でその知恵を振り絞りはじめた。

次も木曜更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イフィゲニア様が全人類へ出した声明って魔法で世界中に伝えたわけじゃなかったんだ
[一言] 竜帝国か天魔の国にここの現状を教えたら反応が想像し難いです…… イフィゲニア様の献身を無碍にし続けてるとも言えますしねぇ
[良い点] 分かりやすく言えば、世界はコロナウイルスに満ちている、だからなぁ。 しかも自分達とは明らかに違う種族が始まりで、いつの間にか居なくなってた(多分相手を守る為だろうけど)から、余計に疑心暗鬼…
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